新築マンション売却時の登記手続き全体像
新築マンションを売却する際、登記手続きは売買取引の重要な要素です。登記とは、不動産の所有権や抵当権などの権利関係を法務局の登記簿に記録する手続きで、売却時には所有権を買主に移転する登記と、住宅ローンがある場合は抵当権を抹消する登記が必要です。
この記事のポイント
- 新築マンション売却時は、抵当権抹消登記→所有権移転登記の順で手続きを行う
- マンションは区分所有建物として、専有部分と敷地権を一括で登記する
- 抵当権抹消登記費用は売主負担、所有権移転登記費用は買主負担が一般的
- 決済日に売買代金の授受と同時に登記手続きを実施
- 登記完了までは1〜2週間程度かかる
新築マンション売却時の登記の基本
(1) 売却時に必要な登記の種類
法務省の資料によれば、マンション売却時には以下の登記が必要です。
売却時の登記の種類
登記の種類 | 実施者 | タイミング | 目的 |
---|---|---|---|
抵当権抹消登記 | 売主 | 決済日 | ローン完済時に金融機関の担保権を消す |
所有権移転登記 | 買主(費用負担) | 決済日 | 所有権を売主から買主へ移転 |
抵当権抹消登記は、住宅ローンが残っている場合に必要です。売却代金でローンを完済し、金融機関から抹消書類を受領して登記を行います。所有権移転登記は、売買取引の本質的な手続きで、決済日に必ず実施します。
(2) 戸建てとの登記の違い
マンションは「区分所有建物」として扱われ、戸建てとは異なる登記構造を持ちます。
マンションと戸建ての登記の違い
項目 | 新築マンション | 戸建て |
---|---|---|
所有権の対象 | 専有部分(自分の部屋)+敷地権(土地の共有持分) | 建物全体+土地全体 |
登記方法 | 専有部分と敷地権を一括で登記 | 建物と土地を別々に登記 |
共用部分 | 共用部分の持分も同時に移転 | なし |
登記簿の構成 | 専有部分と敷地権が一体化した表記 | 建物と土地が別々の登記簿 |
マンションでは、専有部分と敷地権が一体で登記されるため、土地の登記を別途行う必要がありません。
(3) 売却前の登記簿確認
売却前に登記簿謄本を取得し、以下の事項を確認することが重要です。
登記簿の確認ポイント
- 所有者の氏名・住所が現在の住民票と一致しているか
- 抵当権の設定状況(金融機関名、借入額)
- 専有部分の面積が売買契約書と一致しているか
- 共用部分の持分割合が正しいか
- 敷地権の割合が契約書と一致しているか
登記簿の取得は法務局またはオンラインで可能です(1通600円)。売却を決めたら早めに確認しておくことが推奨されます。
所有権移転登記の手続きと流れ
(1) 所有権移転登記の申請方法
所有権移転登記は、売主から買主へ所有権を移す登記です。法務省の資料によれば、決済日に実施されるのが一般的です。
所有権移転登記の申請方法
- 買主側が指定する司法書士が手続きを担当
- 売主は必要書類を準備(権利証、印鑑証明書など)
- 決済日に司法書士が法務局に申請
- 登録免許税を納付(買主負担)
- 登記完了(1〜2週間程度)
売却時の登記費用は、慣習として買主が負担します。売主は、権利証(登記識別情報)や印鑑証明書などの必要書類を準備するだけです。
(2) 買主側司法書士との調整
売却時の登記手続きは、買主側が指定する司法書士が行います。売主は、この司法書士と調整して必要書類を提供します。
買主側司法書士との調整内容
- 必要書類のリストを確認
- 書類の準備期限を確認
- 決済日のスケジュール調整
- 本人確認書類の確認
司法書士は、決済日の数日前に本人確認と書類確認を行います。この時点で書類に不備があると、決済が延期される可能性があるため、早めの準備が重要です。
(3) 決済日に実施する登記手続き
決済日には、売買代金の授受と同時に登記手続きを実施します。
決済日の流れ
- 買主から売買代金を受領
- 住宅ローンを完済(金融機関へ振込)
- 金融機関から抵当権抹消書類を受領
- 司法書士が抵当権抹消登記を申請
- 司法書士が所有権移転登記を申請
- マンションの鍵を買主に引き渡し
決済日は、売主・買主・司法書士・金融機関担当者が一堂に会して手続きを進めます。通常、不動産会社の店舗や金融機関の会議室で実施されます。
抵当権抹消登記のタイミングと方法
(1) ローン完済と抵当権抹消
住宅ローンが残っている場合、売却代金でローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。法務省の資料によれば、抵当権抹消登記はローン完済時に行う手続きです。
抵当権抹消の流れ
- 売買代金でローンを完済
- 金融機関から抵当権抹消書類を受領
- 司法書士が抵当権抹消登記を申請
- 登記完了(1〜2週間程度)
抵当権抹消登記と所有権移転登記は、同日に実施するのが一般的です。抵当権が残ったままでは、買主が所有権を取得できないためです。
(2) 金融機関からの必要書類
抵当権抹消登記には、金融機関から以下の書類を受領する必要があります。
金融機関から受領する書類
書類 | 内容 |
---|---|
抵当権解除証書 | 金融機関が抵当権を解除したことを証明する書類 |
登記済証(または登記識別情報) | 抵当権設定時に発行された権利証 |
委任状 | 司法書士に抹消登記を委任する書類 |
資格証明書 | 金融機関の登記簿謄本(3ヶ月以内) |
これらの書類は、ローン完済後に金融機関から郵送されます。決済日までに書類が届かない場合は、金融機関に連絡して確認することが重要です。
(3) 抹消登記と所有権移転の順序
抵当権抹消登記と所有権移転登記は、以下の順序で実施します。
登記の実施順序
- 抵当権抹消登記:売主のローンを完済し、金融機関の担保権を消す
- 所有権移転登記:抵当権が消えた状態で、所有権を買主に移転
この順序を守ることで、買主は抵当権のない清潔な所有権を取得できます。司法書士が決済日に両方の登記を同時申請し、法務局で順次処理されます。
区分所有建物特有の登記事項
(1) 専有部分の所有権移転
マンションの所有権移転登記では、専有部分(自分の部屋)の所有権が売主から買主へ移転します。
専有部分の登記内容
- 専有部分の建物の表示(所在、構造、床面積など)
- 所有者の氏名・住所
- 所有権の取得原因(売買)と取得日(決済日)
専有部分の登記は、区分所有法に基づいて行われ、一棟の建物の中の特定の部分を対象とします。
(2) 敷地権の扱い
敷地権とは、マンションの土地に対する所有権または地上権のことです。法務省の資料によれば、敷地権は専有部分と一体で登記され、専有部分と分離して処分することはできません。
敷地権の登記内容
- 敷地権の種類(所有権、地上権など)
- 敷地権の割合(専有面積に応じた持分)
- 敷地の所在地、地番、地目、地積
所有権移転登記では、専有部分と敷地権が一括で買主に移転されます。敷地権の登記を別途行う必要はありません。
(3) 共用部分の持分移転
マンションの共用部分(エントランス、廊下、階段、エレベーターなど)は、区分所有者全員の共有財産です。売却時には、共用部分の持分も買主に移転します。
共用部分の持分
- 共用部分の持分割合は、専有面積に応じて決定
- 持分割合は登記簿に記載される
- 所有権移転と同時に持分も移転
共用部分の持分移転は、専有部分の所有権移転に伴って自動的に行われます。別途手続きは不要です。
登記にかかる費用と負担者
(1) 登録免許税の計算
登記を行う際には、国に登録免許税を納める必要があります。国税庁の資料によれば、登録免許税は固定資産税評価額に税率を乗じて計算します。
登録免許税の計算方法
登記の種類 | 課税標準 | 税率 |
---|---|---|
所有権移転登記(売買) | 固定資産税評価額 | 2.0% |
抵当権抹消登記 | 不動産1個につき | 1,000円 |
計算例
- 固定資産税評価額:2,000万円
- 所有権移転登記の登録免許税:2,000万円 × 2.0% = 40万円(買主負担)
- 抵当権抹消登記の登録免許税:1,000円 × 2個(建物・土地)= 2,000円(売主負担)
(2) 所有権移転登記費用(買主負担)
所有権移転登記の費用は、慣習として買主が負担します。
所有権移転登記費用の内訳
- 登録免許税:固定資産税評価額 × 2.0%
- 司法書士報酬:5万〜10万円程度
例えば、固定資産税評価額2,000万円のマンションの場合、買主の負担は約45万〜50万円となります。
(3) 抵当権抹消登記費用(売主負担)
抵当権抹消登記の費用は、売主が負担します。
抵当権抹消登記費用の内訳
- 登録免許税:1,000円 × 2個(建物・土地)= 2,000円
- 司法書士報酬:1万〜3万円程度
抵当権抹消登記の費用は比較的少額です。売却代金から支払うことができます。
売却決済と登記の同時進行
(1) 決済当日の流れ
決済日には、売買代金の授受と登記手続きを同時に行います。
決済当日のスケジュール
- 10:00 売主・買主・司法書士・金融機関担当者が集合
- 10:10 司法書士による本人確認・書類確認
- 10:30 買主から売買代金を受領(振込または現金)
- 10:45 売主が住宅ローンを完済(金融機関へ振込)
- 11:00 金融機関から抵当権抹消書類を受領
- 11:15 司法書士が抵当権抹消登記・所有権移転登記を申請
- 11:30 マンションの鍵を買主に引き渡し
- 11:45 固定資産税・管理費等の清算
- 12:00 決済完了
決済は通常、午前中に実施されます。司法書士が当日中に法務局に登記申請を行うためです。
(2) 司法書士による本人確認
決済日には、司法書士が売主・買主の本人確認を行います。
本人確認に必要な書類
書類 | 売主 | 買主 |
---|---|---|
運転免許証またはマイナンバーカード | ○ | ○ |
印鑑証明書 | ○ | ○ |
実印 | ○ | ○ |
権利証(登記識別情報) | ○ | - |
本人確認は、不動産登記法で義務付けられています。書類に不備があると決済が延期される可能性があるため、事前に準備しておくことが重要です。
(3) 登記完了までの期間
決済日に登記申請を行った後、登記完了までは通常1〜2週間程度かかります。法務局の混雑状況により、期間が延びる場合もあります。
登記完了後の確認事項
- 司法書士から登記完了報告を受ける
- 登記簿謄本を取得して内容を確認
- 抵当権が確実に抹消されているか確認
- 買主への所有権移転が正しく記録されているか確認
登記完了後、売主は登記簿謄本を取得して、抵当権が確実に抹消されていることを確認することが推奨されます。
まとめ
新築マンション売却時の登記手続きは、専門的な知識が必要なため、司法書士に依頼して進めるのが一般的です。以下のポイントを押さえておきましょう。
- 売却時は抵当権抹消登記→所有権移転登記の順で手続きを行う
- マンションは区分所有建物として、専有部分と敷地権を一括で登記
- 抵当権抹消登記費用は売主負担、所有権移転登記費用は買主負担
- 決済日に売買代金の授受と同時に登記手続きを実施
- 登記完了までは1〜2週間程度かかる
売却前に登記簿を確認し、必要書類を早めに準備することで、スムーズな決済と登記手続きを実現できます。司法書士と連携し、確実に手続きを完了させましょう。
よくある質問
Q1: 新築マンション売却時の登記費用はいくらかかりますか?
所有権移転登記の費用は、登録免許税(固定資産税評価額の2%)と司法書士報酬5〜10万円の合計で、買主が負担します。抵当権抹消登記の費用は、登録免許税1,000円×2個(建物・土地で2,000円)と司法書士報酬1〜3万円の合計で、売主が負担します。例えば、固定資産税評価額2,000万円のマンションの場合、買主負担は約45万〜50万円、売主負担は約1.2万〜3.2万円となります。
Q2: 新築マンションの登記は戸建てと何が違いますか?
マンションは区分所有建物として、専有部分(自分の部屋)と敷地権(土地の共有持分)を一括で登記します。共用部分(エントランス、廊下など)の持分も同時に移転されます。登記簿は専有部分と敷地権が一体化した表記となり、土地の登記を別途行う必要がありません。戸建ての場合は、建物と土地を別々に登記する必要があります。
Q3: 抵当権抹消登記はいつ行いますか?
売却決済日にローンを完済し、同時に抵当権抹消登記を行います。金融機関から事前に抹消書類(抵当権解除証書、登記済証、委任状、資格証明書)を受領しておく必要があります。抵当権抹消登記は所有権移転登記より先に実施され、抵当権を消した状態で所有権を買主に移転します。司法書士が両方の登記を同日に申請します。
Q4: 売却前に登記簿を確認する必要がありますか?
売却前に登記簿謄本を取得し、以下の事項を確認することが重要です。所有者の氏名・住所が現在の住民票と一致しているか、抵当権の設定状況(金融機関名、借入額)を確認、専有部分の面積が売買契約書と一致しているか、共用部分の持分割合が正しいかを確認します。登記簿の取得は法務局またはオンラインで可能です(1通600円)。登記簿に誤りがあった場合は、売却前に訂正手続きを行う必要があります。