住み替えで中古マンションを売却する際の登記手続きを理解する
住み替えで現在の中古マンションを売却し、新居を購入する場合、売却と購入の登記タイミングと資金調整が重要です。売り先行・買い先行のどちらを選ぶかにより、登記スケジュールが大きく異なります。本記事では、住み替えによる中古マンション売却時の登記実務、抵当権抹消のタイミング、同時決済の流れ、税制優遇を段階的に解説します。
この記事で分かること
- 住み替えによる中古マンション売却時の登記手続き全体像
- 売却前の登記確認と抵当権の現状把握
- 抵当権抹消登記の実務とタイミング調整
- 所有権移転登記と新居購入の同時決済の流れ
- 売却後の確定申告と税制優遇(3,000万円控除・譲渡損失の繰越控除)
1. 住み替えによる中古マンション売却時の登記手続き全体像
(1) 売却と購入の登記スケジュール
住み替えには、主に2つのパターンがあります。
パターン | スケジュール | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
売り先行 | 旧居売却→仮住まい→新居購入 | 売却代金を新居購入に充当でき資金計画が明確 | 仮住まいが必要で二重の引越し費用 |
買い先行 | 新居購入→旧居売却 | 新居をゆっくり探せて引越しが1回で済む | つなぎ融資や自己資金が必要 |
同時決済(売却と購入を同日に実施)も可能ですが、スケジュール調整が難しく、金融機関の協力が必須です。
(2) 売り先行・買い先行での登記タイミングの違い
売り先行の登記タイミング
- 旧居の売却:所有権移転登記、抵当権抹消登記
- 新居の購入(数ヶ月後):所有権移転登記、抵当権設定登記
買い先行の登記タイミング
- 新居の購入:所有権移転登記、抵当権設定登記(つなぎ融資またはダブルローン)
- 旧居の売却(数ヶ月後):所有権移転登記、抵当権抹消登記
買い先行の場合、新居と旧居の両方のローンを一時的に抱えるため、資金負担が大きくなります。
2. 売却前の登記確認と抵当権の現状把握
(1) 登記簿謄本の取得と確認ポイント
売却前に登記簿謄本を取得し、現状を確認しましょう(法務局:不動産登記の申請手続について)。
確認項目
- 所有者名義:自分の名義になっているか
- 住所:登記簿の住所と現住所が一致しているか
- 抵当権:住宅ローンの抵当権が設定されているか
- 抵当権者:金融機関名
- 債権額:設定時のローン金額(残債とは異なる)
登記簿謄本は法務局の窓口またはオンライン(登記情報提供サービス)で取得できます(窓口:600円、オンライン:334円)。
(2) ローン残債と売却予定価格の比較
売却代金でローンを完済できるか、事前に確認しましょう。
確認方法
- 金融機関に残債を問い合わせ(電話またはネットバンキング)
- 不動産会社に査定依頼(売却予定価格を把握)
- 売却代金 - ローン残債を計算
例:
- ローン残債:2,500万円
- 売却予定価格:3,000万円
- 差額:500万円(新居購入の頭金に充当可能)
ローン残債が売却価格を上回る場合(オーバーローン)、自己資金で補填する必要があります。
3. 抵当権抹消登記の実務とタイミング調整
(1) 売却代金によるローン完済と抹消登記
住宅ローンが残っている場合、売却代金でローンを完済し、抵当権抹消登記を行います(住宅金融支援機構:住宅ローンの繰上返済)。
抵当権抹消の流れ
- 金融機関に一括返済を申し出(決済日の1-2週間前)
- 返済額の確定(残債+利息+手数料)
- 決済日に返済(売却代金から支払い)
- 抵当権抹消書類の受領(金融機関から)
- 抵当権抹消登記(決済日に司法書士が代行)
抵当権が残ったままでは、買主が融資を受けられないため、売却できません。
(2) つなぎ融資利用時の抵当権処理
買い先行でつなぎ融資を利用する場合、新居と旧居の両方に抵当権が設定されます。
つなぎ融資の抵当権処理
- 新居購入時:つなぎ融資の抵当権を新居に設定
- 旧居売却時:旧居の抵当権を抹消
- 新居の本ローン実行時:つなぎ融資を完済し、本ローンの抵当権に切り替え
つなぎ融資は金利が高いため(年2.5-4%)、売却を早めに完了させることが重要です。
4. 所有権移転登記と新居購入の同時決済
(1) 決済当日の登記手続きの流れ
同時決済(旧居売却と新居購入を同日に実施)の場合、以下の流れで登記が行われます。
午前:旧居の決済
- 買主から売却代金を受領
- 旧居の住宅ローンを一括返済
- 抵当権抹消登記の書類を司法書士に渡す
- 旧居の所有権移転登記申請
午後:新居の決済
- 売却代金を新居の頭金に充当
- 新居の購入代金を売主に支払い
- 新居の抵当権設定登記の書類を司法書士に渡す
- 新居の所有権移転登記申請
司法書士が午前・午後の両方の登記を同時進行で処理します。
(2) 司法書士による本人確認と書類チェック
決済日には、司法書士が本人確認と書類チェックを行います。
確認される書類
- 旧居売却時:
- 登記済証(または登記識別情報)
- 印鑑証明書(3ヶ月以内)
- 固定資産税納税通知書
- 本人確認書類(運転免許証等)
- 新居購入時:
- 住民票
- 印鑑証明書(3ヶ月以内)
- 本人確認書類(運転免許証等)
書類に不備があると決済が延期されるため、事前に司法書士に確認しましょう。
5. 登記にかかる費用と資金計画
(1) 登録免許税と司法書士報酬の相場
登記には登録免許税と司法書士報酬がかかります(国税庁:登録免許税の税率)。
旧居売却時(売主負担)
- 抵当権抹消登記:登録免許税2,000円+司法書士報酬1-3万円
新居購入時(買主負担)
- 所有権移転登記:登録免許税(固定資産税評価額 × 2%)+司法書士報酬5-10万円
- 抵当権設定登記:登録免許税(借入額 × 0.4%)+司法書士報酬3-5万円
例:固定資産税評価額2,000万円、借入額2,500万円の場合
- 所有権移転登記:2,000万円 × 2% = 40万円+司法書士報酬5-10万円
- 抵当権設定登記:2,500万円 × 0.4% = 10万円+司法書士報酬3-5万円
- 合計:50-65万円程度
(2) 売却・購入の両方にかかる登記費用の総額
住み替えの場合、旧居売却と新居購入の両方の登記費用を資金計画に織り込みましょう。
総費用例
- 旧居売却:抵当権抹消2-5万円
- 新居購入:所有権移転+抵当権設定50-65万円
- 合計:52-70万円
これに加えて、仲介手数料・引越し費用・固定資産税等の清算金も必要です。
6. 売却後の確定申告と税制優遇
(1) 3,000万円特別控除の適用要件
居住用不動産を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる制度があります(国税庁:居住用財産の3,000万円特別控除)。
3,000万円特別控除の主な要件
- 自分が住んでいた住宅を売却すること
- 住まなくなってから3年後の12月31日までに売却すること
- 売主と買主が親子・夫婦等の特別な関係でないこと
譲渡所得の計算例
- 売却価格:3,500万円
- 取得費:3,000万円(購入価格)
- 譲渡費用:150万円(仲介手数料等)
- 譲渡所得:3,500万円 - 3,000万円 - 150万円 = 350万円
- 3,000万円控除後:350万円 - 3,000万円 = 0円(税金なし)
この例では、譲渡所得が3,000万円以下のため、税金はかかりません。
(2) 譲渡損失の繰越控除の活用
住み替えで旧居を売却して損失が出た場合、譲渡損失の繰越控除を利用できます(国税庁:買換え特例(譲渡損失の繰越控除))。
譲渡損失の繰越控除の要件
- 住み替えのための売却であること
- 売却年の1月1日時点で所有期間が5年超であること
- 新居の床面積が50㎡以上であること
- 新居購入後に10年以上のローンを組むこと
譲渡損失の計算例
- 売却価格:2,500万円
- 取得費:3,000万円(購入価格)
- 譲渡費用:150万円(仲介手数料等)
- 譲渡損失:2,500万円 - 3,000万円 - 150万円 = -650万円
譲渡損失650万円を翌年以降の所得(給与所得等)から控除できます。最大3年間の繰越が可能です。
例:年収600万円の場合
- 譲渡損失650万円を控除すると、その年の所得税・住民税が大幅に減額される
- 1年で控除しきれない場合、翌年・翌々年に繰り越し可能
確定申告が必要なので、税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
住み替えによる中古マンション売却時の登記では、以下のポイントが重要です:
- 登記スケジュール:売り先行・買い先行のどちらを選ぶかで登記タイミングが異なる
- 抵当権抹消:売却代金でローンを完済し、決済日に抹消登記
- 同時決済:旧居売却と新居購入を同日に実施する場合、午前・午後で登記手続き
- 登記費用:旧居2-5万円、新居50-65万円、合計52-70万円を資金計画に織り込む
- 3,000万円控除:譲渡所得から3,000万円を控除できる(確定申告が必要)
- 譲渡損失の繰越控除:売却で損失が出た場合、翌年以降の所得から控除可能
不明点は司法書士や税理士に相談し、安心して住み替えを進めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 住み替えの場合、売却と購入の登記を同じ日にできますか?
可能です。売却代金を新居購入に充当する場合は同日決済が多いです。司法書士が両方の登記を同時進行で手続きします。午前に旧居の決済、午後に新居の決済を行い、それぞれの登記申請を行います。スケジュール調整が難しいため、金融機関と不動産会社に早めに相談しましょう。決済場所(司法書士事務所・銀行支店)も事前に調整が必要です。
Q2. 旧居のローンが残っていても新居の購入はできますか?
売却代金でローンを完済できれば可能です。売り先行なら問題ありませんが、買い先行ならつなぎ融資やダブルローンの検討が必要です。つなぎ融資は金利が高い(年2.5-4%)ため、売却を早めに完了させることが重要です。金融機関に住み替えの相談をし、最適なローンプランを提案してもらいましょう。
Q3. 住み替えで損失が出た場合の税制優遇はありますか?
譲渡損失の繰越控除を利用可能です。住み替えで旧居売却の損失を翌年以降の所得から控除できます。確定申告が必要です。所有期間5年超、新居床面積50㎡以上、新居購入後10年以上のローンを組むことが条件です。最大3年間の繰越が可能なので、税理士に相談して適切に申告しましょう。
Q4. 登記費用は売主と買主どちらが負担しますか?
抵当権抹消登記は売主負担、所有権移転登記の登録免許税は買主負担が一般的です。住み替えでは両方の費用を資金計画に織り込みましょう。旧居売却では抵当権抹消2-5万円、新居購入では所有権移転+抵当権設定50-65万円、合計52-70万円程度が必要です。仲介手数料や引越し費用も含めた総合的な資金計画を立てることをおすすめします。