不動産の登記簿謄本とは
不動産の売買、相続、住宅ローンの申請などで「登記簿謄本を取得してください」と言われて、「どこで取得し、どう読めばいいのか」と戸惑う方は少なくありません。登記簿謄本は、不動産の権利関係を証明する重要な公的書類です。
この記事では、登記簿謄本の基礎知識、記載内容、取得方法、読み方のポイント、活用場面を解説します。法務局の公式情報や法務省の登記手数料情報など、公的機関の情報を元に、実務に即した内容を提供します。
不動産取引が初めての方でも、登記簿謄本を正しく理解し、スムーズに取引を進められるようになります。
この記事のポイント
- 登記簿謄本は不動産の権利関係を証明する公的書類で、現在の正式名称は「登記事項証明書」
- 記載内容は表題部(物理的情報)、甲区(所有権)、乙区(抵当権等)の3部構成
- 取得方法は4つあり、オンライン窓口受取が最も安価(490円)で便利
- 登記情報提供サービスは332円で即時閲覧できるが、公的証明力がない(確認目的のみ)
- 不動産売買、住宅ローン申請、相続・贈与の手続きで必要になる
(1) 登記簿謄本と登記事項証明書の違い
「登記簿謄本」と「登記事項証明書」は、内容は同じで、現在の正式名称が「登記事項証明書」です。
登記簿謄本:
- かつて使われていた名称
- 紙の登記簿を謄写(コピー)したもの
登記事項証明書:
- 現在の正式名称
- 電子化された登記情報を証明書として発行したもの
登記情報が電子化されたことにより、「謄本」という用語は正確ではなくなりましたが、現在でも「登記簿謄本」という呼び方が広く使われています。この記事では、わかりやすさのため「登記簿謄本」と表記しますが、内容は「登記事項証明書」と同じです。
(2) 登記簿謄本の役割と重要性
登記簿謄本は、以下の情報を公的に証明します。
- 誰が所有者か(所有権)
- 過去の所有者の履歴(所有権の変遷)
- 担保の有無(抵当権、根抵当権など)
- その他の権利(地上権、賃借権など)
- 物理的情報(所在、地番、地目、面積など)
不動産取引では、権利関係を正確に把握することが重要です。登記簿謄本により、以下のリスクを回避できます。
- 所有者以外の者との誤った取引
- 担保付き物件の購入
- 複雑な権利関係による紛争
(3) 誰でも取得できる公的書類
登記簿謄本は、所定の手数料を払えば誰でも取得できます。自分の所有物件だけでなく、他人の所有物件の登記簿謄本も取得可能です。
これは、不動産取引の安全性と透明性を確保するための制度です。購入検討中の物件の権利関係を事前に確認できます。
登記簿謄本に記載される内容
登記簿謄本は、表題部、甲区、乙区の3部構成になっています。それぞれの記載内容を解説します。
(1) 表題部(物理的情報)
表題部には、不動産の物理的情報が記載されています。
土地の表題部:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在 | 土地の所在地(例:東京都世田谷区成城○丁目) |
| 地番 | 土地を特定するための番号(住居表示とは異なる) |
| 地目 | 土地の用途(宅地、田、畑、山林など) |
| 地積 | 土地の面積(㎡) |
建物の表題部:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在 | 建物の所在地 |
| 家屋番号 | 建物を特定するための番号 |
| 種類 | 建物の種類(居宅、店舗、事務所など) |
| 構造 | 建物の構造(木造、鉄骨造など) |
| 床面積 | 各階の床面積(㎡) |
表題部の登記は、所有者が自主的に行わない限り変更が反映されないため、地目変更や分筆が行われた際は、最新情報を別途確認する必要があります。
(2) 甲区(所有権に関する事項)
甲区には、所有権に関する事項が時系列で記載されています。
記載項目:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 順位番号 | 登記の順番 |
| 登記の目的 | 所有権保存、所有権移転など |
| 受付年月日・受付番号 | 登記の受付日と番号 |
| 権利者その他の事項 | 所有者の氏名(名称)、住所、取得原因、取得日 |
確認ポイント:
- 最新の所有者(最も新しい順位番号の権利者)
- 取得原因(売買、相続、贈与など)
- 所有者の変遷(過去の所有者が多い場合は注意)
甲区により、現在の所有者と、その所有者がどのように取得したかを確認できます。
(3) 乙区(抵当権など所有権以外の権利)
乙区には、所有権以外の権利が時系列で記載されています。
代表的な権利:
| 権利 | 内容 |
|---|---|
| 抵当権 | 債権の担保として設定される権利(住宅ローンなど) |
| 根抵当権 | 将来発生する債権を含めて担保する権利 |
| 地上権 | 他人の土地に建物を建てる権利 |
| 賃借権 | 他人の不動産を借りる権利 |
確認ポイント:
- 抵当権の有無(抵当権がある場合、売却時に抹消が必要)
- 債権額(借入金額)
- 債権者(銀行、金融機関など)
- 抹消の有無(下線付きの記載は抹消済み)
乙区に抵当権が残っている物件を購入する場合、売主が抵当権を抹消することを確認する必要があります。
登記簿謄本の取得方法と費用
登記簿謄本の取得方法は4つあります。それぞれの特徴と費用を比較します。
(1) 法務局窓口での取得(600円)
最も一般的な方法は、法務局の窓口で直接申請することです。
手順:
- 最寄りの法務局に行く
- 申請書に記入(所在・地番または家屋番号を記載)
- 手数料600円を支払う
- 10〜15分程度で発行される
メリット:
- その場で受け取れる
- 地番がわからない場合、窓口で教えてもらえる
デメリット:
- 法務局に行く必要がある
- 手数料が最も高い(600円)
(出典: 法務省 登記手数料について)
(2) オンライン申請(490円〜520円)
法務局のオンライン申請システムを使うと、自宅から申請できます。
オンライン窓口受取(490円):
- オンラインで申請し、法務局窓口で受け取る
- 手数料が最も安価(490円)
- 窓口で待ち時間なく受け取れる
オンライン郵送受取(520円):
- オンラインで申請し、郵送で受け取る
- 手数料は520円
- 自宅で受け取れる(法務局に行く必要がない)
メリット:
- 窓口申請より安価
- 24時間申請可能
- 全国どこの法務局の登記簿謄本でも取得できる
デメリット:
- 初回は利用者登録が必要
- 地番・家屋番号を事前に調べる必要がある
(3) 登記情報提供サービス(332円)
登記情報提供サービスは、一般財団法人民事法務協会が運営する有料サービスです。
特徴:
- 手数料が最も安価(332円、2024年4月改定)
- インターネットで即時閲覧可能
- 利用時間:平日8:30〜23:00、土日祝8:30〜18:00
重要な注意点:
- 公的証明力がない(閲覧専用)
- 銀行や官公庁への提出には使えない
- 確認目的のみに使用
確認目的であれば、最も安価で即時閲覧できるため便利です。
(4) 取得方法の比較と選び方
4つの方法を比較表にまとめます。
| 取得方法 | 手数料 | 受取方法 | 公的証明力 | おすすめの人 |
|---|---|---|---|---|
| 法務局窓口 | 600円 | その場で受取 | あり | 地番不明、急ぎの人 |
| オンライン窓口受取 | 490円 | 法務局窓口 | あり | 安価に取得したい人 |
| オンライン郵送受取 | 520円 | 郵送 | あり | 自宅で受取りたい人 |
| 登記情報提供サービス | 332円 | 即時閲覧 | なし | 確認目的の人 |
選び方のポイント:
- 銀行・官公庁への提出が必要 → 法務局窓口またはオンライン申請
- 確認目的のみ → 登記情報提供サービス(最も安価)
- 安価に取得したい → オンライン窓口受取(490円)
- 地番がわからない → 法務局窓口(職員に教えてもらえる)
登記簿謄本の読み方とチェックポイント
登記簿謄本を取得したら、以下のポイントを確認します。
(1) 表題部の確認ポイント
土地の場合:
- 地目:宅地、田、畑、山林など(宅地以外は造成費用がかかる場合がある)
- 地積:面積が希望と一致するか
- 所在・地番:物件と一致するか
建物の場合:
- 種類:居宅、店舗、事務所など
- 構造:木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など
- 床面積:各階の面積が物件情報と一致するか
地番と住居表示は異なるため、住所だけでは登記簿が取得できない場合があります。事前に地番を確認しましょう。
(2) 甲区の確認ポイント(所有権の履歴)
現在の所有者:
- 最も新しい順位番号の権利者が現在の所有者
- 売主と一致するか確認
取得原因:
- 売買、相続、贈与など
- 取得原因が「競売」の場合、過去にトラブルがあった可能性
所有者の変遷:
- 短期間に所有者が何度も変わっている場合は注意
- 何らかのトラブルがあった可能性
(出典: SUUMO 登記簿謄本の読み方)
(3) 乙区の確認ポイント(抵当権の有無)
抵当権の有無:
- 乙区に記載があれば、抵当権が設定されている
- 売却時に抹消されるかを確認
債権額:
- 借入金額(実際の残債とは異なる場合がある)
債権者:
- 銀行、金融機関などの名称
抹消の有無:
- 下線付きの記載は抹消済み
- 最新の記載に下線がない場合、抵当権が残っている
抵当権が残っている物件を購入する場合、売主が売却代金で抵当権を抹消することを確認する必要があります。
(4) 抹消された権利の見方
登記簿謄本には、抹消された権利も記載されています。
抹消の表示:
- 下線付きで表示される
- 「〇年〇月〇日抹消」などの記載がある
確認ポイント:
- 下線付きの記載は抹消済みで、現在は有効ではない
- 最新の記載に下線がない場合、その権利は現在も有効
抹消された権利と現在有効な権利を正しく区別することが重要です。
登記簿謄本が必要になる場面
登記簿謄本は、以下の場面で必要になります。
(1) 不動産売買時の権利確認
購入時:
- 売主が真の所有者かを確認
- 担保(抵当権)の有無を確認
- 複雑な権利関係がないかを確認
売却時:
- 買主への権利関係の説明
- 抵当権抹消の手続き
不動産売買では、契約前に必ず登記簿謄本を確認することが推奨されます。
(2) 住宅ローン申請時
住宅ローンを申請する際、金融機関から登記簿謄本の提出を求められることがあります。
金融機関の確認事項:
- 物件の所有者
- 既存の担保の有無
- 物件の面積・構造
金融機関は、担保としての物件の価値を評価するため、登記簿謄本を確認します。
(3) 相続・贈与の手続き
不動産を相続または贈与する際、登記簿謄本が必要になります。
相続時:
- 被相続人が真の所有者かを確認
- 相続登記の申請
贈与時:
- 贈与者が真の所有者かを確認
- 贈与登記の申請
相続・贈与では、登記簿謄本を元に、所有権移転登記を行います。
(4) その他の活用場面
物件調査:
- 購入検討中の物件の権利関係を事前確認
- 近隣物件の所有者を調べる
境界紛争:
- 隣地の所有者を確認
- 地積を確認
投資判断:
- 投資対象物件の担保状況を確認
- 所有者の変遷を確認
登記簿謄本は、不動産に関する様々な場面で活用できます。
まとめ:登記簿謄本の活用と注意点
登記簿謄本は、不動産の権利関係を証明する重要な公的書類です。現在の正式名称は「登記事項証明書」ですが、内容は同じです。
記載内容は、表題部(物理的情報)、甲区(所有権)、乙区(抵当権等)の3部構成で、それぞれのポイントを確認することが重要です。取得方法は4つあり、オンライン窓口受取が最も安価(490円)で便利です。登記情報提供サービスは332円で即時閲覧できますが、公的証明力がないため確認目的のみに使用します。
登記簿謄本は、不動産売買、住宅ローン申請、相続・贈与の手続きなど、様々な場面で必要になります。登記簿謄本を正しく読み、権利関係を確認することで、安全な不動産取引ができます。
複雑な権利関係や不明な点がある場合は、司法書士や宅地建物取引士などの専門家に相談しましょう。
