オフィスビル賃貸の基礎知識と選び方の重要性
オフィスビルの選び方は、企業の業務効率、従業員満足度、採用力、さらにはブランドイメージにまで影響を与える重要な経営判断です。立地、設備、賃料相場、契約条件など、検討すべき要素は多岐にわたります。
本記事では、オフィスビル賃貸の基礎知識として、選び方の基準、都心主要エリアの特徴、内覧時のチェックポイント、契約時の注意点を、三鬼商事株式会社の最新統計や業界レポートをもとに解説します。
初めてオフィス移転を担当する方でも、自社に最適な物件を見つけられるようになります。
この記事のポイント
- オフィスビル選びは立地、設備、コスト、BCP対策の4つの基準で判断
- 2025年8月時点、東京ビジネス地区の平均賃料は21,027円/坪(前年比6%増)
- 内覧時は天井高、OAフロア、24時間空調、セキュリティ、耐震性、非常用電源を必ず確認
- 契約は普通建物賃貸借と定期建物賃貸借の2種類。中途解約、更新料、フリーレント違約金に注意
- エリア別の賃料差が大きいため、複数物件の比較検討が必須
オフィスビル選びの4つの基準
ザイマックス総研によると、企業のオフィス選びは以下の4タイプに分類されます。
(1) 立地条件(駅からの距離、周辺環境)
立地はオフィスビル選びの最重要要素です。駅からの距離だけでなく、周辺環境も業務効率に大きく影響します。
チェックポイント:
- 主要駅からの距離: 徒歩5分以内が理想。10分超は従業員の負担増
- 複数路線の利用可能性: 災害時のリスク分散、通勤利便性向上
- 周辺環境: 銀行、郵便局、飲食店、コンビニの充実度
- ビジネス環境: 取引先・関連企業の集積状況
麹町・半蔵門エリアは7路線が利用可能で、外資系企業・IT企業の入居が増加しています。
(2) 設備・スペック(天井高、OAフロア、空調)
設備の質は業務効率と従業員満足度に直結します。
| 設備項目 | 推奨スペック | 理由 |
|---|---|---|
| 天井高 | 2.7m以上 | 開放感、照明効率の向上 |
| OAフロア | 50mm以上 | 配線の自由度、レイアウト変更の容易性 |
| 空調 | 24時間利用可能 | 残業・早朝出勤への対応 |
| セキュリティ | 入退館システム完備 | 情報漏洩防止、資産保護 |
| エレベーター | 50坪あたり1台 | 待ち時間の短縮 |
(3) コスト(賃料、共益費、敷金)
賃料だけでなく、共益費、敷金、更新料を含めた総コストで判断する必要があります。
コスト構成:
- 賃料: 坪単価 × 面積(共益費別)
- 共益費: 共用部分の維持管理費(賃料の10-20%程度)
- 敷金: 月額賃料の数ヶ月分(オフィスでは3-12ヶ月分が一般的)
- 更新料: 契約更新時に月額賃料の1-2ヶ月分
(4) BCP対策(耐震性、非常用電源、防災備蓄)
災害時に事業を継続するための備えは、企業の信頼性に直結します。
確認事項:
- 新耐震基準適合: 1981年6月以降の建築確認を受けた建物
- 免震・制振構造: 中間免震、ハイブリッド免震+制振など
- 非常用電源: 72時間無停電電源が理想(3日間の事業継続)
- 防災備蓄設備: 水、食料、毛布等の備蓄スペース
住友不動産麹町ガーデンタワー(2020年竣工)は中間免震構造、72時間無停電電源、DBJグリーンビルディング5つ星を取得しています。
都心主要エリアの特徴と賃料相場
(1) 東京オフィス市場の最新動向(2025年)
三鬼商事株式会社の調査によると、2025年8月時点の東京ビジネス地区の状況は以下の通りです。
| 指標 | 2025年8月 | 前年比 |
|---|---|---|
| 平均募集賃料 | 21,027円/坪 | +6% |
| 空室率 | 2.85% | -1.5ポイント |
| トレンド | 賃料上昇、空室率低下 | コロナ禍後の回復基調 |
2021年6月の空室率6.19%をピークに改善が続いており、優良物件の争奪が激化しています。
(2) 千代田区(麹町・半蔵門エリア)の特徴
三菱地所リアルエステートサービスによると、麹町・半蔵門エリアの特徴は以下の通りです。
特徴:
- 7路線利用可能: JR、東京メトロ、都営地下鉄
- 2010年以降、2,000坪超の新築ビル供給増加
- 外資系企業、IT企業の入居が増加傾向
- 賃料は他エリアより割安で高グレードビルが多い
麹町駅から徒歩3分の住友不動産麹町ガーデンタワーは、1フロア500坪超、天井高3.0mの大規模オフィスビルです。
(3) 港区(三田・虎ノ門エリア)の特徴
港区は東京を代表するビジネスエリアで、特に三田エリアは大規模オフィスビルの開発が進んでいます。
代表例: 住友不動産東京三田ガーデンタワー(2023年竣工)は、地上42階建て・高さ215m、標準階面積1,204坪(下層階)の大規模ビルです。ハイブリッド免震+制振構造、72時間無停電電源、ZEB Ready認証、DBJグリーンビルディング5つ星を取得しています。
JR田町駅徒歩5分、都営三田線三田駅徒歩3分の好立地です。
(4) エリア別賃料水準の比較
| エリア | 賃料水準 | 特徴 |
|---|---|---|
| 千代田区 | 高額 | 官公庁、大企業本社が集積 |
| 港区 | 高額 | 外資系企業、IT企業が多い |
| 新宿区 | 比較的手頃 | 交通利便性が高い |
| 渋谷区 | 比較的手頃 | IT・クリエイティブ系企業が多い |
立地の優先順位を明確にして、予算内で最適なエリアを選びましょう。
内覧時の必須チェックポイント
(1) 駅からの距離と周辺環境の確認
実際に駅から歩いて、所要時間と経路を確認しましょう。
確認事項:
- 実際の所要時間: 信号待ち、坂道、地下道を含めた時間
- 経路の安全性: 歩道の幅、街灯の有無、夜間の雰囲気
- 周辺施設: 銀行、郵便局、飲食店、コンビニの距離
(2) 設備仕様(天井高、OAフロア、空調、セキュリティ)
野村不動産によると、内覧時のチェックポイントは以下の通りです。
| 設備 | チェック内容 |
|---|---|
| 天井高 | 2.7m以上が理想。実測して確認 |
| OAフロア | 50mm以上の高さ。配線の自由度を確認 |
| 空調 | 24時間利用可能か。個別空調か一括空調か |
| セキュリティ | 入退館システム、防犯カメラ、機械警備の有無 |
| エレベーター | 台数、速度、待ち時間を確認 |
(3) 防災・BCP対策の確認
確認事項:
- 新耐震基準適合: 1981年6月以降の建築確認
- 免震・制振構造: 中間免震、ハイブリッド免震+制振など
- 非常用電源: 停電時の電源供給時間(72時間が理想)
- 防災備蓄設備: 水、食料、毛布等の備蓄スペース
- 避難経路: 非常階段の位置、避難経路図の確認
(4) テナント構成とビル全体の雰囲気
テナント構成は、ビルの雰囲気や自社のイメージに影響します。
確認事項:
- 業種構成: 同業他社、関連企業の有無
- 共用部の清潔感: エントランス、トイレ、廊下の状態
- 管理体制: 管理人の常駐、清掃頻度
契約時の注意点とコスト計算
(1) 普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の違い
オフィスターによると、契約種類は以下の2種類です。
| 項目 | 普通建物賃貸借契約 | 定期建物賃貸借契約 |
|---|---|---|
| 契約期間 | 通常2年 | 1年以上で自由に設定 |
| 更新 | 自動更新 | 期間確定で終了 |
| 再契約 | 自動 | 双方の合意が必要 |
| 借主保護 | 強い | 弱い |
| 適用場面 | 一般的なオフィス | 短期利用、期間限定プロジェクト |
企業の事業計画に応じて選択しましょう。
(2) 契約期間・中途解約・更新料の確認
契約期間: 通常2年間。中途解約は3-6ヶ月前の予告が必要です。
更新料: 契約更新時に月額賃料の1-2ヶ月分が必要な場合があります。契約書で必ず確認しましょう。
(3) フリーレント期間と早期解約違約金
フリーレント期間がある場合、契約初期の一定期間は賃料が無料になります。ただし、早期解約時に違約金が発生する場合があるため、契約書の特約条項を必ず確認してください。
(4) 総コストの計算方法(賃料+共益費+敷金+更新料)
計算例(坪単価20,000円、面積100坪の場合):
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 月額賃料 | 20,000円 × 100坪 | 200万円 |
| 共益費 | 賃料の15% | 30万円 |
| 月額合計 | 賃料 + 共益費 | 230万円 |
| 敷金(6ヶ月分) | 200万円 × 6 | 1,200万円 |
| 年間コスト | 230万円 × 12 | 2,760万円 |
| 更新料(2年後) | 200万円 × 2 | 400万円 |
賃料だけでなく、共益費、敷金、更新料を含めた総コストで比較しましょう。
まとめ:自社に最適なオフィスビルを見つける方法
オフィスビル選びは、立地、設備、コスト、BCP対策の4つの基準で判断します。2025年8月時点、東京ビジネス地区の平均賃料は21,027円/坪で前年比6%増加しており、優良物件の争奪が激化しています。
内覧時は天井高、OAフロア、24時間空調、セキュリティ、耐震性、非常用電源を必ず確認し、契約時は普通建物賃貸借と定期建物賃貸借の違い、中途解約、更新料、フリーレント違約金に注意してください。
エリア別の賃料差が大きいため、複数物件を比較検討し、自社の優先順位(立地、コスト、拡張性、イメージ)を明確にして、最適なオフィスビルを選びましょう。専門家(不動産仲介業者、弁護士等)への相談も推奨します。
