住み替えマンション売却の契約・重要事項説明|完全ガイド

公開日: 2025/10/19

住み替え時のマンション売却契約の全体像

住み替えを計画している場合、現在のマンションを売却し、その資金で新居を購入するという2つの取引を同時並行で進める必要があります。国土交通省の標準契約書式では、売買契約書に引渡し時期や契約解除条件を明記することが推奨されており、住み替えでは特にこれらの条件設定が重要になります。

この記事の要点

  • 売買契約書では引渡し時期・手付金・契約解除条件を住み替えスケジュールに合わせて調整
  • 重要事項説明書では管理費精算・管理規約・修繕計画を確認
  • 買い替え特約を活用することで、売却不成立時に購入契約を白紙解除できる
  • 売り先行と買い先行の選択が資金計画とスケジュールに大きく影響
  • 管理費精算や設備付帯範囲などマンション特有の確認事項に注意

(1) 契約から引渡しまでの流れ

住み替え時のマンション売却では、以下のステップを踏むことになります。

ステップ 時期 主な内容
重要事項説明 契約前 宅建業法35条に基づく物件・取引条件の説明
売買契約締結 - 契約書への署名・捺印、手付金の授受
引渡し準備 契約~決済 新居への引越し準備、退去前清掃
残代金決済 契約後1~2ヶ月 残代金の支払い、所有権移転登記、鍵の引渡し
引渡し完了 決済日 物件の現状確認と引渡し

住み替えでは、この流れを新居購入のスケジュールと調整する必要があります。

(2) 売り先行と買い先行の違い

住み替えには「売り先行」と「買い先行」の2つのパターンがあります。

売り先行のメリット・デメリット

メリット デメリット
売却代金が確定し資金計画が明確 仮住まいが必要になる場合がある
住宅ローンの残債を完済できる 引越しが2回必要になる
買い先行より売却価格を高く設定しやすい 新居購入のタイミングを逃す可能性

買い先行のメリット・デメリット

メリット デメリット
仮住まいが不要で引越しが1回で済む 住み替えローンが必要になる
希望の新居を確実に購入できる 売却価格が想定より低くなるリスク
退去後の内覧対応が不要 2つのローン返済が重なる期間が発生

どちらを選ぶかは、住宅ローンの残高、自己資金の有無、新居購入の緊急度などを総合的に判断します。

売買契約書で確認すべき重要条項

国土交通省の標準契約書式に基づき、売買契約書の重要条項を確認します。住み替えでは、新居購入との兼ね合いで特に以下の項目が重要です。

(1) 売買価格と手付金

売買価格は、住み替えの資金計画を左右する最重要項目です。売却代金で新居購入の頭金を賄う場合、価格設定が新居購入の可否に直結します。

手付金は、売買価格の5~10%程度が一般的です。手付金は契約締結時に買主から受領し、契約が成立したことの証として機能します。手付金は残代金決済時に売買価格の一部として精算されます。

(2) 引渡し時期の調整

引渡し時期は、新居への入居時期と調整する必要があります。以下のパターンが考えられます。

  • 売り先行: 新居購入前に旧居を引き渡す場合、仮住まいが必要になる
  • 同時決済: 旧居の引渡しと新居の購入を同日に実施(スケジュール調整が困難)
  • 買い先行: 新居購入後に旧居を引き渡す(引越しが1回で済む)

契約書には「令和○年○月○日」と具体的な日付を記載するか、「残代金決済日」のように条件で定めます。住み替えでは引渡し時期の特約を設けることも有効です。

(3) 契約解除条件

住み替えに関連する契約解除条件として、以下が挙げられます。

  • 手付解除: 買主が手付を放棄、または売主が手付の倍額を支払うことで解除可能(期限あり)
  • ローン特約: 買主の住宅ローン審査が不承認の場合、白紙解除が可能
  • 買い替え特約: 売主が新居を購入できなかった場合、売買契約を白紙解除できる特約(詳細は後述)

買い替え特約は住み替えに特有の条項で、資金計画のリスクを軽減する重要な手段です。

重要事項説明書のチェックポイント

宅建業法35条では、宅地建物取引士が売買契約前に重要事項説明を行うことが義務付けられています。住み替えでは、引渡し時期や管理費精算などの説明が特に重要です。

(1) 管理費・修繕積立金の状況

管理費・修繕積立金の滞納有無は、売買契約の成否に影響する重要な事項です。売主に滞納がある場合、以下の対応が必要です。

  • 売却代金から滞納分を精算し、管理組合に支払う
  • 買主が滞納分を引き継ぐ場合、その旨を契約書に明記

住み替えで引渡し時期を調整する場合、管理費の日割り計算方法も事前に確認します。

(2) 管理規約の制限事項

国土交通省の「マンション標準管理規約」では、以下のような制限事項が定められている場合があります。

  • ペット飼育の可否
  • リフォームの制限(床材・壁の変更など)
  • 専有部分の用途制限(住居専用、事務所利用の可否など)
  • 駐車場・駐輪場の利用ルール

これらの制限は買主の希望と合致している必要があるため、重要事項説明で詳細に説明されます。

(3) 修繕履歴と大規模修繕の予定

マンションの大規模修繕は通常10~15年周期で実施されます。売却時点で以下の情報を買主に説明する必要があります。

  • 過去の修繕履歴: 外壁塗装、屋上防水、給排水管更新など
  • 今後の修繕計画: 大規模修繕の予定時期と概算費用
  • 修繕積立金の残高: 計画に対して十分な積立があるか

修繕積立金が不足している場合、一時金の徴収が予定されていることもあるため、管理組合の議事録で確認することが推奨されます。

買い替え特約の活用と注意点

買い替え特約は、住み替えに伴う資金計画のリスクを軽減する重要な手段です。

(1) 買い替え特約とは

買い替え特約は、「売主が○月○日までに新居を○○万円以上で購入できなかった場合、本契約を白紙解除できる」という内容の特約です。この特約により、以下のメリットがあります。

  • 新居購入を条件に売買契約を結べる
  • 売却不成立の場合に購入契約を白紙解除できる
  • 資金計画のリスクを軽減できる

買主にとっては契約が解除されるリスクがあるため、特約の期限や条件を明確に設定することが重要です。

(2) 特約の設定条件と期限

買い替え特約を設定する場合、以下の条件を明確にします。

  • 期限: 「令和○年○月○日まで」と具体的な日付を記載
  • 新居の条件: 「○○市内の3LDK以上のマンションを○○万円以上で購入」のように具体化
  • 解除の手続き: 期限内に書面で通知することなど

期限は通常、残代金決済日の1~2週間前に設定されます。期限を過ぎると特約による解除はできなくなります。

(3) 特約による契約解除の手続き

買い替え特約により契約を解除する場合、以下の手続きが必要です。

  1. 特約で定めた期限内に、買主に書面で解除の意思表示を行う
  2. 受領した手付金を全額返還する
  3. 契約は白紙解除となり、双方に損害賠償責任は発生しない

買い替え特約は売主を保護する条項ですが、買主にとってはリスクとなるため、設定する場合は不動産会社と十分に相談することが推奨されます。

マンション特有の確認事項

住み替えでマンションを売却する場合、戸建てや土地とは異なる確認事項があります。

(1) 管理費精算の方法

管理費・修繕積立金は通常、月単位で前払いされます。引渡し日が月の途中の場合、以下の方法で精算します。

  • 日割り精算: 引渡し日を基準として、売主と買主が日数按分で負担
  • 月単位精算: 当月分全額を売主または買主が負担(地域慣習による)

一般的には日割り精算が多いですが、契約書で精算方法を明確にしておく必要があります。精算金は残代金決済時に授受されることが一般的です。

(2) 専有部分と共用部分の範囲

マンションでは、専有部分(各住戸の内部)と共用部分(エントランス・廊下・階段等)が明確に区分されています。

  • 専有部分: 室内の床・壁・天井、設備(キッチン・浴室等)
  • 共用部分: 構造躯体、外壁、バルコニー、玄関ドアの外側

バルコニーは専有部分のように見えますが、実際は共用部分であり、避難経路としての機能を持つため私物を置くことに制限がある場合があります。管理規約で確認が必要です。

(3) 設備の付帯範囲

売却価格に含まれる設備の範囲を明確にする必要があります。

  • 通常付帯する設備: エアコン、照明器具、カーテンレール、給湯器
  • 持参する設備: 新居で使用する家具・家電、思い入れのある照明器具

持参する設備がある場合、事前に買主と合意し、契約書の「付帯設備表」に記載します。トラブルを避けるため、内覧時に買主に説明しておくことが推奨されます。

売却と購入のタイミング調整

住み替えでは、旧居の売却と新居の購入のタイミング調整が最大の課題です。

(1) 売り先行の資金計画

売り先行を選択する場合、以下の資金計画を立てます。

  1. 旧居の売却代金でローンを完済
  2. 売却代金の残額を新居購入の頭金に充当
  3. 新居購入の住宅ローンを借入

メリット: 売却代金が確定し、資金計画が明確になる デメリット: 仮住まいが必要になり、引越しが2回必要

仮住まいの賃料や引越し費用を考慮して、総コストを計算することが重要です。

(2) 買い先行の住み替えローン

買い先行を選択する場合、「住み替えローン」の活用を検討します。住み替えローンは、旧居のローン残債と新居購入資金を合算して借りられるローンです。

メリット: 仮住まいが不要で引越しが1回で済む デメリット: 借入額が大きくなり、審査が厳しい

住み替えローンを利用する場合、旧居が一定期間内に売却されることが条件となることが多いため、不動産会社と密に連携する必要があります。

(3) 残代金決済と鍵の引渡し

残代金決済日には、以下の手続きを同日に実施します。

  1. 買主から残代金を受領
  2. 受領した代金で住宅ローンを一括返済
  3. 金融機関から抵当権抹消書類を受領
  4. 司法書士が所有権移転登記と抵当権抹消登記を同時申請
  5. 物件の鍵を買主に引き渡し

住み替えの場合、旧居の決済と新居の決済を同日に実施する「同時決済」も可能ですが、スケジュール調整が困難なため、売り先行または買い先行を選択することが一般的です。

まとめ

住み替え時のマンション売却では、売買契約書の引渡し時期・手付金・契約解除条件を新居購入のスケジュールに合わせて調整することが重要です。重要事項説明書では管理費精算・管理規約・修繕計画を確認し、買い替え特約を活用することで資金計画のリスクを軽減できます。

売り先行と買い先行の選択が資金計画とスケジュールに大きく影響するため、住宅ローンの残高・自己資金・新居購入の緊急度を総合的に判断し、不動産会社と相談しながら最適な方法を選択することが推奨されます。国土交通省の標準契約書式や宅建業法の規定に基づき、トラブルのない住み替えを実現しましょう。

よくある質問

Q1: 買い替え特約を設定するメリットは何ですか?

A1: 新居購入を条件に売買契約を結べるため、売却不成立の場合に購入契約を白紙解除できます。資金計画のリスクを軽減し、期限と条件を事前に明確化することで、安心して住み替えを進められます。ただし、買主にとってはリスクとなるため、不動産会社と相談して設定することが推奨されます。

Q2: 売り先行と買い先行はどちらを選ぶべきですか?

A2: 売り先行は資金計画が明確で安全ですが、仮住まいが必要になります。買い先行は引越し回数が減りますが、住み替えローンが必要です。住宅ローン残高と自己資金の有無、新居購入の緊急度を総合的に判断し、不動産会社との相談で最適な方法を選択することが推奨されます。

Q3: 管理費・修繕積立金はどのように精算しますか?

A3: 引渡し日を基準に日割り計算で精算することが一般的です。売主に滞納がある場合は売主が清算する必要があります。修繕積立金の残高は買主に引き継がれ、残代金決済時に精算が行われます。精算方法は契約書で明確にしておくことが重要です。

Q4: 引渡し時期はどのように決めますか?

A4: 新居への入居時期と調整して決定します。残代金決済日と同日に引渡しを行うことが一般的です。売り先行の場合は仮住まい期間を考慮して余裕を持った設定が必要です。特約により柔軟に期限を調整することも可能なため、不動産会社と相談することが推奨されます。

よくある質問

Q1買い替え特約を設定するメリットは何ですか?

A1新居購入を条件に売買契約を結べるため、売却不成立の場合に購入契約を白紙解除できます。資金計画のリスクを軽減し、期限と条件を事前に明確化することで、安心して住み替えを進められます。ただし、買主にとってはリスクとなるため、不動産会社と相談して設定することが推奨されます。

Q2売り先行と買い先行はどちらを選ぶべきですか?

A2売り先行は資金計画が明確で安全ですが、仮住まいが必要になります。買い先行は引越し回数が減りますが、住み替えローンが必要です。住宅ローン残高と自己資金の有無、新居購入の緊急度を総合的に判断し、不動産会社との相談で最適な方法を選択することが推奨されます。

Q3管理費・修繕積立金はどのように精算しますか?

A3引渡し日を基準に日割り計算で精算することが一般的です。売主に滞納がある場合は売主が清算する必要があります。修繕積立金の残高は買主に引き継がれ、残代金決済時に精算が行われます。精算方法は契約書で明確にしておくことが重要です。

Q4引渡し時期はどのように決めますか?

A4新居への入居時期と調整して決定します。残代金決済日と同日に引渡しを行うことが一般的です。売り先行の場合は仮住まい期間を考慮して余裕を持った設定が必要です。特約により柔軟に期限を調整することも可能なため、不動産会社と相談することが推奨されます。

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