投資売却土地の契約・重要事項|境界確定から譲渡所得税まで

公開日: 2025/10/19

この記事のポイント

投資用土地の売却では、境界確定や建築制限など、投資家が重視する項目を正確に説明することが重要です。重要事項説明と売買契約の実務ポイントを解説します。

  • 境界確定測量は売主負担で実施することが推奨される(費用30-80万円)
  • 用途地域・建ぺい率・容積率は買主の投資プランに直結する重要項目
  • 土壌汚染や地中埋設物は契約不適合責任の対象となるため事前調査が必要
  • 所有期間5年超で長期譲渡所得(税率約20%)、5年以下で短期譲渡所得(税率約39%)
  • インフラ整備状況と引込費用負担は買主の初期投資額に影響

1. 投資用土地売却の契約フローと重要事項説明の位置付け

投資用土地の売却では、買主が投資判断に必要な情報を正確に提供することが求められます。契約の流れと重要事項説明の役割を理解しておきましょう。

(1) 投資用土地売却の全体スケジュールと準備

投資用土地の売却は、以下の流れで進みます。

  1. 売却準備(境界確定・測量・書類収集)
  2. 不動産会社への媒介依頼
  3. 買主との条件交渉
  4. 重要事項説明の実施
  5. 売買契約の締結
  6. 決済・所有権移転登記

投資家は収益性を重視するため、用途地域・建築制限・インフラ整備状況など、建築計画に影響する情報を求めます。売却前にこれらの情報を整理しておくことが重要です。

(2) 重要事項説明の法的義務と実施タイミング

重要事項説明は、宅地建物取引業法35条に基づき、契約前に宅地建物取引士が買主に説明する法定手続きです(国土交通省 宅地建物取引業法)。

重要事項説明書には、以下の項目を記載します。

  • 土地の所在・地目・面積
  • 用途地域・建築制限
  • インフラ整備状況
  • 都市計画道路・区画整理事業の有無
  • 契約不適合責任の内容

重要事項説明書は契約の数日前に買主に交付し、内容を確認してもらうことが推奨されます。

(3) 投資家向けの説明内容と資料準備

投資家は、以下の資料を求めることが多いです。

資料 取得先 用途
登記簿謄本 法務局 所有権・抵当権の確認
公図・地積測量図 法務局 土地の形状・面積確認
都市計画図 市区町村の都市計画課 用途地域・建築制限の確認
建築計画概要書 市区町村の建築指導課 建築可能な建物の確認
固定資産評価証明書 市区町村の資産税課 固定資産税の確認

これらの資料を事前に準備しておくと、スムーズな交渉が可能です。

2. 重要事項説明書で必須となる投資用土地固有の記載事項

投資用土地の重要事項説明では、建築計画に影響する法的制限を詳細に説明する必要があります。

(1) 用途地域と建築基準法による建築制限

用途地域は、都市計画法に基づき定められた土地利用の区分です。用途地域により、建築できる建物の用途が制限されます。

主な用途地域と建築可能な建物は以下の通りです。

用途地域 建築可能な主な建物 建築制限
第一種低層住居専用地域 戸建て住宅・小規模店舗 マンション・事務所ビル不可
第一種住居地域 住宅・小規模店舗・事務所 大規模商業施設不可
商業地域 店舗・事務所・ホテル等 工場不可
工業地域 工場・倉庫 住宅・ホテル制限あり

投資家が計画している建物用途が、用途地域で認められているかを確認することが重要です。

(2) 都市計画道路・区画整理事業の有無と影響

都市計画道路の計画区域内にある土地は、以下の制限を受けます。

  • 建築物は2階建て以下、かつ地階を有しないこと
  • 木造・鉄骨造など容易に移転・除却できる構造であること
  • 将来的に道路用地として買収される可能性がある

区画整理事業の施行区域内では、建築に許可が必要となります。これらの制限は投資プランに大きく影響するため、重要事項説明書で必ず告知します。

(3) インフラ整備状況と引込費用負担の告知

投資用土地の場合、以下のインフラ整備状況を確認します。

  • 上水道: 前面道路に本管があるか、引込工事の有無
  • 下水道: 公共下水道か浄化槽か、引込工事の有無
  • ガス: 都市ガスかプロパンガスか
  • 電気: 電柱の位置、引込工事の有無

インフラが未整備の場合、引込費用(数十万円-数百万円)が発生します。この費用負担が売主・買主のどちらになるかを契約書で明確にします。

3. 境界確定測量と隣地所有者立会の実務と費用負担

投資用土地の売却では、境界確定が重視されます。境界が未確定だと、投資判断ができないとして買主が契約を躊躇するケースが多いです。

(1) 投資用土地で境界確定が重視される理由

投資家は、以下の理由で境界確定を重視します。

  • 土地面積が正確に把握できないと、建築計画が立てられない
  • 隣地との境界紛争リスクを避けたい
  • 金融機関が融資審査で境界確定を求めるケースが多い

境界が未確定の場合、売却価格の減額交渉や契約破談のリスクがあります。売却前に境界確定を済ませることが推奨されます。

(2) 土地家屋調査士による測量と確認書作成

境界確定は、以下の流れで進めます(国土交通省 土地の境界確定)。

  1. 土地家屋調査士に測量を依頼
  2. 隣地所有者に立会いを依頼
  3. 測量結果を基に境界を確認
  4. 隣地所有者と境界確認書を取り交わす
  5. 確定測量図を作成

境界確認書には、隣地所有者全員の署名・押印が必要です。隣地所有者が多い場合や、連絡が取れない場合は、時間と労力がかかります。

(3) 測量費用の相場と売主負担の原則

境界確定測量の費用相場は以下の通りです。

土地の広さ 測量費用の目安
100㎡未満 30-50万円
100-200㎡ 50-70万円
200-500㎡ 70-100万円
500㎡以上 100万円以上

測量費用は、原則として売主が負担します。ただし、契約条件により買主負担とすることも可能です。その場合は売買契約書に明記します。

4. 用途地域・建築制限と買主の投資プランへの影響

用途地域や建築制限は、投資家の収益計画に直結します。重要事項説明で正確に伝えることが重要です。

(1) 用途地域による建築可能な建物用途の制限

投資家は、賃貸マンション・店舗・事務所ビルなど、収益物件の建築を計画します。用途地域により建築できる建物用途が異なるため、投資プランが実現可能かを確認します。

例えば、第一種低層住居専用地域では、戸建て賃貸住宅は建築できますが、マンションや店舗ビルは建築できません。用途地域の確認は、市区町村の都市計画課で行います。

(2) 建ぺい率・容積率と収益物件建築の実現性

建ぺい率と容積率は、土地に建築できる建物の規模を制限する指標です。

  • 建ぺい率: 敷地面積に対する建築面積の割合(上限30%-80%)
  • 容積率: 敷地面積に対する延床面積の割合(上限50%-1000%)

例えば、200㎡の土地で建ぺい率60%・容積率200%の場合、建築面積は最大120㎡、延床面積は最大400㎡となります。3階建てのマンションなら、各階約133㎡の建物が建築可能です。

投資家は、建ぺい率・容積率から建築可能な建物規模を計算し、収益性を判断します。重要事項説明書では、これらの数値を正確に記載します。

(3) 高さ制限・斜線制限等が投資収益に与える影響

建築基準法では、以下の高さ制限があります。

  • 絶対高さ制限: 低層住居専用地域では10mまたは12m
  • 道路斜線制限: 前面道路からの高さ制限
  • 隣地斜線制限: 隣地境界線からの高さ制限
  • 北側斜線制限: 北側隣地への日照確保のための制限

これらの制限により、容積率いっぱいに建物を建築できない場合があります。投資家は、実際に建築可能な建物規模を設計士に確認してから投資判断を行います。

重要事項説明では、これらの制限の存在を告知し、詳細は設計士に確認するよう促すことが重要です。

5. 売買契約書における契約不適合責任と投資リスクの告知

投資用土地の契約では、土壌汚染や地中埋設物など、収益性に影響する瑕疵の告知が重要です。

(1) 土壌汚染・地中埋設物の調査と告知義務

土壌汚染や地中埋設物は、建築計画や土地の価値に大きく影響します。以下のケースでは、事前調査が推奨されます。

  • 過去に工場・ガソリンスタンド・クリーニング店があった土地
  • 地中に浄化槽・井戸・産業廃棄物が埋まっている可能性がある土地

土壌汚染調査費用は50-200万円程度、地中埋設物の調査費用は10-50万円程度かかります。調査により問題が発見された場合、除去費用(数百万円-数千万円)が発生する可能性があります。

売主が土壌汚染や地中埋設物を知っていた場合、買主への告知義務があります。告知せずに売却すると、契約不適合責任を問われる可能性があります(法務省 契約不適合責任)。

(2) 投資用土地特有の瑕疵(収益性に影響する欠陥)

投資用土地では、以下の要因も瑕疵として扱われる場合があります。

  • 嫌悪施設(墓地・火葬場・ゴミ処理施設等)の近接
  • 騒音・悪臭の発生
  • 日照・眺望の阻害要因
  • 地盤沈下・液状化のリスク

これらの要因は、賃貸物件の入居率や賃料に影響します。売主が知っている場合は、重要事項説明書や付属説明書で告知することが重要です。

(3) 瑕疵担保免責特約の有効性と買主保護のバランス

売買契約書で「契約不適合責任を免責する」特約を設けることは可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 売主が知っていた瑕疵を告知せずに免責特約を設けた場合、特約は無効となる
  • 投資家向けの土地売買では、免責特約の設定が一般的だが、買主への十分な説明が必要
  • 免責特約を設ける代わりに、売買価格を減額することもある

免責特約の有効性と買主保護のバランスを考慮し、適切な契約条項を設定することが重要です。

6. 手付金・決済・引渡しと投資用土地特有の税務処理

投資用土地の売却では、手付金の設定と税務処理に注意が必要です。

(1) 手付金の金額設定と解約条件

投資用土地の手付金は、売買価格の5-10%が一般的です。投資家は資金力があるため、高額の手付金を求められることもあります。

手付金には、以下の役割があります。

  • 契約成立の証拠
  • 手付解除の際に放棄する金銭
  • 違約時に没収される金銭

手付解除期限は、契約から1-2週間程度に設定されることが多いです。期限内であれば、買主は手付金を放棄して、売主は手付金の倍額を返還して、契約を解除できます。

(2) 残代金決済と所有権移転登記の同時履行

決済日には、以下の手続きを同時に行います。

  1. 買主が残代金を支払う
  2. 売主が土地の引渡しを行う
  3. 司法書士が所有権移転登記を申請する

投資用土地の場合、抵当権が設定されているケースが多いです。残代金で抵当権を抹消し、買主に所有権を移転します。

(3) 譲渡所得税の計算と確定申告の準備

投資用土地の売却益には、譲渡所得税が課されます(国税庁 譲渡所得税)。

譲渡所得税の税率は、所有期間により異なります。

所有期間 区分 所得税率 住民税率 合計税率
5年以下 短期譲渡所得 30% 9% 39%
5年超 長期譲渡所得 15% 5% 20%

所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。例えば、2020年3月に取得した土地を2025年10月に売却した場合、2025年1月1日時点では所有期間4年10ヶ月となり、短期譲渡所得として39%の税率が適用されます。

譲渡所得の計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

  • 取得費: 土地の購入価格 + 購入時の仲介手数料・登記費用等
  • 譲渡費用: 売却時の仲介手数料・測量費用・登記費用等

譲渡所得税の計算は複雑なため、税理士への相談が推奨されます。確定申告は、売却した年の翌年2月16日-3月15日に行います。

まとめ

投資用土地の売却では、境界確定測量を売却前に実施することが推奨されます。費用は30-80万円程度ですが、未確定のまま売却すると価格減額や契約破談のリスクがあります。

重要事項説明では、用途地域・建ぺい率・容積率など、買主の投資プランに直結する項目を正確に記載します。インフラ整備状況や都市計画道路の有無も、投資判断に影響する重要な情報です。

土壌汚染や地中埋設物は、契約不適合責任の対象となります。過去の土地利用履歴を確認し、リスクがある場合は事前調査を検討しましょう。知っている瑕疵は必ず告知することが重要です。

譲渡所得税は、所有期間5年超で長期譲渡所得(税率約20%)、5年以下で短期譲渡所得(税率約39%)となります。所有期間の判定日は売却年の1月1日時点です。税務処理は複雑なため、税理士への相談が推奨されます。

よくある質問

Q1. 投資用土地の重要事項説明で特に注意すべき点は?

用途地域・建築制限(建ぺい率・容積率・用途制限)が買主の投資プラン実現に直結します。これらの数値を正確に記載し、建築可能な建物規模を説明することが重要です。

境界確定の有無、インフラ整備状況、都市計画道路等の制限も、投資判断に大きく影響します。収益性に関わる項目を重点的に告知し、買主が十分な情報を得た上で投資判断できるようにしましょう。

Q2. 境界が確定していない投資用土地でも売却できますか?

法的には可能ですが、投資家は境界確定を重視するため、売却前に測量実施が推奨されます。境界が未確定だと、以下のリスクがあります。

  • 土地面積が不明で建築計画が立てられない
  • 隣地との境界紛争リスク
  • 買主側の金融機関が融資を認めない可能性

未確定のまま売却すると、価格減額交渉や契約破談のリスクがあります。測量費用(30-80万円)は売主負担が一般的です。

Q3. 投資用土地の契約不適合責任はどこまで及びますか?

土壌汚染・地中埋設物・境界未確定等が主な対象です。収益性に影響する瑕疵(騒音・悪臭・嫌悪施設の近接等)も告知義務があります。

免責特約を設定しても、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は免責されません。知っている瑕疵は必ず告知しましょう。免責特約を設ける場合は、買主への十分な説明と、売買価格への反映が必要です。

Q4. 投資用土地売却時の税務処理で注意すべき点は?

譲渡所得税は分離課税で計算します。所有期間により税率が大きく異なります。

  • 所有期間5年超: 長期譲渡所得(税率約20%)
  • 所有期間5年以下: 短期譲渡所得(税率約39%)

所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。取得費・譲渡費用を正確に計上することで、譲渡所得を圧縮できます。確定申告は税理士に依頼することが推奨されます。

Q5. インフラが未整備の投資用土地でも売却できますか?

売却は可能ですが、インフラ引込費用の負担を明確にする必要があります。上水道・下水道・ガス・電気の整備状況を重要事項説明書に記載し、引込費用(数十万円-数百万円)を誰が負担するかを契約書に明記します。

インフラが未整備の場合、買主の初期投資額が増えるため、売買価格の減額交渉が行われることがあります。引込費用の見積もりを事前に取得し、買主に提示することが推奨されます。

よくある質問

Q1投資用土地の重要事項説明で特に注意すべき点は?

A1用途地域・建築制限(建ぺい率・容積率・用途制限)が買主の投資プラン実現に直結します。これらの数値を正確に記載し、建築可能な建物規模を説明することが重要です。境界確定の有無、インフラ整備状況、都市計画道路等の制限も、投資判断に大きく影響します。収益性に関わる項目を重点的に告知し、買主が十分な情報を得た上で投資判断できるようにしましょう。

Q2境界が確定していない投資用土地でも売却できますか?

A2法的には可能ですが、投資家は境界確定を重視するため、売却前に測量実施が推奨されます。境界が未確定だと、土地面積が不明で建築計画が立てられない、隣地との境界紛争リスク、買主側の金融機関が融資を認めない可能性などのリスクがあります。未確定のまま売却すると、価格減額交渉や契約破談のリスクがあります。測量費用(30-80万円)は売主負担が一般的です。

Q3投資用土地の契約不適合責任はどこまで及びますか?

A3土壌汚染・地中埋設物・境界未確定等が主な対象です。収益性に影響する瑕疵(騒音・悪臭・嫌悪施設の近接等)も告知義務があります。免責特約を設定しても、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は免責されません。知っている瑕疵は必ず告知しましょう。免責特約を設ける場合は、買主への十分な説明と、売買価格への反映が必要です。

Q4投資用土地売却時の税務処理で注意すべき点は?

A4譲渡所得税は分離課税で計算します。所有期間により税率が大きく異なります。所有期間5年超は長期譲渡所得(税率約20%)、5年以下は短期譲渡所得(税率約39%)です。所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点で行います。取得費・譲渡費用を正確に計上することで、譲渡所得を圧縮できます。確定申告は税理士に依頼することが推奨されます。

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