投資用物件の固定資産税を理解する
投資用中古戸建てを売却する際、固定資産税や都市計画税の取り扱いは、自己居住用の物件とは異なる点があります。特に、経費計上や売却時の清算、確定申告での処理方法を正しく理解しておくことが重要です。
この記事でわかること
- 投資用物件の固定資産税・都市計画税の基本
- 不動産所得での必要経費計上の方法
- 売却年の固定資産税の処理と按分方法
- 売却時の買主との清算実務
- 投資用物件と居住用物件の税務上の違い
1. 投資用中古戸建て売却と固定資産税・都市計画税の基本
(1) 固定資産税の課税対象と納税義務者
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に納税義務が発生します(総務省)。投資用か居住用かに関わらず、この原則は変わりません。
年の途中で売却しても、1月1日時点の所有者がその年度の固定資産税を納付する義務を負います。実務上は、売却時に買主と日割り計算で精算することが一般的です。
固定資産税の基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
課税基準日 | 毎年1月1日 |
納税義務者 | 基準日時点の所有者 |
標準税率 | 1.4%(市町村により異なる場合あり) |
納付回数 | 年4回(一括納付も可能) |
(2) 都市計画税の課税対象
都市計画税は、市街化区域内の土地・建物に課される目的税です(総務省)。固定資産税と同様に1月1日時点の所有者が納税義務を負い、標準税率は0.3%です。
投資用中古戸建てが市街化区域内にある場合、固定資産税に加えて都市計画税も課税されます。市街化調整区域や市街化区域外であれば、都市計画税は課税されません。
2. 投資用物件の固定資産税と不動産所得の関係
(1) 固定資産税・都市計画税の必要経費計上
投資用不動産を賃貸している期間中の固定資産税・都市計画税は、不動産所得の必要経費として全額計上できます(国税庁)。
例えば、年間の固定資産税が20万円、都市計画税が5万円の場合、合計25万円を不動産所得から差し引くことができます。これにより、所得税・住民税の負担が軽減されます。
必要経費として認められる税金
- 固定資産税
- 都市計画税
- 不動産取得税(取得時)
- 登録免許税(登記時)
(2) 確定申告での処理方法
固定資産税・都市計画税は、確定申告の際に「不動産所得」の「必要経費」欄に記載します。
確定申告での記載例
- 収入金額:家賃収入120万円
- 必要経費:管理費12万円、修繕費30万円、固定資産税・都市計画税25万円
- 不動産所得:120万円 - 67万円 = 53万円
納税通知書や領収書を保管し、確定申告時に添付または提示できるようにしておきましょう。
3. 売却年の固定資産税の経費処理
(1) 売却年の固定資産税の按分方法
投資用中古戸建てを売却した年の固定資産税は、所有期間に応じて按分します。
例えば、6月30日に売却した場合:
- 1月1日~6月30日(賃貸期間):不動産所得の必要経費
- 7月1日~12月31日(売却後):買主が負担(清算金で受領)
具体的な計算例
- 年間固定資産税:20万円
- 賃貸期間:1月1日~6月30日(181日)
- 賃貸期間分の経費:20万円 × 181日 ÷ 365日 = 約99,178円
この約10万円を不動産所得の必要経費として計上します。
(2) 譲渡所得と不動産所得の区分
売却年の固定資産税を処理する際、譲渡費用としては計上できない点に注意が必要です。
固定資産税は所有していること自体に課される税金であり、売却のために直接支出した費用ではないため、譲渡所得の計算では譲渡費用として差し引くことはできません。
譲渡費用として認められるもの
- 仲介手数料
- 売買契約書の印紙代
- 立退料
- 取壊し費用(条件あり)
譲渡費用として認められないもの
- 固定資産税・都市計画税
- 住宅ローンの利息
- 修繕費
4. 売却時の固定資産税清算と日割り計算
(1) 売主と買主の按分精算の実務
不動産売却時には、売主と買主の間で固定資産税を日割り計算して精算するのが慣例です。起算日は地域によって異なります。
起算日 | 地域 | 特徴 |
---|---|---|
1月1日 | 関東など | 暦年で計算、売主負担が長くなる |
4月1日 | 関西など | 年度で計算、売主負担が短くなる |
計算例(6月30日引き渡し、1月1日起算)
- 年間固定資産税:20万円
- 売主負担:20万円 × 181日 ÷ 365日 = 約99,178円
- 買主負担:20万円 × 184日 ÷ 365日 = 約100,822円
決済時に、買主から売主に対して買主負担分の約10万円が支払われます。
(2) 清算金の税務上の取り扱い
買主から受け取る固定資産税の清算金は、譲渡収入の一部として扱われます。
例えば、売却価格が2,000万円で、固定資産税の清算金が10万円の場合、譲渡所得の計算では譲渡収入を2,010万円として計算します。
譲渡所得の計算例
- 譲渡収入:2,010万円(売却価格2,000万円 + 清算金10万円)
- 取得費:1,500万円(購入価格から減価償却累計額を差し引いた金額)
- 譲渡費用:60万円(仲介手数料等)
- 譲渡所得:2,010万円 - 1,500万円 - 60万円 = 450万円
5. 投資用物件と居住用物件の税務上の違い
(1) 住宅用地特例の適用
投資用物件であっても、賃貸住宅として使用されていれば住宅用地の特例が適用されます(総務省)。
住宅用地の特例
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地(200㎡以下) | 評価額の1/6 | 評価額の1/3 |
一般住宅用地(200㎡超) | 評価額の1/3 | 評価額の2/3 |
この特例により、住宅として利用されている投資用戸建ては、固定資産税・都市計画税が大幅に軽減されます。
(2) 居住用財産の特例が適用されない理由
投資用物件を売却する際、居住用財産の3,000万円特別控除は適用されません(国税庁)。
この特例は「自己の居住の用に供していた家屋」が対象であり、賃貸していた物件は対象外となります。
投資用物件で適用されない特例
- 居住用財産の3,000万円特別控除
- 軽減税率の特例
- 買換えの特例(居住用)
投資用物件の売却では、所有期間に応じた通常の税率が適用されます。
6. 投資用中古戸建て売却時の税制上の注意点
(1) 短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
投資用不動産の譲渡所得は、所有期間が5年を超えるかどうかで税率が大きく異なります(国税庁)。
所有期間の判定
- 判定時点:売却した年の1月1日
- 短期譲渡所得:所有期間5年以下
- 長期譲渡所得:所有期間5年超
税率の違い
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|
短期(5年以下) | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期(5年超) | 15.315% | 5% | 20.315% |
例えば、譲渡所得が450万円の場合:
- 短期譲渡:450万円 × 39.63% = 約178万円
- 長期譲渡:450万円 × 20.315% = 約91万円
約87万円の差が出るため、所有期間の管理は重要です。
(2) 減価償却と譲渡所得の関係
投資用物件では、賃貸期間中に建物の減価償却費を必要経費として計上します。これにより、売却時の取得費が減少し、譲渡所得が増える点に注意が必要です。
減価償却の影響例
- 購入価格:2,000万円(土地1,000万円、建物1,000万円)
- 減価償却累計額:500万円(10年間の累計)
- 売却時の取得費:1,500万円(2,000万円 - 500万円)
減価償却により取得費が減少するため、その分譲渡所得が増え、税負担も増えることになります。
まとめ
投資用中古戸建ての売却では、固定資産税・都市計画税の正しい処理が重要です。
重要ポイント
- 賃貸期間中の固定資産税・都市計画税は不動産所得の必要経費として全額計上可能
- 売却年は所有期間に応じて按分し、賃貸期間分のみ経費計上
- 売却時の清算金は譲渡収入の一部として扱う
- 固定資産税は譲渡費用として計上できない
- 投資用物件には居住用財産の特例が適用されない
- 所有期間5年超で税率が半分程度に軽減される
投資用不動産の売却は、税務上の取り扱いが複雑になるため、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。確定申告での適切な処理により、不要な税負担を避けることができます。