投資用戸建て売却の譲渡所得税|減価償却・税率・節税対策ガイド

公開日: 2025/10/14

投資用戸建て売却と譲渡所得税の基本

投資用戸建てを売却した際には、売却益に対して譲渡所得税が課税されます。居住用不動産とは異なり、投資用不動産には特有の税務ルールがあるため、事前の理解と計画が重要です。

(1) 譲渡所得税の計算式

譲渡所得税は以下の式で計算されます:

譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用

  • 売却価格:実際の売却代金
  • 取得費:購入代金 + 購入時諸費用 − 減価償却費
  • 譲渡費用:仲介手数料、測量費、解体費など

国税庁の資料によれば、この譲渡所得に対して所有期間に応じた税率で課税されます。

(2) 投資用不動産に特有の税務ポイント

投資用不動産の譲渡所得税には、居住用とは異なる重要なポイントがあります:

居住用との主な違い:

  • 3,000万円特別控除は原則適用不可
  • 減価償却により取得費が大幅に減少
  • 賃貸収入(不動産所得)と売却益(譲渡所得)は別の税区分
  • 事業用資産の買換え特例が利用可能な場合あり

特に減価償却による取得費減少は、想定外の高額課税につながるため注意が必要です。

減価償却後の取得費計算と税額への影響

(1) 減価償却の仕組みと取得費の関係

投資用不動産では、建物の減価償却費を毎年の経費として計上します。この償却費の累計額は、売却時の取得費から差し引かれます。

減価償却の基本:

  • 木造戸建て:耐用年数22年
  • RC造:耐用年数47年
  • 償却方法:定額法

取得費への影響: 取得費 = 購入価格 − 減価償却費累計額

減価償却により取得費が減少すると、譲渡所得が増加し、結果として税額も増えます。

(2) 建物と土地の按分方法

減価償却は建物のみに適用されるため、購入価格を土地と建物に按分する必要があります。

按分方法:

  1. 売買契約書に記載された内訳を使用
  2. 固定資産税評価額の比率で按分
  3. 不動産鑑定士の評価を参考

例:

  • 購入価格3,000万円(土地1,500万円、建物1,500万円)
  • 建物のみ減価償却の対象

(3) 償却後取得費の計算例

前提条件:

  • 木造戸建て購入価格:3,000万円(土地1,500万円、建物1,500万円)
  • 保有期間:10年
  • 償却率:0.046(定額法)

計算:

  • 年間償却額:1,500万円 × 0.046 = 69万円
  • 10年間の償却額:69万円 × 10年 = 690万円
  • 償却後の建物取得費:1,500万円 − 690万円 = 810万円
  • 合計取得費:810万円(建物)+ 1,500万円(土地)= 2,310万円

売却例:

  • 売却価格:4,000万円
  • 譲渡費用:150万円
  • 譲渡所得:4,000万円 − 2,310万円 − 150万円 = 1,540万円

減価償却がない場合の譲渡所得850万円と比べ、約690万円増加します。

長期譲渡と短期譲渡の税率差

(1) 5年の判定基準と所有期間の数え方

譲渡所得税の税率は、所有期間によって大きく異なります。

重要な判定基準: 取得日から譲渡した年の1月1日時点で5年を超えているかどうか

例:

  • 2019年2月購入、2024年12月売却
  • 2024年1月1日時点:約4年11ヶ月 → 短期譲渡
  • 2019年2月購入、2025年1月売却
  • 2025年1月1日時点:約5年11ヶ月 → 長期譲渡

1ヶ月の違いで税率が倍近く変わるため、売却時期の調整が重要です。

(2) 長期譲渡(約20%)と短期譲渡(約39%)の比較

区分 所有期間 所得税率 住民税率 合計税率
短期譲渡所得 5年以内 30.63% 9% 39.63%
長期譲渡所得 5年超 15.315% 5% 20.315%

税額の違い(譲渡所得1,540万円の場合):

  • 短期譲渡:1,540万円 × 39.63% = 約610万円
  • 長期譲渡:1,540万円 × 20.315% = 約313万円
  • 差額:約297万円

(3) 売却タイミングの最適化

税負担を最小化するための売却タイミング戦略:

長期保有のメリット:

  • 税率が約半分になる
  • 市場動向を見極める時間がある
  • 減価償却により不動産所得の節税効果

売却時期の調整:

  • 5年超を確実にするため、1月以降の売却を検討
  • 市場動向と税務を総合的に判断
  • 税理士と相談して最適な時期を決定

事業用資産の買換え特例で節税する方法

(1) 買換え特例の仕組みと適用要件

事業用資産の買換え特例は、投資用不動産を買い替える際に課税を繰り延べられる制度です。

基本の仕組み: 今回の売却益への課税を次回売却時まで繰り延べ

主な適用要件:

  • 所有期間10年超の事業用不動産
  • 買い替え資産も事業用であること
  • 譲渡年の前年1月1日から翌年12月31日までに買い替え
  • 一定の地域・面積要件を満たすこと

国税庁の資料で詳細な要件を確認することが重要です。

(2) 課税繰延のメリットと注意点

メリット:

  • 当面の税負担を軽減
  • 手元資金を次の投資に活用できる
  • 長期的な資産形成をサポート

注意点:

  • 繰延べであり、非課税ではない
  • 次回売却時に今回分も含めて課税
  • 買い替え資産の取得費は調整される
  • 複雑な計算が必要なため専門家への相談推奨

(3) 手続きと必要書類

確定申告で必要な書類:

  • 譲渡所得の内訳書(特例用)
  • 売却・購入の売買契約書
  • 登記事項証明書
  • 事業用資産であることの証明書類
  • 買い替え資産の取得を証する書類

手続きの流れ:

  1. 売却・買い替えの実行
  2. 翌年の確定申告で特例適用
  3. 必要書類を添付して税務署に提出

賃貸中物件の売却タイミングと注意点

(1) オーナーチェンジ物件と価格への影響

賃借人がいる状態での売却(オーナーチェンジ)は可能ですが、価格に影響します。

価格への影響:

  • 買主が投資家に限定される
  • 利回り重視の価格設定になりやすい
  • 空室物件より10〜20%程度安くなる傾向

オーナーチェンジのメリット:

  • 賃料収入が継続
  • 退去費用が不要
  • 入居者付けの手間がない

(2) 賃借人への通知義務

売却時には賃借人への適切な対応が必要です:

法的義務:

  • 所有者変更の通知
  • 敷金・保証金の承継
  • 賃貸借契約の引き継ぎ

トラブル防止策:

  • 事前の丁寧な説明
  • 書面での通知
  • 新オーナーとの引き継ぎ確認

(3) 空室後の売却との比較

空室後の売却メリット:

  • 実需(自己居住)の買主も対象
  • 価格が高くなる可能性
  • リフォーム・リノベーションで付加価値

デメリット:

  • 賃料収入の途絶
  • 退去費用の発生
  • 空室期間の固定費負担

判断のポイント: 市場動向、物件の立地・状態、税務上のタイミングを総合的に考慮

よくあるトラブル事例と出口戦略

(1) 減価償却による想定外の高額課税

国民生活センターの相談事例でも多く見られるトラブルです。

トラブル例: 「購入価格と同じ金額で売れたのに、税金が数百万円かかった」

原因: 減価償却により取得費が大幅に減少し、見かけ上の譲渡所得が発生

対策:

  • 売却前に税額シミュレーション
  • 税理士への事前相談
  • 手元に残る資金を正確に把握

(2) 3,000万円控除が使えない誤解

よくある誤解: 「不動産売却なら3,000万円控除が使えるはず」

実態: 3,000万円特別控除は居住用財産の特例。投資用不動産には原則適用されません。

例外: 以前自己居住していた物件で、一定要件を満たす場合のみ適用可能

(3) 税務を考慮した売却計画

効果的な出口戦略:

  1. タイミングの最適化

    • 長期譲渡になる時期を狙う
    • 市場動向と税務を両立
  2. 買換え特例の活用

    • 次の投資物件を検討
    • 課税繰延で資金効率向上
  3. 専門家の活用

    • 税理士による事前シミュレーション
    • 不動産業者による市場分析
    • 総合的な判断で最適な戦略を立案

重要: 投資用不動産の売却は税務が複雑です。必ず税理士に相談し、適切な計画を立てましょう。

よくある質問

Q1投資用戸建てを売却すると、税金はいくらかかりますか?

A1譲渡所得(売却価格−減価償却後の取得費−譲渡費用)に対して、所有期間5年超の長期譲渡なら約20%、5年以内の短期譲渡なら約39%の税率が適用されます。減価償却により取得費が減少するため、購入価格と同じ金額で売却しても税金が発生することがあります。売却前に税理士による試算をおすすめします。

Q2減価償却で取得費が減るとはどういう意味ですか?

A2投資用不動産では、建物の減価償却費を毎年の経費として計上します。この償却費の累計額は、売却時の取得費から差し引かれます。例えば木造戸建て(建物1,500万円)を10年保有すると約690万円償却され、取得費は810万円に減少します。結果として譲渡所得が増え、税額も増加します。

Q33,000万円特別控除は投資用でも使えますか?

A3原則使えません。3,000万円特別控除は居住用財産の特例であり、投資用不動産は対象外です。このため投資用不動産の譲渡所得税は高額になりやすい傾向があります。ただし、以前自己居住していた物件で一定要件を満たす場合は例外的に適用できることがあるため、税理士への確認が必要です。

Q45年で税率が変わると聞きましたが、いつから数えますか?

A4所有期間は、取得日から譲渡した年の1月1日時点で判定します。5年超なら長期譲渡(約20%)、5年以内なら短期譲渡(約39%)です。例えば2019年2月購入・2024年12月売却は短期、2025年1月売却なら長期となります。1ヶ月の違いで税額が倍近く変わるため、売却時期の調整を検討する価値があります。

Q5賃借人がいる状態で売却できますか?

A5可能です(オーナーチェンジ)。ただし、賃借人がいると買主が投資家に限定され、空室物件より10〜20%程度価格が下がる傾向があります。一方で、賃料収入が継続し、退去費用も不要というメリットもあります。空室後の売却と比較し、市場動向や税務タイミングを考慮して判断することをおすすめします。

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