投資用中古戸建て購入時の登記の基礎知識
不動産投資として中古戸建てを購入する際、登記手続きは避けて通れません。投資用物件の登記は居住用物件と異なる点があり、登記名義の選択や登記費用の税務処理など、投資家が知っておくべきポイントがあります。この記事では、投資用中古戸建て購入時の登記・名義変更について、実務上の注意点を解説します。
この記事のポイント
- 投資用物件は登録免許税の軽減措置が適用されず、居住用より登記費用が高額
- 個人名義と法人名義にはそれぞれメリット・デメリットがあり、税率や相続対策により選択
- オーナーチェンジ物件では賃貸借契約が新オーナーに自動承継される
- 登記費用は取得費として計上し、物件取得価格に含めて減価償却
- 不動産投資ローンは住宅ローンより金利が高く、審査基準も異なる
1. 投資用中古戸建て購入時の登記の基礎知識
(1) 所有権移転登記とは
所有権移転登記は、不動産の所有権が売主から買主に移転したことを公示するための登記です。法務局の公式情報によれば、登記は義務ではありませんが、登記しないと第三者に対抗できません。
登記の流れ
- 売買契約の締結
- 決済(残代金支払い)
- 所有権移転登記の申請
- 登記完了(通常1~2週間)
通常は司法書士が決済日に法務局へ申請します。
(2) 投資用物件と居住用の登記の違い
投資用物件と居住用物件の登記には以下の違いがあります。
項目 | 投資用物件 | 居住用物件 |
---|---|---|
登録免許税(所有権移転) | 固定資産税評価額の2% | 0.3%(軽減措置適用時) |
登録免許税(抵当権設定) | 債権額の0.4% | 0.1%(軽減措置適用時) |
住宅ローン控除 | 適用外 | 適用可能 |
確定申告 | 不動産所得として申告 | 不要(居住用) |
国税庁の公式情報によれば、投資用物件は自己居住用でないため、登録免許税の軽減措置が適用されません。
(3) 中古戸建て投資の流れ
中古戸建てを投資用に購入する場合、以下の流れで進みます。
- 物件検討: 利回り・立地・築年数・修繕状況の確認
- 融資審査: 不動産投資ローンの事前審査
- 売買契約: 重要事項説明・契約書締結
- 融資本審査: 金融機関の本審査
- 決済・引渡し: 残代金支払い・所有権移転登記
- 賃貸開始: 賃借人募集または既存賃借人との契約承継
2. 投資用物件の登記名義の選択(個人・法人・共同名義)
(1) 個人名義のメリット・デメリット
メリット
- 手続きが簡単で、初期費用が低い
- 法人設立費用や維持費用が不要
- 確定申告が比較的シンプル(不動産所得として申告)
デメリット
- 所得税は累進課税(最高税率45%+住民税10%)
- 相続時に遺産分割の対象となる
- 損益通算の範囲が限定的
国税庁の公式情報によれば、不動産所得は給与所得等と合算して累進課税されます。年間家賃収入が大きい場合、税率が高くなる可能性があります。
(2) 法人名義のメリット・デメリット
メリット
- 法人税率が一定(資本金1億円以下の中小法人は所得800万円まで15%、800万円超は23.2%)
- 経費の範囲が広い(役員報酬・退職金等)
- 相続対策(株式として承継)
- 複数物件を管理しやすい
デメリット
- 法人設立費用(株式会社:約30万円、合同会社:約15万円)
- 法人維持費用(税理士報酬・決算費用等)
- 確定申告が複雑
- 不動産投資ローンの金利が個人より高い場合がある
法人名義が有利なケース
- 年間家賃収入が1,000万円以上
- 複数物件を運営予定
- 相続対策を重視
- 所得税率が高い(課税所得900万円以上)
(3) 共同名義での投資
夫婦や家族で共同名義にすることも可能です。
メリット
- 不動産所得を分散できる(所得税の累進課税を軽減)
- 融資額を増やせる場合がある
デメリット
- 売却時に共有者全員の同意が必要
- 相続時に共有持分が分散する可能性
- 確定申告が複雑(各共有者が申告)
3. オーナーチェンジ物件の登記手続き
(1) 賃借人がいる物件の登記
オーナーチェンジ物件とは、賃借人が入居中の物件を購入することです。所有権移転登記は通常通り行いますが、賃貸借契約の承継に注意が必要です。
登記手続きの流れ
- 売買契約の締結(賃貸借契約書・レントロールの確認)
- 決済・所有権移転登記
- 賃借人への通知(新オーナー就任の連絡)
- 敷金・保証金の引継ぎ確認
(2) 賃貸借契約の承継
民法の規定により、賃貸借契約は所有権移転と同時に新オーナーに自動承継されます。
自動承継の意味
- 賃借人の同意なく、賃貸借契約が新オーナーに引き継がれる
- 賃借人は引き続き居住できる
- 敷金・保証金も新オーナーに引き継がれる
賃借人への通知
- 法的義務ではないが、通知することが推奨される
- 通知内容:新オーナーの氏名・連絡先、家賃振込先の変更等
(3) 必要書類と注意点
オーナーチェンジ物件を購入する際、以下の書類を確認しましょう。
必要書類
- 賃貸借契約書(全入居者分)
- レントロール(賃料・入居状況の一覧)
- 入居者名簿
- 敷金・保証金の預かり証
- 家賃滞納の有無に関する報告書
- 修繕履歴・クレーム対応記録
注意点
- 契約内容を事前に精査(賃料・契約期間・特約事項)
- 敷金・保証金の金額と預かり状況を確認
- 家賃滞納がある場合の対応を売主と協議
4. 投資用ローンと抵当権設定登記
(1) 不動産投資ローンの審査基準
投資用物件を購入する際、不動産投資ローンを利用するのが一般的です。住宅金融支援機構の情報によれば、審査基準は住宅ローンと異なります。
審査項目
項目 | 住宅ローン | 不動産投資ローン |
---|---|---|
借主の返済能力 | 年収・勤続年数 | 年収・勤続年数・投資経験 |
物件の収益性 | 重視されない | 重視される(利回り・立地) |
金利 | 0.5~2% | 2~4% |
頭金 | 0~2割 | 2~3割 |
不動産投資ローンは、借主の返済能力だけでなく、物件の収益性も審査されます。
(2) 抵当権設定登記の手続き
不動産投資ローンを利用する場合、金融機関が不動産に抵当権を設定します。抵当権設定登記は、所有権移転登記と同時に行われるのが一般的です。
登録免許税
- 投資用物件:債権額(借入額)の0.4%
- 居住用物件(軽減措置適用時):債権額の0.1%
例:借入額3,000万円の場合
- 投資用物件:3,000万円 × 0.4% = 12万円
- 居住用物件(軽減措置適用時):3,000万円 × 0.1% = 3万円
(3) 融資条件と登記のタイミング
金融機関は、融資実行前に抵当権設定登記を完了することを条件とする場合があります。
決済日の流れ
- 売主・買主・金融機関・司法書士が一堂に会する
- 買主が金融機関から融資を受ける
- 買主が売主に残代金を支払う
- 所有権移転登記・抵当権設定登記の書類を作成
- 司法書士が法務局へ登記申請
この一連の流れは司法書士が調整し、通常は1~2時間で完了します。
5. 登記にかかる費用と経費計上
(1) 投資用物件の登録免許税
投資用中古戸建ての登録免許税は以下の通りです。
登記の種類 | 税率 |
---|---|
所有権移転登記 | 固定資産税評価額の2% |
抵当権設定登記 | 債権額(借入額)の0.4% |
計算例:評価額2,000万円、借入3,000万円の場合
- 所有権移転登記:2,000万円 × 2% = 40万円
- 抵当権設定登記:3,000万円 × 0.4% = 12万円
- 合計:52万円
居住用物件(軽減措置適用時)は所有権移転0.3%、抵当権設定0.1%となるため、投資用物件は登記費用が高額です。
(2) 司法書士報酬の相場
司法書士に登記を依頼する場合の報酬相場は以下の通りです。
登記の種類 | 報酬相場 |
---|---|
所有権移転登記 | 5~8万円 |
抵当権設定登記 | 3~5万円 |
合計 | 8~13万円 |
報酬は地域や案件の複雑さにより異なるため、複数の司法書士に見積もりを依頼することをおすすめします。
(3) 登記費用の経費計上
国税庁の公式情報によれば、投資用物件の登記費用は取得費として計上します。
取得費の扱い
- 登録免許税・司法書士報酬は物件取得価格に含める
- 取得費は減価償却費として毎年経費計上
- 不動産所得の計算で経費として差し引ける
減価償却の計算例
- 物件価格:2,500万円(建物部分1,500万円、土地部分1,000万円)
- 登記費用:60万円
- 取得費:2,560万円(建物部分1,530万円、土地部分1,030万円)
- 減価償却(木造戸建て、耐用年数22年):1,530万円 ÷ 22年 = 約69.5万円/年
6. 投資用物件の登記と確定申告
(1) 不動産所得の計算
国税庁の公式情報によれば、不動産所得は以下の式で計算します。
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
総収入金額
- 家賃収入
- 礼金・更新料
- 駐車場収入等
必要経費
- 減価償却費(建物・設備)
- 管理費・修繕費
- 固定資産税・都市計画税
- 借入金利息
- 損害保険料
- 税理士報酬
- その他経費
(2) 減価償却と登記簿の関係
減価償却費を計算する際、建物の構造と築年数が重要です。登記簿謄本で確認できます。
構造別の耐用年数
- 木造:22年
- 軽量鉄骨造(肉厚3mm以下):19年
- 軽量鉄骨造(肉厚3mm超4mm以下):27年
- 鉄筋コンクリート造:47年
中古物件の耐用年数(簡便法)
- 法定耐用年数を超えている場合:法定耐用年数 × 0.2
- 法定耐用年数の一部を経過している場合:(法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 0.2
例:木造戸建て(法定耐用年数22年)、築15年の場合 耐用年数 = (22 - 15) + 15 × 0.2 = 10年
(3) 確定申告での登記費用の扱い
投資用物件の登記費用は取得費として計上し、減価償却費として毎年経費計上します。
確定申告の流れ
- 不動産所得の内訳書を作成
- 確定申告書(第一表・第二表)を作成
- 2月16日~3月15日に税務署へ提出
青色申告の場合
- 複式簿記による記帳で最大65万円の青色申告特別控除
- 純損失の繰越控除(3年間)
- 青色事業専従者給与の必要経費算入
青色申告を選択する場合、青色申告承認申請書を事業開始日から2ヶ月以内に提出します。
まとめ
投資用中古戸建て購入時の登記は、居住用物件と異なり登録免許税の軽減措置が適用されず、登記費用が高額になります。個人名義と法人名義にはそれぞれメリット・デメリットがあり、年間家賃収入や所得税率、相続対策により選択します。
オーナーチェンジ物件では、賃貸借契約が所有権移転と同時に新オーナーに自動承継されます。賃貸借契約書やレントロールを事前に確認し、敷金・保証金の引継ぎや家賃滞納の有無を精査しましょう。
登記費用は取得費として計上し、物件取得価格に含めて減価償却します。不動産投資ローンは住宅ローンより金利が高く(2~4%)、頭金も2~3割必要となります。青色申告を選択することで最大65万円の特別控除が受けられるため、事業開始から2ヶ月以内に青色申告承認申請書を提出しましょう。不明点がある場合は、司法書士や税理士に相談することをおすすめします。