住み替えで戸建て購入と譲渡所得税の基本
住み替えで戸建てを購入する際、旧居の売却で利益が出ると譲渡所得税が課税されます。この記事では、住み替えに伴う税金の仕組みと賢い節税方法を解説します。
この記事の要点
- 旧居売却益には譲渡所得税が課税されるが、3,000万円特別控除で多くのケースで非課税に
- 3,000万円控除と新居の住宅ローン控除は併用不可(選択制)
- 売り先行・買い先行でタイミング調整が重要
- 住み替えローン・つなぎ融資の活用でスムーズな資金繰りが可能
- 特例選択やタイミング調整の誤りに注意
(1) 住み替えにおける税務の全体像
住み替えでは、旧居の売却と新居の購入の2つの取引が発生します。
旧居売却時の税金
- 売却益(譲渡所得)に対して所得税・住民税が課税
- 所有期間5年以下:短期譲渡所得(税率約39%)
- 所有期間5年超:長期譲渡所得(税率約20%)
- 3,000万円特別控除を適用すれば多くのケースで非課税
新居購入時の優遇措置
- 住宅ローン控除:年末ローン残高の0.7%を10-13年間税額控除
- ただし3,000万円控除と併用不可
(2) 旧居売却と新居購入の税金
譲渡所得税の計算式は以下の通りです(国税庁「譲渡所得の計算方法」より)。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
- 取得費:購入価格、仲介手数料、登記費用など
- 譲渡費用:売却時の仲介手数料、測量費など
計算例
- 売却価格:4,500万円
- 取得費:3,000万円
- 譲渡費用:150万円
- 譲渡所得:4,500万円 - 3,000万円 - 150万円 = 1,350万円
- 3,000万円控除後:0円(非課税)
旧居売却時の3,000万円特別控除の活用
(1) 特例の適用要件
自己居住用不動産の売却で、以下の要件を満たせば3,000万円特別控除を適用できます(国税庁「買換え特例と3,000万円控除」より)。
主な要件
- 自己が居住していた住宅・敷地の売却であること
- 売却先が親族等の特別関係者でないこと
- 売却年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
(2) 住宅ローン控除との併用不可のルール
3,000万円特別控除を適用した場合、新居取得後3年間は住宅ローン控除を受けられません(国税庁「住宅ローン控除の適用要件」より)。
これは、売却益への課税を免除する代わりに、新居購入の優遇措置を制限する仕組みです。
(3) どちらを選ぶべきかの判断基準
3,000万円控除が有利なケース
- 売却益が1,000万円以上ある場合
- 新居の住宅ローン残高が少ない場合
- 短期譲渡所得(税率約39%)の場合
住宅ローン控除が有利なケース
- 売却益が少ない(500万円以下)場合
- 新居の住宅ローン残高が大きい場合
- 長期譲渡所得(税率約20%)で利益が少額の場合
シミュレーション例
項目 | 3,000万円控除選択 | 住宅ローン控除選択 |
---|---|---|
売却益 | 1,500万円 | 1,500万円 |
譲渡所得税 | 0円 | 約300万円(20%) |
住宅ローン控除(10年) | 0円 | 約200万円 |
実質負担 | 0円 | 約100万円 |
このケースでは3,000万円控除が有利です。
新居購入時の住宅ローン控除との併用制限
(1) 住宅ローン控除の基本要件
住宅ローン控除の主な要件は以下の通りです(国税庁「住宅ローン控除の適用要件」より)。
- 返済期間10年以上の住宅ローンであること
- 床面積50㎡以上(新築の場合。中古は40㎡以上も可)
- 年間所得3,000万円以下(一部2,000万円以下)
- 取得後6ヶ月以内に入居し、控除適用年の12月31日まで居住
(2) 3,000万円控除と同時併用できない理由
税制上、売却益への課税免除(3,000万円控除)と購入時の優遇措置(住宅ローン控除)の二重適用を防ぐため、併用が制限されています。
(3) 節税効果の比較シミュレーション
前述の通り、売却益が大きいほど3,000万円控除が有利になります。税理士等の専門家に相談し、個別の状況に応じて選択することが重要です。
住み替えのタイミング(売り先行・買い先行)
(1) 売り先行のメリット・デメリット
メリット
- 売却代金で旧居ローンを完済できる(資金計画が明確)
- 住み替えローンが不要
- 売却を急がず、適正価格での売却が可能
デメリット
- 仮住まいが必要(引越し2回、賃料負担)
- 新居探しに時間的余裕がない場合も
(2) 買い先行のメリット・デメリット
メリット
- 引越し1回で済む
- 新居を慎重に選べる
- 仮住まい不要
デメリット
- 旧居ローンが残る場合、住み替えローンが必要
- 売却を急ぐと安値売却のリスク
- ダブルローンの期間が発生する可能性
(3) 税務上の違いと選択のポイント
税務上の主な違い
- 3,000万円控除:売却年に適用するため、タイミングによる差はない
- 住宅ローン控除:新居取得年から適用開始
選択のポイント
- 資金に余裕がない場合:売り先行が安全
- 売却・購入の時期が近い場合:買い先行も検討可
- 税制選択は事前にシミュレーション必須
住み替えローンとつなぎ融資の活用
(1) 住み替えローンの仕組み
住み替えローンは、旧居の売却代金で住宅ローンを完済できない場合、残債と新居購入資金を合わせて借りるローンです(金融庁「住み替えローンの仕組み」より)。
例
- 旧居ローン残債:2,000万円
- 旧居売却価格:1,500万円
- 新居購入価格:4,000万円
- 住み替えローン:2,000万円 - 1,500万円 + 4,000万円 = 4,500万円
(2) オーバーローンのリスク
住み替えローンはオーバーローン(物件価値を超える借入)になるリスクがあります。
リスク
- 返済負担が重くなる
- 新居の価格下落時に売却困難
- 審査が厳しい(年収・信用力が重視される)
(3) つなぎ融資の活用方法と高金利負担
つなぎ融資は、買い先行で一時的に資金不足を補うための短期ローンです。
特徴
- 期間:数ヶ月~1年程度
- 金利:年3~4%程度(住宅ローンより高い)
- 旧居売却後に一括返済
計画的な利用が重要
- 売却時期を明確にする
- 金利負担を事前に計算
- 売却が遅れるリスクを想定
よくあるトラブル事例と注意点
(1) タイミング調整の失敗
事例
- 新居購入を急ぎ、旧居を安値で売却
- 仮住まい期間が長引き、賃料負担が膨らむ
対策
- 余裕を持ったスケジュール設定
- 不動産会社と綿密に連携
(2) 特例選択の誤り
事例
- 3,000万円控除を適用後、住宅ローン控除が使えないことを知らなかった
- 併用不可を知らず、節税効果を逃した
対策
- 税理士等の専門家に事前相談
- シミュレーションで有利な選択肢を確認
(3) 資金計画の甘さによる破綻
事例
- 住み替えローンで過度な借入
- つなぎ融資の高金利を軽視
- 売却が遅れ、ダブルローンの負担に耐えられず
対策
- 返済計画を保守的に設定
- 売却価格の下振れリスクを想定
- 専門家(FP、税理士)に相談
まとめ
住み替えで戸建てを購入する際、譲渡所得税と住宅ローン控除の選択が重要です。売却益が大きい場合は3,000万円特別控除が有利ですが、新居の住宅ローン控除は3年間受けられなくなります。売り先行・買い先行のタイミング調整、住み替えローン・つなぎ融資の活用も資金繰りに大きく影響します。
税制選択やタイミング調整を誤ると、数百万円の損失につながる可能性があるため、税理士等の専門家に相談し、個別の状況に応じた最適なプランを立てることが成功の鍵です。