投資用戸建て購入の確定申告・減価償却・経費|完全ガイド

公開日: 2025/10/19

投資用戸建て購入時の確定申告の基礎知識

投資用戸建てを購入し賃貸経営を始める場合、確定申告は避けて通れない手続きです。賃料収入から必要経費を差し引いた不動産所得を正しく計算し、税務署に申告する必要があります。

特に戸建て投資は、木造が多く減価償却期間が短い(22年)ため節税効果が高い一方、土地と建物の按分方法や経費計上のルールを正しく理解しないと、過少申告や過大申告につながります。

本記事では、投資用戸建て購入時の確定申告・税金計算・必要書類を実務視点で解説します。

この記事でわかること

  • 投資用戸建て購入時の不動産所得の計算方法
  • 減価償却費の計算(木造22年・軽量鉄骨27年)
  • 土地と建物の按分方法(固定資産税評価額比・不動産鑑定評価)
  • 経費計上できる項目一覧(仲介手数料・登記費用・修繕費等)
  • 青色申告のメリットと必要書類

不動産所得の確定申告が必要なケース

確定申告が必要な条件

投資用戸建てから賃料収入がある場合、以下の条件を満たせば確定申告が必要です。

会社員の場合

  • 給与所得以外の所得(不動産所得等)が年間20万円超
  • 不動産所得が赤字で給与所得と損益通算する場合

自営業者・フリーランスの場合

  • すべての所得を合算して確定申告が必要

専業大家の場合

  • 不動産所得が基礎控除(48万円)を超える場合

不動産所得の計算方法

不動産所得は以下の式で計算します(国税庁「不動産所得の確定申告」)。

不動産所得 = 賃料収入 - 必要経費

賃料収入に含まれるもの

  • 家賃収入
  • 共益費・管理費
  • 更新料
  • 礼金(返還義務のないもの)
  • 駐車場代(戸建ての場合、敷地内駐車場)

必要経費に含まれるもの

  • 減価償却費(建物・設備)
  • 修繕費
  • 管理委託費
  • 固定資産税・都市計画税
  • 火災保険料・地震保険料
  • 借入金利子(土地取得分は制限あり、後述)
  • 税理士報酬

減価償却の計算方法

減価償却とは

減価償却とは、建物の取得費用を耐用年数で按分して毎年の経費として計上する方法です(国税庁「減価償却の計算方法」)。投資用戸建ての場合、減価償却費が不動産所得の計算で最も大きなウェイトを占めます。

減価償却の対象

  • 建物:減価償却の対象
  • 土地:減価償却の対象外(土地は時間経過で価値が減少しないため)
  • 設備(給湯器・エアコン等):建物と分けて減価償却可能

耐用年数と償却率

戸建ての耐用年数は構造により異なります。

構造 耐用年数 定額法償却率
木造 22年 0.046
軽量鉄骨(3mm以下) 19年 0.053
軽量鉄骨(3mm超4mm以下) 27年 0.038
鉄骨造(4mm超) 34年 0.030
RC造(鉄筋コンクリート) 47年 0.022

木造戸建ての減価償却計算例

  • 建物取得費:2000万円
  • 耐用年数:22年
  • 償却率:0.046
  • 年間減価償却費:2000万円 × 0.046 = 92万円

木造は耐用年数が短いため、年間の減価償却費が大きく、不動産所得を圧縮する効果が高くなります。

土地と建物の按分方法

投資用戸建ての購入価格は土地と建物の合計額ですが、減価償却は建物のみ対象です。そのため、購入価格を土地と建物に按分する必要があります。

按分方法

方法 特徴 使用場面
固定資産税評価額比 土地・建物の固定資産税評価額の比率で按分 最も一般的
売買契約書記載額 売買契約書に土地・建物それぞれの価格が記載されている場合 記載があれば優先
不動産鑑定評価 不動産鑑定士による評価額 税務調査で争いになる場合

固定資産税評価額比での按分例

  • 購入価格:3000万円
  • 土地の固定資産税評価額:1200万円
  • 建物の固定資産税評価額:800万円
  • 建物の按分割合:800万円 ÷ (1200万円 + 800万円) = 40%
  • 建物取得費:3000万円 × 40% = 1200万円
  • 土地取得費:3000万円 × 60% = 1800万円

固定資産税評価額は、物件所在地の市区町村から取得できる「固定資産評価証明書」で確認できます。

青色申告の活用

青色申告のメリット

不動産所得がある場合、青色申告を選択すると以下のメリットがあります(国税庁「青色申告制度」)。

青色申告特別控除

  • 65万円控除:複式簿記による記帳、e-Tax提出または電子帳簿保存
  • 55万円控除:複式簿記による記帳、書面提出
  • 10万円控除:簡易簿記による記帳

青色事業専従者給与

  • 配偶者や親族への給与を必要経費に算入可能
  • 事前に届出が必要

純損失の繰越控除

  • 不動産所得の赤字を翌年以降3年間繰り越せる

少額減価償却資産の特例

  • 30万円未満の資産を一括で経費計上可能(年間300万円まで)

青色申告承認申請の期限

青色申告を受けるには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。

申請期限

  • 開業した年:開業日から2ヶ月以内
  • 翌年以降:青色申告を受けようとする年の3月15日まで

例:2025年4月に投資用戸建てを購入し賃貸開始した場合

  • 開業日:2025年4月1日
  • 青色申告承認申請書の提出期限:2025年6月1日

期限を過ぎると、その年は白色申告となり、翌年から青色申告が適用されます。

必要経費の範囲

経費計上できる項目一覧

投資用戸建ての不動産所得の計算で、必要経費として計上できる項目は以下の通りです(国税庁「不動産投資の必要経費」)。

項目 内容 注意点
減価償却費 建物・設備の減価償却費 土地は対象外
修繕費 原状回復・設備修理 資本的支出は減価償却対象
管理委託費 不動産管理会社への委託費 入居者募集費用も含む
固定資産税・都市計画税 物件の固定資産税 自宅分は経費不可
火災保険料・地震保険料 物件の保険料 自宅分は経費不可
借入金利子 住宅ローン・アパートローンの利子 土地取得分は制限あり
税理士報酬 確定申告代行費用 不動産所得に関する部分のみ
交通費 物件視察・管理のための交通費 記録・領収書保管
通信費 不動産投資関連の通信費 按分が必要な場合あり
新聞図書費 不動産投資関連の書籍・セミナー 自己啓発は対象外

修繕費と資本的支出の区分

修繕費は支出した年度の経費として計上できますが、資本的支出は減価償却対象となります。

修繕費(その年の経費)

  • 原状回復工事(クロス張替え・床修理等)
  • 設備の修理(給湯器・エアコンの修理)
  • 定期的なメンテナンス

資本的支出(減価償却対象)

  • 建物の価値を高める工事(増築・耐震補強等)
  • 設備の交換(給湯器・エアコンの新品交換)
  • 使用可能期間を延長する工事

判定基準

  • 20万円未満:修繕費として一括経費計上可能
  • おおむね3年以内の周期で行う修理・改良:修繕費
  • 建物の価値を高める・使用可能期間を延長する:資本的支出

借入金利子の経費計上

投資用戸建ての購入にアパートローンを利用した場合、借入金利子は必要経費に計上できます。ただし、土地取得部分の借入金利子には制限があります。

建物取得の借入金利子

  • 全額経費計上可能

土地取得の借入金利子

  • 不動産所得が黒字の場合:全額経費計上可能
  • 不動産所得が赤字の場合:土地取得部分の利子は損益通算不可

例:不動産所得が赤字100万円、土地取得の借入金利子が30万円の場合

  • 損益通算できる赤字:70万円(100万円 - 30万円)
  • 土地取得の利子30万円は翌年以降に繰り越し

確定申告に必要な書類

不動産所得の確定申告書類

投資用戸建ての不動産所得の確定申告には、以下の書類が必要です。

基本書類

  • 確定申告書B(第一表・第二表)
  • 確定申告書B(第三表):譲渡所得等がある場合
  • 青色申告決算書(不動産所得用):青色申告の場合
  • 収支内訳書(不動産所得用):白色申告の場合

添付書類

  • 売買契約書のコピー
  • 固定資産税納税通知書のコピー
  • 火災保険証券のコピー
  • 管理委託契約書のコピー
  • 借入金の返済予定表・残高証明書
  • 領収書・請求書(修繕費・管理費等)

記帳書類(保管のみ、提出不要)

  • 帳簿(現金出納帳・預金出納帳・固定資産台帳等)
  • 領収書・請求書の原本
  • 賃貸借契約書

青色申告の場合、複式簿記での記帳が必要なため、会計ソフトの利用を推奨します。

青色申告決算書の記載方法

青色申告決算書(不動産所得用)は4ページ構成です。

1ページ目:損益計算書

  • 賃料収入の内訳
  • 必要経費の内訳
  • 不動産所得金額

2ページ目:月別収入金額・必要経費

  • 毎月の収支を記入

3ページ目:減価償却費の計算

  • 建物・設備ごとに減価償却費を計算

4ページ目:貸借対照表

  • 資産・負債・純資産の状況(65万円控除の場合必須)

確定申告のスケジュール

申告期限と提出先

確定申告期限

  • 毎年2月16日〜3月15日
  • e-Tax(電子申告)なら24時間提出可能

提出先

  • 住所地を管轄する税務署
  • e-Tax:インターネット経由で提出

納税期限

  • 確定申告期限と同じ(3月15日)
  • 振替納税を利用すれば4月下旬に口座引き落とし

初年度の確定申告の注意点

投資用戸建てを購入した初年度は、以下の点に注意が必要です。

購入年の減価償却費

  • 購入日から12月31日までの月数で按分
  • 例:10月購入の場合、3ヶ月分(10月〜12月)のみ計上

取得費に含められる諸費用

  • 仲介手数料:取得費に算入
  • 登記費用:取得費に算入
  • 不動産取得税:取得費に算入または必要経費に計上(選択可)
  • 固定資産税の精算金:取得費に算入

開業費の扱い

  • 賃貸開始前の費用(物件視察費・セミナー費等)は開業費として繰延資産計上
  • 任意償却可能(好きな年度に経費計上できる)

まとめ

投資用戸建て購入時の確定申告では、以下の点を押さえることが重要です。

不動産所得の計算

  • 不動産所得 = 賃料収入 - 必要経費
  • 減価償却費が最も大きな経費項目
  • 土地は減価償却対象外

減価償却の計算

  • 木造戸建て:耐用年数22年、償却率0.046
  • 土地と建物の按分は固定資産税評価額比が一般的
  • 購入初年度は月数按分

青色申告の活用

  • 65万円控除を受けるには複式簿記・e-Tax提出が必要
  • 青色申告承認申請書の提出期限は開業から2ヶ月以内
  • 純損失の繰越控除で赤字を3年間繰り越せる

必要経費の範囲

  • 修繕費・管理委託費・固定資産税・火災保険料等
  • 修繕費と資本的支出の区分に注意
  • 土地取得の借入金利子は赤字の場合損益通算不可

投資用戸建ての確定申告は複雑ですが、会計ソフトや税理士の活用で適切に処理できます。初年度は専門家への相談を推奨します。

よくある質問

投資用戸建ては住宅ローン控除の対象ですか?

投資用不動産は住宅ローン控除の対象外です。住宅ローン控除は「自己の居住用財産」が要件のため、賃貸に出す投資用戸建ては適用されません。ただし、不動産所得の計算で借入金利子を必要経費に計上できます(建物取得分は全額、土地取得分は赤字の場合制限あり)。

青色申告承認申請の期限を過ぎた場合、どうなりますか?

青色申告承認申請書の提出期限(開業から2ヶ月以内)を過ぎた場合、その年は白色申告となります。翌年3月15日までに青色申告承認申請書を提出すれば、翌年から青色申告が適用されます。白色申告では青色申告特別控除(65万円)が受けられないため、初年度から青色申告を選択することを推奨します。

不動産所得が赤字の場合、給与所得と損益通算できますか?

不動産所得の赤字は給与所得など他の所得と損益通算できます。ただし、土地取得の借入金利子は損益通算の対象外です。例えば、不動産所得が赤字100万円で土地取得の利子が30万円の場合、損益通算できるのは70万円のみです。土地取得の利子30万円は翌年以降に繰り越されます。

購入初年度の減価償却費はどう計算しますか?

購入初年度の減価償却費は、購入日から12月31日までの月数で按分します。例えば、建物取得費2000万円(木造、償却率0.046)を10月に購入した場合、3ヶ月分(10月〜12月)のみ計上します。計算式:2000万円 × 0.046 × 3ヶ月 ÷ 12ヶ月 = 23万円。翌年以降は年間92万円を計上します。

よくある質問

Q1投資用戸建ては住宅ローン控除の対象ですか?

A1投資用不動産は住宅ローン控除の対象外です。住宅ローン控除は「自己の居住用財産」が要件のため、賃貸に出す投資用戸建ては適用されません。ただし、不動産所得の計算で借入金利子を必要経費に計上できます(建物取得分は全額、土地取得分は赤字の場合制限あり)。

Q2青色申告承認申請の期限を過ぎた場合、どうなりますか?

A2青色申告承認申請書の提出期限(開業から2ヶ月以内)を過ぎた場合、その年は白色申告となります。翌年3月15日までに青色申告承認申請書を提出すれば、翌年から青色申告が適用されます。白色申告では青色申告特別控除(65万円)が受けられないため、初年度から青色申告を選択することを推奨します。

Q3不動産所得が赤字の場合、給与所得と損益通算できますか?

A3不動産所得の赤字は給与所得など他の所得と損益通算できます。ただし、土地取得の借入金利子は損益通算の対象外です。例えば、不動産所得が赤字100万円で土地取得の利子が30万円の場合、損益通算できるのは70万円のみです。土地取得の利子30万円は翌年以降に繰り越されます。

Q4購入初年度の減価償却費はどう計算しますか?

A4購入初年度の減価償却費は、購入日から12月31日までの月数で按分します。例えば、建物取得費2000万円(木造、償却率0.046)を10月に購入した場合、3ヶ月分(10月〜12月)のみ計上します。計算式:2000万円 × 0.046 × 3ヶ月 ÷ 12ヶ月 = 23万円。翌年以降は年間92万円を計上します。

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