住み替えで新築マンションを売却する際の譲渡所得税|完全ガイド

公開日: 2025/10/12

住み替えで新築マンション売却時の譲渡所得税の基本

新築マンションを購入後、転勤や家族構成の変化により住み替えを検討する際、譲渡所得税の仕組みを理解しておくことは非常に重要です。新築マンションは購入から数年以内の売却となるケースが多く、税率が大きく変わる「5年」の境界線前後で税負担が倍近く異なることがあります。

この記事のポイント

  • 所有期間5年以内の短期譲渡は税率約39%、5年超の長期譲渡は約20%
  • 3000万円特別控除を活用すれば譲渡所得が3000万円以下なら課税ゼロ
  • 買い替え特例は課税繰り延べだが3000万円控除と併用不可
  • 譲渡損失が出た場合は損益通算・繰越控除で税負担を軽減できる
  • 居住用マンションの減価償却は不要(事業用・賃貸用は必要)

(1) 譲渡所得税とは何か

譲渡所得税は、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対して課される税金です。給与所得や事業所得とは別に計算され、確定申告が必要です。国税庁の定義によれば、譲渡所得は「資産の譲渡による所得」とされ、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた金額が課税対象となります。

(2) 住み替え時の税金の全体像

住み替えで新築マンションを売却する場合、以下の税金・費用が発生します。

項目 概要
譲渡所得税・住民税 譲渡益に対して課税(特例適用で軽減可能)
印紙税 売買契約書に貼付(売却価格に応じて数万円)
登記費用 抵当権抹消登記など(数万円程度)
仲介手数料 不動産会社への報酬(売却価格×3%+6万円+消費税が上限)

この中で最も税負担が大きいのが譲渡所得税・住民税です。ただし、後述する特別控除や特例を適用することで、大幅に軽減できる可能性があります。

(3) 新築マンション売却の特性

新築マンションは購入から数年以内の売却となるケースが多く、以下の特徴があります。

  • 所有期間が短い: 5年以内の売却で短期譲渡となり高税率が適用される
  • 住宅ローン残債: ローン残高が売却価格を上回る「オーバーローン」のリスク
  • 住み替えローン: 旧居の残債と新居の購入資金を一本化できるローン商品の活用

国税庁の資料によれば、所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行われるため、実際の保有期間より短く判定されるケースがあることに注意が必要です。

譲渡所得の計算方法と新築マンション特有の注意点

譲渡所得の正確な計算は税負担を把握する上で不可欠です。基本計算式と新築マンション特有の注意点を理解しましょう。

(1) 基本計算式(収入金額−取得費−譲渡費用)

譲渡所得の計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 収入金額 − 取得費 − 譲渡費用

  • 収入金額: 売却価格(買主から受け取る金額)
  • 取得費: 購入価格+購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用、印紙税など)
  • 譲渡費用: 売却時の諸費用(仲介手数料、印紙税、測量費など)

(2) 新築マンションの取得費と減価償却

居住用の新築マンションの場合、減価償却費の計算は不要です。購入価格と諸費用の合計がそのまま取得費となります。これは国税庁が定める「居住用財産の特例」によるもので、自己居住のマンションには適用されません。

一方、投資用や賃貸用として保有していた場合は、減価償却費を取得費から差し引く必要があります。この違いにより、同じ新築マンションでも用途によって譲渡所得が大きく異なる点に注意が必要です。

(3) 譲渡費用として認められる経費

国税庁の定めによれば、譲渡費用として認められる主な項目は以下の通りです。

  • 不動産会社への仲介手数料
  • 売買契約書の印紙税
  • 測量費、解体費(必要な場合)
  • 立退料(借家人がいる場合)
  • 建物の取り壊し費用

ハウスクリーニング費用や引越し費用は譲渡費用として認められないため、確定申告時に誤って計上しないよう注意しましょう。

短期譲渡と長期譲渡の税率の違い

所有期間が5年を超えるか否かで税率が約2倍異なるため、売却タイミングの判断が重要です。

(1) 所有期間5年以内の短期譲渡(税率39.63%)

所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得として以下の税率が適用されます。

  • 所得税: 30%
  • 復興特別所得税: 0.63%(所得税額の2.1%)
  • 住民税: 9%
  • 合計: 39.63%

例えば、譲渡所得が1000万円の場合、約396万円の税金が発生します。

(2) 所有期間5年超の長期譲渡(税率20.315%)

所有期間が5年を超える場合、長期譲渡所得として以下の税率が適用されます。

  • 所得税: 15%
  • 復興特別所得税: 0.315%(所得税額の2.1%)
  • 住民税: 5%
  • 合計: 20.315%

同じく譲渡所得1000万円の場合、約203万円の税金となり、短期譲渡より約193万円軽減されます。

(3) 新築購入から5年前後の売却時の注意点

国税庁の資料によれば、所有期間は「譲渡した年の1月1日時点」で判定されます。例えば、2020年3月に購入した新築マンションを2025年4月に売却する場合、実際の保有期間は5年1ヶ月ですが、2025年1月1日時点では4年10ヶ月となり、短期譲渡(税率39.63%)が適用されます。

このため、5年前後のタイミングで売却を検討する場合は、年明け1月1日を過ぎてから売却することで長期譲渡の低税率を適用できる可能性があります。

3000万円特別控除の適用要件と手続き

マイホームの売却で最も活用されるのが3000万円特別控除です。適用要件と手続きを正しく理解しましょう。

(1) 居住用財産の3000万円特別控除の仕組み

国税庁の定める「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」は、自己居住用の住宅を売却した際、譲渡所得から3000万円を控除できる制度です。

具体例

  • 売却価格: 5000万円
  • 取得費: 4000万円
  • 譲渡費用: 200万円
  • 譲渡所得: 5000万円 − 4000万円 − 200万円 = 800万円
  • 3000万円控除後: 800万円 − 3000万円 = マイナスのため課税なし

(2) 住み替え時の適用条件

3000万円特別控除を受けるための主な要件は以下の通りです。

  • 自己居住用の住宅であること(居住していない期間が3年以内)
  • 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと
  • 前年・前々年に同じ特例を受けていないこと
  • 売却年の前年または前々年に買い替え特例や譲渡損失の繰越控除を受けていないこと

国税庁の資料によれば、住み替えの場合でも上記要件を満たせば適用可能です。

(3) 確定申告での手続き方法

3000万円特別控除を受けるには、譲渡した年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要です。

必要書類

  • 確定申告書
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書のコピー
  • 登記事項証明書
  • 住民票(売却した住宅の住所地が記載されたもの)

これらの書類を税務署に提出し、特例適用を申告します。控除後に課税所得がゼロとなる場合でも申告は必須です。

買い替え特例との選択と税務戦略

3000万円特別控除のほか、買い替え特例も住み替え時に活用できる制度です。ただし併用不可のため、どちらを選ぶかの判断が重要です。

(1) 買い替え特例の仕組みと課税繰り延べ

国税庁の定める「特定のマイホームを買い換えたときの特例」は、マイホームを売却して新たなマイホームを購入する場合、譲渡益への課税を繰り延べできる制度です。

仕組み

  • 売却価格より高い新居を購入した場合、譲渡益への課税が次回売却時まで繰り延べられる
  • 課税がなくなるわけではなく、将来の売却時に繰り延べられた課税が発生する

(2) 3000万円特別控除との併用不可

国税庁の規定により、3000万円特別控除と買い替え特例は同一年に併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

(3) どちらを選ぶべきか(譲渡益の規模別)

譲渡益が3000万円以下の場合

  • 3000万円特別控除で課税ゼロとなるため、こちらを選択すべき

譲渡益が3000万円超の場合

  • 3000万円特別控除: 超過分に課税(短期譲渡なら約40%、長期譲渡なら約20%)
  • 買い替え特例: 課税繰り延べ(将来売却時に課税)

短期譲渡(税率約40%)の場合、3000万円特別控除で即座に課税を確定させるより、買い替え特例で繰り延べて将来長期譲渡(税率約20%)で課税される方が有利なケースがあります。ただし、将来の税制改正リスクもあるため、税理士への相談を推奨します。

譲渡損失が出た場合の損益通算と繰越控除

新築マンションの価格下落や住宅ローン残債により、売却時に損失が出ることもあります。この場合でも税制優遇措置を活用できます。

(1) 譲渡損失の損益通算の仕組み

国税庁の定める「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」により、マイホームを売却して損失が出た場合、その損失を他の所得と相殺(損益通算)できます。

具体例

  • 譲渡損失: 500万円
  • 給与所得: 600万円
  • 損益通算後の所得: 600万円 − 500万円 = 100万円

これにより所得税・住民税が大幅に減額され、還付を受けられます。

(2) 給与所得など他の所得との相殺

損益通算できる所得は以下の通りです。

  • 給与所得
  • 事業所得
  • 雑所得
  • 不動産所得

株式の譲渡所得など、分離課税の所得とは損益通算できない点に注意が必要です。

(3) 繰越控除による3年間の税負担軽減

損益通算しても控除しきれない損失は、翌年以降3年間繰り越して控除できます。

具体例

  • 譲渡損失: 800万円
  • 給与所得: 400万円/年
給与所得 繰越控除 課税所得
1年目 400万円 400万円 0円
2年目 400万円 400万円 0円
3年目 400万円 0円(800万円で完了) 400万円

これにより3年間で大幅な税負担軽減が可能です。国税庁の資料によれば、住宅ローン控除との併用も可能です。

まとめ

新築マンションを住み替えで売却する際の譲渡所得税は、所有期間や特例の活用により大きく変わります。

重要ポイント

  • 所有期間5年を境に税率が約2倍(短期39.63% vs 長期20.315%)
  • 3000万円特別控除で譲渡所得3000万円以下なら課税ゼロ
  • 買い替え特例は課税繰り延べだが、3000万円控除と併用不可
  • 譲渡損失は損益通算・繰越控除で税負担を軽減可能
  • 居住用マンションは減価償却不要(事業用・賃貸用は要計算)

住み替えのタイミングや特例の選択により、数百万円単位で税負担が変わることもあります。国税庁の資料を参考にしつつ、個別の状況に応じて税理士や不動産会社に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1新築マンションを購入後4年で住み替え売却する場合、税率は何%ですか?

A1所有期間5年以内の短期譲渡で税率39.63%が適用されます。ただし3000万円特別控除を適用すれば譲渡所得が3000万円以下なら課税ゼロとなります。譲渡益が3000万円を超える場合は、買い替え特例で課税繰り延べも選択肢となります。

Q2新築マンションの減価償却はどう計算しますか?売却時の取得費に影響しますか?

A2自己居住用のマイホームの場合、減価償却は不要です。事業用や賃貸用の場合のみ減価償却費を取得費から差し引きます。居住用の新築マンションなら購入価格+諸費用がそのまま取得費となります。

Q3住み替えで新築マンションを売却して損失が出た場合、税金はどうなりますか?

A3譲渡損失が出た場合、給与所得など他の所得と損益通算が可能です。さらに損失が大きければ翌年以降3年間繰越控除できます。これにより所得税・住民税の還付が受けられ、住宅ローン控除とも併用可能です。

Q43000万円特別控除と買い替え特例のどちらを選ぶべきですか?

A4譲渡益が3000万円以下なら3000万円控除で課税ゼロとなるため、こちらを選択すべきです。3000万円を超える場合は、買い替え特例で課税繰り延べも選択肢ですが、将来の売却時に課税されます。短期譲渡(税率約40%)の場合は3000万円控除が有利なケースが多いですが、税理士に相談することを推奨します。

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