相続登記の費用とは
親族の不動産を相続した際、「相続登記の費用はいくらかかるのか」「司法書士に30万円と言われたが高いのか」「自分で手続きできるのか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、相続登記費用の内訳(登録免許税・司法書士報酬等)、費用相場、30万円という費用の妥当性、自分で手続きする場合の流れ、費用を抑えるポイントを、法務局や日本司法書士会連合会の公式情報を元に解説します。
初めて相続登記を行う方でも、適正な費用を見極められるようになります。
この記事のポイント
- 相続登記の総費用は司法書士報酬(6~13万円)+ 登録免許税(評価額の0.4%)+ 書類取得費(5千円程度)で、合計10~30万円程度が目安
- 自分で手続きすれば司法書士報酬が不要になり、登録免許税と書類取得費のみで済む(評価額1000万円の場合、約4.5万円)
- 2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料
- 評価額100万円以下の土地は2027年3月31日まで登録免許税が免税(特例措置)
- 司法書士報酬は事務所により大きく異なるため、複数の事務所から見積もりを取ることが推奨される
相続登記の義務化(2024年4月施行)と罰則
義務化の期限:相続を知った日から3年以内
2024年4月1日から、相続登記が法律で義務化されました。
義務化の内容:
- 相続により不動産の所有者が変わった場合、相続を知った日から3年以内に法務局に申請して登記簿の名義を変更する必要があります
- 相続登記とは、相続により不動産の所有者が変わった際に、法務局に申請して登記簿の名義を変更する手続きです
罰則:10万円以下の過料
相続登記を3年以内に行わなかった場合、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)が科される可能性があります。
2024年4月以前の相続も対象(2027年3月31日までに登記が必要)
重要:
- 2024年4月以前に相続した不動産も義務化の対象です
- 2024年4月1日時点で既に相続している不動産は、2027年3月31日までに登記する必要があります
相続人申告登記制度(救済措置)
遺産分割協議が長引いて3年以内に相続登記ができない場合、相続人申告登記という救済措置があります。
相続人申告登記とは:
- 相続人であることを法務局に申告することで、義務を履行したとみなされる制度
- 遺産分割協議が成立した後、改めて相続登記を行う必要があります
(注: 制度の詳細は法務局の公式サイトでご確認ください)
相続登記費用の内訳:登録免許税・司法書士報酬・書類取得費
登録免許税:固定資産評価額 × 0.4%(評価額1000万円なら4万円)
登録免許税は、相続登記の際に国に納める税金です。
計算方法:
- 固定資産評価額 × 0.4%
- 例: 固定資産評価額1,000万円の場合、登録免許税は4万円(1,000万円 × 0.4%)
固定資産評価額とは:
- 市区町村が決定する不動産の評価額(固定資産税の課税基準)
- 毎年4月頃に送付される「固定資産税納税通知書」に記載されています
司法書士報酬:6~13万円(事務所により異なる)
司法書士報酬は、登記申請の専門家である司法書士に手続きを依頼する場合の費用です。
日本司法書士会連合会の調査によると:
- 相続登記の司法書士報酬の全国平均は約6~13万円
- 事務所により大きく異なり、30万円以上を請求する事務所もあります
報酬が変動する要因:
- 相続人の数(多いほど書類が増える)
- 不動産の数(複数ある場合は加算される)
- 遺産分割協議の有無(協議書の作成が必要な場合は加算される)
- 事務所の所在地(都市部は高い傾向)
書類取得費:戸籍謄本・住民票等で5千円程度
相続登記には、以下の書類が必要です。
| 書類 | 取得費用(目安) |
|---|---|
| 戸籍謄本(被相続人の出生~死亡) | 1通450円 × 数通 = 2,000~3,000円 |
| 住民票除票 | 1通300円程度 |
| 固定資産評価証明書 | 1通300円程度 |
| 相続人の戸籍謄本・住民票 | 1通450円 × 人数 |
合計: 約5,000円程度
評価額100万円以下の土地は2027年3月31日まで登録免許税が免税
固定資産評価額が100万円以下の土地については、2027年3月31日まで登録免許税が免税となる特例措置があります。
対象:
- 評価額100万円以下の土地
- 相続により取得した土地
(注: 詳細は法務局にご確認ください)
費用相場と「30万円」は高いのか適正なのか
一般的なケースの総費用:10~15万円
一般的なケース(相続人が1~3人、不動産が1~2件、遺産分割協議なし)の総費用は以下の通りです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 登録免許税(評価額1,000万円) | 4万円 |
| 司法書士報酬 | 6~10万円 |
| 書類取得費 | 5千円 |
| 合計 | 10.5~14.5万円 |
複雑なケース(相続人多数、遺産分割協議等):20~30万円
複雑なケース(相続人が4人以上、不動産が複数、遺産分割協議が必要)の総費用は以下の通りです。
費用が高くなる要因:
- 相続人が多い → 戸籍謄本・住民票等の書類が増える
- 不動産が複数 → 1件ごとに登録免許税・司法書士報酬が加算される
- 遺産分割協議が必要 → 遺産分割協議書の作成費用が加算される
総費用: 20~30万円程度
弁護士に依頼した場合:20~30万円
弁護士に相続登記を依頼した場合、司法書士よりも報酬が高くなる傾向があります。
弁護士報酬の目安: 15~25万円 総費用: 20~30万円
弁護士に依頼すべきケース:
- 相続人間でトラブルがある(遺産分割協議が難航している)
- 遺言書の有効性に疑義がある
- 相続放棄・限定承認を検討している
通常の相続登記は司法書士で十分です。
評価額・相続人数別の費用シミュレーション
| 評価額 | 相続人数 | 登録免許税 | 司法書士報酬 | 書類取得費 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 1人 | 2万円 | 6万円 | 5千円 | 8.5万円 |
| 1,000万円 | 2人 | 4万円 | 8万円 | 5千円 | 12.5万円 |
| 2,000万円 | 3人 | 8万円 | 10万円 | 5千円 | 18.5万円 |
| 3,000万円 | 5人(遺産分割協議あり) | 12万円 | 15万円 | 1万円 | 28万円 |
(注: 司法書士報酬は事務所により異なります。上記は目安です)
結論: 30万円は、複雑なケース(相続人多数、不動産複数、遺産分割協議あり)または弁護士に依頼した場合の相場です。一般的なケースでは10~15万円が目安のため、30万円はやや高めと言えます。
自分で手続きする場合の費用と流れ
自分で手続きする場合の費用:登録免許税 + 書類取得費のみ(評価額1000万円なら約4.5万円)
自分で相続登記を行う場合、司法書士報酬が不要になります。
費用内訳:
- 登録免許税: 4万円(評価額1,000万円の場合)
- 書類取得費: 5千円
- 合計: 約4.5万円
節約額: 司法書士に依頼した場合(約12.5万円)と比べて、約8万円節約できます。
手続きの流れ(必要書類の収集、登記申請書の作成、法務局への提出)
自分で相続登記を行う場合の流れは以下の通りです。
1. 必要書類の収集:
- 戸籍謄本(被相続人の出生~死亡)
- 住民票除票(被相続人)
- 固定資産評価証明書
- 相続人の戸籍謄本・住民票
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合)
2. 登記申請書の作成:
- 法務局のウェブサイトに記載例があります
- 物件の所在地・地番、相続人の情報、登録免許税の計算等を記入
3. 法務局への提出:
- 不動産の所在地を管轄する法務局に提出
- 窓口持参またはオンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)
4. 登記完了:
- 申請から1~2週間程度で登記が完了
- 登記識別情報通知(権利証)を受け取る
自分でできるケース・できないケース
自分でできるケース:
- 相続人が1~2人で、全員が協力的
- 不動産が1~2件
- 遺産分割協議が不要(法定相続分通りに相続する)
- 時間的余裕がある
司法書士に依頼すべきケース:
- 相続人が多数(3人以上)
- 不動産が複数ある
- 遺産分割協議が必要
- 相続人間でトラブルがある
- 時間的余裕がない(仕事で忙しい等)
書類の不備・漏れによる登記受理拒否のリスク
自分で手続きする場合、書類の不備・漏れにより登記が受理されないリスクがあります。
よくある不備:
- 戸籍謄本の連続性が確認できない(出生から死亡まで繋がっていない)
- 遺産分割協議書に相続人全員の署名・押印がない
- 登記申請書の記載内容に誤りがある(物件の所在地・地番、評価額等)
対策:
- 法務局の窓口で事前相談を受ける(無料)
- 登記申請書のチェックを依頼する(有料、数千円程度)
費用を抑えるポイントと司法書士選びのコツ
複数の司法書士事務所から見積もりを取る
司法書士報酬は事務所により大きく異なるため、複数の事務所(3~5社)から見積もりを取ることを推奨します。
見積もりの比較項目:
- 基本報酬
- 加算報酬(相続人数・不動産数による)
- 書類取得の代行費用(含まれるか別途か)
- 遺産分割協議書の作成費用(含まれるか別途か)
免税措置(評価額100万円以下)を活用
固定資産評価額が100万円以下の土地については、2027年3月31日まで登録免許税が免税となります。
活用方法:
- 複数の土地を相続した場合、評価額100万円以下の土地を優先的に登記する
- 免税措置の期限(2027年3月31日)までに登記を完了させる
オンライン申請対応の事務所を選ぶ
オンライン申請に対応する司法書士事務所が増加しており、遠隔地からの依頼が可能になっています。
メリット:
- 遠隔地の事務所でも依頼できる(料金が安い地方の事務所を選べる)
- 郵送でのやり取りが不要
- 手続きがスムーズ
司法書士報酬は事務所により大きく異なる(30万円以上を請求する事務所もある)
注意:
- 司法書士報酬は法律で上限が定められていないため、事務所により大きく異なります
- 30万円以上を請求する事務所もあるため、必ず見積もりを確認してください
高額な報酬を請求する事務所の特徴:
- 弁護士法人と提携している(弁護士報酬が上乗せされる)
- 都市部の一等地に事務所がある(家賃が高い)
- 広告費を多額にかけている(広告費が報酬に転嫁される)
まとめ:相続登記は早めに、専門家への相談を
相続登記を放置すると売却・担保設定ができない
相続登記を行わないと、不動産の名義が被相続人のままとなり、以下のような問題が発生します。
問題点:
- 不動産を売却できない(買主に名義変更できない)
- 不動産を担保にして融資を受けられない
- 固定資産税の納税義務者が不明確になる
次世代の相続時に手続きが複雑化する
相続登記を放置したまま次の相続(二次相続)が発生すると、手続きが複雑化します。
例:
- 父が死亡(一次相続)→ 母と子2人が相続
- 相続登記を行わず、母が死亡(二次相続)→ 子2人が相続
- この場合、一次相続と二次相続の両方の手続きが必要になり、相続人の数が増えて手続きが複雑化します
専門家(司法書士、税理士、弁護士等)への相談を推奨
相続登記は個別の状況により最適な手続きが異なるため、専門家(司法書士、税理士、弁護士等)への相談を推奨します。
相談先:
- 司法書士: 相続登記の手続き全般
- 税理士: 相続税の申告、登録免許税の計算
- 弁護士: 相続人間のトラブル、遺言書の有効性
無料相談:
- 法務局の窓口で無料相談が受けられます
- 司法書士会・弁護士会でも無料相談会を開催しています
相続登記は2024年4月から義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記を完了させ、10万円以下の過料を回避しましょう。費用は10~30万円程度が目安ですが、司法書士報酬は事務所により大きく異なるため、複数の見積もりを取ることを推奨します。
