不動産事務の仕事内容:基本業務と役割
不動産事務への就職・転職を検討する際、「やめた方がいい」という意見を目にすることがあります。この記事では、不動産事務の実際の仕事内容、メリット・デメリット、向き不向きを公平に解説します。
この記事のポイント
- 不動産事務は営業職と違いノルマがないため精神的負荷が少ない
- 一般事務より時給100-200円高く、宅建資格で月1-3万円の資格手当も見込める
- 土日出勤が多い・クレーム対応・法律知識が必要などのデメリットもある
- 細かい作業が得意で継続的に学べる人に向いている
- 自身の適性(土日出勤への許容度、ストレス耐性等)を見極めることが重要
不動産事務の基本業務は以下の4つに分類されます。
(1) 顧客対応(来店・電話対応)
来店されたお客様の受付や電話対応を担当します。
- 初回来店時: 物件の希望条件をヒアリング、営業担当者への引き継ぎ
- 内見予約: 物件見学の日程調整、鍵の手配
- 契約時: 契約書類の説明補助、必要書類の案内
- 引渡し後: 物件の不具合や疑問点への対応
顧客とのコミュニケーションが業務の中心となります。丁寧な対応と正確な情報提供が求められます。
(2) 物件管理(REINS登録・情報更新)
REINS(不動産流通機構)への物件情報の登録・更新を担当します。
- 物件情報の登録: 新規物件の基本情報(間取り、価格、設備等)を入力
- 情報の更新: 価格変更、成約済みへのステータス変更
- おとり物件の防止: 契約済み物件の広告削除、情報の正確性維持
情報の正確性が重要で、誤った情報は顧客の信頼を損ない、宅地建物取引業法違反のリスクもあります。
(3) 書類作成(契約書・重要事項説明書補助)
契約に関する書類の作成補助を担当します。
- 契約書の作成補助: 物件情報、契約条件、特記事項の入力
- 重要事項説明書の作成補助: 宅建士が行う説明のための資料作成
- 各種申請書類: 住宅ローン審査書類、登記関連書類の準備
契約書や重要事項説明書は法的に重要な書類のため、細心の注意を払って作成する必要があります。
(4) 経理業務(仲介手数料計算・請求書作成)
取引に関する経理業務を担当します。
- 仲介手数料の計算: 物件価格の3%+6万円+消費税(上限)
- 請求書の作成: 仲介手数料、その他費用の請求書発行
- 入金確認: 入金状況の確認、未入金の場合の催促
高額取引のため、1桁のミスでも大きな損害につながります。正確性が最も求められる業務です。
「不動産事務はやめた方がいい」と言われる5つの理由
不動産事務には以下のような大変な側面があり、「やめた方がいい」という意見の背景となっています。
(1) 高額取引でミスが許されない環境(1桁のミスでも大きな損害)
不動産は数百万円〜数億円の高額商材です。契約書や請求書の数字ミス1つで重大なクレームや損失につながる可能性があります。
具体例:
- 契約書の金額ミス: 「5,000万円」を「500万円」と記載→契約トラブルに発展
- 仲介手数料の計算ミス: 数十万円〜数百万円の誤差が発生
- 重要事項の記載漏れ: 法的に問題があり、契約解除のリスク
細心の注意を払って業務を行う必要があり、プレッシャーを感じる人もいます。
(2) 土日出勤が多い(顧客の来店ピーク)
不動産業界では、顧客が物件を見学する週末(土日)が来店のピークです。そのため、土日出勤が一般的です。
影響:
- 平日休み: 家族や友人との予定調整が困難
- 祝日も出勤: 3連休も出勤になる場合がある
- 代休取得: 平日に代休を取得(混雑を避けた生活が可能)
土日休みを絶対視する人には向いていません。一方で、平日休みで混雑を避けた生活を好む人には逆にメリットになります。
(3) クレーム対応の精神的負担
物件の不具合や契約ミスに関する顧客の不満を受け止める業務が発生します。
クレームの例:
- 物件の不具合: 「引渡し後に設備が故障した」
- 情報の相違: 「広告の情報と実際の物件が違う」
- 契約内容の誤解: 「説明と違う条件だった」
顧客の怒りや不満を直接受け止めるため、精神的ストレスが大きい場合があります。ストレス耐性が低い人には負担になります。
(4) 幅広い法律知識が必要(宅建業法・民法・税法等)
不動産事務では、以下のような幅広い法律知識が必要です。
| 法律 | 内容 | 業務への影響 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業法 | 不動産取引の規制 | 重要事項説明、広告規制 |
| 民法 | 契約の成立・解除 | 契約書作成、トラブル対応 |
| 借地借家法 | 賃貸契約の規制 | 賃貸物件の管理 |
| 不動産登記法 | 登記手続き | 登記関連書類の準備 |
| 税法 | 不動産取得税、譲渡所得税等 | 税金の説明、計算補助 |
法改正にも継続的に対応する必要があり、学習意欲がない人には負担になります。
(5) 収入の大幅な増加は見込めない(インセンティブなし)
不動産事務は営業職と異なりインセンティブ(成果報酬)がないため、契約件数が増えても収入が大幅に増加することはありません。
収入の特徴:
- 固定給: 月給制または時給制(安定収入)
- 昇給: 年1-2回程度(昇給幅は限定的)
- 資格手当: 宅建資格で月1-3万円の手当(収入増の主な手段)
大幅な収入増を期待する人には不向きです。一方で、安定収入を重視する人には適しています。
不動産事務で働くメリット:ノルマなし・高時給・スキル習得
デメリットだけでなく、不動産事務には以下のようなメリットもあります。
(1) ノルマなしで精神的負荷が少ない
営業職と異なり、契約件数のノルマがありません。
メリット:
- プレッシャーが少ない: 契約が取れなくても評価が下がらない
- 安定した働き方: 成果に関わらず安定収入
- サポート役に徹する: 営業担当者を補助する立場
ノルマに追われることなく、自分のペースで業務を進められます。
(2) 未経験でも応募可能(一般事務より時給100-200円高い)
不動産事務は未経験でも応募可能な求人が多く、一般事務より時給が高い傾向にあります。
給与の特徴:
- 時給: 一般事務より100-200円高い(専門性が評価される)
- 正社員登用: 派遣社員やパート・アルバイトから正社員への登用制度がある企業も
- 宅建資格: 資格取得で時給アップ・正社員登用のチャンス
未経験からでもチャレンジしやすく、キャリアアップの可能性もあります。
(3) 不動産・税務知識が習得できる(将来の転職・独立に有利)
不動産事務で働くことで、以下の知識・スキルが習得できます。
- 不動産知識: 物件の見方、市場動向、価格設定
- 税務知識: 不動産取得税、譲渡所得税、住宅ローン控除
- 契約知識: 契約書の読み方、トラブル対応
- 顧客対応スキル: クレーム対応、ヒアリング能力
これらの知識は、将来的に独立(不動産コンサルタント等)や転職(金融機関、建築業界等)に有利に働きます。
(4) 宅建資格で時給アップ(資格手当月1-3万円)
宅地建物取引士(宅建)資格を取得すれば、時給アップや正社員登用のチャンスがあります。
宅建資格のメリット:
- 資格手当: 月1-3万円の収入増
- 時給アップ: 資格取得で時給100-200円アップ
- 正社員登用: 派遣社員から正社員への登用のチャンス
- 業務の幅が広がる: 重要事項説明を担当できる
資格取得は収入増の確実な手段であり、キャリアアップにもつながります。
(5) 一部企業で在宅勤務やフレックスタイム制導入
2025年時点で、一部の企業では在宅勤務やフレックスタイム制を導入し、ワークライフバランス改善に取り組んでいます。
導入例:
- 在宅勤務: 書類作成、電話対応等の業務を自宅で実施
- フレックスタイム制: 始業・終業時刻を柔軟に設定
- 時短勤務: 育児中の社員向けの時短勤務制度
企業によって制度は異なりますが、働きやすい環境が整備されつつあります。
不動産事務に向いている人・向いていない人の特徴
不動産事務に向いているかどうかは、以下の特徴を参考に判断できます。
(1) 向いている人(細かい作業が得意・臨機応変な対応力・コミュニケーション能力・継続的に学べる)
向いている人の特徴:
- 細かい作業が得意: 契約書や請求書の正確な作成が苦にならない
- 臨機応変な対応力: 顧客からの予期しない質問やクレームに柔軟に対応できる
- コミュニケーション能力: 顧客や営業担当者と円滑にコミュニケーションできる
- 継続的に学べる: 法律や制度の変更を学び続ける意欲がある
- 正確性を重視: ミスを防ぐためのチェック体制を自ら構築できる
これらの特徴に当てはまる人は、不動産事務で活躍できる可能性が高いです。
(2) 向いていない人(土日休み絶対・ストレス耐性が低い・法律学習が苦手)
向いていない人の特徴:
- 土日休み絶対: 家族や友人との予定を優先したい
- ストレス耐性が低い: クレーム対応や高額取引のプレッシャーに耐えられない
- 法律学習が苦手: 継続的な学習が負担に感じる
- 大幅な収入増を期待: インセンティブで大きく稼ぎたい
- 細かい作業が苦手: 契約書の細かい数字のチェックが苦痛
これらの特徴に当てはまる人は、他の職種を検討した方が良いかもしれません。
(3) 平日休みを好む人にはメリット
土日出勤はデメリットとされがちですが、平日休みには以下のようなメリットもあります。
- 混雑を避けられる: 平日の観光地、銀行、役所は空いている
- サービス料金が安い: 平日の旅行やレジャーは割安
- 通勤が楽: 平日の通勤ラッシュを避けられる
平日休みを好む人には、土日出勤は逆にメリットになります。
不動産事務の年収・キャリアアップ・宅建資格の活用
不動産事務の年収とキャリアアップの可能性を確認しましょう。
(1) 平均年収約510万円(会社規模・地域・経験年数により変動)
不動産事務の平均年収は約510万円(2025年時点)です。
年収の変動要因:
| 要因 | 影響 |
|---|---|
| 会社規模 | 大手企業は高め、小規模企業は低め |
| 地域 | 東京・大阪等の大都市は高め、地方は低め |
| 経験年数 | 経験年数が増えるほど年収が上昇 |
| 資格 | 宅建資格で月1-3万円の資格手当 |
年収は会社規模・地域・経験年数により大きく変動します。
(2) 宅建資格取得で時給アップ・正社員登用のチャンス
宅建資格を取得すれば、以下のようなメリットがあります。
- 資格手当: 月1-3万円(年間12-36万円の収入増)
- 時給アップ: 資格取得で時給100-200円アップ
- 正社員登用: 派遣社員から正社員への登用のチャンス
- 業務の幅が広がる: 重要事項説明を担当できる
宅建資格は不動産事務のキャリアアップに直結する重要な資格です。
(3) 派遣社員・パートから正社員への登用制度
未経験者でも応募可能な求人が多く、派遣社員やパート・アルバイトから正社員への登用制度を設ける企業が増加しています。
登用の条件:
- 勤務実績: 一定期間(6ヶ月〜1年)の勤務実績
- 宅建資格: 資格取得が正社員登用の条件となる企業も
- 業務評価: 業務の正確性、顧客対応の質が評価される
未経験からでも、努力次第でキャリアアップできる環境が整っています。
(4) 小規模企業と大手企業の業務内容の違い
会社規模により業務内容が異なります。
| 項目 | 小規模企業 | 大手企業 |
|---|---|---|
| 業務範囲 | 多岐にわたる業務を経験できる | 専門化した業務に集中できる |
| 研修制度 | OJT中心 | 体系的な研修制度がある |
| キャリアパス | 幅広い経験を積める | 専門性を高められる |
| 給与 | 低め〜中程度 | 高め |
自身のキャリアプランに応じて、会社規模を選択することが重要です。
まとめ:不動産事務で働くべきか判断する基準
不動産事務には、ノルマなし・高時給・スキル習得などのメリットがある一方で、土日出勤・クレーム対応・法律知識の習得などのデメリットもあります。
働くべきか判断する基準は以下の通りです。
- 適性の見極め: 細かい作業が得意か、土日出勤に許容できるか、継続的に学べるか
- キャリアプラン: 宅建資格を取得してキャリアアップしたいか、安定収入を重視するか
- ワークライフバランス: 平日休みを好むか、土日休みを絶対視するか
- 会社選び: 小規模企業で幅広い経験を積むか、大手企業で専門性を高めるか
自身の適性・キャリアプラン・ライフスタイルを総合的に考慮して判断しましょう。不動産事務は、向いている人にとっては充実したキャリアを築ける職種です。
