投資用戸建て売却では確定申告が必須
投資用戸建てを売却した場合、その利益(譲渡所得)には必ず確定申告が必要です。居住用不動産とは異なり、3,000万円特別控除などの優遇措置は適用されません。また、賃貸収入を得ていた場合は、減価償却費の計算が譲渡所得に大きく影響します。
この記事のポイント:
- 投資用戸建ては居住用の特例が使えず、一般税率(短期39.63%・長期20.315%)が適用される
- 減価償却後の取得費=購入価格−減価償却累計額で計算するため、減価償却の正確な把握が重要
- 所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行われ、5年以下か5年超かで税率が約2倍変わる
- 賃貸中の売却では、売却年の不動産所得申告も必要
- 計算が複雑なため、税理士への相談を推奨
投資用戸建て売却の税務基礎知識
投資用と居住用の税務上の違い
投資用不動産と居住用不動産では、税務上の扱いが大きく異なります。
項目 | 投資用 | 居住用 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 適用不可 | 適用可能 |
減価償却 | 計算必須 | 居住部分は不要 |
損益通算 | 事業的規模なら可 | 原則不可 |
申告義務 | 赤字でも必要 | 利益がなければ不要 |
投資用不動産は「事業用資産」として扱われるため、居住用財産に認められる各種特例の適用がありません。
3,000万円特別控除が適用されない点
居住用財産を売却した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁タックスアンサーNo.3302)。しかし、投資用不動産はこの特例の対象外です。
賃貸に出していた期間がある場合、たとえ一時的に自己居住していたとしても、投資用として扱われる可能性が高いため注意が必要です。
事業的規模と損益通算の可否
不動産賃貸が「事業的規模」(おおむね5棟10室基準)と認められる場合、譲渡損失を他の不動産所得と損益通算できます。ただし、給与所得や事業所得との損益通算は認められていません。
減価償却と取得費の関係
減価償却費とは
減価償却費とは、建物の取得費用を耐用年数にわたって経費として配分する会計処理です。投資用不動産では、毎年の不動産所得の計算で減価償却費を経費計上します。
重要なのは、この減価償却費が売却時の取得費計算に影響する点です。
定額法による償却計算
建物の減価償却は「定額法」で計算します(国税庁タックスアンサーNo.2100)。
計算式:
年間減価償却費 = 建物取得価額 × 償却率
木造戸建ての場合、法定耐用年数は22年、償却率は0.046です。
計算例:
- 建物取得価額: 2,000万円
- 償却率: 0.046(木造22年)
- 年間減価償却費: 2,000万円 × 0.046 = 92万円
減価償却後の取得費の計算
売却時の取得費は、以下の式で計算します。
建物の取得費 = 購入価格(建物部分)− 減価償却累計額
土地の取得費 = 購入価格(土地部分)
具体例:
- 購入価格: 3,000万円(建物2,000万円、土地1,000万円)
- 保有期間: 10年
- 減価償却累計額: 92万円 × 10年 = 920万円
- 建物取得費: 2,000万円 − 920万円 = 1,080万円
- 土地取得費: 1,000万円(減価償却なし)
- 合計取得費: 2,080万円
建物と土地の按分計算
購入時の契約書で建物・土地の価格が区分されていない場合、固定資産税評価額の比率などで按分計算します。この按分比率が減価償却額に直接影響するため、正確な計算が重要です。
譲渡所得の計算方法
取得費の考え方(減価償却累計額を控除)
譲渡所得の計算式は次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.3202)。
譲渡所得 = 譲渡収入金額 − (取得費 + 譲渡費用)
取得費には、購入価格に加えて以下が含まれます。
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用
- 不動産取得税
- リフォーム費用(資本的支出に該当するもの)
ただし、建物部分は減価償却累計額を控除した金額になります。
譲渡費用に含められる費用
譲渡費用として認められる主な項目:
- 仲介手数料
- 印紙税
- 測量費
- 建物解体費用(売却のために必要な場合)
- 立退料(借家人がいた場合)
建物と土地の分離計算
戸建ての場合、建物と土地を分けて計算する必要があります。
計算例:
- 譲渡価格: 3,500万円(建物1,500万円、土地2,000万円)
- 取得費(減価償却後): 2,080万円(建物1,080万円、土地1,000万円)
- 譲渡費用: 120万円
譲渡所得 = 3,500万円 − (2,080万円 + 120万円) = 1,300万円
譲渡所得の計算式
最終的な納税額は、譲渡所得に税率を乗じて計算します。税率は所有期間によって異なります(次のセクションで解説)。
短期譲渡と長期譲渡の税率の違い
所有期間の判定方法(譲渡年の1月1日時点)
所有期間の判定は、譲渡した年の1月1日時点で行います(国税庁タックスアンサーNo.3208)。売却日や購入日ではない点に注意が必要です。
判定例:
- 購入日: 2018年3月15日
- 売却日: 2023年5月20日
- 判定日: 2023年1月1日
- 所有期間: 2023年1月1日時点で4年9ヶ月 → 短期譲渡
短期譲渡所得の税率(39.63%)
所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得として高い税率が適用されます。
税目 | 税率 |
---|---|
所得税 | 30% |
復興特別所得税 | 0.63%(所得税×2.1%) |
住民税 | 9% |
合計 | 39.63% |
長期譲渡所得の税率(20.315%)
所有期間が5年超の場合、長期譲渡所得として低い税率が適用されます。
税目 | 税率 |
---|---|
所得税 | 15% |
復興特別所得税 | 0.315%(所得税×2.1%) |
住民税 | 5% |
合計 | 20.315% |
税率の違いによる影響
試算例(譲渡所得1,300万円の場合):
- 短期譲渡: 1,300万円 × 39.63% = 約515万円
- 長期譲渡: 1,300万円 × 20.315% = 約264万円
- 差額: 約251万円
所有期間が5年前後の場合、売却時期を調整することで大幅な節税が可能です。
確定申告の手続きと必要書類
申告期限と申告先
確定申告の期限は、譲渡した年の翌年2月16日〜3月15日です。管轄の税務署に申告します。
赤字(譲渡損失)の場合でも申告義務がありますので、必ず期限内に申告してください。
確定申告書第三表の記入方法
譲渡所得の申告には「確定申告書第三表(分離課税用)」を使用します。
記入する主な項目:
- 譲渡収入金額
- 取得費(減価償却後)
- 譲渡費用
- 譲渡所得金額
- 税額計算
必要書類一覧
書類 | 入手先 |
---|---|
譲渡時の売買契約書(コピー) | 仲介業者 |
取得時の売買契約書(コピー) | 購入時の書類 |
仲介手数料等の領収書 | 各取引先 |
登記事項証明書 | 法務局 |
減価償却計算書 | 自作または税理士 |
固定資産税評価証明書 | 市区町村役場 |
減価償却計算の証明資料
減価償却の計算根拠として、以下を保管しておくことが望ましいです。
- 過去の確定申告書(不動産所得の申告)
- 減価償却費の計算明細
- 建物・土地の按分根拠資料
賃貸収入との関係と注意点
売却年の不動産所得申告
賃貸中に売却した場合、売却年も賃貸収入があれば不動産所得の申告が必要です(国税庁タックスアンサーNo.1370)。
売却年の申告:
- 1月〜引渡日: 不動産所得として申告
- 引渡日以降: 賃貸収入なし
引渡し時期による按分計算
年の途中で引き渡した場合、固定資産税や管理費を按分計算します。一般的には、引渡日を基準に日割り計算します。
事業的規模の場合の損益通算
不動産賃貸が事業的規模(おおむね5棟10室以上)の場合、譲渡損失を他の不動産所得と損益通算できます。
ただし、給与所得や事業所得との損益通算はできません。
専門家(税理士)への相談推奨
投資用不動産の売却では、減価償却計算や所有期間の判定など、専門的な知識が必要です。税額が数百万円単位で変わることもあるため、税理士への相談を強く推奨します。
まとめ
投資用戸建ての売却では、居住用財産とは異なる税務処理が必要です。特に減価償却後の取得費計算、所有期間による税率の違い、賃貸収入との関係など、複数の要素を正確に把握しなければなりません。
確定申告は翌年2月16日〜3月15日が期限です。計算が複雑な場合は、早めに税理士へ相談することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1: 投資用戸建てを売却する場合、居住用の3,000万円特別控除は使えますか?
A: 投資用不動産には3,000万円特別控除は適用されません。この特例は居住用財産のみが対象です。投資用の場合は一般税率(短期39.63%・長期20.315%)が適用されます。
Q2: 減価償却後の取得費はどのように計算しますか?
A: 建物の取得費は「購入価格−減価償却累計額」で計算します。減価償却は定額法を用いて、建物の耐用年数に応じて毎年償却します。土地は減価償却しないため、購入時の価格がそのまま取得費となります。購入時の建物・土地の按分計算が重要です。
Q3: 投資用戸建てを売却して赤字になった場合、確定申告は必要ですか?
A: 譲渡損失が出た場合でも申告義務があります。事業的規模(5棟10室基準)と認められる場合は、他の不動産所得と損益通算が可能です。ただし、給与所得等とは通算できません。
Q4: 5年以内に売却すると税率が高くなると聞きましたが本当ですか?
A: 本当です。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得(税率39.63%)、5年超の場合は長期譲渡所得(税率20.315%)が適用されます。約2倍の税率差があるため、所有期間が5年前後の場合は売却時期を慎重に検討することが重要です。
Q5: 賃貸中に売却する場合、特別な手続きが必要ですか?
A: 売却年の賃貸収入については、引渡日までの期間を不動産所得として申告する必要があります。また、固定資産税や管理費などは引渡日を基準に按分計算します。譲渡所得の申告とは別に、不動産所得の申告も必要になる点に注意してください。