土地売却の全体像を理解する
土地を売却する際、マンションや戸建てとは異なる特有の手続きがあります。特に、測量や境界確定には予想以上に時間がかかることが多く、売却完了までのスケジュールを正しく把握しておくことが重要です。
この記事でわかること
- 土地売却の基本的な流れと所要期間
- 測量・境界確定の必要性と手続き
- 媒介契約の種類と査定の流れ
- 売買契約締結から引き渡しまでの段取り
- 譲渡所得税の計算と確定申告の手続き
1. 土地売却の流れ・スケジュール全体像
(1) 土地売却の基本的な流れ
土地売却は、以下の流れで進みます(国土交通省)。
土地売却の流れ
- 売却前の準備(測量・境界確定)
- 不動産会社への査定依頼
- 媒介契約の締結
- 売却活動の開始
- 購入希望者との価格交渉
- 重要事項説明・売買契約締結
- 決済・引き渡し
- 所有権移転登記
- 確定申告(売却年の翌年)
この流れは建物の売却と基本的には同じですが、土地売却特有の準備(測量・境界確定)に時間がかかる点が大きな違いです。
(2) 所要期間の目安(測量1-2ヶ月、境界確定1-3ヶ月など)
土地売却の各段階でかかる期間の目安は以下の通りです。
所要期間の目安
段階 | 期間 |
---|---|
測量 | 1~2ヶ月 |
境界確定 | 1~3ヶ月(隣接地所有者との調整含む) |
査定・媒介契約 | 1~2週間 |
売却活動 | 1~3ヶ月(立地や価格により変動) |
契約から引き渡し | 1~2ヶ月 |
確定申告 | 売却年の翌年2月16日~3月15日 |
トータルの期間
- 標準的なケース:3~6ヶ月
- 境界トラブルがある場合:6ヶ月~1年以上
- 農地転用が必要な場合:5~10ヶ月
土地売却では、建物売却よりも長期間を見込んでおく必要があります。
(3) 建物付き土地との違い
建物付き土地を売却する場合、「現況有姿」で売却するか、「更地渡し」にするかを選択できます。
現況有姿(建物付き)での売却
- メリット:解体費用がかからない、すぐに売却活動を始められる
- デメリット:建物の状態によっては買主が見つかりにくい、価格が安くなる傾向
更地渡し
- メリット:買主が見つかりやすい、価格が高くなる傾向
- デメリット:解体費用(100万円~300万円程度)がかかる、解体後は固定資産税が上がる
更地渡しの場合、解体に1~2ヶ月かかるため、スケジュールに余裕を持つ必要があります。
2. 売却前の準備(測量・境界確定)
(1) 境界確定測量の必要性
土地を売却する前に、境界を明確にしておくことが重要です(国土交通省)。
境界確定測量とは、隣接地との境界を確定させるための測量です。境界が未確定の場合、以下のリスクがあります。
境界が未確定の場合のリスク
- 買主が購入をためらう
- 購入後に隣地とのトラブルが発生する可能性
- 住宅ローンの審査が通りにくい
- 売却価格が下がる可能性
測量の費用と期間
- 費用:30万円~80万円程度(土地の広さや形状により変動)
- 期間:1~2ヶ月
測量は土地家屋調査士に依頼します。隣接地との境界を確定させ、境界標を設置します。
(2) 隣接地所有者との立ち会い
境界確定測量では、隣接地の所有者に立ち会いを依頼し、境界について合意を得る必要があります。
立ち会いの流れ
- 土地家屋調査士が隣接地所有者に連絡
- 立ち会い日時の調整
- 現地で境界の確認
- 境界標の設置
- 境界確認書に署名・押印
隣接地所有者との連絡がつかない場合や、境界について意見が対立する場合は、手続きが大幅に遅れる可能性があります。境界トラブルがある場合は、1年以上かかることもあります。
(3) 地目と現況が異なる場合の手続き
地目とは、登記簿に記載されている土地の用途(宅地、田、畑、山林など)です。地目と現況が異なる場合、地目変更登記が必要になることがあります。
地目変更が必要なケース
- 登記上は「田」だが、現況は宅地として使用している
- 登記上は「山林」だが、現況は駐車場として使用している
手続きと期間
- 手続き:土地家屋調査士に依頼して地目変更登記を申請
- 費用:5万円~10万円程度
- 期間:1~2週間
地目変更をしないと、売却後に買主が住宅ローンを組めない場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。
3. 不動産会社との媒介契約と査定
(1) 媒介契約の種類(専任・専属専任・一般)
不動産会社に売却を依頼する際、媒介契約を締結します。媒介契約には3種類があります。
媒介契約の種類
種類 | 複数社への依頼 | 自己発見取引 | 報告義務 | レインズ登録 |
---|---|---|---|---|
一般媒介契約 | 可能 | 可能 | なし | 任意 |
専任媒介契約 | 不可 | 可能 | 2週間に1回以上 | 義務(7日以内) |
専属専任媒介契約 | 不可 | 不可 | 1週間に1回以上 | 義務(5日以内) |
どの契約を選ぶべきか
- 一般媒介契約:複数の不動産会社に依頼したい場合
- 専任媒介契約:1社に絞って積極的に売却活動をしてほしい場合
- 専属専任媒介契約:最も手厚いサポートを受けたい場合
一般的には、専任媒介契約または専属専任媒介契約を選ぶことで、不動産会社が積極的に売却活動を行う傾向があります。
(2) 査定依頼と価格設定
媒介契約を結ぶ前に、複数の不動産会社に査定を依頼します。
査定の方法
- 机上査定:物件情報だけで簡易的に査定(1~2日)
- 訪問査定:現地を実際に見て詳細に査定(1週間程度)
査定額の決まり方 土地の査定額は、以下の要素で決まります。
- 立地(駅からの距離、周辺環境)
- 土地の広さ・形状
- 接道状況(道路に面している幅)
- 用途地域(住居専用地域、商業地域など)
- 近隣の取引事例
査定額はあくまで参考価格であり、最終的な売却価格は市場の需要と供給で決まります。
(3) 売却活動の開始
媒介契約を締結したら、不動産会社が売却活動を開始します。
売却活動の内容
- レインズ(不動産流通標準情報システム)への物件登録
- 不動産ポータルサイトへの掲載
- チラシの配布
- 現地見学会の開催
売却活動の期間は、立地や価格設定により大きく変わります。一般的には1~3ヶ月程度で買主が見つかることが多いですが、条件によっては半年以上かかる場合もあります。
4. 売買契約の締結と重要事項説明
(1) 重要事項説明の確認ポイント
売買契約の前に、宅地建物取引士による重要事項説明があります(国土交通省)。
重要事項説明では、以下の内容が説明されます。
重要事項説明の主な内容
- 土地の所在、面積、地目
- 登記上の権利関係(所有権、抵当権など)
- 法令上の制限(用途地域、建ぺい率、容積率など)
- 私道負担の有無
- 電気、ガス、水道などのインフラ状況
- 契約不適合責任の内容
特に確認すべきポイント
- 境界が確定しているか
- 接道義務を満たしているか(幅員4m以上の道路に2m以上接する)
- 建築制限の有無(市街化調整区域など)
- 埋蔵文化財包蔵地に該当していないか
不明な点があれば、契約前に必ず質問しましょう。
(2) 売買契約書の内容確認
重要事項説明の後、売買契約書の内容を確認します。
売買契約書の主な内容
- 売買価格
- 手付金の額
- 残代金の支払時期
- 引き渡し時期
- 契約不適合責任の期間
- 公租公課(固定資産税など)の精算方法
契約不適合責任とは 引き渡された土地が契約内容に適合しない場合の売主の責任です。土地の売買では、「土壌汚染」「地中埋設物」「境界の相違」などが問題になることがあります。
個人間売買では、契約不適合責任を3ヶ月程度に制限することが一般的です。
(3) 手付金の授受
売買契約締結時に、買主から手付金を受け取ります。
手付金の相場
- 売買代金の5~10%程度
- 例:売買代金3,000万円の場合、手付金150万円~300万円
手付金は、残代金決済時に売買代金の一部として充当されます。
手付解除について 契約後、一定期間内であれば、手付金を放棄(買主)または倍返し(売主)することで契約を解除できます。解除期限は契約書で定められます。
5. 決済・引き渡しと所有権移転登記
(1) 決済・引き渡しの流れ
売買契約締結から1~2ヶ月後、残代金の決済と引き渡しを行います。
決済・引き渡しの流れ
- 売主・買主・不動産会社・司法書士が集まる
- 登記書類の確認
- 残代金の支払い(買主→売主)
- 固定資産税の精算
- 所有権移転登記の申請(司法書士が法務局へ申請)
- 鍵や関係書類の引き渡し
- 仲介手数料の支払い
決済は、買主が住宅ローンを利用する場合、融資を受ける金融機関で行うことが一般的です。
(2) 残代金の受領
残代金は、売買代金から手付金を差し引いた金額です。
計算例
- 売買代金:3,000万円
- 手付金:300万円
- 残代金:2,700万円
残代金は、銀行振込で受け取ることが一般的です。多額の現金を持ち歩くリスクを避けるためです。
(3) 所有権移転登記の手続き
決済と同時に、所有権移転登記を申請します(法務省)。
登記の流れ
- 司法書士が登記申請書を作成
- 法務局へ申請
- 1~2週間で登記完了
- 登記識別情報(権利証)が買主に交付される
登記費用
- 登録免許税:土地の固定資産税評価額の2%(売買の場合)
- 司法書士報酬:5万円~10万円程度
登記費用は、一般的に買主が負担します。
6. 土地売却の税金と確定申告
(1) 譲渡所得税の計算方法
土地を売却して利益が出た場合、譲渡所得税がかかります(国税庁)。
譲渡所得の計算式
譲渡所得 = 譲渡収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費に含まれるもの
- 土地の購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用
- 測量費
- 造成費
譲渡費用に含まれるもの
- 売却時の仲介手数料
- 測量費
- 売買契約書の印紙代
- 解体費用(更地渡しの場合)
税率
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|
短期(5年以下) | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期(5年超) | 15.315% | 5% | 20.315% |
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定します。
(2) 特別控除の活用
一定の条件を満たす場合、特別控除を適用できます。
主な特別控除
- 居住用財産の3,000万円特別控除:自己の居住用土地を売却した場合
- 相続空き家の3,000万円特別控除:相続した空き家の敷地を売却した場合
- 公共事業のための売却:5,000万円の特別控除
居住用財産の特別控除の要件
- 自己が居住していた土地であること
- 転居後3年を経過する年の12月31日までに売却
- 過去2年間にこの特例を受けていないこと
これらの特例を適用することで、譲渡所得を大幅に圧縮できる場合があります。
(3) 確定申告の時期と必要書類
土地を売却した場合、譲渡所得がある・なしにかかわらず、確定申告が必要です(特例を適用する場合は必須)。
確定申告の期限
- 売却した年の翌年2月16日~3月15日
必要書類
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書の写し(売却時・購入時)
- 仲介手数料の領収書
- 測量費の領収書
- 登記事項証明書
確定申告を忘れると、無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、期限内に必ず申告しましょう。
まとめ
土地売却は、測量や境界確定など特有の手続きがあり、建物売却よりも時間がかかることが一般的です。
重要ポイント
- 測量・境界確定に1~3ヶ月、全体で3~6ヶ月以上を見込む
- 境界が未確定の場合、売却前に境界確定測量を実施する
- 媒介契約は専任媒介契約または専属専任媒介契約が一般的
- 重要事項説明で境界、接道義務、建築制限を必ず確認
- 譲渡所得税は所有期間5年超で税率が半分程度に軽減
- 確定申告は売却年の翌年2月16日~3月15日
土地売却では、想定外の手続きや時間がかかることが多いため、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。不安な点があれば、不動産会社や税理士に相談しながら進めることをおすすめします。