投資用中古マンション購入時の登記の基礎知識
投資用の中古マンションを購入する際、登記手続きは居住用と基本的に同じですが、税制優遇や名義選択など投資特有の注意点があります。
(1) 所有権移転登記とは
所有権移転登記とは、不動産の所有者が変わったことを法務局の登記簿に記録し、第三者に対して公示する手続きです。投資用マンション購入時も、売主から買主へ所有権を移転する登記申請が必要です。
(2) 投資用物件と居住用の登記の違い
投資用物件の登記は以下の点が居住用と異なります:
項目 | 居住用 | 投資用 |
---|---|---|
登録免許税(所有権移転) | 0.3%(軽減措置適用時) | 2.0%(軽減なし) |
登録免許税(抵当権設定) | 0.1%(軽減措置適用時) | 0.4%(軽減なし) |
住宅ローン控除 | 適用可能 | 適用不可 |
登記名義 | 個人のみ | 個人または法人 |
投資用物件は住宅ローン控除の対象外であり、登録免許税の軽減措置も適用されないため、費用が高額になります。
(3) 中古マンション投資の流れ
投資用中古マンション購入の流れ:
- 物件探し・収益シミュレーション
- 購入申込・不動産投資ローン審査
- 売買契約締結
- 決済・所有権移転登記
- 賃貸管理開始(オーナーチェンジの場合)
投資用物件の登記名義の選択(個人・法人)
(1) 個人名義のメリット・デメリット
個人名義のメリット:
- 手続きが簡単(法人設立不要)
- 初期費用が安い
- 小規模投資に向いている
個人名義のデメリット:
- 所得税の累進課税(最大45%+住民税10%)
- 相続時に相続税が発生
- 複数物件購入時の管理が煩雑
(2) 法人名義のメリット・デメリット
法人名義のメリット:
- 法人税の税率が一定(中小法人は最大23.2%)
- 相続対策がしやすい
- 経費計上の範囲が広い
法人名義のデメリット:
- 法人設立費用がかかる(20~30万円)
- 決算・申告の手間
- 赤字でも法人住民税の均等割が発生
(3) 名義選択のポイント
名義選択の目安:
- 年間家賃収入500万円未満:個人名義が有利な場合が多い
- 年間家賃収入500万円以上:法人名義を検討
- 複数物件を購入予定:法人名義が管理しやすい
税理士に相談して、個別の所得状況に応じた判断を推奨します。
オーナーチェンジ物件の登記手続き
(1) 賃借人がいる物件の登記
オーナーチェンジ物件(賃借人入居中の物件)でも、登記手続きは通常の中古マンション購入と同じです。所有権移転登記を行うことで、新オーナーとして第三者に対抗できます。
(2) 賃貸借契約の承継
重要なポイント:
- 賃貸借契約は自動的に新オーナーに承継される
- 賃借人の同意は不要(民法605条の2)
- 敷金・保証金も新オーナーが引き継ぐ
- 賃借人への通知は任意だが実施を推奨
決済時に以下を確認:
- 現在の賃貸借契約書
- 敷金・保証金の預かり証
- 未払い賃料の有無
- 原状回復費用の負担状況
(3) 必要書類と注意点
オーナーチェンジ物件の登記に追加で必要な書類:
書類名 | 用途 | 入手先 |
---|---|---|
賃貸借契約書の写し | 賃料・契約条件の確認 | 売主 |
家賃入金記録 | 賃料支払い実績の確認 | 売主 |
敷金・保証金預かり証 | 引継ぎ金額の確認 | 売主 |
これらの書類は登記申請には不要ですが、取引の安全性確保のため必ず確認しましょう。
投資用ローンと抵当権設定登記
(1) 不動産投資ローンの審査基準
投資用ローンは住宅ローンと審査基準が異なります:
項目 | 住宅ローン | 不動産投資ローン |
---|---|---|
金利 | 0.5~1.5% | 2.0~4.5% |
融資期間 | 最長35年 | 最長30年 |
頭金 | 10~20% | 20~30% |
審査基準 | 年収・勤続年数 | 物件の収益性・自己資金 |
審査では以下を重視:
- 物件の収益性(表面利回り・実質利回り)
- 自己資金の額
- 返済比率(ローン返済額÷家賃収入)
(2) 抵当権設定登記の手続き
不動産投資ローンを借りる際、金融機関は購入物件に抵当権を設定します。登録免許税は以下の通り:
登録免許税(抵当権設定) = 債権額 × 0.4%
居住用の軽減税率(0.1%)は適用されないため、費用が4倍になります。
(3) 融資条件と登記のタイミング
決済当日の流れ:
- 司法書士が登記書類を確認
- 金融機関が融資実行
- 買主が売主に売買代金を支払い
- 司法書士が所有権移転登記と抵当権設定登記を申請
所有権移転と抵当権設定を同日に申請することで、権利関係が明確になります。
登記にかかる費用と経費計上
(1) 投資用物件の登録免許税
投資用中古マンションの登録免許税(軽減措置なし):
登記の種類 | 税率 | 計算例(評価額3,000万円) |
---|---|---|
所有権移転 | 2.0% | 60万円 |
抵当権設定 | 0.4% | 12万円(債権額3,000万円の場合) |
合計72万円と高額になります。居住用(軽減措置適用時)なら合計12万円程度のため、約6倍の費用差があります。
(2) 司法書士報酬の相場
投資用物件の司法書士報酬は居住用と同程度:
- 所有権移転登記:3~5万円
- 抵当権設定登記:3~5万円
合計6~10万円程度が目安です。
(3) 登記費用の経費計上
重要:登記費用は不動産所得の経費にはできません。
正しい処理方法:
- 登録免許税と司法書士報酬は物件取得費として計上
- 建物部分の取得費を減価償却で経費計上
- RC造マンションは47年で償却
確定申告時に適切に処理しましょう。
投資用物件の登記と確定申告
(1) 不動産所得の計算
不動産投資による所得は確定申告が必要です:
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
総収入金額:
- 家賃収入
- 更新料
- 礼金(返還不要部分)
必要経費:
- 減価償却費
- 修繕費
- 管理費・修繕積立金
- 火災保険料
- 固定資産税
- 不動産投資ローンの利息(元金は経費不可)
(2) 減価償却と登記簿の関係
減価償却の計算に登記簿情報を使用します:
- 建物の取得価額:登記簿の評価額を参考に按分計算
- 構造:登記簿の「構造」欄で確認(RC造、SRC造など)
- 耐用年数:RC造マンションは47年
減価償却の起点は登記日ではなく引き渡し日です。決済日(引き渡し日)から償却を開始します。
(3) 確定申告での登記費用の扱い
確定申告時の処理:
- 登記費用を取得費に加算
- 建物部分を減価償却
- 毎年の償却費を経費計上
例(取得費4,000万円、建物3,000万円、RC造47年、定額法):
年間償却費 = 3,000万円 ÷ 47年 = 約64万円
この64万円を毎年経費として計上できます。
まとめ:投資用中古マンション購入時の登記で押さえるべきポイント
投資用中古マンション購入における登記について重要なポイントをまとめます:
- 投資用は登録免許税の軽減措置なし(所有権移転2%、抵当権設定0.4%)
- 個人名義と法人名義は税率や相続対策で判断
- オーナーチェンジ物件は賃貸借契約が自動承継
- 投資用ローンは住宅ローンより金利が高い(2~4.5%)
- 登記費用は取得費として減価償却(不動産所得の経費不可)
- 確定申告で減価償却費を計上(RC造47年)
投資用物件は居住用より登記費用が高額です。収益シミュレーションに登記費用を必ず含めて、投資判断を行いましょう。名義選択や税務処理は税理士に相談することをお勧めします。
参考:
よくある質問(FAQ)
Q1: 投資用中古マンションは個人名義と法人名義、どちらがよいですか?
個人名義は手続きが簡単で初期費用が低いです。法人名義は税率面で有利な場合があり、相続対策にもなります。年間家賃収入や所得税率により判断が必要です。税理士に相談することを推奨します。
Q2: 賃借人がいるオーナーチェンジ物件を購入する場合、登記はどうなりますか?
所有権移転登記は通常通り実施します。賃貸借契約は新オーナーに自動的に承継されます。賃借人への通知は任意ですが実施を推奨します。敷金・保証金の引継ぎ確認が必要です。
Q3: 投資用物件の登記費用は経費として計上できますか?
登録免許税・司法書士報酬は取得費として計上します。不動産所得の経費ではなく、物件取得価格に含めて減価償却します。確定申告時に適切に処理する必要があります。
Q4: 投資用中古マンションの登録免許税は居住用より高いですか?
投資用は軽減措置がありません。所有権移転は固定資産税評価額の2%です。居住用は0.3%に軽減される場合があります。抵当権設定も0.4%(居住用0.1%)となります。