投資用中古マンション売却時の登記手続きを理解する
投資用中古マンションを売却する際、登記手続きは必須です。特に、賃借人がいるオーナーチェンジ物件の場合、賃貸借契約の承継や通知義務など、居住用物件とは異なる注意点があります。本記事では、投資用中古マンション売却時の登記実務、オーナーチェンジでの手続き、抵当権抹消の流れ、税制との関係を段階的に解説します。
この記事で分かること
- 投資用中古マンション売却時の登記の基本
- オーナーチェンジでの登記手続きの流れ
- 抵当権抹消登記と投資用ローンの完済
- 登記にかかる費用と税金の計算方法
- 投資用不動産売却の税制と登記の関係
1. 投資用中古マンション売却時の登記の基本
(1) 登記制度とは
登記とは、不動産の所有権や抵当権などの権利関係を法務局に記録する制度です(法務局:不動産登記の申請手続について)。
登記簿謄本には以下の情報が記載されます:
- 所有権:現在の所有者名義
- 抵当権:金融機関が設定した担保権
- 売買日:所有権移転の年月日
登記は義務ではありませんが、登記しないと第三者に所有権を主張できないため、売買取引では必ず登記を行います。
(2) 投資用と居住用の登記の違い
投資用不動産の登記手続きは、基本的に居住用と同じです。ただし、以下の点で違いがあります。
項目 | 居住用 | 投資用 |
---|---|---|
所有権移転登記 | 同じ | 同じ |
抵当権抹消登記 | 同じ | 同じ |
賃貸借契約の承継 | なし | あり(賃借人がいる場合) |
税制優遇 | 居住用3,000万円控除 | 適用なし |
投資用物件は、賃借人への通知義務や賃貸借契約の承継が必要です。
(3) 売却時に必要な登記の種類
投資用中古マンション売却時に必要な登記は以下の通りです。
主な登記
- 所有権移転登記:売主から買主へ所有権を移転
- 抵当権抹消登記:投資用ローンを完済し、金融機関の担保権を抹消
これらの登記は、決済日(引渡し日)に同時に行われます。司法書士が手続きを代行するのが一般的です。
2. オーナーチェンジでの登記手続きの流れ
(1) オーナーチェンジとは
オーナーチェンジとは、賃借人が入居中のまま物件を売却することです。
オーナーチェンジ物件の特徴
- 賃料収入が継続するため、利回り重視の投資家が買主となる
- 賃貸借契約と敷金返還義務が新オーナーに自動的に承継される(民法605条の2)
- 売却価格は空室物件より低めになる傾向
賃借人がいても所有権移転登記の手続きは変わりませんが、賃貸借契約の承継手続きが必要です。
(2) 賃借人がいる状態での所有権移転登記
賃借人の有無に関わらず、所有権移転登記の手続きは同じです。
登記の流れ
- 売買契約締結(手付金支払い)
- 決済日(売買代金の支払い、所有権移転登記、抵当権抹消登記を同時履行)
- 登記完了(法務局での登記処理:1-2週間)
登記完了後、新しい登記簿謄本を取得し、買主名義になっていることを確認しましょう。
(3) 賃貸借契約の承継と通知義務
民法605条の2により、賃貸借契約と敷金返還義務は新オーナーに自動的に承継されます。
必要な手続き
- 賃借人への通知:オーナーが変わったことを書面で通知
- 賃料振込先の変更:新オーナーの口座に変更
- 賃貸借契約書の引継ぎ:原本を買主に譲渡
- 敷金の引継ぎ:敷金を買主に引き渡す(または売買代金から差し引く)
通知は決済日から1-2週間以内に行うのが一般的です。管理会社が代行する場合もあります。
3. 抵当権抹消登記と投資用ローンの完済
(1) 投資用ローンと抵当権
投資用不動産を購入する際、多くの場合投資用ローンを利用します。金融機関は、融資の担保として物件に抵当権を設定します。
売却時には、投資用ローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。抵当権が残ったままでは、買主が融資を受けられないため、売却できません。
(2) 売却代金による一括返済と抹消登記
投資用ローンの残債がある場合、売却代金で一括返済します。
一括返済の流れ
- 金融機関に一括返済を申し出(決済日の1-2週間前)
- 返済額の確定(残債+利息+手数料)
- 決済日に返済(売却代金から支払い)
- 抵当権抹消書類の受領(抹消登記に必要)
一括返済手数料は金融機関により異なりますが、通常1-5万円程度です。
(3) 決済日の同時履行
決済日には、以下の手続きが同時に行われます。
- 売買代金の支払い(買主→売主)
- 投資用ローンの一括返済(売主→金融機関)
- 抵当権抹消登記(金融機関→法務局)
- 所有権移転登記(売主→買主)
これらの手続きは司法書士が立ち会い、確実に履行されることを確認します。
4. 登記にかかる費用と税金
(1) 登録免許税の計算方法
登記には登録免許税がかかります(国税庁:登録免許税の税率)。
登録免許税の計算式
- 所有権移転登記:固定資産税評価額 × 2%
- 抵当権抹消登記:不動産1個につき1,000円(マンションは土地・建物で2個)
例:固定資産税評価額2,000万円のマンション
- 所有権移転登記:2,000万円 × 2% = 40万円(買主負担)
- 抵当権抹消登記:1,000円 × 2 = 2,000円(売主負担)
(2) 所有権移転登記の税率(2%)
所有権移転登記の税率は**2%**です(居住用の軽減税率0.3%は投資用には適用されません)。
固定資産税評価額は市区町村から送付される「固定資産税納税通知書」で確認できます。評価額は時価の70%程度が目安です。
(3) 司法書士報酬の相場
登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士報酬の相場
- 所有権移転登記:5-10万円(買主負担)
- 抵当権抹消登記:1-3万円(売主負担)
報酬は司法書士により異なるため、複数の司法書士に見積もりを依頼して比較することをおすすめします。
5. 投資用不動産売却の税制と登記の関係
(1) 短期譲渡所得(5年以内)と長期譲渡所得
投資用不動産の売却益には譲渡所得税がかかります(国税庁:譲渡所得の計算)。
所有期間による税率の違い
所有期間 | 税率 | 判定基準 |
---|---|---|
短期譲渡所得(5年以内) | 39.63% | 取得日から売却年の1月1日までが5年以内 |
長期譲渡所得(5年超) | 20.315% | 取得日から売却年の1月1日までが5年超 |
重要:判定日は売却年の1月1日です。例えば、2020年4月購入・2025年2月売却の場合、2025年1月1日時点で所有期間4年9ヶ月となり、短期譲渡所得(39.63%)となります。
(2) 減価償却と取得費の調整
投資用不動産は、保有期間中に減価償却を行います(国税庁:減価償却資産の償却方法)。
減価償却後の取得費
- 取得費 = 購入価格 - 減価償却累計額
- 譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
減価償却により取得費が低下するため、譲渡所得が増加し、税金が高くなります。
例:購入価格3,000万円、減価償却累計額500万円、売却価格3,200万円
- 取得費:3,000万円 - 500万円 = 2,500万円
- 譲渡所得:3,200万円 - 2,500万円 - 100万円(譲渡費用) = 600万円
- 税金(長期):600万円 × 20.315% = 約122万円
(3) 登記簿謄本による所有期間の証明
所有期間の証明には登記簿謄本を使用します。
登記簿謄本の「所有権移転」欄に記載された取得日が基準です。確定申告時には登記簿謄本のコピーを添付し、所有期間を証明します。
6. 投資用中古マンション売却の登記でよくある質問
以下のFAQで、投資用中古マンション売却時の登記に関する疑問を解消しましょう。
まとめ
投資用中古マンション売却時の登記では、以下のポイントが重要です:
- 登記の基本:所有権移転登記と抵当権抹消登記が必須
- オーナーチェンジ:賃借人への通知義務と賃貸借契約の承継
- 抵当権抹消:投資用ローンを売却代金で一括返済し、決済日に抹消登記
- 登記費用:登録免許税(所有権移転2%、抵当権抹消1,000円)と司法書士報酬
- 税制:所有期間5年以内は短期譲渡所得(39.63%)、5年超は長期譲渡所得(20.315%)
- 減価償却:取得費が低下し、譲渡所得が増加するため税金が高くなる
不明点は司法書士や税理士に相談し、安心して売却手続きを進めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 賃借人が入居中の投資用中古マンションを売却する場合、登記手続きに影響はありますか?
賃借人の有無に関わらず所有権移転登記の手続きは同じです。ただし民法605条の2により賃貸借契約と敷金返還義務が新オーナーに自動的に承継されるため、賃借人への通知が必要です。通知は決済日から1-2週間以内に行い、賃料振込先の変更と賃貸借契約書の引継ぎを忘れずに実施しましょう。管理会社が代行する場合もあります。
Q2. 投資用中古マンション売却時の登記費用は売主・買主どちらが負担しますか?
所有権移転登記の登録免許税と司法書士報酬は買主負担が慣例です。抵当権抹消登記は売主負担です。ただし契約内容により異なる場合もあり、売買契約書で明示されます。登録免許税は固定資産税評価額の2%、司法書士報酬は所有権移転5-10万円、抵当権抹消1-3万円が相場です。
Q3. 5年以内に売却した場合、登記と税金の関係は?
所有期間の判定は登記簿謄本の取得日から売却年の1月1日までで判定されます。5年以内は短期譲渡所得(税率39.63%)、5年超は長期譲渡所得(20.315%)です。登記日が税金に直接影響するため確認が重要です。例えば2020年4月購入・2025年2月売却の場合、2025年1月1日時点で所有期間4年9ヶ月となり短期譲渡所得となります。
Q4. 投資用中古マンション売却時、減価償却は登記に影響しますか?
登記手続き上は減価償却と直接関係はありません。登録免許税は固定資産税評価額で計算されます。ただし譲渡所得税の計算では減価償却後の取得費が影響するため、税理士への相談が重要です。減価償却により取得費が低下し、譲渡所得が増加するため、税金が高くなる傾向があります。確定申告時には減価償却の計算書を準備しましょう。
Q5. 投資用ローンの残債が売却価格を上回る場合、どうすれば良いですか?
残債が売却価格を上回る場合(オーバーローン)、差額を自己資金で補填する必要があります。自己資金が不足する場合、金融機関に相談し、任意売却を検討しましょう。任意売却では、金融機関の同意を得て売却価格で残債を返済し、不足分は別途返済計画を立てます。放置すると競売にかけられる可能性があるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。