住み替えで戸建て売却と譲渡所得税の基本
住み替えで戸建てを売却する際、売却益が出ると譲渡所得税が課税されます。この記事では、税金の計算方法と賢い節税対策を詳しく解説します。
この記事の要点
- 売却益には譲渡所得税が課税されるが、3,000万円特別控除で多くのケースで非課税に
- 3,000万円控除と買換え特例は選択制(併用不可)
- 3,000万円控除を使うと新居の住宅ローン控除が3年間使えない
- 所有期間10年超なら軽減税率特例と併用可能
- 確定申告は翌年2月16日~3月15日までに必須
(1) 住み替え売却の全体像
住み替えでは、旧居の売却と新居の購入がセットになります。売却で利益が出ると、譲渡所得税が課税されます。
課税の仕組み
- 売却益(譲渡所得)= 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
- この売却益に対して所得税・住民税が課税
- 特例措置を活用すれば大幅な節税が可能
(2) 旧居売却にかかる税金の種類
主な税金
- 譲渡所得税(所得税・住民税)
- 印紙税(売買契約書)
- 登録免許税(抵当権抹消)
この記事では、最も金額が大きい譲渡所得税に焦点を当てて解説します。
譲渡所得税の計算方法と税率
(1) 基本的な計算式
国税庁「譲渡所得の計算方法」によると、譲渡所得税は以下の式で計算します。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
税額 = 譲渡所得 × 税率
(2) 取得費と譲渡費用の内訳
取得費
- 購入価格(建物は減価償却後の価格)
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用、不動産取得税
- 改築・増築費用
譲渡費用
- 売却時の仲介手数料
- 測量費、解体費
- 広告費、立退料
計算例
- 売却価格:4,500万円
- 取得費:3,000万円
- 譲渡費用:150万円
- 譲渡所得:4,500万円 - 3,000万円 - 150万円 = 1,350万円
(3) 長期譲渡と短期譲渡の税率
所有期間によって税率が大きく異なります(国税庁「譲渡所得の計算方法」より)。
判定基準
- 所有期間5年以下:短期譲渡所得
- 所有期間5年超:長期譲渡所得
税率
区分 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|
短期譲渡 | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡 | 15.315% | 5% | 20.315% |
計算例(長期譲渡)
- 譲渡所得:1,350万円
- 税額:1,350万円 × 20.315% = 約274万円
3,000万円特別控除の活用と注意点
(1) 特例の適用要件
自己居住用不動産の売却で、以下の要件を満たせば3,000万円特別控除を適用できます(国税庁「居住用財産の3,000万円特別控除」より)。
主な要件
- 自己が居住していた住宅・敷地の売却であること
- 売却先が親族等の特別関係者でないこと
- 売却年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 家屋を取り壊した場合、取壊しから1年以内に売買契約を締結し、居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに引き渡すこと
3,000万円控除後の税額
- 譲渡所得:1,350万円
- 3,000万円控除後:0円(非課税)
(2) 新居の住宅ローン控除との併用制限(3年間使えない)
重要な注意点として、3,000万円特別控除を適用すると、新居の住宅ローン控除が3年間使えません(国税庁「居住用財産の3,000万円特別控除」より)。
これは、売却益への課税免除と購入時の優遇措置の二重適用を防ぐための制限です。
(3) どちらを選ぶべきかの判断基準
3,000万円控除が有利なケース
- 売却益が1,000万円以上ある場合
- 新居の住宅ローン残高が少ない場合
- 短期譲渡所得(税率約39%)の場合
住宅ローン控除が有利なケース
- 売却益が少ない(500万円以下)場合
- 新居の住宅ローン残高が大きい場合
- 長期譲渡所得(税率約20%)で利益が少額の場合
シミュレーション例
項目 | 3,000万円控除選択 | 住宅ローン控除選択 |
---|---|---|
売却益 | 1,500万円 | 1,500万円 |
譲渡所得税 | 0円 | 約305万円(20.315%) |
住宅ローン控除(10年) | 0円 | 約200万円 |
実質負担 | 0円 | 約105万円 |
このケースでは3,000万円控除が有利です。
特定居住用財産の買換え特例との比較
(1) 買換え特例の仕組み
買換え特例は、居住用不動産を買い換える場合、譲渡益への課税を繰り延べられる制度です(国税庁「特定居住用財産の買換え特例」より)。
主な要件
- 所有期間10年超、居住期間10年以上
- 売却価格1億円以下
- 新居の床面積50㎡以上
- 2025年12月31日までの売却(期限延長の可能性あり)
(2) 課税繰延のメリットとデメリット
メリット
- 売却時の税負担がゼロ(課税繰延)
- 資金負担が軽減される
デメリット
- 新居売却時に繰延された税金が課税される
- 新居の取得費が低く計算される(将来の税負担増)
- 住宅ローン控除が使えない
(3) 3,000万円控除との選択(併用不可)
3,000万円控除と買換え特例は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
選択基準
- 売却益が3,000万円以下:3,000万円控除が有利(完全非課税)
- 売却益が3,000万円超:買換え特例で課税繰延も検討
- 新居を将来売却予定:3,000万円控除が有利(繰延より非課税)
- 新居を長期保有予定:買換え特例も選択肢
税理士等の専門家に相談し、個別の状況に応じて選択することが重要です。
所有期間10年超の軽減税率特例
(1) 軽減税率の内容と税率
所有期間10年超の居住用不動産を売却する場合、軽減税率の特例が適用されます(国税庁「所有期間10年超の軽減税率」より)。
軽減税率
譲渡所得の金額 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% | 14.21% |
6,000万円超の部分 | 15.315% | 5% | 20.315% |
通常の長期譲渡(20.315%)より約6%低い税率です。
(2) 3,000万円控除との併用
軽減税率特例は3,000万円控除と併用可能です(国税庁「所有期間10年超の軽減税率」より)。
併用した場合の計算例
- 譲渡所得:4,000万円
- 3,000万円控除後:1,000万円
- 税額:1,000万円 × 14.21% = 約142万円
併用しない場合(通常の長期譲渡)は約203万円なので、約61万円の節税になります。
(3) 適用要件と手続き
要件
- 所有期間10年超(売却年の1月1日時点で判定)
- 居住用不動産であること
- 前年・前々年にこの特例を受けていないこと
手続き
- 確定申告で特例適用を申告
- 譲渡時の契約書、登記簿謄本等を添付
よくあるトラブル事例と確定申告
(1) 特例選択の誤り
事例
- 3,000万円控除を適用後、新居の住宅ローン控除が使えないことを知らなかった
- 買換え特例を選択したが、将来の新居売却時の税負担を想定していなかった
対策
- 税理士等の専門家に事前相談
- シミュレーションで有利な選択肢を確認
- 長期的な視点で税負担を比較
(2) タイミング調整の失敗
事例
- 新居購入を急ぎ、旧居を安値で売却
- 売却が遅れ、住まなくなった日から3年超経過で3,000万円控除が使えなくなった
対策
- 余裕を持ったスケジュール設定
- 不動産会社と綿密に連携
- 3年以内の売却期限を意識
(3) 確定申告の手順と必要書類
申告期限
- 売却した年の翌年2月16日~3月15日
- 特例を使う場合も申告必須(申告しないと適用されない)
必要書類
- 譲渡時の契約書・領収書
- 取得時の契約書・領収書
- 登記簿謄本
- 住民票(居住実績の証明)
- 3,000万円控除の場合:居住用財産の譲渡所得の特別控除の計算明細書
手続きの流れ
- 必要書類の準備
- 譲渡所得の計算
- 特例適用の検討
- 確定申告書の作成・提出
- 納税または還付
まとめ
住み替えで戸建てを売却する際、譲渡所得税の負担を大きく軽減できる特例措置が複数あります。売却益が3,000万円以下なら3,000万円特別控除が有利で、多くのケースで非課税になります。ただし、新居の住宅ローン控除が3年間使えなくなるため、節税効果を比較して選択することが重要です。
所有期間10年超なら軽減税率特例と併用でき、さらなる節税が可能です。買換え特例は課税繰延ができますが、将来の税負担も考慮が必要です。確定申告は翌年2月16日~3月15日までに必須で、必要書類を事前に準備しておくことが大切です。
税制選択を誤ると数百万円の損失につながる可能性があるため、税理士等の専門家に相談し、個別の状況に応じた最適なプランを立てることが成功の鍵です。