戸建て売却の基本的な流れとスケジュール
初めて戸建てを売却する方にとって、全体の流れを把握することは重要です。戸建て売却は査定から引き渡しまで平均3-6ヶ月かかりますが、地域や物件の状態によって期間は大きく変動します。
戸建て売却の全体フローは以下の6ステップで構成されます:
- 売却準備と査定依頼(1-2週間)
- 媒介契約の締結(1週間)
- 売却活動(1-3ヶ月)
- 売買契約の締結(1日)
- 決済・引き渡し(契約から1-2ヶ月後)
- 税務手続き(確定申告)(売却翌年の2月16日-3月15日)
各ステップの所要期間の目安
ステップ | 所要期間 | 主な内容 |
---|---|---|
売却準備・査定 | 1-2週間 | 書類準備、複数社へ査定依頼、査定結果の比較 |
媒介契約締結 | 1週間 | 不動産会社と契約、売却条件の決定 |
売却活動 | 1-3ヶ月 | 広告掲載、内覧対応、価格交渉 |
売買契約 | 1日 | 重要事項説明、契約書締結、手付金受領 |
決済・引き渡し | 契約から1-2ヶ月 | 残代金受領、登記、鍵の引き渡し |
確定申告 | 翌年2-3月 | 譲渡所得税の申告 |
マンションとの違いと戸建て特有の手続き
戸建て売却には、マンションにはない土地に関する手続きが必要です:
戸建て特有の手続き:
- 境界確定測量:隣地との境界を明確化(費用40-100万円、売主負担が一般的)
- 建物状況調査(インスペクション):建物の劣化状況を専門家が診断(費用5-10万円)
- 土地測量図・境界確認書の準備:購入時の測量図があれば提出、なければ測量が必要
- 地目・地積の確認:登記簿の記載内容と現況の一致確認
マンションは管理組合が境界を管理しますが、戸建ては個人の責任で境界を確定させる必要があります。
売却準備と査定依頼
戸建て売却の第一歩は、必要書類の準備と複数の不動産会社への査定依頼です。
必要書類の準備と確認事項
売却前に以下の書類を準備しましょう:
必須書類:
- 登記済権利証または登記識別情報
- 固定資産税納税通知書・評価証明書
- 土地測量図・境界確認書(あれば)
- 建築確認済証・検査済証
- 購入時の売買契約書・重要事項説明書
- 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 印鑑証明書(3ヶ月以内)
任意書類:
- 建物図面・間取り図
- 設備の説明書・保証書
- リフォーム・修繕履歴
- 建物状況調査報告書(インスペクション済みの場合)
複数社への査定依頼のポイント
査定は最低3社以上に依頼することが推奨されます。査定価格だけでなく、以下を比較しましょう:
- 査定価格の根拠(近隣の成約事例、類似物件との比較)
- 売却実績(同じ地域での売却件数、平均売却期間)
- 販売戦略(広告の出し方、ターゲット層の設定)
- 担当者の対応(レスポンスの速さ、質問への回答の丁寧さ)
注意点:
査定価格が高いからといって、その価格で売れるとは限りません。相場より明らかに高い査定額を提示する会社は、媒介契約を取るための「高値提示」の可能性があります。
境界確定と測量の必要性
戸建て売却で最も重要な準備が境界確定測量です。境界が不明確な土地は、買主が購入を躊躇するため、売却価格が下がったり、売却自体が困難になります。
境界確定の流れ:
- 土地家屋調査士に測量を依頼
- 隣地所有者の立ち会いを求める
- 境界標(杭)を設置
- 境界確認書に署名・押印
- 確定測量図を作成
**費用:**40-100万円(土地の形状・隣接地の数により変動)
購入時の確定測量図があれば、再測量不要の場合もあります。まずは測量図の有無を確認しましょう。
媒介契約の締結と売却活動
査定結果を比較して不動産会社を選んだら、媒介契約を締結します。
媒介契約の種類と選び方
媒介契約には3種類あり、それぞれ特徴が異なります:
契約種類 | 複数社と契約 | 自己発見取引 | レインズ登録 | 報告義務 |
---|---|---|---|---|
一般媒介 | 可能 | 可能 | 任意 | なし |
専任媒介 | 不可 | 可能 | 義務(7日以内) | 2週間に1回以上 |
専属専任媒介 | 不可 | 不可 | 義務(5日以内) | 1週間に1回以上 |
選び方の目安:
- 一般媒介:人気エリアで早期売却が期待できる場合。複数社が競争して売却活動を行う
- 専任媒介:じっくり売却活動を進めたい場合。1社が責任を持って売却活動を行う
- 専属専任媒介:不動産会社に完全に任せたい場合。自己発見取引も不可なので慎重に
**契約期間:**3ヶ月が標準(更新可能)
レインズ登録と報告義務
**レインズ(REINS)**とは、国土交通大臣指定の不動産流通標準情報システムです。専任媒介・専属専任媒介では、一定期間内にレインズへの登録が義務付けられています。
レインズに登録されると、全国の不動産会社が物件情報を閲覧でき、買主候補が広がります。
報告義務:
- 専任媒介:2週間に1回以上、売却活動の報告
- 専属専任媒介:1週間に1回以上、売却活動の報告
報告内容には、内覧件数、問い合わせ件数、広告の掲載状況などが含まれます。
内覧対応と価格交渉
売却活動中は、購入検討者の内覧対応が重要です。
内覧対応のポイント:
- 清掃・整理整頓:第一印象が重要。玄関・リビング・水回りは特に念入りに
- 明るさの確保:カーテンを開け、照明をつけて明るい印象を
- 臭い対策:ペット臭・タバコ臭は印象を悪化させる。換気や消臭剤を活用
- 質問への誠実な回答:建物の不具合や近隣状況は正直に伝える
購入希望者から価格交渉があった場合、以下を考慮して判断します:
- 売却希望時期(急ぐなら価格交渉に応じる)
- 他の購入検討者の有無(複数候補がいれば強気の交渉も可能)
- 市場相場との乖離(相場より高値なら値下げも検討)
売買契約の締結と手付金
購入希望者と条件が合意できたら、売買契約を締結します。
重要事項説明の内容確認
契約日には、宅地建物取引士による重要事項説明が行われます。買主に対して、以下の内容が説明されます:
- 物件の状況(構造、面積、設備、権利関係)
- 法令上の制限(建築基準法、都市計画法など)
- 契約条件(代金、支払時期、引き渡し時期)
- 契約不適合責任の範囲と期間
- 手付金の性質と額
売主も同席し、内容を確認します。誤りや不明点があれば、その場で指摘しましょう。
売買契約書の記載事項
売買契約書には、以下の事項が記載されます:
- 売買代金・支払方法(手付金・残代金の金額と支払日)
- 物件の引き渡し時期
- 所有権移転登記の時期
- 契約不適合責任の範囲・期間
- 手付解除の条件(手付金放棄による契約解除の期限)
- 融資特約(買主のローン審査が通らなかった場合の解除条件)
契約書に署名・押印すると、法的拘束力が生じます。内容をよく確認してから署名しましょう。
手付金の受領と契約解除条件
契約時に、買主から手付金を受け取ります。手付金の相場は**売買代金の5-10%**です。
手付金の性質:
- 証約手付:契約成立の証拠
- 解約手付:手付金を放棄(買主)または倍返し(売主)することで契約解除が可能
**手付解除の期限:**契約書に明記された期日まで(通常は契約から1-2週間)
期限内なら、売主は手付金を倍返しすることで契約を解除できます。ただし、買主が履行に着手した後は解除できません。
決済・引き渡しと所有権移転
売買契約から1-2ヶ月後、残代金決済と引き渡しを同時に行います。
残代金決済の流れ
決済日には、以下の関係者が立ち会います:
- 売主・買主
- 不動産会社(仲介業者)
- 司法書士
- 金融機関担当者(買主が住宅ローンを利用する場合)
決済の流れ:
- 登記書類の確認(司法書士)
- 買主から売主へ残代金の支払い
- 固定資産税・都市計画税の清算
- 鍵・書類の引き渡し
- 所有権移転登記・抵当権設定登記の申請
決済と引き渡しは同日に行われるため、「同時履行の原則」が適用されます。
登記手続きと所有権移転
決済日に、司法書士が以下の登記を申請します:
- 抵当権抹消登記(売主の住宅ローンが残っている場合)
- 所有権移転登記(売主→買主)
- 抵当権設定登記(買主が住宅ローンを利用する場合)
登記完了まで1-2週間かかりますが、決済日時点で所有権は買主に移転します。
引き渡し前の最終確認事項
引き渡し前に、以下を最終確認します:
- 荷物の搬出完了
- 設備の動作確認(給湯器、エアコン、インターホンなど)
- 境界標の確認
- 鍵の本数確認(玄関・勝手口・物置など)
- 公共料金の清算(電気・ガス・水道)
- 住民票の転出手続き
売却後の税務手続きと確定申告
戸建てを売却した年の翌年、確定申告が必要です。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
**取得費:**購入価格 + 購入時の諸費用 - 減価償却費 **譲渡費用:**仲介手数料、測量費用、取り壊し費用など
譲渡所得税の税率:
- 短期譲渡(所有期間5年以下):39.63%
- 長期譲渡(所有期間5年超):20.315%
**所有期間の判定日:**売却した年の1月1日時点
3,000万円特別控除の適用
居住用財産の3,000万円特別控除は、自宅を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
主な要件:
- 自己が居住していた不動産であること
- 住まなくなってから3年以内の売却
- 売却先が配偶者・親族でないこと
- 前年・前々年にこの特例を利用していないこと
この特例を利用すれば、多くのケースで譲渡所得税が非課税になります。
確定申告の時期と必要書類
**申告期間:**売却した年の翌年2月16日から3月15日まで
必要書類:
- 確定申告書(譲渡所得の内訳書)
- 売買契約書のコピー(売却時・購入時)
- 仲介手数料などの領収書
- 登記事項証明書
- 戸籍の附票(居住用財産の特例を利用する場合)
譲渡所得がゼロまたはマイナスでも、特別控除を利用する場合は申告が必要です。
まとめ
戸建て売却は、査定から引き渡しまで平均3-6ヶ月かかります。マンションと異なり、境界確定測量や建物状況調査など、土地に関する手続きが必要です。
媒介契約は、物件の人気度や売却希望時期に応じて、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介を選択します。内覧対応では、清掃・整理整頓を徹底し、第一印象を良くすることが重要です。
売買契約時には重要事項説明と契約書の内容を十分に確認し、不明点はその場で質問しましょう。決済・引き渡しは同日に行われ、残代金の受領と同時に所有権が移転します。
売却後は、翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行います。居住用財産の3,000万円特別控除を利用すれば、多くのケースで譲渡所得税が非課税になります。