投資用マンション売却で必要な書類の全体像
投資用マンションを売却する際は、通常の売却書類に加えて、賃貸運用に関する書類や税務関連の書類が必要になります。特に賃借人がいる状態で売却する「オーナーチェンジ」の場合は、賃貸借契約書や収支報告書など、投資物件特有の書類を準備する必要があります。
本記事の要点:
- 投資用マンション売却には通常の売却書類に加え、賃貸関連・税務関連の書類が必要
- オーナーチェンジと空室売却では必要書類が異なる
- マイホーム特例は適用されず、譲渡所得税の計算には減価償却費の確認が必須
- 管理費・修繕積立金の滞納がある場合は事前清算が原則
- 確定申告時は所有期間(短期・長期)の確認が重要
(1) 投資用と居住用の違い(税制・特例)
投資用マンションの売却では、居住用財産の3,000万円特別控除や軽減税率などの特例が適用されません(国税庁タックスアンサー No.3223)。そのため、譲渡所得税の計算は以下の税率が適用されます。
所有期間 | 税率(所得税+住民税) | 区分 |
---|---|---|
5年以内 | 39.63% | 短期譲渡所得 |
5年超 | 20.315% | 長期譲渡所得 |
所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で計算される点に注意が必要です。例えば2020年3月に購入し2025年4月に売却した場合、2025年1月1日時点では所有期間が5年に満たないため、短期譲渡所得として扱われます。
(2) オーナーチェンジと空室売却の書類差異
賃借人がいる状態で売却する「オーナーチェンジ」と、空室にして売却する場合では、必要書類が異なります。
オーナーチェンジの場合:
- 賃貸借契約書(現行契約)
- 賃料収入実績・収支報告書
- 敷金・礼金の精算書類
- 賃借人への通知書(任意だが推奨)
空室売却の場合:
- 賃貸借契約の解除通知書(過去に賃貸していた場合)
- 原状回復費用の領収書
オーナーチェンジの場合、賃貸借契約は新オーナーに承継されるため、賃借人への法的な通知義務はありませんが、円滑な引き継ぎのため事前通知が望ましいとされています。
基本的な売却書類(登記・契約関連)
投資用・居住用を問わず、マンション売却に必要な基本書類です。
(1) 登記識別情報通知・権利証
マンションの所有権を証明する書類です。2005年以降に取得した物件は「登記識別情報通知」、それ以前は「権利証(登記済証)」が発行されています。紛失した場合は、司法書士による本人確認制度や事前通知制度を利用する必要があります。
(2) 印鑑証明書・実印
売買契約書や登記申請に必要です。発行から3か月以内のものが求められることが一般的です。市区町村役場で取得できます。
(3) 媒介契約書・売買契約書
不動産会社と締結する媒介契約書と、買主と締結する売買契約書です。媒介契約には専任媒介・専属専任媒介・一般媒介の3種類があり、それぞれ契約期間や報告義務が異なります。
賃貸関連書類(オーナーチェンジの場合)
オーナーチェンジで売却する場合に必要な書類です。
(1) 賃貸借契約書
現在の賃借人と締結している賃貸借契約書の原本またはコピーです。契約期間、賃料、敷金・礼金の額、更新条件などが記載されています。買主は賃貸借契約を承継するため、契約内容の確認は必須です。
(2) 賃料収入実績・収支報告書
過去1〜2年分の賃料収入実績と、管理費・修繕費・固定資産税などの支出をまとめた収支報告書です。買主が投資判断を行うための重要な資料となります。確定申告書の不動産所得内訳書がこれに該当します(国税庁タックスアンサー No.1370)。
(3) 敷金・礼金の精算書類
賃借人から預かっている敷金は、新オーナーに引き継がれます。敷金の残高を明記した精算書類を準備する必要があります。礼金はオーナーの収入となるため引き継ぎ不要ですが、契約時の金額を明示しておくと親切です。
マンション特有の必要書類
マンションならではの書類です。戸建てや土地の売却では不要です。
(1) 管理規約・使用細則
マンションの管理組合が定める規約と使用細則です。ペット飼育の可否、リフォームの制限、専有部分の使用ルールなどが記載されています。管理会社から取得できます。
(2) 重要事項に係る調査報告書
マンション売却時に管理会社が作成する書類で、以下の情報が記載されます(国土交通省「マンション管理適正化法」)。
- 管理費・修繕積立金の月額
- 滞納の有無
- 大規模修繕の実施履歴と今後の計画
- 賃貸状況(投資用の場合)
取得には1〜2週間、費用は1〜3万円程度かかります。売却活動の開始前に早めに依頼しておくことが推奨されます。
(3) 管理費・修繕積立金の滞納状況証明
管理費や修繕積立金に滞納がある場合、その状況を証明する書類です。滞納がある場合は売却前に清算することが原則ですが、買主に引き継ぐことも可能です。ただし、売却価格や契約条件に影響するため、重要事項に係る調査報告書に正確に記載される必要があります。
収支・税務関連の必要書類
投資用マンション特有の税務関連書類です。
(1) 確定申告書(不動産所得内訳書)
過去数年分の確定申告書と、不動産所得内訳書です。賃料収入や必要経費が記載されており、買主の投資判断材料となります。また、売却時の譲渡所得税計算にも使用します。
(2) 減価償却明細(累計額の確認)
建物の減価償却費は、売却時の譲渡所得計算に影響します(国税庁タックスアンサー No.3302)。譲渡所得の計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 - 減価償却累計額) - 譲渡費用
RC造マンションの法定耐用年数は47年です。定額法で減価償却している場合、毎年の減価償却費は「建物取得価額 × 0.022(償却率)」となります。過去の確定申告書の不動産所得内訳書に記載されていますが、紛失した場合は税務署で過去の申告書を閲覧できます(本人確認書類が必要)。
(3) 購入時の売買契約書・領収書
購入時の売買契約書と、仲介手数料・登記費用などの諸費用の領収書です。これらは譲渡所得の計算における「取得費」として認められます。紛失した場合、売却価格の5%を概算取得費として計上できますが、実際の取得費より低くなることが多いため、できる限り保管しておくべきです。
確定申告時の必要書類
売却後の確定申告で必要となる書類です。
(1) 譲渡所得税申告に必要な書類
売却した翌年の確定申告で、以下の書類を提出します。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 売却時の売買契約書のコピー
- 購入時の売買契約書のコピー
- 譲渡費用の領収書(仲介手数料、登記費用など)
- 減価償却費の計算明細
(2) 短期譲渡・長期譲渡の区分確認書類
所有期間が5年以内か5年超かで税率が大きく異なるため、登記事項証明書や購入時の売買契約書で取得日を正確に確認する必要があります。判定日は「売却した年の1月1日時点」である点に注意してください。
例: 2020年7月に購入、2025年8月に売却 → 2025年1月1日時点の所有期間は4年6か月 → 短期譲渡所得(39.63%)
まとめ
投資用マンションの売却では、通常の売却書類に加えて、賃貸関連書類(賃貸借契約書、収支報告書)と税務関連書類(確定申告書、減価償却明細)の準備が必要です。特にオーナーチェンジの場合は、賃借人への引き継ぎ情報を正確に整理することが重要です。
また、マイホーム特例が適用されないため、譲渡所得税の負担が大きくなる点に注意が必要です。短期譲渡(5年以内)は39.63%、長期譲渡(5年超)は20.315%の税率となるため、所有期間の判定は慎重に行いましょう。
管理費・修繕積立金の滞納がある場合は、売却前に清算することが望ましいです。重要事項に係る調査報告書には滞納状況が正確に記載されるため、隠蔽することはできません。
書類の準備には時間がかかるものもあるため、売却を決めたら早めに不動産会社や税理士に相談し、必要書類のチェックリストを作成することをお勧めします。