マンション管理計画認定制度とは何か
マンションの管理組合として、「管理計画認定制度」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。この記事では、2022年4月に始まったマンション管理計画認定制度について、認定基準、メリット、申請方法を、国土交通省やマンション管理センターの公式情報を元に解説します。
管理組合の理事として、認定取得の判断材料を得ることができます。
この記事のポイント
- マンション管理計画認定制度は、マンション管理適正化法に基づき管理計画が一定基準を満たすマンションを自治体が認定する制度
- 認定基準は16項目あり、修繕積立金滞納者が1割以内、長期修繕計画が30年以上等の要件がある
- フラット35金利0.25%引下げ、固定資産税減額、市場評価向上などのメリットがある
- 申請には管理組合総会の決議が必要で、マンション管理センターの電子システムで手続き可能
- 認定の有効期間は5年で更新が必要
(1) 管理計画認定制度の定義
マンション管理計画認定制度とは、マンション管理適正化法に基づき、管理計画が一定の基準を満たすマンションを地方公共団体(都道府県・市区町村)が認定する制度です。
2022年4月に施行された比較的新しい制度で、マンションの適正な管理を促進し、建物の長寿命化を図ることを目的としています。
認定を受けたマンションは、税制優遇や住宅ローン金利優遇などのメリットを得られる仕組みです。
(2) 制度開始の時期と普及状況(2024年7月時点961棟)
制度は2022年4月に開始されました。国土交通省によると、2024年7月時点で全国961棟のマンションが認定を受けています。
全国のマンション総数と比較すると約1%未満と、制度はまだ普及途上にあります。
認定マンションの一覧は、国土交通省のマンション管理・再生ポータルサイトで公表されており、所在地や認定日などで検索可能です。
(3) 管理適正評価制度との違い
マンション管理計画認定制度とよく混同されるのが、マンション管理適正評価制度です。両者の違いは以下の通りです。
| 項目 | 管理計画認定制度 | 管理適正評価制度 |
|---|---|---|
| 実施主体 | 地方公共団体(行政) | マンション管理業協会(業界団体) |
| 法的根拠 | マンション管理適正化法 | 業界の自主的な取り組み |
| 評価方法 | 認定・非認定の2区分 | 星評価(1〜5つ星) |
| メリット | 税制優遇、住宅ローン優遇 | 市場での信頼性向上 |
認定制度は行政による公的な認定で法的な優遇措置があり、評価制度は業界団体による自主評価という違いがあります。
制度創設の背景とマンション管理適正化法
(1) 老朽マンション問題と管理不全の増加
日本では、築40年超のマンションが2023年末時点で約126万戸あり、今後も増加が見込まれています。
老朽化したマンションの中には、修繕積立金の不足、長期修繕計画の未策定、管理組合の機能不全などの問題を抱えるケースが増加しており、建物の適正な維持管理が社会的な課題となっています。
管理不全のマンションは、スラム化や周辺環境への悪影響をもたらすリスクがあります。
(2) 2020年のマンション管理適正化法改正
国土交通省は、こうした問題に対応するため、2020年にマンション管理適正化法を改正しました。
改正の主な内容は以下の通りです。
- 地方公共団体による管理計画認定制度の創設
- 管理組合への助言・指導・勧告の権限付与
- マンション管理適正化推進計画の策定
これにより、自治体が積極的にマンション管理に関与し、適正な管理を促す仕組みが整備されました。
(3) 適正な管理体制の重要性
マンションの資産価値を維持するには、計画的な修繕と適切な管理組合運営が不可欠です。
特に、修繕積立金の適正な徴収、長期修繕計画の定期的な見直し、管理規約の整備などが重要とされています。
認定制度は、こうした管理体制が一定水準以上にあることを行政が認定することで、マンション管理の質を担保する役割を果たします。
認定基準の16項目と要件
国土交通省によると、認定基準は16項目から構成されています。主な要件を以下に示します。
(1) 修繕積立金の要件(滞納者1割以内)
修繕積立金に関する主な要件は以下の通りです。
- 滞納者の割合: 全居住者の1割以内であること
- 積立金の金額: 長期修繕計画に基づき適切に積み立てられていること
- 段階増額方式の場合: 2024年6月改定のガイドラインにより、新築時は基準額の0.6倍以上、最終段階で1.1倍以内と規定
修繕積立金は将来の大規模修繕工事の資金源であり、適切な積立が認定の重要な要素です。
(2) 長期修繕計画の要件(30年以上・大規模修繕2回以上)
長期修繕計画に関する要件は以下の通りです。
- 計画期間: 30年以上であること
- 大規模修繕の回数: 計画期間内に2回以上の大規模修繕工事を含むこと
- 見直し頻度: 7年以内ごとに見直しを行うこと
- 専門家の関与: 建築士等の専門家が作成または確認していること
長期修繕計画は、マンションの計画的な維持管理の根幹となる文書です。
(3) その他の管理体制要件
その他の主な認定基準は以下の通りです。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 管理組合の運営 | 管理者が設置されていること |
| 総会の開催 | 年1回以上の通常総会を開催していること |
| 管理規約 | 標準管理規約に準拠した規約を定めていること |
| 管理費の区分経理 | 管理費と修繕積立金を明確に区分していること |
| 専有部分の修繕 | 専有部分の修繕等の履歴情報を管理していること |
(出典: 国土交通省)
認定を受けるメリット(税制優遇・住宅ローン優遇)
(1) フラット35金利0.25%引下げ(フラット50も利用可能)
認定マンションを購入する場合、住宅金融支援機構のフラット35(長期固定金利住宅ローン)の金利が0.25%引き下げられます。
例えば、3,000万円を35年ローンで借りる場合、金利1.8%と1.55%では総返済額に約150万円の差が生じます。
さらに、2025年10月からは、返済期間最長50年のフラット50も利用可能になる予定です。
(2) 固定資産税の減額措置(マンション長寿命化促進税制)
マンション長寿命化促進税制により、以下の要件を満たす場合に固定資産税が減額されます。
要件:
- 認定を受けたマンションであること
- 築20年以上かつ10戸以上であること
- 長寿命化工事(外壁塗装、屋上防水等)を実施すること
減額内容:
- 工事翌年度の固定資産税を1/3〜1/2に減額
- 減額割合は自治体により異なる(所在地の自治体に要確認)
この措置により、大規模修繕時の区分所有者の負担を軽減できる可能性があります。
(3) 市場評価の向上と流動性改善
認定マンションは、適正な管理体制が公的に保証されているため、中古市場での評価が高まる可能性があります。
売買時には、認定を受けていることが購入検討者へのアピールポイントとなり、成約率の向上や売却価格の上昇につながることが期待されます。
ただし、制度開始から日が浅く、市場への影響は今後の動向を見守る必要があります。
申請の流れと手続き
(1) 管理組合総会での決議
認定申請には、管理組合総会での決議が必要です。
標準管理規約に準拠している場合、出席組合員の1/2の賛成で決議可能です。
総会では、認定申請の可否、費用負担、申請手続きの委任先(管理会社やマンション管理士等)について審議します。
(2) 事前確認とマンション管理センターの電子システム
マンション管理センターが提供する管理計画認定手続支援サービスを利用すると、以下のメリットがあります。
- 事前確認: マンション管理士が認定基準への適合を事前にチェックし、適合証を発行
- 電子システム: オンラインで事前確認と認定申請が完結し、申請書が自動生成される
- 申請の効率化: 紙ベースの手続きに比べて大幅に時間短縮
事前確認により、認定基準を満たしていない場合は申請前に対応策を検討できます。
(3) 自治体への申請と費用(登録料5,500円等)
事前確認を経て、所在地の自治体(都道府県または市区町村)に申請します。
申請に必要な費用:
- 登録料: 5,500円(税込)
- 事前確認手数料: マンション管理センターのサービス利用時に発生
- 自治体への申請手数料: 自治体により異なる(無料〜数万円)
申請から認定までの期間は、総会決議→事前確認→自治体申請で数か月程度が目安です。
認定の有効期間は5年で、継続的な管理体制の維持が必要です。更新時には再度申請手続きが必要になります。
まとめ:認定取得の判断ポイント
マンション管理計画認定制度は、適正な管理体制を公的に認定し、税制優遇や住宅ローン優遇などのメリットを得られる制度です。認定基準は16項目あり、修繕積立金や長期修繕計画の要件を満たす必要があります。
認定取得にはメリットがある一方、申請・更新の費用と事務負担も発生します。管理組合内で十分に議論し、マンションの状況に応じて判断することが重要です。
認定基準を満たしていない場合は、長期修繕計画の見直しや修繕積立金の適正化など、基準への適合対応を検討してください。マンション管理士や管理会社など、専門家への相談を推奨します。
