土地の評価額とは?一物五価の基本を理解する
土地の売却、相続、固定資産税の支払いなどを検討する際、「土地の評価額はどのように調べるのか」「どの評価額を使えばいいのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。
この記事では、土地の評価額を調べる5つの方法、それぞれの調べ方と計算方法、目的別の使い分けを、国税庁・国土交通省の公式情報を元に解説します。
この記事のポイント
- 土地には「一物五価」と呼ばれる5つの評価額が存在(公示地価、基準地価、路線価、固定資産税評価額、実勢価格)
- 路線価は国税庁サイト、公示地価は国土交通省サイトで無料で閲覧可能
- 固定資産税評価額は毎年4月頃の納税通知書で確認できる
- 相続税は路線価、固定資産税は固定資産税評価額を使用
- 評価額と実際の売却価格(実勢価格)は異なる
(1) 一物五価とは何か
「一物五価」とは、1つの土地に5つの異なる評価額が存在することを指します。
5つの評価額:
- 公示地価(公示価格): 国土交通省が公表(毎年3月)
- 基準地価: 都道府県が公表(毎年9月)
- 相続税路線価: 国税庁が公表(毎年7月)
- 固定資産税評価額: 市町村が評価(3年ごと更新)
- 実勢価格: 実際の取引価格
これらは発表主体、評価日、目的が異なるため、同じ土地でも評価額が異なります。
(2) 評価額と実勢価格の違い
評価額: 税金計算や公的な基準として使用される価格 実勢価格: 実際の不動産取引で成立した価格
評価額は公的機関が一定のルールで算出するため、市場の需給バランスを完全には反映しません。一般的に、実勢価格が最も高く、公示地価がその次、路線価・固定資産税評価額は公示地価より低く設定されます。
目安の関係:
- 公示地価: 100%
- 路線価: 約80%
- 固定資産税評価額: 約70%
- 実勢価格: 地域・需要により変動
この関係を理解しておくと、目的に応じた評価額の選択がスムーズになります。
5つの土地評価額の違いと用途
それぞれの評価額の特徴と用途を詳しく見ていきましょう。
(1) 公示地価(国土交通省・毎年3月公表)
公示地価は、国土交通省が毎年1月1日時点で評価し、3月下旬に公表する土地価格です。
特徴:
- 調査地点: 全国約26,000地点(標準地)
- 評価者: 2名以上の不動産鑑定士
- 公表時期: 毎年3月下旬
用途:
- 公共事業の用地買収価格の基準
- 一般の土地取引の指標
- 他の評価額の基準
(2) 基準地価(都道府県・毎年9月公表)
基準地価は、都道府県が毎年7月1日時点で評価し、9月下旬に公表する土地価格です。
特徴:
- 調査地点: 全国約21,000地点(基準地)
- 評価者: 1名以上の不動産鑑定士
- 公表時期: 毎年9月下旬
用途:
- 公示地価の補完(半年ごとの地価動向把握)
- 都道府県の土地取引の指標
公示地価と基準地価を比較すると、半年ごとの地価変動を把握できます。
(3) 相続税路線価(公示地価の約80%)
相続税路線価は、相続税・贈与税の計算に使用される評価額です。
特徴:
- 発表主体: 国税庁
- 評価日: 毎年1月1日時点
- 公表時期: 毎年7月1日
- 水準: 公示地価の約80%
用途:
- 相続税の計算
- 贈与税の計算
路線価は道路に面した宅地1㎡あたりの価格で表示されます。詳しい調べ方は後述します。
(4) 固定資産税評価額(公示地価の約70%)
固定資産税評価額は、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税の計算基準となる評価額です。
特徴:
- 評価主体: 市町村(東京23区は都)
- 評価時期: 3年ごと(基準年度)
- 水準: 公示地価の約70%
用途:
- 固定資産税の計算
- 都市計画税の計算
- 不動産取得税の計算
- 登録免許税の計算
毎年4月頃に送付される納税通知書で確認できます。
(5) 実勢価格(実際の取引価格)
実勢価格は、実際の不動産取引で成立した価格です。
特徴:
- 市場の需給バランスで決まる
- 地域・物件・タイミングで大きく変動
- 公的な基準価格より高い場合が多い
用途:
- 土地の売却・購入時の価格判断
- 市場価値の把握
国土交通省の「土地総合情報システム」で過去の取引事例を閲覧できます。
路線価の調べ方と計算方法
相続税・贈与税の計算に必要な路線価の調べ方と計算方法を解説します。
(1) 国税庁「路線価図・評価倍率表」の使い方
国税庁の「路線価図・評価倍率表」で路線価を調べることができます。
調べ方:
- 国税庁「路線価図・評価倍率表」にアクセス
- 年分を選択(最新は令和6年分・2024年)
- 都道府県を選択
- 市区町村を選択
- 該当する路線価図を表示
- 対象の道路に記載された路線価を確認
路線価図には、道路ごとに「300D」のような記載があります。これは「1㎡あたり300千円(30万円)」で、「D」は借地権割合を示します。
(2) 路線価方式の計算手順
路線価が設定されている地域では、以下の計算式で土地評価額を算出します。
基本計算式:
土地評価額 = 路線価 × 奥行価格補正率 × 土地面積
国税庁「路線価方式による宅地の評価」によると、奥行価格補正率は土地の奥行距離に応じて国税庁が定める係数です。
計算例:
- 路線価: 30万円/㎡
- 土地面積: 100㎡
- 奥行価格補正率: 1.00(標準的な奥行の場合)
30万円 × 1.00 × 100㎡ = 3,000万円
角地や不整形地の場合: 側方路線影響加算率や不整形地補正率を適用する必要があり、計算が複雑になります。詳細は税理士への相談をおすすめします。
(3) 倍率方式(路線価がない地域)
路線価が設定されていない地域では、「倍率方式」を使用します。
計算式:
土地評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率
評価倍率は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」の「評価倍率表」で確認できます。
計算例:
- 固定資産税評価額: 1,500万円
- 評価倍率: 1.1倍
1,500万円 × 1.1 = 1,650万円
固定資産税評価額の調べ方
固定資産税評価額は、以下の3つの方法で確認できます。
(1) 納税通知書の課税明細書を確認
最も簡単な方法は、毎年4月頃に市町村から送付される固定資産税の納税通知書を確認することです。
確認手順:
- 納税通知書を開く
- 添付されている「課税明細書」を探す
- 土地の欄を確認
- 「評価額」または「価格」の列に記載された金額が固定資産税評価額
納税通知書は毎年保管しておくことをおすすめします。
(2) 固定資産課税台帳の閲覧
納税通知書を紛失した場合、市町村役場で固定資産課税台帳を閲覧できます。
閲覧方法:
- 市町村役場の固定資産税担当窓口へ
- 本人確認書類(運転免許証等)を提示
- 固定資産課税台帳の閲覧を申請
- 評価額を確認
所有者本人または相続人、委任を受けた代理人が閲覧可能です。
(3) 評価証明書の取得方法
正式な証明が必要な場合(相続手続き等)は、評価証明書を取得します。
取得方法:
- 市町村役場の固定資産税担当窓口へ
- 評価証明書交付申請書を記入
- 本人確認書類と手数料(300-400円程度)を提示
- 評価証明書を受け取る
郵送やオンラインで取得できる自治体もあります。
公示地価・基準地価・実勢価格の調べ方
公示地価、基準地価、実勢価格は、公的サイトで無料で閲覧できます。
(1) 国土交通省「地価公示」の検索方法
国土交通省の「標準地・基準地検索システム」で公示地価と基準地価を調べられます。
検索方法:
- 国土交通省「標準地・基準地検索システム」にアクセス
- 都道府県、市区町村を選択
- 該当地域の標準地・基準地の一覧を表示
- 最も近い地点の価格を確認
公示地価と基準地価は「標準地」「基準地」という特定の地点の価格であり、自分の土地と完全に一致するわけではありません。近隣の地点を参考にしてください。
(2) 全国地価マップの活用
全国地価マップは、固定資産税評価額、路線価、公示地価、基準地価を一括で閲覧できる便利なサイトです。
使い方:
- 全国地価マップにアクセス
- 調べたい評価額の種類を選択(固定資産税評価額、路線価等)
- 地図上で該当の住所を検索
- 地図上に表示された価格を確認
複数の評価額を比較する際に便利です。
(3) 土地総合情報システムで実勢価格を確認
国土交通省の「土地総合情報システム」で、過去の実際の取引価格を確認できます。
検索方法:
- 土地総合情報システムにアクセス
- 「不動産取引価格情報検索」を選択
- 都道府県、市区町村、取引時期を選択
- 該当地域の取引事例一覧を表示
- 近隣の類似物件の取引価格を参考にする
アンケート調査に基づくため、すべての取引が掲載されているわけではありませんが、市場価格の目安を把握できます。
まとめ:目的別の評価額の使い分け
土地の評価額には5つの種類があり、目的によって使い分ける必要があります。
目的別の評価額:
| 目的 | 使用する評価額 | 調べ方 |
|---|---|---|
| 相続税・贈与税の計算 | 相続税路線価 | 国税庁「路線価図・評価倍率表」 |
| 固定資産税の確認 | 固定資産税評価額 | 納税通知書の課税明細書 |
| 土地の売却価格の目安 | 実勢価格 | 土地総合情報システム |
| 地価動向の把握 | 公示地価、基準地価 | 国土交通省「標準地・基準地検索システム」 |
| 公共事業の用地買収 | 公示地価 | 国土交通省「標準地・基準地検索システム」 |
重要なポイント:
- 路線価は公示地価の約80%、固定資産税評価額は約70%が目安
- 評価額と実際の売却価格(実勢価格)は異なる
- 相続税や固定資産税の計算には専門家(税理士)への相談を推奨
- 角地や不整形地など複雑な土地の評価は不動産鑑定士の助言が有用
土地の評価額を正しく理解し、目的に応じた評価方法を選ぶことで、相続・売却・税金の計算をスムーズに進めることができます。不明な点があれば、税理士や不動産会社に相談しましょう。
