土地の謄本(登記事項証明書)とは:基礎知識と必要な場面
土地の売買、相続、融資などの手続きでは、「土地の謄本(登記事項証明書)」の取得が必要になります。謄本には土地の権利関係や物理的情報が記載されており、不動産取引の重要な資料です。
この記事では、土地の謄本の基礎知識、取得方法、見方、確認すべきポイントを、法務局の公式情報を元に解説します。
この記事のポイント
- 「登記簿謄本」と「登記事項証明書」は内容が同じで、現在は「登記事項証明書」が正式名称
- 所有者以外でも地番が分かれば誰でも取得可能で、手数料はオンライン+窓口受取で480円、法務局窓口で600円(2025年時点)
- 謄本は表題部(物理的情報)、権利部甲区(所有権)、権利部乙区(抵当権等)の3部構成で、下線付き情報は現在無効
- 地番と住居表示(住所)は異なる場合があり、取得には地番が必要
- 重要取引では登記内容の確認に加え、司法書士等の専門家への相談を推奨
(1) 登記簿謄本と登記事項証明書の違い:正式名称の変遷
「登記簿謄本(とうきぼとうほん)」と「登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ)」は、内容が同じです。現在は「登記事項証明書」が正式名称ですが、一般的には「謄本」と呼ばれています。
名称の変遷
| 時期 | 名称 | 備考 |
|---|---|---|
| 過去 | 登記簿謄本 | 登記簿の写し(コピー)を意味する旧名称 |
| 2025年時点 | 登記事項証明書 | 法務局が使用する正式名称 |
本記事では、一般的な呼称に従い「謄本」と表記します。
(2) 土地謄本が必要な場面:売買・相続・担保設定時の権利関係確認
土地の謄本は、以下のような場面で必要になります。
主な利用場面
- 不動産の売買:売主が本当に所有者か、抵当権が設定されているかを確認
- 相続手続き:被相続人が所有していた土地の確認、相続登記の準備
- 住宅ローン申請:金融機関が担保物件の権利関係を確認
- 境界確認・測量:隣地との境界トラブル時に所有者を特定
- 現在の所有者確認:空き地等の所有者を調べる
(3) 誰でも取得できるか:所有者以外でも地番が分かれば取得可能
土地の謄本は、所有者以外でも取得できます。不動産の地番または家屋番号が分かれば、誰でも法務局で取得可能です。
取得に必要な情報
- 土地の地番:登記上の番号(住居表示とは異なる場合がある)
- 身分証明書:窓口で請求する場合(本人確認のため)
取得できる人
- 土地の所有者本人
- 不動産会社(売買の仲介時)
- 司法書士(登記手続きの代理)
- 金融機関(住宅ローン審査時)
- 第三者(地番が分かれば誰でも)
土地謄本の取得方法:オンライン・窓口・郵送の手順と手数料
土地の謄本は、オンライン請求、法務局窓口、郵送の3つの方法で取得できます。それぞれの手順と手数料を比較しましょう。
(1) オンライン請求+窓口受取:最も安価(480円)で24時間申請可能
法務局のオンライン請求システムを利用すると、最も安価に取得できます。
手順
- 法務局の「登記・供託オンライン申請システム」にアクセス
- 申請者情報登録(初回のみ)
- 土地の地番を入力して検索
- 受取方法を選択(窓口受取または郵送)
- クレジットカードまたはインターネットバンキングで支払い
- 窓口または郵送で受取
手数料(2025年時点)
| 受取方法 | 手数料 | 受取までの時間 |
|---|---|---|
| オンライン請求+窓口受取 | 480円 | 申請翌日以降 |
| オンライン請求+郵送 | 500円 | 申請後3-5日程度 |
受付時間
- 平日8:30-21:00:当日受付
- 土日祝・夜間:翌営業日受付
(2) 法務局窓口での直接請求:600円で10~15分程度で取得
全国どこの法務局でも、管轄外の不動産の謄本を取得できます。
手順
- 最寄りの法務局に来庁
- 備え付けの「登記事項証明書交付申請書」に記入
- 土地の地番、必要な証明書の種類(全部事項証明書等)を記載
- 窓口に提出し、手数料600円を支払い(収入印紙または現金)
- 10~15分程度で受取(書類不備がない場合)
手数料
- 法務局窓口:600円/1通
メリット
- 即日で取得できる(急ぎの場合に最適)
- 職員に相談しながら申請できる
(3) 郵送請求:全国どこの法務局でも取得可能、郵送に数日必要
郵送で請求する場合は、以下の手順で行います。
手順
- 法務局のホームページから「登記事項証明書交付申請書」をダウンロード
- 申請書に必要事項を記入(土地の地番、証明書の種類等)
- 返信用封筒(切手貼付)と収入印紙(600円分)を同封
- 法務局に郵送
- 3-5日程度で返送
手数料
- 郵送請求:600円/1通 + 郵送料
(4) 全部事項証明書と現在事項証明書の違い
謄本には以下の種類があります。
証明書の種類
| 種類 | 内容 | 用途 |
|---|---|---|
| 全部事項証明書 | 登記簿に記録された全ての事項(過去の抹消された情報を含む) | 最も一般的、売買・相続等で使用 |
| 現在事項証明書 | 現在有効な登記事項のみ | 抹消された情報は不要な場合 |
通常は「全部事項証明書」を取得することを推奨します。
土地謄本の見方:表題部・権利部甲区・乙区の読み方
土地の謄本は、表題部、権利部甲区、権利部乙区の3部構成になっています。
(1) 表題部:土地の所在地・地番・地目・地籍等の物理的情報
表題部には、土地の物理的な情報が記載されています。
表題部の主な記載内容
| 項目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 所在 | 土地がある場所 | 東京都渋谷区神宮前一丁目 |
| 地番 | 登記上の番号 | 123番4 |
| 地目(ちもく) | 土地の用途分類(23種類) | 宅地、田、畑、山林、雑種地等 |
| 地籍(ちせき) | 土地の面積 | 150.50㎡ |
地目の主な分類
- 宅地:建物の敷地
- 田:農耕地で用水を利用
- 畑:農耕地で用水を利用しない
- 山林:森林
- 雑種地:上記以外の土地(駐車場、資材置き場等)
(2) 権利部甲区:所有権に関する事項(所有者名・住所・取得原因)
権利部甲区には、所有権に関する情報が記載されています。
権利部甲区の主な記載内容
| 項目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 所有者名 | 現在の所有者の氏名 | 山田太郎 |
| 住所 | 所有者の住所 | 東京都渋谷区神宮前一丁目1番1号 |
| 取得原因 | 所有権を取得した理由 | 売買、相続、贈与等 |
| 取得日 | 所有権を取得した日 | 令和5年4月1日 |
取得原因の例
- 売買:不動産会社または個人から購入
- 相続:被相続人から相続
- 贈与:親族等から無償譲渡
(3) 権利部乙区:所有権以外の権利(抵当権・地上権等)
権利部乙区には、所有権以外の権利が記載されています。
権利部乙区の主な記載内容
| 項目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 抵当権(ていとうけん) | 住宅ローン等の担保設定 | 〇〇銀行、債権額3,000万円 |
| 地上権(ちじょうけん) | 他人の土地を使用する権利 | 借地権等 |
| 地役権(ちえきけん) | 隣地を通行する権利等 | 通行地役権 |
抵当権の確認ポイント
- 債権者:借入先の金融機関名
- 債権額:借入金額
- 抹消の有無:借入金完済後は抹消登記が必要(下線がない場合は現在有効)
(4) 下線の意味:現在無効・抹消された情報の表示
登記簿謄本では、抹消された情報に下線が引かれます。
下線の意味
- 下線あり:過去に存在したが、現在は無効・抹消された情報
- 下線なし:現在有効な情報
例:抵当権の抹消
- 住宅ローン完済前:抵当権の記載(下線なし)
- 住宅ローン完済後:抵当権の記載(下線あり)
下線付き情報を見落とすと、「抵当権が残っている」と誤解する可能性があるため、注意が必要です。
地番と住居表示の違い:取得前に確認すべきポイント
土地の謄本を取得する際、「地番」と「住居表示(住所)」の違いに注意が必要です。
(1) 地番と住居表示(住所)は異なる場合がある
地番と**住居表示(住所)**は、多くの場合異なります。
違いの例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住居表示(住所) | 東京都渋谷区神宮前1丁目1番1号 |
| 地番 | 東京都渋谷区神宮前一丁目123番4 |
理由
- 住居表示:郵便配達や住所表示のために整備された番号
- 地番:土地の登記上の番号(明治時代から使用されている)
(2) 地番の調べ方:法務局ホームページ・窓口で確認
地番が分からない場合は、以下の方法で調べられます。
地番の調べ方
| 方法 | 詳細 |
|---|---|
| 法務局ホームページ | 「地番検索サービス」で検索(一部地域のみ対応) |
| 法務局窓口 | 住所を伝えて地番を教えてもらう(無料) |
| 固定資産税納税通知書 | 地番が記載されている場合がある |
| 不動産会社 | 売買契約書に地番が記載されている |
(3) 住所で検索しても取得できない理由
法務局のオンライン請求システムでは、「地番」で検索するため、住居表示(住所)で検索しても該当する土地が見つかりません。
対処法
- 事前に法務局で地番を確認
- 固定資産税納税通知書または売買契約書で地番を確認
土地謄本で確認すべき重要事項:所有権・抵当権・地目・地積
土地の謄本を取得したら、以下のポイントを確認しましょう。
(1) 所有権の確認:現在の所有者名・住所・取得原因
権利部甲区で、以下を確認します。
確認ポイント
- 現在の所有者名:売買の相手が本当に所有者か
- 取得原因:売買、相続、贈与のいずれか
- 取得日:いつ所有権を取得したか
不動産売買での注意点
- 売主が謄本上の所有者と一致しているか
- 共有名義の場合、全員の同意が必要
(2) 抵当権の確認:住宅ローン等の担保設定の有無
権利部乙区で、抵当権の有無を確認します。
確認ポイント
- 抵当権の記載:下線がない場合は現在有効
- 債権者:どこの金融機関に借入があるか
- 債権額:借入金額
不動産売買での注意点
- 売主が抵当権を抹消してから引渡し(通常は同時決済)
- 抵当権が残ったままだと、買主が競売リスクを負う
(3) 地目の確認:宅地・田・畑・山林等の用途分類(23種類)
表題部で、地目を確認します。
確認ポイント
- 宅地:建物を建てる場合は宅地であることを確認
- 田・畑:農地法の制限がかかる場合がある(転用には許可が必要)
- 雑種地:用途が明確でない土地(駐車場、資材置き場等)
不動産購入での注意点
- 地目が「田」「畑」の場合、農地転用の許可が必要
- 地目変更登記が必要な場合、手続きに時間がかかる
(4) 地籍の確認:土地の面積(平方メートル表示)
表題部で、地籍(土地の面積)を確認します。
確認ポイント
- 登記上の面積:実際の面積と一致しているか(測量が古い場合、誤差がある可能性)
- 隣地との境界:境界確定測量が必要な場合がある
不動産売買での注意点
- 実測面積と登記面積に差がある場合、売買価格の精算が必要な場合がある
- 境界が未確定の場合、測量を行ってから契約
まとめ:土地謄本を正確に理解するために
土地の謄本(登記事項証明書)は、土地の権利関係や物理的情報を記録した重要書類です。所有者以外でも地番が分かれば誰でも取得でき、手数料はオンライン+窓口受取で480円、法務局窓口で600円です(2025年時点)。
謄本は表題部(物理的情報)、権利部甲区(所有権)、権利部乙区(抵当権等)の3部構成で、下線付き情報は現在無効であることを示します。地番と住居表示(住所)は異なる場合があるため、取得前に法務局で地番を確認しましょう。
不動産売買や相続では、所有権、抵当権、地目、地積を必ず確認してください。重要な取引の際は、登記内容の確認に加え、司法書士や宅地建物取引士等の専門家に相談することを推奨します。
正確な謄本の読み方を理解し、安全な不動産取引を実現しましょう。
