投資用戸建て売却の控除・特例|税率・計算・節税ガイド

公開日: 2025/10/12

投資用戸建て売却時の税制を正しく理解する

投資用戸建ての売却を検討している方にとって、税金の負担は収益性を大きく左右する重要な要素です。しかし、居住用不動産との税制の違いを正しく理解しないまま売却を進めてしまい、想定外の税負担に直面するケースも少なくありません。

本記事では、投資用戸建て売却時の税務について、控除・特例を含めて包括的に解説します。

この記事でわかること

  • 投資用戸建ては居住用の3,000万円特別控除が適用されない理由
  • 短期・長期譲渡所得の税率と所有期間の判定方法
  • 減価償却費を差し引いた「調整取得費」の正しい計算方法
  • 投資用不動産で利用できる特例と損失時の取り扱い
  • 確定申告の流れと税理士への相談タイミング

1. 投資用戸建て売却と居住用の税制の違い

(1) 居住用財産の特例が適用されない理由

投資用戸建ての売却において、まず理解すべきは「居住用財産の特例」が適用されないという点です。国税庁の定める居住用財産の特例(3,000万円特別控除や軽減税率)は、売主が実際に居住していた不動産にのみ適用されます。

賃貸に出していた戸建てや、当初から投資目的で購入した物件は、この特例の対象外となるため、売却益に対してより高い税率が適用されることになります。

(2) 投資用不動産特有の税制優遇

一方で、投資用不動産には居住用にはない税制上のメリットも存在します。

  • 特定事業用資産の買換え特例: 投資用から投資用への買い替え時に、譲渡益への課税を繰り延べられる
  • 事業所得との損益通算: 事業的規模で不動産賃貸を行っている場合、一定の条件で他の所得と損益通算が可能
  • 青色申告特別控除: 事業的規模の賃貸経営では最大65万円の控除が利用できる

(3) 短期・長期譲渡所得の税率

投資用戸建ての譲渡所得税は、所有期間によって大きく異なります。

区分 所有期間 税率
短期譲渡所得 5年以下 約39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
長期譲渡所得 5年超 約20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

重要: 所有期間は売却年の1月1日時点で判定されます。例えば2020年3月に購入した物件を2025年4月に売却する場合、2025年1月1日時点では「4年10ヶ月」とカウントされ、短期譲渡所得となります。

2. 譲渡所得税の計算方法

(1) 譲渡価額・取得費・譲渡費用の算定

譲渡所得は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)

譲渡価額: 実際の売却価格

取得費: 購入価格 - 減価償却費(建物部分のみ)

譲渡費用: 以下の費用が含まれます

  • 仲介手数料
  • 登記費用(抵当権抹消など)
  • 測量費
  • 建物解体費(更地渡しの場合)
  • 印紙税

(2) 短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率

前述の通り、所有期間5年以下の短期譲渡所得は約39.63%、5年超の長期譲渡所得は約20.315%の税率が適用されます。この税率差は約19%にも及ぶため、売却タイミングの判断において極めて重要です。

(3) 所有期間の判定方法

所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定されます。購入日から売却日までの実際の期間ではない点に注意が必要です。

:

  • 購入日: 2019年7月1日
  • 売却日: 2024年8月1日
  • 判定: 2024年1月1日時点で4年6ヶ月 → 短期譲渡所得

同じ物件を2025年1月以降に売却すれば、2025年1月1日時点で5年超となり、長期譲渡所得として約20%の税率軽減が受けられます。

3. 減価償却費と取得費の関係

(1) 減価償却費の計算方法

投資用戸建ての建物部分は、保有期間中に減価償却を行います。木造戸建ての場合、法定耐用年数は22年、償却率は0.046(定額法)です。

計算例:

  • 建物価格: 2,000万円
  • 年間減価償却費: 2,000万円 × 0.046 = 92万円
  • 5年間の累計減価償却費: 92万円 × 5年 = 460万円

(2) 調整取得費の算定

売却時の取得費は、購入時の価格から累計減価償却費を差し引いた「調整取得費」となります。

計算例:

  • 購入価格: 3,000万円(建物2,000万円、土地1,000万円)
  • 5年間の減価償却費: 460万円
  • 調整取得費: 3,000万円 - 460万円 = 2,540万円

(3) 建物と土地の按分計算

購入時の契約書に建物・土地の内訳が明記されていない場合、固定資産税評価額の比率で按分するのが一般的です。

按分例:

  • 購入価格: 3,000万円
  • 固定資産税評価額: 建物1,200万円、土地800万円(合計2,000万円)
  • 建物: 3,000万円 × (1,200万円 / 2,000万円) = 1,800万円
  • 土地: 3,000万円 × (800万円 / 2,000万円) = 1,200万円

4. 投資用戸建て売却時に利用できる特例

(1) 特定事業用資産の買換え特例

投資用から投資用への買い替えを行う場合、一定の要件を満たせば「特定事業用資産の買換え特例」が利用できます。この特例により、譲渡益への課税を繰り延べることが可能です。

主な要件:

  • 譲渡資産・取得資産ともに事業用であること
  • 譲渡資産の所有期間が10年超であること
  • 取得資産を譲渡年の前年1月1日から翌年12月31日までに取得すること

詳細は国税庁「特定事業用資産の買換えの特例」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3405.htm)を参照してください。

(2) 収用等による特別控除

投資用戸建てが公共事業による収用の対象となった場合、5,000万円の特別控除が適用される場合があります。これは居住用・投資用を問わず適用される特例です。

(3) 事業的規模の場合の損益通算

不動産賃貸を事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)で行っている場合、一定の条件で事業所得と譲渡所得の損益通算が認められることがあります。ただし、適用要件は複雑なため、税理士への相談が推奨されます。

5. 譲渡損失が出た場合の取り扱い

(1) 譲渡損失の損益通算

投資用戸建ての売却で譲渡損失が発生した場合、他の不動産所得(賃貸収入など)との損益通算は可能です。ただし、給与所得や事業所得など他の所得区分との通算は原則として認められません。

これは居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度とは異なる点です。

(2) 他の不動産所得との相殺

同一年内に複数の投資用不動産を売却し、一部で利益、一部で損失が出た場合、これらを相殺することができます。

:

  • 物件A売却益: +500万円
  • 物件B売却損: -300万円
  • 課税対象: 200万円

(3) 繰越控除の可否

投資用不動産の譲渡損失について、翌年以降への繰越控除は原則として認められません。これは居住用財産の譲渡損失とは異なる取り扱いです。

6. 確定申告の流れと注意点

(1) 譲渡所得の申告期限と必要書類

投資用戸建てを売却した場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。

必要書類:

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)
  • 売買契約書(売却時・購入時)
  • 仲介手数料等の領収書
  • 固定資産税評価証明書
  • 登記事項証明書
  • 減価償却費の計算書

(2) 消費税課税事業者の場合の注意点

不動産賃貸業を営み、課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税課税事業者として建物部分の売却に消費税が課税されます。

  • 土地: 非課税
  • 建物: 課税(税率10%)

課税事業者の場合、建物価格に10%の消費税を上乗せして売却価格を設定し、納税する必要があります。

(3) 税理士への相談タイミング

以下のケースでは、税理士への相談を強く推奨します。

  • 売却益が1,000万円を超える場合
  • 複数の投資用不動産を保有している場合
  • 買い替え特例の適用を検討している場合
  • 減価償却費の計算が複雑な場合(大規模修繕等を行っている場合)
  • 消費税課税事業者である場合

税理士への相談費用は5万円〜20万円程度が相場ですが、節税効果や税務リスクの回避を考えれば、十分に価値のある投資と言えます。

まとめ: 投資用戸建て売却は専門家と二人三脚で

投資用戸建ての売却では、居住用財産の特例が適用されないため、減価償却費を正しく計算し、所有期間による税率差を理解することが極めて重要です。

特に、所有期間5年超で税率が約20%軽減される「長期譲渡所得」の要件を満たすかどうかは、判定時点(売却年の1月1日)に注意が必要です。数ヶ月のタイミング差で数百万円の税負担が変わることもあります。

また、特定事業用資産の買換え特例や事業的規模での損益通算など、投資用ならではの税制優遇もあります。これらの適用可否は個別の状況によって異なるため、売却を検討する段階で税理士に相談し、最適な売却戦略を立てることをお勧めします。

よくある質問

Q1: 投資用戸建ての売却でも3,000万円特別控除は使えますか?

A: 使えません。3,000万円特別控除や軽減税率などの「居住用財産の特例」は、売主が実際に居住していた不動産にのみ適用されます。投資用不動産はこれらの特例の対象外となるため、売却益に対してより高い税率が適用されます。

投資用不動産では、代わりに「特定事業用資産の買換え特例」などが利用できる場合があります。

Q2: 投資用戸建ての譲渡所得税率はどれくらいですか?

A: 所有期間によって大きく異なります。

  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 約39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
  • 長期譲渡所得(所有期間5年超): 約20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

重要なのは、所有期間は売却年の1月1日時点で判定される点です。実際の保有期間が5年を超えていても、判定時点で5年以下であれば短期譲渡所得となります。

Q3: 減価償却費を差し引いた後の取得費はどう計算しますか?

A: 購入時の建物価格から、保有期間中の累計減価償却費を差し引いた額が「調整取得費」となります。土地部分は減価償却されないため、そのまま取得費に含まれます。

計算例:

  • 購入価格: 3,000万円(建物2,000万円、土地1,000万円)
  • 5年間の減価償却費: 460万円(木造・定額法の場合)
  • 調整取得費: 2,540万円(建物1,540万円+土地1,000万円)

購入時の契約書に建物・土地の内訳がない場合は、固定資産税評価額の比率で按分するのが一般的です。

Q4: 投資用戸建ての売却で損失が出た場合、税制優遇はありますか?

A: 限定的です。譲渡損失は他の不動産所得(賃貸収入など)との損益通算は可能ですが、給与所得など他の所得区分との通算は原則として認められません。

また、居住用財産のような「譲渡損失の繰越控除制度」も投資用不動産には適用されません。ただし、事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)で不動産賃貸を行っている場合、一定の損益通算が認められる場合があります。

Q5: 売却のタイミングで税金はどれくらい変わりますか?

A: 所有期間5年を境に税率が約20%も変わるため、タイミングによって大きな差が生まれます。

: 売却益1,000万円の場合

  • 短期譲渡所得(5年以下): 約396万円の税金
  • 長期譲渡所得(5年超): 約203万円の税金
  • 差額: 約193万円

所有期間の判定は「売却年の1月1日時点」で行われるため、数ヶ月待つことで大幅な節税が可能になるケースもあります。売却を検討する際は、この判定時点を必ず確認してください。

よくある質問

Q1投資用戸建ての売却でも3,000万円特別控除は使えますか?

A1使えません。3,000万円特別控除や軽減税率などの「居住用財産の特例」は、売主が実際に居住していた不動産にのみ適用されます。投資用不動産はこれらの特例の対象外となるため、売却益に対してより高い税率が適用されます。投資用不動産では、代わりに「特定事業用資産の買換え特例」などが利用できる場合があります。

Q2投資用戸建ての譲渡所得税率はどれくらいですか?

A2所有期間によって大きく異なります。短期譲渡所得(所有期間5年以下)は約39.63%(所得税30.63%+住民税9%)、長期譲渡所得(所有期間5年超)は約20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。重要なのは、所有期間は売却年の1月1日時点で判定される点です。

Q3減価償却費を差し引いた後の取得費はどう計算しますか?

A3購入時の建物価格から、保有期間中の累計減価償却費を差し引いた額が「調整取得費」となります。土地部分は減価償却されないため、そのまま取得費に含まれます。例えば購入価格3,000万円(建物2,000万円、土地1,000万円)で5年間の減価償却費が460万円の場合、調整取得費は2,540万円(建物1,540万円+土地1,000万円)となります。

Q4投資用戸建ての売却で損失が出た場合、税制優遇はありますか?

A4限定的です。譲渡損失は他の不動産所得(賃貸収入など)との損益通算は可能ですが、給与所得など他の所得区分との通算は原則として認められません。また、居住用財産のような「譲渡損失の繰越控除制度」も投資用不動産には適用されません。ただし、事業的規模で不動産賃貸を行っている場合、一定の損益通算が認められる場合があります。

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