住み替えでのマンション購入時の控除・特例の全体像
住み替えでマンションを購入する際、住宅ローン控除をはじめとする各種控除や特例を適切に活用することで、税負担を大幅に軽減できます。ただし、旧居の売却側の特例との併用制限があるため、全体像を理解した上で最適な選択をすることが重要です。
この記事でわかること
- 住み替えでのマンション購入時に利用できる控除・特例の全体像
- 住宅ローン控除の適用条件と旧居との重複制限
- 買い替え特例と住宅ローン控除の併用可否と選択基準
- 住宅取得資金贈与の非課税枠活用方法
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置と適用要件
(1) 住み替え購入で使える控除・特例一覧
住み替えでマンションを購入する際、以下の控除・特例を活用できます。
制度名 | 軽減額 | 主な適用要件 |
---|---|---|
住宅ローン控除 | 年末残高の0.7%(最大13年間) | 取得後6ヶ月以内に入居、床面積50㎡以上 |
住宅取得資金贈与の非課税 | 最大500万円~1,000万円 | 父母・祖父母からの贈与、18歳以上の受贈者 |
登録免許税の軽減 | 本則2.0%→0.3% | 床面積50㎡以上、築年数要件 |
不動産取得税の軽減 | 最大1,200万円控除 | 床面積50㎡以上240㎡以下 |
国税庁の「住宅借入金等特別控除」によれば、住み替えの場合でも新規購入と同様に住宅ローン控除を受けられます。
(2) 売却側の特例との連携
住み替えでは、売却側の特例選択が購入側の控除に影響します。
売却側の主な特例:
- 3,000万円特別控除:譲渡所得から最高3,000万円控除(住宅ローン控除と併用可能)
- 買い替え特例:譲渡益の課税を繰延(住宅ローン控除と併用不可)
- 譲渡損失の損益通算:売却損を給与所得等から控除(住宅ローン控除と併用可能)
売却側で買い替え特例を選択すると、購入側で住宅ローン控除が使えなくなるため、慎重な選択が必要です。
住宅ローン控除の適用条件と重複制限
(1) 住宅ローン控除の基本
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んで住宅を取得した場合、年末残高の0.7%を所得税・住民税から控除できる制度です。
控除期間と限度額(2024年入居の場合):
住宅の種類 | 借入限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
新築認定住宅 | 5,000万円 | 13年間 | 455万円 |
新築ZEH水準省エネ | 4,500万円 | 13年間 | 409.5万円 |
新築省エネ基準適合 | 4,000万円 | 13年間 | 364万円 |
中古認定住宅 | 3,000万円 | 10年間 | 210万円 |
中古省エネ基準適合 | 3,000万円 | 10年間 | 210万円 |
(2) 適用要件(取得後6ヶ月以内の入居等)
住宅ローン控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
主要要件:
- 取得日から6ヶ月以内に入居し、適用を受ける各年の12月31日まで引き続き居住していること
- 床面積が50㎡以上(合計所得金額1,000万円以下なら40㎡以上)
- 床面積の2分の1以上が自己の居住用であること
- 住宅ローンの返済期間が10年以上であること
- 合計所得金額が2,000万円以下であること
判定日の重要性: 取得日の判定は、登記簿上の日付ではなく、引渡しを受けた日または引渡し前でも居住を開始した日となります。6ヶ月以内の入居要件を満たすため、引渡し日を確認しておくことが重要です。
(3) 旧居の住宅ローン控除との重複可否
住み替えの場合、旧居で住宅ローン控除を受けている途中でも、新居で新たな住宅ローン控除を開始できます。
ポイント:
- 旧居の住宅ローン控除は、居住しなくなった年の年末で終了
- 新居の住宅ローン控除は、入居した年から開始
- 同じ年に両方の控除を受けることはできない(居住している方のみ)
例:
- 旧居:2020年購入、住宅ローン控除4年目
- 新居:2024年3月に購入・入居
→ 2024年は新居の住宅ローン控除を受ける。旧居の残り9年分の控除は放棄。
(4) 二重ローン期間の控除対象性
住み替えでは、売却と購入のタイミングがずれ、一時的に二重ローンになることがあります。
控除の取扱い:
- 居住している住宅のローンのみが控除対象
- 旧居に居住中:旧居のローンのみ控除可能
- 新居に入居後:新居のローンのみ控除可能
- つなぎ融資:短期借入のため住宅ローン控除の対象外
最適化のポイント: 旧居の売却代金で旧居のローンを完済し、新居のローンのみにすることで、控除額を最大化できます。
(5) 認定住宅の借入限度額拡大
国税庁の「認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)」によれば、認定長期優良住宅や認定低炭素住宅を取得した場合、借入限度額が拡大されます。
認定住宅のメリット:
- 借入限度額:新築5,000万円(一般住宅は3,000万円)
- 最大控除額:455万円(一般住宅は273万円)
- 不動産取得税・登録免許税も優遇
住み替えで新築マンションを購入する場合、認定住宅を選択することで、大幅な税制優遇を受けられます。
買い替え特例との関係
(1) 売却側の買い替え特例の概要
国税庁の「特定の居住用財産の買換えの特例」は、売却益の課税を繰延する制度です。
適用要件:
- 所有期間10年超、居住期間10年以上の居住用財産を売却
- 売却価格が1億円以下
- 売却年の前年1月1日~翌年12月31日の間に買い替え
仕組み: 売却益への課税を繰延し、買い替え先の住宅を将来売却する時に課税されます。
(2) 買い替え特例と住宅ローン控除の併用不可
重要な制限: 売却側で買い替え特例を選択すると、購入側で住宅ローン控除が使えなくなります。
併用不可の理由: 税制上、売却益の課税繰延(買い替え特例)と購入側の控除(住宅ローン控除)の二重優遇を認めないためです。
(3) 3,000万円特別控除との選択
多くの場合、売却側で3,000万円特別控除を選択し、購入側で住宅ローン控除を受ける方が有利です。
比較例:
- 売却益:2,500万円
- 住宅ローン控除:13年間で約350万円
パターン1(3,000万円特別控除+住宅ローン控除):
- 売却時:2,500万円の譲渡所得が3,000万円特別控除で非課税
- 購入時:住宅ローン控除で約350万円の控除
- 合計優遇額:約850万円相当
パターン2(買い替え特例のみ):
- 売却時:課税繰延(将来の売却時に課税)
- 購入時:住宅ローン控除が使えない
- 優遇額:課税繰延のみ
売却益が3,000万円以下なら、パターン1が圧倒的に有利です。
(4) 売却損が出た場合の損益通算特例
住み替えで旧居の売却損が発生した場合、「譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を適用できます。
適用要件:
- 住宅ローン残債がある居住用財産を売却
- 売却損が発生
- 新居を住宅ローンで購入
メリット:
- 売却損を給与所得等から控除し、所得税・住民税の還付を受けられる
- 損益通算特例と住宅ローン控除は併用可能
住宅取得資金贈与の非課税枠活用
(1) 贈与税非課税枠の基本
国税庁の「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」により、父母・祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税になります。
(2) 非課税枠の金額(一般住宅・優良住宅)
2024年の非課税枠:
住宅の種類 | 非課税限度額 |
---|---|
一般住宅 | 500万円 |
優良住宅(認定長期優良住宅・ZEH等) | 1,000万円 |
(3) 適用要件と手続き
主な要件:
- 受贈者が18歳以上(贈与年の1月1日時点)
- 受贈者の合計所得金額が2,000万円以下
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに新居に居住
- 床面積が40㎡以上240㎡以下
手続き: 贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に確定申告が必要です。申告しないと非課税措置が適用されません。
(4) 頭金増額による有利なローン条件
贈与で頭金を増やすことで、以下のメリットがあります。
- 借入額が減り、総返済額が減少
- 自己資金比率が上がり、金利優遇を受けやすい
- 住宅ローン審査が通りやすくなる
例:
- マンション価格:5,000万円
- 親からの贈与:1,000万円(非課税)
- 自己資金:500万円
- 住宅ローン:3,500万円
→ 自己資金比率30%で、金利優遇を受けられる可能性が高まります。
登録免許税・不動産取得税の軽減措置
(1) 登録免許税の軽減(本則2.0%→0.3%)
法務局の資料によれば、住宅用家屋の所有権移転登記(売買)は、登録免許税が軽減されます。
登記の種類 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
所有権移転登記(土地) | 2.0% | 1.5% |
所有権移転登記(建物) | 2.0% | 0.3% |
抵当権設定登記 | 0.4% | 0.1% |
軽減要件:
- 自己居住用であること
- 床面積50㎡以上
- 築年数要件(1982年1月1日以降建築、または耐震基準適合証明書等)
(2) 不動産取得税の軽減措置
総務省の資料によれば、住宅用家屋を取得した場合、不動産取得税が軽減されます。
軽減額:
控除額 = 1,200万円 × 3%(新築の場合は最大36万円)
適用要件:
- 床面積50㎡以上240㎡以下
- 個人の居住用
(3) 床面積等の要件
住宅ローン控除、登録免許税軽減、不動産取得税軽減のいずれも、床面積50㎡以上が共通要件です。
注意点: 床面積は登記簿上の面積(内法面積)で判定されます。パンフレット等の壁芯面積より小さくなるため、50㎡ギリギリの物件は注意が必要です。
(4) つなぎ融資の控除対象性
住み替えで、新居の購入資金を一時的につなぎ融資で調達することがあります。
つなぎ融資の取扱い:
- 短期借入(数ヶ月~1年程度)のため、住宅ローン控除の対象外
- 返済期間10年以上の要件を満たさない
旧居の売却代金でつなぎ融資を完済し、新居の長期ローンのみにすることで、住宅ローン控除を最大限活用できます。
控除・特例を最大化する実践策
(1) 売却タイミングと購入タイミングの調整
住み替えでは、売却と購入のタイミング調整が重要です。
理想的な流れ:
- 新居の目処を立てる
- 旧居を売却(3,000万円特別控除適用)
- 売却代金で旧居ローンを完済
- 新居を購入・入居(住宅ローン控除開始)
タイミングのポイント:
- 旧居の売却は、住まなくなってから3年以内(3,000万円特別控除の期限)
- 新居の入居は、取得後6ヶ月以内(住宅ローン控除の要件)
(2) 売却側特例の最適選択
売却益の金額により、最適な特例が異なります。
選択基準:
- 売却益3,000万円以下 → 3,000万円特別控除(購入側で住宅ローン控除も可能)
- 売却益3,000万円超 → 買い替え特例も検討(ただし住宅ローン控除は不可)
- 売却損 → 損益通算特例(購入側で住宅ローン控除も可能)
具体的な金額で税理士に試算を依頼し、最も有利な選択をすることをおすすめします。
(3) 認定住宅での借入限度額優遇活用
新築マンションを購入する場合、認定長期優良住宅や認定低炭素住宅を選択することで、以下のメリットがあります。
- 住宅ローン控除:借入限度額5,000万円(最大455万円の控除)
- 不動産取得税:控除額1,300万円(一般住宅は1,200万円)
- 登録免許税:所有権保存登記0.1%(一般住宅は0.15%)
認定住宅は価格が高めですが、税制優遇を考慮すると、総コストで有利になる場合があります。
(4) 専門家への相談推奨事項
以下の場合は、税理士や不動産会社の専門家に相談することをおすすめします。
- 売却益が大きく、買い替え特例と3,000万円特別控除のどちらが有利か判断が必要
- 売却損が発生し、損益通算特例を適用する場合
- 親からの贈与を受け、贈与税非課税措置を活用する場合
- 二重ローン期間があり、控除の最適化が必要な場合
専門家への相談費用は発生しますが、数十万円~数百万円単位で税負担を軽減できる可能性があります。
まとめ
住み替えでマンションを購入する際は、住宅ローン控除、住宅取得資金贈与の非課税、登録免許税・不動産取得税の軽減など、複数の控除・特例を活用できます。ただし、売却側の買い替え特例と購入側の住宅ローン控除は併用できないため、売却益の金額に応じた最適な選択が重要です。
多くの場合、売却側で3,000万円特別控除を選択し、購入側で住宅ローン控除を受ける方が有利です。認定住宅を選択することで借入限度額が拡大され、より大きな控除を受けられる点も見逃せません。
売却と購入のタイミング調整、親からの贈与活用、認定住宅の選択など、総合的な戦略を立てることで、税負担を最小化できます。不安がある場合は、税理士や不動産会社の専門家に相談することをおすすめします。