住み替え購入の確定申告は住宅ローン控除を忘れずに
住み替えで戸建てを購入した場合、住宅ローンを利用していれば住宅ローン控除を受けることができます。初年度は確定申告が必須で、2年目以降は会社員なら年末調整で手続きが可能です。住み替えという特殊なケースでは、旧居の売却益との関係や買換え特例との併用制限など、複雑な論点があります。事前に正確な情報を把握し、適切な手続きを行うことが重要です。
この記事のポイント
- 初年度は確定申告が必須、2年目以降は会社員なら年末調整で手続き可能
- 住宅ローン控除の適用要件を満たしているか確認(床面積50㎡以上、返済期間10年以上など)
- 買換え特例・3,000万円控除を使うと住宅ローン控除は併用不可、譲渡損失の損益通算なら併用可能
- 必要書類は住宅ローン残高証明書、登記事項証明書、売買契約書など
- 申告期限は購入年の翌年2月16日~3月15日
1. 不動産購入時の確定申告の基礎知識
(1) 確定申告が必要なケース
住宅ローンを利用して戸建てを購入した場合、住宅ローン控除を受けるために初年度は確定申告が必要です。
確定申告が必要な人:
- 住宅ローンを利用して戸建てを購入した人(初年度のみ)
- 自営業者・フリーランス(毎年確定申告が必要)
- 副業収入が年20万円超の会社員
確定申告が不要な人:
- 現金一括で購入した人(住宅ローン控除の対象外)
- 会社員で住宅ローン控除の2年目以降(年末調整で手続き可能)
(2) 住宅ローン控除の概要
住宅ローン控除は、住宅ローン残高の一定割合を所得税・住民税から控除できる制度です。
控除期間:
- 新築住宅・買取再販: 最大13年間
- 中古住宅: 最大10年間
控除率:
- 年末ローン残高の0.7%
控除限度額:
- 認定住宅(新築): 年間35万円(借入限度5,000万円)
- 認定住宅(中古): 年間21万円(借入限度3,000万円)
- ZEH水準省エネ住宅(新築): 年間31.5万円(借入限度4,500万円)
- 省エネ基準適合住宅(新築): 年間28万円(借入限度4,000万円)
- その他の住宅(中古): 年間14万円(借入限度2,000万円)
2. 住宅ローン控除の適用要件と手続き
(1) 控除対象となる住宅の条件
国税庁の規定により、以下の要件を満たす必要があります。
住宅の条件:
- 床面積: 50㎡以上(合計所得1,000万円以下の場合は40㎡以上)
- 自己居住: 取得後6ヶ月以内に入居し、控除適用年の年末まで居住
- 築年数: 中古住宅の場合、新耐震基準適合(1982年以降の建築または耐震基準適合証明)
住宅ローンの条件:
- 返済期間: 10年以上
- 借入先: 金融機関、住宅金融支援機構など(親族からの借入は対象外)
所得制限:
- 合計所得2,000万円以下(住宅ローン控除を受ける年)
(2) 控除額の計算方法
控除額は以下の計算式で求めます。
控除額 = 年末ローン残高 × 0.7%
計算例:
仮に、認定住宅(中古)を4,000万円で購入し、年末ローン残高が3,500万円の場合:
控除額 = 3,500万円 × 0.7% = 24.5万円
借入限度額が3,000万円のため、控除額の上限は21万円
実際の控除額 = 21万円
控除額は所得税から優先的に控除され、所得税で控除しきれない場合は住民税からも控除されます(住民税の控除上限は年9.75万円)。
3. 確定申告に必要な書類一覧
(1) 住宅ローン控除申請に必要な書類
確定申告時には、以下の書類を準備します。
基本書類:
- 確定申告書(第一表・第二表)
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書(国税庁HPからダウンロード)
- 住宅ローン残高証明書(金融機関から送付、10~11月頃)
- 源泉徴収票(会社員の場合)
住宅関連書類:
- 登記事項証明書(法務局で取得、発行から3ヶ月以内推奨)
- 売買契約書(コピー可)
- 工事請負契約書(注文住宅の場合)
居住証明書類:
- 住民票(発行から3ヶ月以内、市区町村役場で取得)
省エネ・耐震基準関連書類(該当する場合):
- 長期優良住宅認定通知書(認定住宅の場合)
- 低炭素建築物認定通知書(低炭素住宅の場合)
- 耐震基準適合証明書(中古住宅の場合)
- 建設住宅性能評価書(省エネ基準適合住宅の場合)
(2) 登記・売買契約書類
登記事項証明書の取得方法:
- 法務局窓口: 1通600円
- オンライン請求: 1通500円(郵送)または480円(窓口受取)
売買契約書のポイント:
- 物件の所在地(登記事項証明書と一致していることを確認)
- 契約日・引渡し日(入居日の確認)
- 購入価格(消費税額の記載、住宅ローン控除の計算に必要)
4. 確定申告書の記載方法とポイント
(1) 確定申告書Aの記載例
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで申告書を作成できます。
記載手順:
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセス
- 住宅ローン控除を選択
- 住宅の情報を入力(所在地、床面積、取得年月日など)
- 住宅ローン残高を入力(残高証明書の金額)
- 源泉徴収票の内容を入力(会社員の場合)
- 計算明細書を自動作成
- 申告書を印刷またはe-Taxで提出
(2) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
計算明細書には、以下の内容を記載します。
記載内容:
- 新築・購入年月日
- 居住開始年月日
- 取得対価の額(購入価格)
- 床面積(登記簿面積)
- 年末ローン残高
- 控除額
計算明細書は国税庁HPからダウンロードでき、手書きまたはPDF入力で作成できます。
5. 申告期限とスケジュール
(1) 初年度の確定申告(2月16日〜3月15日)
住宅ローン控除の確定申告は、購入年の翌年2月16日~3月15日が期限です。
スケジュール例:
仮に、2024年10月に入居した場合:
2024年10月: 入居
2024年11月: 住宅ローン残高証明書が金融機関から送付される
2025年1月: 登記事項証明書・住民票を取得
2025年2月16日~3月15日: 確定申告
2025年4~5月: 還付金が振り込まれる(e-Tax利用で約3週間)
期限を過ぎると:
- 無申告加算税(5~20%)
- 延滞税(年2.4~8.7%)
- 還付申告の場合は5年以内なら遡って申告可能(ただし控除年数が減る)
(2) 2年目以降の年末調整
会社員の場合:
2年目以降は、年末調整で住宅ローン控除を受けられます。
手続き:
- 税務署から送付される給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書を会社に提出
- 金融機関から送付される住宅ローン残高証明書を添付
- 会社が年末調整で控除を計算
自営業者の場合:
毎年確定申告が必要です。2年目以降も同様の書類を準備し、確定申告で住宅ローン控除を申請します。
6. よくある間違いと注意点
(1) 書類の有効期限と取得タイミング
確定申告で使用する書類には有効期限があります。
書類 | 有効期限 |
---|---|
登記事項証明書 | 明確な規定はないが3ヶ月以内推奨 |
住民票 | 発行から3ヶ月以内 |
住宅ローン残高証明書 | 当該年の12月31日時点の残高 |
書類は2月頃に取得することで、有効期限内に申告できます。
(2) 控除対象外となるケース
以下のケースでは住宅ローン控除を受けられません。
控除対象外:
- 床面積が50㎡未満(合計所得1,000万円以下でも40㎡未満は対象外)
- 返済期間が10年未満の住宅ローン
- 親族からの借入(金融機関以外の個人からの借入)
- 入居が取得後6ヶ月超
- 合計所得が2,000万円超
住み替え時の特別な制限:
旧居の売却で買換え特例や3,000万円特別控除を適用した場合、住宅ローン控除は併用不可です。
旧居の特例 | 住宅ローン控除の併用 |
---|---|
買換え特例 | 併用不可 |
3,000万円特別控除 | 併用不可 |
譲渡損失の損益通算 | 併用可能 |
譲渡損失が出た場合は、損益通算を選択することで住宅ローン控除も受けられます。
まとめ
住み替えで戸建てを購入した場合、住宅ローン控除を受けるために初年度は確定申告が必要です。以下のポイントを押さえ、適切な手続きを進めることが重要です。
- 初年度は確定申告が必須、2年目以降は会社員なら年末調整で手続き可能
- 住宅ローン控除の適用要件(床面積50㎡以上、返済期間10年以上など)を確認
- 買換え特例・3,000万円控除を使うと住宅ローン控除は併用不可、譲渡損失の損益通算なら併用可能
- 必要書類は住宅ローン残高証明書、登記事項証明書、売買契約書など
- 申告期限は購入年の翌年2月16日~3月15日
- 書類の有効期限を確認し、2月頃に取得
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用すれば簡単に申告書を作成できる
確定申告を忘れると控除年数が減るため、期限内に手続きを完了させることが重要です。
よくある質問
Q1. 住宅ローン控除を受けるには、必ず確定申告が必要ですか?
A. 初年度は確定申告が必須です。2年目以降は会社員なら年末調整で手続きが可能で、税務署から送付される「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と金融機関からの「住宅ローン残高証明書」を会社に提出すれば、会社が年末調整で控除を計算してくれます。自営業者は毎年確定申告が必要です。
Q2. 住宅ローン控除の適用期限はいつまでですか?
A. 最大13年間(新築住宅・買取再販)または10年間(中古住宅)です。入居時期や住宅の種類により異なります。2024年以降に入居した場合、認定住宅なら13年、その他の中古住宅なら10年が適用期間です。国税庁の最新情報を確認し、自分のケースに該当する期間を把握することが重要です。
Q3. 必要書類はいつまでに準備すればいいですか?
A. 確定申告期限(3月15日)までに全書類を揃える必要があります。登記事項証明書や住民票は発行から3ヶ月以内など有効期限があるため、2月頃の取得が推奨されます。住宅ローン残高証明書は金融機関から10~11月頃に送付されますが、紛失した場合は再発行を依頼できます(1~2週間かかる場合あり)。
Q4. 確定申告を忘れた場合、遡って控除を受けられますか?
A. 還付申告の場合、5年以内なら更正の請求により遡って控除申請が可能です。ただし、申告を遅らせると控除年数が減るため、気づいた時点で速やかに手続きすべきです。例えば、2024年入居で2026年に申告した場合、2024年分の控除を受けられますが、2025年分は年末調整で手続きできず、確定申告が必要になります。