住み替え売却で注意すべき固定資産税のポイント
住み替えで新築戸建てを売却する際、固定資産税・都市計画税の扱いは意外と複雑です。旧居と新居で二重に払うのか、減額期間中の売却はどうなるのか、清算はどのように行うのか――こうした疑問は多くの住み替え検討者が抱えています。
本記事では、住み替えによる新築戸建て売却時の固定資産税・都市計画税について、納税義務の原則、二重負担のリスク、新築減額措置の引き継ぎ、日割り清算の実務、住宅用地特例の扱いまで、実務上重要な細則を含めて解説します。
この記事でわかること:
- 固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者。旧居と新居で二重負担になる可能性がある
- 新築住宅の減額措置(3年間1/2)は買主に引き継がれ、減額期間中の売却は有利
- 売却時は引渡し日で固定資産税を日割り清算する(起算日は地域により異なる)
- 住宅用地特例(1/6)は売却後に取り壊すと喪失し、税額が6倍になる
- 住み替え時は旧居の売却と新居の購入タイミングで税負担が変わる
1. 住み替え売却新築戸建ての固定資産税・都市計画税の基礎
(1) 固定資産税の仕組みと標準税率1.4%
固定資産税は、土地・建物の所有者に毎年課される市町村税です。総務省によれば、**課税標準額×税率(標準1.4%)**で計算されます。課税標準額は、市町村が3年ごとに決定する固定資産評価額に各種軽減措置を適用した金額です。
住み替えの場合、旧居と新居の両方を所有する期間があれば、それぞれの固定資産税を負担します。
(2) 都市計画税の目的と税率上限0.3%
都市計画税は市街化区域内の土地・建物に課される目的税で、道路・公園整備などの財源となります。税率は自治体条例で決定され、法定上限は0.3%です。固定資産税と合わせて納税通知書が届きます。
新築戸建ての年間税額イメージ(評価額3,000万円、東京都の場合):
- 固定資産税:3,000万円×1.4%=42万円(新築減額前)
- 都市計画税:3,000万円×0.3%=9万円
- 合計:約51万円(新築減額適用前)
(3) 新築戸建ての固定資産税評価
新築戸建ての評価額は、建築後最初の1月1日時点で確定します。建築コスト、周辺相場、構造(木造・鉄骨など)を総合的に勘案して市町村が決定します。評価は3年ごとに見直され、次回は2027年です。
住み替えで新居を購入する場合、購入した翌年度から固定資産税が課税されます。
2. 新築住宅の減額措置と住み替えタイミング
(1) 新築戸建ての減額(3年間1/2)
国土交通省によれば、新築住宅は固定資産税が3年間1/2に減額されます。床面積50㎡以上280㎡以下の戸建て住宅が対象です。
減額適用例(評価額3,000万円、東京都):
- 1~3年目:固定資産税21万円(半額)+都市計画税9万円=30万円
- 4年目以降:固定資産税42万円+都市計画税9万円=51万円
減額は建物部分のみで、土地の固定資産税には適用されません。認定長期優良住宅であれば5年間1/2となります。
(2) 減額期間中の売却メリット
減額期間中の売却は買主にとって魅力的です。買主は減額の恩恵を受けられるため、初期の保有コストが軽くなります。
買主から見たメリット:
- 購入直後から税負担が軽い
- 減額期間が長く残っているほど総コスト削減
- 新築減額+住宅用地特例のダブル軽減
住み替えのタイミングが減額期間中であれば、売却活動でアピールポイントになります。
(3) 減額期間終了後の税負担
減額期間終了後(4年目)は固定資産税が約2倍になります。前述の例では年30万円が51万円に跳ね上がります。
減額期間終了直後の売却では、買主は購入直後から通常税額を負担するため、価格交渉で不利になる可能性があります。住み替えを検討する際は、旧居の減額期間も考慮しましょう。
3. 住み替え時の納税義務と二重負担リスク
(1) 1月1日時点の所有者が納税義務者
固定資産税の納税義務者は、1月1日時点の登記簿上の所有者です(東京都主税局)。年の途中で売却しても、納税通知書は売主に届き、売主が年度全額を納税する義務を負います。
この原則は地方税法で定められており、売買契約で変更することはできません。
(2) 旧居と新居の納税義務タイミング
住み替えでは、旧居と新居の所有タイミングによって納税義務が決まります:
ケース1:2024年12月に旧居売却、2025年1月に新居購入
- 2025年1月1日時点:新居のみ所有
- 2025年度納税:新居のみ
ケース2:2024年12月に新居購入、2025年2月に旧居売却
- 2025年1月1日時点:旧居+新居を所有
- 2025年度納税:旧居+新居の両方
(3) 一時的な二重負担の可能性
住み替えで旧居の売却と新居の購入が同一年度内に完了しても、1月1日時点で両物件を所有していれば両方の固定資産税を負担します。
ただし、旧居は引渡し時に日割り清算で実質負担が軽減されます。購入物件は翌年度から納税義務が発生するため、同一年度内に二重納税することはありません。
二重負担を避けるタイミング:
- 年内に旧居売却→翌年に新居購入(1月1日をまたいで売買)
- 年内に新居購入→年内に旧居売却(同一年度内に完結)
4. 新築戸建て売却時の固定資産税清算実務
(1) 引渡し日での日割り清算
実務上は、引渡し日を基準に固定資産税を日割り計算し、買主が残日数分を売主に支払います。これは法律上の義務ではなく、国土交通省が明示する商慣習です。売買契約書に精算方法を明記します。
日割り精算の例(年税額30万円、7月1日引渡し、起算日1月1日):
- 1月1日~6月30日(181日):売主負担=30万円×181/365=約14.9万円
- 7月1日~12月31日(184日):買主負担=30万円×184/365=約15.1万円
買主は売主に15.1万円を支払い、売主は30万円全額を自治体に納税します。
(2) 日割り起算日の地域差(関東1/1、関西4/1)
日割り精算の起算日は地域により異なります:
関東圏:1月1日起算
- 東京、神奈川、埼玉、千葉など
- 固定資産税の課税基準日と一致
関西圏:4月1日起算
- 大阪、京都、兵庫など
- 自治体の会計年度に合わせた慣習
起算日が違うと精算額も変わるため、契約書で必ず確認してください。
(3) 清算金の取り扱い
買主から受け取った固定資産税清算金は、税務上譲渡収入の一部として扱います(国税庁)。譲渡所得の計算では、売却価格に清算金を加えた金額が収入金額となります。
譲渡所得の計算例:
- 売却価格:3,000万円
- 固定資産税清算金:15.1万円
- 譲渡収入:3,015.1万円
5. 住宅用地特例の適用と注意点
(1) 小規模住宅用地の特例(200㎡以下1/6)
総務省によれば、200㎡以下の住宅用地は課税標準を1/6に軽減する特例があります(都市計画税は1/3)。戸建ての場合、土地全体が対象です。
住宅用地特例の効果(土地評価額2,000万円):
- 特例なし:2,000万円×1.4%=28万円
- 特例あり:2,000万円×1/6×1.4%=4.7万円
200㎡超の部分は1/3軽減となります。
(2) 売却後の特例喪失タイミング
住宅用地特例は、1月1日時点で「住宅の敷地」であることが要件です。売却後に取り壊すか住宅用途でなくなると、翌年度から特例が外れます。
特例喪失の具体例:
- 2024年7月に引渡し、2024年10月に取り壊し
- 2025年1月1日時点:更地(住宅なし)
- 2025年度:特例喪失、税額6倍に
売却前に買主を見つけ、引渡しまで住宅用途を維持することが重要です。
(3) 新居での特例適用
新居を購入した場合、購入した翌年度から住宅用地特例が適用されます。新築戸建てであれば、新築減額措置と住宅用地特例の両方が適用され、税負担が大幅に軽減されます。
新居の税負担例(評価額3,000万円、土地2,000万円):
- 建物:3,000万円×1/2×1.4%=21万円(新築減額)
- 土地:2,000万円×1/6×1.4%=4.7万円(住宅用地特例)
- 都市計画税:(3,000万円×0.3%)+(2,000万円×1/3×0.3%)=約11万円
- 合計:約37万円
6. 住み替え時の資金計画と税額試算
住み替え時の資金計画では、以下の固定資産税関連コストを見積もります:
1. 旧居の固定資産税(売却年度)
- 1月1日時点で所有していれば年度全額を納税
- 引渡し時の日割り清算で実質負担軽減
- 減額期間中なら清算額も軽減
2. 新居の固定資産税(購入翌年度から)
- 購入した翌年度から課税開始
- 新築戸建てなら3年間1/2減額
- 住宅用地特例で土地は1/6軽減
3. 一時的な二重負担期間の試算
- 1月1日時点で両物件を所有する場合、両方の納税義務
- 売却タイミングを調整して二重負担を回避
資金計画のポイント:
- 旧居の売却と新居の購入タイミングを1月1日をまたいで調整
- 減額期間中の売却は買主へのアピールポイント
- 清算金は譲渡収入に含め、譲渡所得税の計算に反映
まとめ
住み替えによる新築戸建て売却時には、固定資産税・都市計画税の扱いが重要です。1月1日時点の所有者が納税義務者であり、旧居と新居で二重負担になる可能性があります。引渡し日で日割り清算するのが実務の原則です。
新築減額期間中の売却は買主にメリットがあり、減額期間は買主に引き継がれます。住宅用地特例は売却後に取り壊すと喪失し、税額が6倍になります。住み替え時は旧居の売却と新居の購入タイミングで税負担が変わるため、計画的に検討しましょう。
1月1日をまたいで売買タイミングを調整することで、一時的な二重負担を回避できます。減額期間、特例適用、清算実務を総合的に判断し、最適な住み替え計画を立てましょう。
FAQ
Q1. 住み替えで新築戸建てを売却する場合、固定資産税は二重に払うのですか?
1月1日時点で両物件を所有していれば両方の固定資産税を負担します。売却物件は引渡し時に日割り清算で実質負担軽減されます。購入物件は翌年度から納税義務が発生するため、同一年度内に二重納税することはありません。
Q2. 新築戸建てを減額期間中に住み替え売却するメリットは?
新築住宅の減額措置(3年間1/2)は買主にも魅力です。減額期間中の売却は買主の負担が軽く、売却しやすくなります。減額期間は買主に引き継がれます。住み替えタイミングと減額期間を照らし合わせて検討してください。
Q3. 住み替えで新築戸建てを売却した場合、固定資産税清算はどうなりますか?
1月1日時点の所有者(売主)が年度全額を納税します。引渡し日で日割り清算し、買主が残日数分を売主に支払います。減額適用後の金額で清算します。法的義務ではなく商習慣です。
Q4. 住み替えで売却後に空き家期間があると固定資産税が高くなりますか?
売却後に取り壊すか住宅用途でなくなると、翌年度から住宅用地特例(1/6)が適用されず税額が6倍になります。売却前に買主を見つけ、引渡しまで住宅用途を維持することが重要です。