住み替えで土地購入時の契約・重要事項説明の流れ
住み替えで土地を購入する際、売買契約と重要事項説明は宅地建物取引業法に基づき適正に行われる必要があります。特に住み替え特有のタイミング調整や資金計画について理解しておくことが重要です。
(1) 重要事項説明と売買契約締結のタイミング
国土交通省の「不動産売買契約における重要事項説明とは」によれば、重要事項説明は契約締結前に実施する必要があります。
契約・重要事項説明の流れ:
- 購入申込: 買付証明書(購入申込書)を提出
- 住宅ローン事前審査: 金融機関に事前審査を申し込み
- 重要事項説明: 契約締結前に宅地建物取引士が説明(IT重説も可能)
- 売買契約締結: 売買契約書の締結と手付金の支払(売買価格の5-10%程度)
- 住宅ローン本審査: 金融機関に本審査を申し込み(通常1-2週間)
- 金銭消費貸借契約: 住宅ローンの契約締結
- 残代金決済・引渡し: 残代金の支払と同時に所有権移転登記を実施
重要事項説明は対面のほか、IT重説(オンラインによる説明)も認められています。遠方からの住み替えでもビデオ通話で説明を受けられます。
(2) 住み替え購入特有の注意点
住み替えで土地を購入する場合、以下の点に特に注意が必要です。
国民生活センターの「住み替えに伴う不動産取引の注意点」によれば、住み替え時のトラブルとして、売却と購入のタイミング調整や資金繰りの問題が多いとされています。
住み替え購入の注意点:
- 売却と購入のタイミング調整: 売却物件の決済と購入物件の決済を近い日程で調整
- 住み替え特約の活用: 売却が成立しない場合に購入契約を解除できる特約
- つなぎ融資の検討: 売却代金が入るまでの短期融資
- ローン特約の設定: 住宅ローン審査が不承認の場合に契約を白紙解除できる特約
住み替えの場合、売却と購入の両方の契約を並行して進めるため、綿密なスケジュール管理が必要です。
重要事項説明で確認すべき土地特有の項目
(1) 用途地域・建ぺい率・容積率の確認
土地の重要事項説明では、用途地域・建ぺい率・容積率を必ず確認します。
用途地域と建築制限:
- 用途地域: 都市計画法により定められた土地の用途(第一種低層住居専用地域・第二種住居地域等)
- 建ぺい率: 敷地面積に対する建築面積の割合の上限(30-80%)
- 容積率: 敷地面積に対する延べ床面積の割合の上限(50-500%)
確認のポイント:
- 希望する建物(延べ床面積・階数等)が建築可能か
- 用途地域により高さ制限(10m・12m等)がある場合あり
- 北側斜線制限・道路斜線制限等の建築制限
用途地域・建ぺい率・容積率は、自治体の都市計画課で確認できます。土地購入前に建築士に相談し、希望する建物が建築可能かを確認することが推奨されます。
(2) 上下水道・ガス等のインフラ整備状況
土地のインフラ整備状況は、重要事項説明で必ず確認します。
インフラ整備の確認項目:
- 上水道: 前面道路に上水道本管が敷設されているか、敷地内への引込工事の要否
- 下水道: 公共下水道・浄化槽のいずれか、前面道路への下水本管の敷設状況
- 都市ガス: 前面道路にガス本管が敷設されているか(プロパンガスの場合は不要)
- 電気: 電柱の位置、敷地内への引込方法
インフラ未整備の場合:
- 上下水道の引込工事費用は数十万円から100万円以上かかる場合あり
- 公共下水道が未整備の場合、浄化槽の設置が必要(設置費用100-200万円程度)
- インフラ工事費用は土地代金とは別に準備する必要あり
インフラ整備状況は、土地の購入費用に大きく影響するため、事前に確認し、工事費用を見積もっておくことが重要です。
(3) 土地の境界確定と測量図の有無
土地の境界が確定しているかは、重要事項説明で必ず確認します。
境界確定の確認:
- 確定測量図の有無: 隣地所有者の立会いのもと、境界を確定した測量図
- 境界標の有無: 境界を示す標識(コンクリート杭・金属プレート等)
- 越境物の有無: 隣地から越境している構造物(ブロック塀・樹木等)
境界未確定のリスク:
- 隣地との境界紛争が発生する可能性
- 建築確認申請時に境界確定が必要となる場合あり
- 将来売却時に境界確定を求められる
境界が未確定の場合、売主負担で確定測量を実施するか、現況有姿(境界未確定のまま)で購入するかを契約書に明記します。
土地売買契約書の重要条項と注意点
(1) 売買代金・支払時期・引渡し時期
法務省民事局の「土地売買契約の注意点」によれば、売買契約書では以下の点を明確にする必要があります。
売買契約書の重要条項:
- 売買代金: 土地の代金(消費税は非課税)
- 手付金の額: 通常は売買価格の5-10%程度
- 残代金の支払時期: 引渡し日と同日が一般的
- 引渡し時期: 契約締結後1-3ヶ月以内が一般的
- 公租公課の負担: 固定資産税・都市計画税の日割り精算
住み替えの場合、売却物件の決済と購入物件の決済を同日または近い日程で調整することで、資金繰りをスムーズにできます。
(2) 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の範囲
2020年4月の民法改正により、瑕疵担保責任は「契約不適合責任」に変更されました。
契約不適合責任とは:
- 引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合、売主が負う責任
- 買主は、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除を選択可能
- 買主が不適合を知った時から1年以内に通知が必要
土地の契約不適合責任:
- 地中埋設物: 契約時に知らなかった地中埋設物(産業廃棄物・古井戸等)が発見された場合
- 土壌汚染: 契約時に知らなかった土壌汚染が発見された場合
- 面積の不足: 実測面積が契約面積を下回る場合
契約書で契約不適合責任の範囲・期間を明確にし、地中埋設物や土壌汚染のリスクを理解した上で購入することが重要です。
(3) 特約条項の確認(住み替え特約・ローン特約)
土地購入契約では、以下の特約を設定することが推奨されます。
住み替え特約:
- 売却物件の売買契約が成立しない場合、購入契約を白紙解除できる特約
- 期限(通常1-3ヶ月)を設定し、期限内に売却が成立しない場合に解除
- 手付金は全額返還される
ローン特約:
- 住宅ローン審査が不承認の場合、契約を白紙解除できる特約
- 金融機関・借入額・期限を契約書に明記
- 期限内に承認が得られない場合、手付金は全額返還される
住み替えの場合、住み替え特約とローン特約の両方を設定することで、資金計画のリスクを軽減できます。
住み替えタイミングと資金計画の調整
(1) 売却と購入の決済タイミング調整
住み替えでは、売却物件の決済と購入物件の決済のタイミング調整が重要です。
売り先行:
- 現在の住居を先に売却してから新居を購入
- メリット: 売却代金を新居の購入資金に充てられる、資金計画が明確
- デメリット: 売却後から新居入居までの仮住まい期間が発生する可能性
買い先行:
- 新居を先に購入してから現在の住居を売却
- メリット: 新居を先に確保できる、仮住まい期間が発生しない
- デメリット: 売却代金が入るまでの資金繰りが必要、つなぎ融資またはダブルローン
同時決済:
- 売却と購入の決済を同日に実施
- メリット: 仮住まい期間が発生せず、資金繰りもスムーズ
- デメリット: タイミング調整が難しい、スケジュール管理が重要
同時決済を実現するには、売却と購入の不動産会社と綿密に連携し、スケジュールを調整する必要があります。
(2) つなぎ融資・住み替えローンの活用
買い先行または同時決済を選択する場合、つなぎ融資または住み替えローンの活用を検討します。
つなぎ融資:
- 売却代金が入るまでの短期融資(通常3-6ヶ月)
- 金利は住宅ローンより高め(年1.5-3%程度)
- 売却代金で一括返済
住み替えローン:
- 売却物件の残債と新居の購入資金をまとめて借り入れ
- オーバーローン(売却価格が残債を下回る)の場合に利用
- 融資額が物件価値を上回るため、審査が厳しい
つなぎ融資・住み替えローンの利用には、金融機関との事前協議が必要です。複数の金融機関で比較検討することが推奨されます。
手付金・中間金・残代金の支払いスケジュール
(1) 手付金の金額目安と支払タイミング
不動産適正取引推進機構の「不動産取引における手付金の取り扱い」によれば、手付金は以下の性質を持ちます。
手付金の性質:
- 証約手付: 契約成立の証として交付
- 解約手付: 契約解除権の対価として交付
手付金の金額目安:
- 一般的に売買価格の5-10%程度
- 宅建業者が売主の場合、売買価格の20%以内(宅建業法第39条)
手付解除:
- 手付解除期限内であれば、買主は手付金を放棄することで契約を解除可能
- 売主都合で解除する場合、手付金の倍額を買主に返還(手付倍返し)
住み替えの場合、売却物件の売却代金を手付金に充てる計画が多いため、売却の決済日と購入の契約日を調整する必要があります。
(2) 残代金決済と所有権移転登記の同時履行
法務局の「不動産登記の申請手続」によれば、残代金決済と所有権移転登記は同時に行われます。
決済の流れ:
- 残代金の支払: 買主が売主に残代金を支払(住宅ローン実行と同時)
- 所有権移転登記: 司法書士が法務局で所有権移転登記を申請
- 引渡し: 土地の引渡し(鍵の受渡し等)
- 固定資産税等の精算: 固定資産税・都市計画税を日割り精算
決済は、金融機関の応接室または司法書士事務所で行われるのが一般的です。
契約から決済・引渡しまでの流れ
(1) 契約締結から引渡しまでの標準スケジュール
土地購入契約から引渡しまでの標準的なスケジュールは以下の通りです。
標準スケジュール(契約から引渡しまで約2-3ヶ月):
- 契約締結日: 重要事項説明・売買契約締結・手付金支払
- 1週間後: 住宅ローン本審査申込
- 2-3週間後: 住宅ローン本審査承認
- 1ヶ月後: 金銭消費貸借契約締結
- 2-3ヶ月後: 残代金決済・所有権移転登記・引渡し
住み替えの場合、売却物件の決済スケジュールと購入物件の決済スケジュールを調整し、同時決済または近い日程で実施することが理想的です。
(2) 住宅ローン本審査と金銭消費貸借契約
住宅ローンの本審査は、売買契約締結後に申し込みます。
本審査の流れ:
- 本審査申込: 売買契約書・重要事項説明書等の書類を金融機関に提出
- 審査: 金融機関が融資の可否を審査(通常1-2週間)
- 承認: 審査承認後、金銭消費貸借契約の日程を調整
- 金銭消費貸借契約: 住宅ローンの契約を締結(決済日の1-2週間前)
- 融資実行: 決済日に融資が実行され、残代金の支払に充当
本審査が不承認の場合、ローン特約により契約を白紙解除し、手付金を全額返還してもらえます。
まとめ
住み替えで土地を購入する際、重要事項説明では用途地域・建ぺい率・容積率、インフラ整備状況、境界確定の状況を重点的に確認します。
売買契約書では、売買代金・支払時期・引渡し時期、契約不適合責任の範囲、住み替え特約・ローン特約等の特約条項を慎重に確認することが重要です。
住み替えでは、売却と購入の決済タイミングを調整し、売り先行・買い先行・同時決済のいずれかを選択します。買い先行の場合は、つなぎ融資または住み替えローンの活用を検討します。
手付金は売買価格の5-10%程度が一般的であり、住み替えの場合は売却代金を手付金に充てる計画が多いため、売却の決済日と購入の契約日を調整する必要があります。
契約から引渡しまでの標準スケジュールは約2-3ヶ月であり、住宅ローン本審査・金銭消費貸借契約・残代金決済・所有権移転登記を経て、土地の引渡しが完了します。
よくある質問
Q1: 住み替えで土地を購入する際、売却と購入の契約はどちらを先にすべきですか?
A: 売却を先行させる「売り先行」が資金計画の安定性から推奨されます。売却代金を新居の購入資金に充てられるため、資金計画が明確になります。一方、「買い先行」の場合、新居を先に確保できるメリットがありますが、売却代金が入るまでの資金繰りが必要となり、つなぎ融資やダブルローン(売却物件と購入物件の両方の住宅ローン)を利用する可能性があります。どちらを選択するかは、資金状況・希望する新居の立地・売却の見込み等により異なるため、不動産会社や金融機関に相談しながら決定することが推奨されます。
Q2: 重要事項説明は必ず対面で受けなければなりませんか?
A: IT重説(オンラインによる重要事項説明)が認められています。ビデオ通話(Zoom・Teams等)で宅地建物取引士から説明を受けることができます。遠方からの住み替えで、現地に出向くことが難しい場合でも、IT重説を利用することで重要事項説明を受けられます。ただし、IT重説を実施するには、双方向のやり取りが可能なビデオ通話環境、宅地建物取引士証の確認、重要事項説明書の事前交付等の要件があります。IT重説を希望する場合は、不動産会社に事前に確認してください。
Q3: 土地の契約で特に注意すべき点は何ですか?
A: 土地の契約で特に注意すべき点は、(1)用途地域・建ぺい率・容積率で希望する建物が建てられるか、(2)境界が確定しているか、(3)インフラが整備されているか、の3点です。用途地域・建ぺい率・容積率により、建築可能な建物の面積・階数・高さが制限されるため、希望する建物が建築可能かを事前に確認する必要があります。境界が未確定の場合、隣地との境界紛争が発生する可能性があります。インフラ(上下水道・ガス・電気)が未整備の場合、引込工事費用が数十万円から100万円以上かかる可能性があるため、工事費用を見積もっておくことが重要です。
Q4: 手付金はいくら準備すればよいですか?
A: 手付金は一般的に売買代金の5-10%程度です。例えば、3,000万円の土地を購入する場合、手付金は150-300万円程度となります。住み替えの場合、売却物件の売却代金を手付金に充てる計画が多いため、売却の決済日と購入の契約日を調整する必要があります。売却が先に決済される場合は、売却代金から手付金を準備できますが、購入契約が先の場合は、自己資金または親族からの借入等で手付金を準備する必要があります。資金繰りに不安がある場合は、不動産会社や金融機関に相談してください。
Q5: ローン審査が通らなかった場合はどうなりますか?
A: ローン特約を付けていれば、住宅ローン審査が不承認の場合に契約を白紙解除でき、手付金も全額返還されます。ローン特約には、金融機関名・借入額・期限を契約書に明記します。期限内に審査承認が得られない場合、買主は売主に通知することで契約を解除できます。住み替え購入では、売却物件の売却代金を購入資金に充てる計画が多いため、必ずローン特約を付けることが推奨されます。ローン特約がない場合、審査が不承認でも契約を解除できず、手付金を放棄するか、違約金を支払う必要があるため、注意が必要です。