土地の値段が複雑な理由(一物四価とは)
土地の売却や購入を検討する際、公示地価、路線価、固定資産税評価額など、複数の価格が存在することに混乱する方は少なくありません。
この記事では、土地の値段の決まり方、4つの価格の違い、調べ方、相場の見極め方を、国土交通省や国税庁の公式情報を元に実務的に解説します。
初めて土地取引に関わる方でも、適正価格を理解し、賢く売買できるようになります。
この記事のポイント
- 土地には「一物四価」という4つの異なる価格がある(公示地価、路線価、固定資産税評価額、実勢価格)
- 実勢価格は公示地価の約1.1〜1.2倍で計算できる
- 国土交通省の不動産情報ライブラリで公示地価と実際の取引価格を無料で検索可能
- 土地価格は立地・面積・形状・用途地域・接道状況の5つの要因で決まる
- 売却期間は約3ヶ月、購入時は契約から引き渡しまで2〜3ヶ月が目安
同じ土地に4つの異なる価格が存在する理由
土地には、目的に応じて異なる4つの価格が設定されています。これを「一物四価」と呼びます。
| 価格の種類 | 発表機関 | 目的 | 公示地価との関係 |
|---|---|---|---|
| 公示地価 | 国土交通省 | 土地取引の目安 | 基準(100%) |
| 路線価 | 国税庁 | 相続税・贈与税の計算 | 約80% |
| 固定資産税評価額 | 市町村 | 固定資産税の課税基準 | 約70% |
| 実勢価格 | 市場 | 実際の売買価格 | 約110〜120% |
このように、同じ土地でも用途によって価格が異なるため、初めて土地取引を行う方は混乱しがちです。
それぞれの価格の目的と使い分け
それぞれの価格は、以下のような場面で使い分けられます。
- 公示地価: 土地取引の目安、適正価格の判断材料
- 路線価: 相続税・贈与税の申告時の評価額
- 固定資産税評価額: 固定資産税・都市計画税の計算
- 実勢価格: 実際に土地を売買する際の価格設定
売買時にどの価格を参考にすべきか
土地を売却・購入する際は、実勢価格を参考にします。実勢価格は市場で実際に取引される価格で、公示地価の約1.1〜1.2倍が目安です。
公示地価は土地取引の「指標」として公表されていますが、実際の売買では需給バランスや立地条件により価格が変動するため、実勢価格の方が実態に近い価格となります。
土地価格の4つの種類と特徴(公示地価・路線価・固定資産税評価額・実勢価格)
公示地価(国土交通省・毎年3月発表)
公示地価とは、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年3月に発表する標準地の評価額です。全国約26,000地点の標準地について、毎年1月1日時点の1㎡あたりの価格を公表します。
特徴:
- 土地取引の目安として公表
- 不動産鑑定士が評価
- 毎年3月下旬に発表
- 一般の土地取引、公共事業の用地買収の基準となる
基準地価(都道府県・毎年9月発表)
基準地価は、都道府県が毎年9月に発表する基準地の評価額です。公示地価と同様に、土地取引の目安として公表されます。
特徴:
- 公示地価と補完関係(公示地価の対象外地域をカバー)
- 毎年7月1日時点の評価額
- 毎年9月下旬に発表
路線価(国税庁・毎年7月発表・公示地価の約80%)
路線価とは、相続税・贈与税の計算基準となる土地評価額です。国税庁が毎年7月に発表し、主要な道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価格を示します。
特徴:
- 公示地価の約80%の水準
- 相続税・贈与税の申告時に使用
- 国税庁の路線価図で検索可能
- 毎年1月1日時点の評価額を7月に公表
固定資産税評価額(市町村・3年ごと見直し・公示地価の約70%)
固定資産税評価額とは、固定資産税の課税基準となる評価額です。市町村が3年ごとに見直しを行います。
特徴:
- 公示地価の約70%の水準
- 固定資産税・都市計画税の計算に使用
- 固定資産税納税通知書で確認可能
- 3年ごとの評価替え(次回は2027年)
実勢価格(市場価格・公示地価の約1.1〜1.2倍)
実勢価格とは、実際に土地が売買される際の市場価格です。公示地価の約1.1〜1.2倍が目安とされます。
特徴:
- 実際の売買で使われる価格
- 需給バランスにより変動
- 立地条件・形状等の個別要因で大きく変わる
- 不動産情報ライブラリで実際の取引価格を検索可能
土地価格を決める5つの要因(立地・面積・形状・用途地域・接道状況)
土地の値段は、以下の5つの要因によって決まります。
立地(駅距離・商業施設・学区等)
土地価格を最も左右するのが立地です。駅からの距離、商業施設や学校へのアクセス、治安、周辺環境などが価格に影響します。
高評価される立地の例:
- 主要駅から徒歩10分以内
- スーパー・病院等の生活利便施設が近い
- 人気学区内
- 静かな住宅街
- 日当たり・眺望が良い
面積(広すぎず狭すぎない土地が人気)
土地の面積も価格に影響します。一般的には、広すぎず狭すぎない、標準的な広さの土地が人気です。
標準的な広さの目安:
- 戸建て住宅用地: 100〜150㎡(約30〜45坪)
- 狭小地: 50㎡以下(約15坪以下)
- 広すぎる土地: 300㎡以上(約90坪以上)
広すぎる土地は価格が高額になるため、買い手が限られます。逆に狭すぎる土地は、建築制限により建物の規模が制限されるため、価格が下がる傾向にあります。
形状(整形地・不整形地の価格差)
土地の形状も価格に影響します。正方形や長方形に近い「整形地」は、建物を建てやすく、価格が高くなります。
価格に影響する形状:
- 整形地: 正方形・長方形に近い土地(高評価)
- 不整形地: 三角形・台形・旗竿地等(評価が下がる)
- 間口: 道路に接する幅が広い方が高評価
- 奥行: 奥行が深すぎると評価が下がる
用途地域(住居系・商業系・工業系)
土地の用途地域も価格に影響します。用途地域とは、都市計画法に基づく土地利用の制限で、13種類に分類されます。
| 用途地域の種類 | 特徴 | 価格への影響 |
|---|---|---|
| 第一種低層住居専用地域 | 低層住宅の良好な環境を保護 | 住宅用地として高評価 |
| 商業地域 | 商業施設の立地を促進 | 商業用地として高評価 |
| 工業専用地域 | 工業の利便を図る | 住宅は建築不可 |
住宅を建てる場合は、住居系の用途地域が高評価されます。逆に、工業地域や準工業地域は、騒音や臭気の懸念があるため、住宅用地としての評価は低くなります。
接道状況(道路に接する幅員・方角)
土地が接する道路の状況も価格に影響します。建築基準法では、原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していないと建物を建てられません。
価格に影響する接道条件:
- 接道幅員: 道路の幅が広い方が高評価(4m以上推奨)
- 接道長さ: 道路に接する間口が広い方が高評価(2m以上必須)
- 角地: 2方向の道路に接する土地は高評価
- 方角: 南側に道路がある土地は日当たりが良く高評価
接道条件を満たさない土地は「再建築不可」となり、大幅に価格が下がります。
土地の値段の調べ方(公的データと実勢価格の推定方法)
国土交通省「不動産情報ライブラリ」で公示地価を検索
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、公示地価と実際の取引価格を無料で検索できます。
検索手順:
- 不動産情報ライブラリにアクセス
- 「地価公示」または「取引価格情報」を選択
- 都道府県・市区町村を選択して検索
- 該当地域の公示地価または取引価格を確認
公示地価は標準地の価格なので、実際の土地とは条件が異なる場合があります。複数の標準地を参考に、平均的な価格を把握することを推奨します。
国税庁「路線価図」で路線価を確認
国税庁の路線価図では、相続税・贈与税の計算に使用する路線価を確認できます。
検索手順:
- 路線価図にアクセス
- 都道府県・市区町村を選択
- 該当地域の地図で路線価を確認(道路ごとに千円単位で表示)
- 路線価 × 1.25 = 公示地価の概算
路線価は公示地価の約80%の水準なので、1.25倍にすると公示地価に近い価格が推定できます。
SUUMO・HOME'S等のポータルサイトで実勢価格を調査
不動産ポータルサイトでは、実際に売り出されている土地の価格を調査できます。
主要なポータルサイト:
- SUUMO(スーモ)
- HOME'S(ホームズ)
- アットホーム
希望する地域の土地を検索し、面積や立地条件が似た物件の価格を比較することで、実勢価格の相場を把握できます。
公示地価から実勢価格を推定(1.1〜1.2倍)
公示地価が分かれば、実勢価格を推定できます。一般的には、公示地価の1.1〜1.2倍が実勢価格の目安とされます。
計算例:
- 公示地価: 20万円/㎡
- 実勢価格の推定: 20万円 × 1.1〜1.2 = 22万円〜24万円/㎡
- 100㎡の土地の場合: 2,200万円〜2,400万円
ただし、実勢価格は立地条件や需給バランスにより変動するため、あくまで目安として扱い、複数の情報源を参考にすることを推奨します。
土地売却・購入時の価格設定と注意点
土地売却の流れと期間(約3ヶ月が目安)
土地の売却は、以下の流れで進みます。
| ステップ | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 1. 相談・査定 | 不動産会社に査定を依頼 | 1〜2週間 |
| 2. 媒介契約 | 専属専任・専任・一般のいずれかを選択 | 1日 |
| 3. 販売活動 | 広告掲載、内覧対応 | 1〜3ヶ月 |
| 4. 売買契約 | 買主と契約締結、手付金受領 | 1日 |
| 5. 決済・引き渡し | 残代金受領、所有権移転登記 | 1〜2ヶ月後 |
売却期間は約3ヶ月が一般的ですが、立地条件や価格設定により変動します。
土地購入の流れと期間(契約から引き渡しまで2〜3ヶ月)
土地の購入は、以下の流れで進みます。
| ステップ | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 1. 土地探し | ポータルサイト、不動産会社で検索 | 1〜3ヶ月 |
| 2. 買付証明書提出 | 購入の意思を売主に示す | 1日 |
| 3. 住宅ローン仮審査 | 金融機関に事前審査を申し込み | 1週間 |
| 4. 売買契約 | 契約締結、手付金支払い | 1日 |
| 5. 住宅ローン本審査 | 金融機関の正式審査 | 2〜4週間 |
| 6. 決済・引き渡し | 残代金支払い、所有権移転登記 | 契約後1〜2ヶ月 |
全体で6ヶ月〜1年、契約から引き渡しまで2〜3ヶ月が目安です。
売却時の税金(譲渡所得税・登録免許税・印紙税)
土地を売却する際には、以下の税金がかかります。
| 税金の種類 | 内容 | 税率・金額(2025年時点) |
|---|---|---|
| 譲渡所得税 | 売却益にかかる税金 | 短期(5年以内): 39.63% 長期(5年超): 20.315% |
| 登録免許税 | 抵当権抹消登記の費用 | 不動産1個につき1,000円 |
| 印紙税 | 売買契約書に貼付 | 1,000万円超〜5,000万円以下: 1万円 |
譲渡所得税は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益にかかります。所有期間が5年を超える場合は税率が低くなるため、売却時期の検討が重要です。
購入時の費用(仲介手数料・登記費用・住宅ローン審査)
土地を購入する際には、以下の費用がかかります。
| 費用の種類 | 内容 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 不動産会社への手数料 | (物件価格 × 3% + 6万円) + 消費税 |
| 登記費用 | 所有権移転登記、司法書士報酬 | 5〜15万円 |
| 印紙税 | 売買契約書に貼付 | 1万円(1,000万円超〜5,000万円以下) |
| 住宅ローン関連 | 融資手数料、保証料 | 融資額の2〜3% |
仲介手数料は、物件価格が高額になるほど負担が大きくなります。例えば、3,000万円の土地の場合、仲介手数料は約105万円(税込)です。
2024-2025年の土地価格動向
2024年第1四半期の全国平均土地価格は1㎡あたり98,655円で、前年比5.53%減少しました。
しかし、2025年第3四半期の地価LOOKレポート(国土交通省)では、主要都市の地価が7期連続で全地区において上昇しており、地域により動向が異なります。
地域別の動向:
- 主要都市: 上昇傾向(オフィス需要、インバウンド回復等)
- 地方都市: 横ばい〜微減
- 過疎地: 下落傾向
土地価格は地域・時期により大きく異なるため、最新データの確認が必要です。
まとめ:土地の値段を正しく理解して賢く取引する
土地の値段には「一物四価」という4つの異なる価格があり、それぞれ目的が異なります。売買時には実勢価格を参考にし、公示地価の1.1〜1.2倍を目安に価格を設定します。
土地価格は立地・面積・形状・用途地域・接道状況の5つの要因で決まり、国土交通省の不動産情報ライブラリや国税庁の路線価図で調べることができます。
売却期間は約3ヶ月、購入時は契約から引き渡しまで2〜3ヶ月が目安です。税金や費用も考慮し、宅地建物取引士や税理士等の専門家に相談しながら、賢く土地取引を進めましょう。
