アメリカの固定資産税とは
Property Tax(プロパティタックス)の概要
アメリカの固定資産税は、**Property Tax(プロパティタックス)**と呼ばれる地方税です。州・郡・市の各自治体が独自に税率を設定し、徴収します。
日本の固定資産税(標準税率1.4%)とは異なり、州により税率が大きく異なり(0.18%〜1.89%程度)、時価(Fair Market Value)ベースで評価されるため、築年数が経過しても評価額は下がりません。
課税対象(不動産・動産・無体財産)
アメリカの固定資産税は、以下の財産に課税されます。
- 不動産(Real Property): 土地・建物
- 動産(Personal Property): 自動車・機械設備・家具等(州により異なる)
- 無体財産(Intangible Property): 株式・債券等(一部の州)
日本の固定資産税は不動産のみが対象ですが、アメリカは動産・無体財産も含む点が大きな違いです。
(出典: 自治体国際化協会「アメリカにおける財産税(固定資産税)について」)
税収の使途(学校・警察・消防等の地域サービス)
アメリカの固定資産税は、地域の学校・警察・消防・道路整備等の公共サービスに充当されます。特に学校の運営費の多くを固定資産税が賄うため、学区の質と税率が相関します。
良い学区(高い学校評価)のエリアは税率が高い傾向がありますが、教育環境が良いため不動産価値も高く維持される傾向があります。
この記事のポイント
- アメリカの固定資産税率は州により大きく異なる(ルイジアナ0.18%〜ニュージャージー1.89%)
- 日本と異なり時価(鑑定評価額)ベースで算出されるため、築年数が経過しても評価額は下がらず税負担が継続
- テキサス州は税率約1.9%と高く、取引発生で課税標準額が見直され税額が2-8倍に急増するケースがある
- 日本人投資家は日米両国で申告必要、外国税額控除で二重課税回避可能
アメリカの固定資産税の計算方法
評価額(Assessed Value)の決定方法
アメリカの固定資産税は、Assessed Value(課税評価額)×税率で計算されます。
Assessed Valueは、時価(Fair Market Value)をベースに算出されます。評価方法は自治体により異なりますが、一般的には以下の3つの手法が使われます。
| 評価手法 | 内容 |
|---|---|
| Sales Approach(販売比較法) | 近隣の類似物件の取引価格を参考に評価 |
| Cost Approach(原価法) | 再建築費用から減価償却を差し引いて評価 |
| Income Approach(収益還元法) | 賃料収入から評価額を算出 |
税率の決定(州・郡・市の合算)
税率は、州・郡・市の各自治体が独自に設定した税率を合算して決まります。
例(テキサス州の場合):
- 州税: 0%(テキサス州は州レベルの固定資産税なし)
- 郡税: 0.5%
- 市税: 0.8%
- 学区税: 1.3%
- 合計: 2.6%
このように、複数の自治体が課税するため、税率は地域により大きく異なります。
計算例(具体的な試算)
条件:
- 物件価格: 50万ドル
- Assessed Value: 50万ドル(時価の100%)
- 税率: 1.5%
計算:
固定資産税 = 50万ドル × 1.5% = 7,500ドル(年間)
円換算(1ドル=150円と仮定):
7,500ドル × 150円 = 1,125,000円(年間)
日本の固定資産税(標準1.4%)と比較すると、評価額が時価ベースのため、実質的な負担はアメリカの方が高くなる傾向があります。
州別の税率比較と投資家への注意点
税率の州間格差(ニュージャージー1.89% vs ルイジアナ0.18%)
州別の平均固定資産税率は以下の通りです。
| 州 | 平均税率 | 特徴 |
|---|---|---|
| ニュージャージー | 1.89% | 全米最高税率 |
| イリノイ | 1.73% | シカゴ都市圏は高税率 |
| テキサス | 1.60% | 州所得税なしだが固定資産税は高い |
| カリフォルニア | 0.76% | 税額上昇が年2%に抑制される |
| ハワイ | 0.28% | 全米で低税率 |
| ルイジアナ | 0.18% | 全米最低税率 |
(出典: フォレストクリーク「米国の固定資産税を州別に比較」)
最も高いニュージャージー州と最も低いルイジアナ州では、約10倍の差があります。
テキサス州の注意点(税率1.9%、取引発生で税額急増リスク)
テキサス州は、州所得税がない代わりに固定資産税が高く設定されています(平均1.6%、地域により2.6%超も)。
注意点:
- 取引発生で課税標準額が見直される: 不動産売買が発生すると、取引価格をベースに評価額が見直され、税額が2-8倍に急増するケースがあります。
- 想定利回りが確保できないリスク: 購入時の税額試算が甘いと、取引後の税額急増で想定利回りが確保できない可能性があります。
テキサス州での投資を検討する場合は、取引後の税額見直しを前提に収支シミュレーションを行うことが重要です。
(出典: クレディテック「アメリカ不動産の固定資産税が丸わかり!テキサスは要注意!」)
カリフォルニア州の特徴(年2%上限の税額上昇抑制)
カリフォルニア州は、**Proposition 13(プロポジション13)**という州法により、税額が毎年最大2%しか上がらない仕組みがあります。
メリット:
- 物件価格が急騰しても、固定資産税の負担が抑えられる
- 長期保有を前提とした投資に有利
デメリット:
- 取引が発生すると評価額が見直され、税額が急増する
カリフォルニア州は平均税率0.76%と比較的低めですが、取引発生時の評価額見直しには注意が必要です。
ニューヨーク市の4クラス税率
ニューヨーク市は、不動産タイプ別に4つのクラスに分類し、異なる税率を適用しています。
| クラス | 対象 | 税率(Assessed Value比) |
|---|---|---|
| クラス1 | 1-3世帯住宅 | 21.045% |
| クラス2 | 集合住宅(4世帯以上) | 12.267% |
| クラス3 | 公共設備 | 11.562% |
| クラス4 | 商業用不動産 | 10.694% |
注意: この税率はAssessed Valueに対する税率で、Assessed ValueはFair Market Valueの一部(例: 6-45%)として算出されるため、実効税率は異なります。
(出典: 自治体国際化協会「アメリカにおける財産税(固定資産税)について」)
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日本との違い(制度・税率・評価方法)
税率の違い(アメリカ0.18-1.89% vs 日本標準1.4%)
| 項目 | アメリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 税率 | 0.18-1.89%(州により異なる) | 標準1.4%(全国統一) |
| 評価方法 | 時価ベース(Fair Market Value) | 公示地価・再建築価格の70%程度 |
| 課税対象 | 不動産・動産・無体財産 | 不動産のみ |
| 税率決定権 | 州・郡・市が独自に設定 | 標準税率あり(条例で変更可) |
税率だけを見ると日本の方が高いように見えますが、アメリカは時価ベースで評価されるため、実質的な負担はアメリカの方が高いケースが多くなります。
評価方法の違い(時価ベース vs 公示地価・再建築価格)
アメリカ:
- 時価(Fair Market Value)ベースで評価
- 築年数が経過しても評価額は下がらない
- 物件価格が上昇すれば評価額も上がる
日本:
- 土地: 公示地価の70%程度
- 建物: 再建築価格×経年減点補正率(最低20%まで減価)
- 築年数が経過すれば評価額は下がる
不動産取得・保有・売却時の税金比較
| 項目 | アメリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 取得時 | 固定資産税のみ | 不動産取得税、登録免許税 |
| 保有時 | 固定資産税(高め) | 固定資産税(標準1.4%) |
| 売却時 | 譲渡税(キャピタルゲイン税) | 譲渡所得税 |
アメリカは取得時の税金(不動産取得税・登録免許税)がない代わりに、保有時の固定資産税が高めです。
学区の質と税率の相関(アメリカ独自の特徴)
アメリカでは、固定資産税の税収の多くが学校の運営費に充当されるため、学区の質と税率が相関します。
- 良い学区: 税率が高い → 教育環境が良い → 不動産価値が高い
- 悪い学区: 税率が低い → 教育環境が悪い → 不動産価値が低い
投資判断の際は、税率だけでなく学区の質・不動産価値の維持性も含めて総合的に判断することが重要です。
日本人投資家の税務(日米両国での申告)
日米両国での税務申告義務
日本居住者が米国不動産を所有する場合、日米両国で税務申告が必要です。
アメリカでの申告:
- 賃料収入・売却益に対して連邦税・州税を申告
- 固定資産税は経費として控除可能
日本での申告:
- 全世界所得課税(米国の賃料収入・売却益も日本で申告)
- 外国税額控除で二重課税を回避
外国税額控除で二重課税回避
外国税額控除は、日本居住者がアメリカで支払った税金を日本の所得税から控除し、二重課税を回避する制度です。
仕組み:
日本の所得税 = 全世界所得 × 税率 - アメリカで支払った税金(控除上限あり)
控除上限があるため、全額控除できない場合もあります。詳細は税理士への相談を推奨します。
2021年税制改正の影響(個人の減価償却節税は不可)
2021年税制改正により、個人の海外不動産減価償却による節税は不可となりました(法人は引き続き可能)。
改正前:
- 米国不動産の建物部分(土地建物比率2:8)を27.5年で減価償却
- 日本の給与所得と損益通算して節税
改正後:
- 個人の海外不動産減価償却は認められない
- 法人は引き続き減価償却可能
個人での節税効果は限定的となったため、法人での投資検討が増えています。
(出典: Univis America「米国不動産投資による節税」)
SALT控除上限(10,000ドル)の制約
アメリカでは、**SALT控除(State And Local Tax Deduction)**という制度があり、州・地方税を連邦所得税から控除できます。
ただし、2017年税制改正により、控除上限が年間10,000ドルに制限されました。
影響:
- 高税率州(ニュージャージー、カリフォルニア等)では、固定資産税だけで10,000ドルを超える場合があり、控除しきれない税額が発生します。
- 2025年以降、SALT控除上限の見直しが議論されています。
(出典: Reinvent「2025年アメリカ不動産投資の節税戦略」)
まとめ:アメリカの固定資産税の特徴と投資判断
アメリカの固定資産税(Property Tax)は、州・郡・市により税率が大きく異なり(0.18%〜1.89%)、時価ベースで評価されるため、日本の実質負担より高い傾向があります。
テキサス州は税率約1.9%と高く、取引発生で課税標準額が見直され税額が2-8倍に急増するリスクがあります。カリフォルニア州は税額が毎年最大2%しか上がらない仕組みで、物件価格上昇時も税負担が抑えられます。
日本人投資家は日米両国で申告が必要で、外国税額控除で二重課税を回避できます。2021年税制改正で個人の海外不動産減価償却による節税は不可となり(法人は引き続き可能)、SALT控除上限10,000ドルの制約もあります。
投資判断の際は、税率だけでなく学区の質・不動産価値の維持性・為替変動リスクも含めて総合的に判断し、米国公認会計士や税理士への相談を推奨します。
執筆時点: 2025年。税率・税制は州・郡・市により毎年変動する可能性があるため、最新情報はJETROや各州政府公式サイトでご確認ください。
