投資売却マンションの控除・特例|税率と計算の完全ガイド

公開日: 2025/10/19

投資用マンション売却時の控除・特例の全体像

投資用マンションを売却する際、譲渡所得税が発生しますが、居住用不動産とは税制が大きく異なります。特に3,000万円特別控除などの居住用財産特例が適用されないため、税負担が大きくなる傾向があります。一方で、事業用資産の買換え特例など、投資用不動産特有の税制優遇措置を活用できる可能性があります。

この記事で分かること:

  • 投資用マンション売却で使える控除・特例(居住用との違い)
  • 譲渡所得の計算方法と減価償却費の影響
  • 短期・長期譲渡の税率差(39.63% vs 20.315%)
  • 事業用資産の買換え特例の仕組みと適用要件
  • 控除・特例を最大化する実践的な売却戦略

(1) 投資用物件で使える控除・特例

投資用マンション売却時に利用可能な主な控除・特例は以下の通りです。

制度名 概要 主な要件
長期譲渡所得税率 所有期間5年超で税率20.315% 売却年1月1日時点で所有期間5年超
事業用資産の買換え特例 譲渡益の80%を繰り延べ 一定地域・面積要件を満たす事業用資産への買換え

適用されない居住用特例:

  • 3,000万円特別控除
  • 10年超所有の軽減税率
  • 特定居住用財産の買換え特例

(2) 居住用特例が使えない点の明確化

投資用マンションは、たとえ過去に一時的に居住していた場合でも、売却時点で投資用として賃貸に出している場合は、居住用財産の特例は原則として適用されません。

居住用財産の特例を受けるためには、売却時点で本人または家族が実際に居住している必要があります。投資用物件として購入した場合や、居住用から投資用に転用した場合は、転用後3年を経過すると居住用特例の適用が難しくなります。

居住用との税制の違い

(1) 3,000万円特別控除は適用不可

居住用財産を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特別控除がありますが、投資用マンションは対象外です。

影響のシミュレーション:

  • 譲渡所得3,000万円の場合
    • 居住用: 3,000万円控除後の課税所得0円 → 税額0円
    • 投資用: 課税所得3,000万円 → 税額約609万円(長期譲渡の場合)

この差額609万円が、投資用と居住用の最も大きな税制上の違いです。

(2) 10年超所有の軽減税率も適用不可

居住用財産を10年超所有して売却した場合、6,000万円以下の部分について税率が14.21%に軽減される特例がありますが、投資用マンションには適用されません。

投資用マンションは、所有期間5年超の長期譲渡所得として税率20.315%が適用されるのが最も有利な税率となります。

(3) 投資用特有の税制(事業用資産の買換え特例等)

投資用マンション特有の税制として、事業用資産の買換え特例があります。この特例は、投資用不動産を売却して別の事業用資産を取得する場合、譲渡益の80%を将来に繰り延べることができる制度です。

(4) 不動産所得との違い

投資用マンションの賃貸収入は不動産所得として所得税が課されますが、売却時の譲渡所得とは別の所得区分となります。

  • 不動産所得: 賃貸収入から必要経費を差し引いた所得(総合課税)
  • 譲渡所得: 売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた所得(分離課税)

譲渡所得は他の所得と損益通算できないため、給与所得や事業所得が多い場合でも、譲渡所得に対する税負担は変わりません。

譲渡所得の計算と減価償却の影響

(1) 譲渡所得の基本計算式

譲渡所得は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)
  • 収入金額: 売却価格
  • 取得費: 購入価格 + 購入時の諸費用 - 減価償却費相当額
  • 譲渡費用: 仲介手数料、印紙税、測量費等

(2) 取得費から減価償却費相当額を控除

投資用マンションの場合、建物部分について減価償却費の累計額を取得費から差し引く必要があります。これにより、売却時の譲渡所得が大きくなり、税負担が増加します。

減価償却費相当額の計算:

減価償却費相当額 = 建物取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
  • RC造マンション(法定耐用年数47年)の償却率: 0.022
  • 経過年数: 所有期間(年単位)

(3) 減価償却費相当額の計算方法

計算例:

  • 建物取得価格: 2,000万円
  • 所有期間: 10年
  • RC造マンション(償却率0.022)
減価償却費相当額 = 2,000万円 × 0.9 × 0.022 × 10年 = 396万円

この396万円が取得費から差し引かれ、結果的に譲渡所得が396万円増加します。

(4) 譲渡益への影響とシミュレーション

シミュレーション:

  • 売却価格: 3,500万円
  • 購入価格: 3,000万円(土地1,000万円、建物2,000万円)
  • 所有期間: 10年
  • 減価償却費相当額: 396万円
  • 譲渡費用: 150万円
取得費 = 3,000万円 - 396万円 = 2,604万円
譲渡所得 = 3,500万円 - 2,604万円 - 150万円 = 746万円
税額 = 746万円 × 20.315% = 約152万円

減価償却費相当額を考慮しない場合と比べて、約80万円の税負担増となります。

短期・長期譲渡の税率と所有期間

(1) 所有期間の判定方法(1月1日基準)

所有期間は、売却した年の1月1日時点で5年以下か5年超かで判定されます。

判定例:

  • 2018年7月1日購入、2024年1月2日売却: 2024年1月1日時点で5年(短期譲渡)
  • 2018年7月1日購入、2024年7月1日売却: 2024年1月1日時点で5年(短期譲渡)
  • 2018年12月31日購入、2024年1月2日売却: 2024年1月1日時点で5年(短期譲渡)
  • 2018年1月1日購入、2024年1月2日売却: 2024年1月1日時点で6年(長期譲渡)

所有期間の計算は、購入日から売却日までの実日数ではなく、売却年の1月1日時点での経過年数で判定される点に注意が必要です。

(2) 短期譲渡所得(税率39.63%)

譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得として以下の税率が適用されます。

  • 所得税: 30.63%(復興特別所得税を含む)
  • 住民税: 9%
  • 合計: 39.63%

(3) 長期譲渡所得(税率20.315%)

譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年超の場合、長期譲渡所得として以下の税率が適用されます。

  • 所得税: 15.315%(復興特別所得税を含む)
  • 住民税: 5%
  • 合計: 20.315%

(4) 税率差による節税額の違い

税率差のシミュレーション:

譲渡所得1,000万円の場合

  • 短期譲渡: 1,000万円 × 39.63% = 約396万円
  • 長期譲渡: 1,000万円 × 20.315% = 約203万円
  • 差額: 約193万円

所有期間が5年を1日でも超えるかどうかで、税負担が約2倍変わるため、売却時期の調整が重要です。

事業用資産の買換え特例

(1) 特例の仕組み(譲渡益の80%繰延)

事業用資産の買換え特例は、投資用不動産を売却して別の事業用資産を取得する場合、譲渡益の80%を将来に繰り延べることができる制度です。

繰延の仕組み:

譲渡益3,000万円の場合

  • 課税対象: 3,000万円 × 20% = 600万円
  • 繰延: 3,000万円 × 80% = 2,400万円

繰延された2,400万円は、買換え資産を将来売却する際に課税されます。

(2) 適用要件(所在地・面積・期間等)

事業用資産の買換え特例の主な適用要件は以下の通りです。

  • 譲渡資産: 所有期間10年超の事業用不動産
  • 買換資産: 譲渡年またはその前年・翌年中に取得した事業用資産
  • 所在地: 譲渡資産と買換資産の所在地に一定の制限(地域間の買換えが対象)
  • 面積: 買換資産の面積が譲渡資産の面積の5倍以内

(3) 対象となる資産の範囲

買換え特例の対象となる資産は以下の通りです。

  • 事業用の土地・建物(投資用マンション含む)
  • 国内の資産間の買換え
  • 一定の地域要件を満たす資産

(4) 特例適用時の注意点

事業用資産の買換え特例を適用する際の注意点は以下の通りです。

  • 非課税ではなく繰延: 将来の売却時に課税される
  • 所有期間10年超が要件: 短期・中期保有では適用不可
  • 確定申告が必要: 特例適用のための申告が必須
  • 地域要件の確認: 買換え資産の所在地に制限がある

控除・特例を最大化する実践策

(1) 所有期間5年超での売却メリット

投資用マンションを売却する際、所有期間5年超で長期譲渡所得税率(20.315%)を適用することが、最も基本的な節税策です。

  • 購入時期を記録し、売却年の1月1日時点で5年超となるタイミングを把握
  • 5年経過直前の売却は避け、1月1日を超えてから売却を検討

(2) 事業用資産の買換え特例の活用

複数の投資用不動産を所有している場合、売却と同時期に別の投資用不動産を購入することで、買換え特例を活用できます。

  • 所有期間10年超の物件を売却対象とする
  • 買換え資産の取得時期(譲渡年の前年・当年・翌年)を計画
  • 地域要件・面積要件を事前に確認

(3) 確定申告の手続きと必要書類

投資用マンションを売却した場合、譲渡所得の確定申告が必要です。

必要書類:

  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書の写し
  • 登記事項証明書
  • 取得費・譲渡費用の領収書
  • 減価償却費の計算書
  • 事業用資産の買換え特例適用時: 買換資産の取得を証明する書類

(4) 専門家への相談推奨事項

投資用マンション売却時の税務は複雑であり、以下の場合は税理士への相談を推奨します。

  • 減価償却費相当額の計算が不明確な場合
  • 事業用資産の買換え特例の適用可否の判断
  • 複数の不動産を所有している場合の最適な売却順序
  • 譲渡損失が発生した場合の取扱い

まとめ

投資用マンションを売却する際、居住用不動産の3,000万円特別控除などは適用されず、税負担が大きくなる傾向があります。しかし、所有期間5年超で長期譲渡所得税率(20.315%)を適用することで、短期譲渡(39.63%)と比べて大幅な節税が可能です。

減価償却費の累計額が取得費から差し引かれるため、長期保有した物件ほど売却時の譲渡所得が大きくなる点に注意が必要です。事業用資産の買換え特例を活用すれば、譲渡益の80%を将来に繰り延べることができますが、所有期間10年超などの要件を満たす必要があります。

投資用マンション売却時の税務は複雑であり、減価償却費の計算や特例適用の判断には専門知識が必要です。税理士に相談しながら、最適な売却時期と税制活用を検討することをお勧めします。

よくある質問

投資用マンション売却で3,000万円特別控除は使えますか?

投資用マンションは3,000万円特別控除の対象外です。この控除は居住用財産のみ適用されます。投資用マンションには、短期・長期譲渡の税率区分(39.63%または20.315%)が適用されます。節税には所有期間5年超で長期譲渡税率を適用することが基本となります。事業用資産の買換え特例を活用すれば、譲渡益の80%を繰り延べることも可能です。

投資用マンション売却で減価償却はどう影響しますか?

減価償却費の累計額は取得費から差し引かれるため、売却時の譲渡所得が大きくなり税負担が増加します。例えば、建物2,000万円を10年間所有し、減価償却費相当額が396万円の場合、取得費は1,604万円に減少します。結果的に譲渡所得が396万円増加し、税負担は約80万円(長期譲渡の場合)増える計算です。長期保有した物件ほど、この影響が大きくなります。

投資用マンションは短期と長期でどのくらい税率が違いますか?

所有期間5年以下は短期譲渡で税率39.63%(所得税30.63%+住民税9%)、5年超は長期譲渡で税率20.315%(所得税15.315%+住民税5%)となります。税率が約2倍違うため、5年経過後の売却が税務上有利です。所有期間は売却年の1月1日時点で判定されるため、購入日から5年経過していても、売却年の1月1日時点で5年以下であれば短期譲渡となる点に注意が必要です。

投資用マンション売却で使える特例はありますか?

事業用資産の買換え特例を利用可能です。一定要件(所有期間10年超、譲渡年または前年・翌年中の買換え資産取得、所在地・面積要件等)を満たせば、譲渡益の80%を将来に繰り延べることができます。ただし非課税ではなく繰り延べであり、買換え資産を将来売却する際に課税されます。居住用の3,000万円控除や10年超の軽減税率は適用されないため、長期譲渡税率適用が基本的な節税策となります。

よくある質問

Q1投資用マンション売却で3,000万円特別控除は使えますか?

A1投資用マンションは3,000万円特別控除の対象外です。この控除は居住用財産のみ適用されます。投資用マンションには、短期・長期譲渡の税率区分(39.63%または20.315%)が適用されます。節税には所有期間5年超で長期譲渡税率を適用することが基本となります。事業用資産の買換え特例を活用すれば、譲渡益の80%を繰り延べることも可能です。

Q2投資用マンション売却で減価償却はどう影響しますか?

A2減価償却費の累計額は取得費から差し引かれるため、売却時の譲渡所得が大きくなり税負担が増加します。例えば、建物2,000万円を10年間所有し、減価償却費相当額が396万円の場合、取得費は1,604万円に減少します。結果的に譲渡所得が396万円増加し、税負担は約80万円(長期譲渡の場合)増える計算です。長期保有した物件ほど、この影響が大きくなります。

Q3投資用マンションは短期と長期でどのくらい税率が違いますか?

A3所有期間5年以下は短期譲渡で税率39.63%(所得税30.63%+住民税9%)、5年超は長期譲渡で税率20.315%(所得税15.315%+住民税5%)となります。税率が約2倍違うため、5年経過後の売却が税務上有利です。所有期間は売却年の1月1日時点で判定されるため、購入日から5年経過していても、売却年の1月1日時点で5年以下であれば短期譲渡となる点に注意が必要です。

Q4投資用マンション売却で使える特例はありますか?

A4事業用資産の買換え特例を利用可能です。一定要件(所有期間10年超、譲渡年または前年・翌年中の買換え資産取得、所在地・面積要件等)を満たせば、譲渡益の80%を将来に繰り延べることができます。ただし非課税ではなく繰り延べであり、買換え資産を将来売却する際に課税されます。居住用の3,000万円控除や10年超の軽減税率は適用されないため、長期譲渡税率適用が基本的な節税策となります。

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