相続マンション売却時の固定資産税・都市計画税の基礎
相続したマンションを売却する際、固定資産税・都市計画税の納税義務や清算方法について正確に理解しておくことが重要です。本記事では、相続特有の納税義務の承継、相続登記との関係、売却時の清算実務について詳しく解説します。
本記事のポイント
- 相続発生年度の固定資産税は相続人が納税義務を承継する
- 共同相続の場合、相続人全員が連帯して納税義務を負う
- 売却時は引渡し日で日割り清算するのが通例
- 相続後の空き家期間が長期化すると住宅用地特例を喪失するリスクがある
- 相続登記は2024年4月から義務化(3年以内、過料あり)
(1) 固定資産税の仕組みと標準税率1.4%
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・家屋・償却資産を所有している人に課される地方税(市町村税)です。標準税率は1.4%で、市町村が課税します(参照:総務省:固定資産税の概要)。
計算式 固定資産税 = 固定資産税評価額 × 1.4%
マンションの場合、土地の持分(敷地権)と専有部分(建物)の両方に固定資産税が課税されます。
(2) 都市計画税の目的と税率上限0.3%
都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てるための目的税です。税率は上限0.3%で、主に市街化区域内の土地・建物に課税されます(参照:総務省:都市計画税の概要)。
税金の種類 | 税率 | 課税主体 | 課税対象 |
---|---|---|---|
固定資産税 | 1.4%(標準税率) | 市町村 | 全国の土地・建物 |
都市計画税 | 上限0.3% | 市町村 | 主に市街化区域内の土地・建物 |
(3) マンションの固定資産税評価(土地持分+専有部分)
マンションの固定資産税評価額は、土地の持分(敷地権)と専有部分(建物)で異なる方法で評価されます。
土地(敷地権)の評価
- 路線価方式:路線価×敷地面積×持分割合
- 路線価は時価の約80%が目安
建物(専有部分)の評価
- 固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となる
- 固定資産税評価額は時価の約70%が目安
相続したマンションの固定資産税評価額は、固定資産税納税通知書に記載されています。
相続時の納税義務の承継
相続が発生した場合、被相続人が負っていた固定資産税の納税義務は相続人に承継されます。1月1日時点の所有者が納税義務者となるため、相続発生年度の納税義務の扱いを正確に理解しておくことが重要です。
(1) 1月1日時点の所有者が納税義務者
固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている所有者です(参照:総務省:固定資産税の納税義務者)。
例えば、2025年1月1日時点で被相続人が所有していたマンションは、2025年度の固定資産税の納税義務者は被相続人となります。しかし、被相続人が死亡している場合、納税義務は相続人に承継されます。
(2) 相続発生年度の納税義務承継
相続発生年度の固定資産税の納税義務は、以下のように承継されます。
ケース1:1月1日以前に相続発生
- 1月1日時点の所有者は被相続人(既に死亡)
- 納税義務は相続人に承継
- 納税通知書は相続人代表者に送付される
ケース2:1月1日以降に相続発生
- 1月1日時点の所有者は被相続人(まだ存命)
- 納税通知書は被相続人宛に送付
- 被相続人死亡後、納税義務は相続人に承継
いずれの場合も、相続人が固定資産税を支払う義務があります。
(3) 共同相続時の連帯納税義務
複数の相続人がマンションを共同相続した場合、相続人全員が連帯して納税義務を負います。これは、固定資産税が相続財産に紐づく債務であり、相続人全員が責任を負うためです。
連帯納税義務の意味
- 市町村は、いずれかの相続人に全額を請求できる
- 1人の相続人が全額を支払った場合、他の相続人に求償できる
- 相続人間で事前に負担割合を決めておくことが重要
実務上は、相続人代表者を決め、その代表者宛に納税通知書を送付してもらうよう市町村に届け出ることが一般的です。
相続登記と固定資産税の関係
相続登記は、相続により不動産の所有権が移転した場合の登記です。2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料が課されるようになりました。相続登記と固定資産税の関係について見ていきましょう。
(1) 相続登記の義務化(2024年4月・3年以内)
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました(参照:法務省:相続登記の義務化)。相続により不動産を取得した相続人は、相続開始を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
義務化の内容
- 相続開始を知った日から3年以内に登記
- 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
- 2024年4月1日以前の相続も義務化の対象(施行日から3年以内)
相続登記をしないと、固定資産税の納税義務者が不明確になり、市町村から納税通知書が届かない場合もあります。
(2) 相続登記未了時の納税義務者の扱い
相続登記が未了でも、固定資産税の納税義務は発生します。登記簿上は被相続人のままでも、市町村は相続人を調査して納税通知書を送付します。
相続登記未了時の実務
- 市町村は戸籍調査により相続人を特定
- 相続人代表者宛に納税通知書を送付
- 相続人全員が連帯して納税義務を負う
ただし、相続登記義務化により、早期の登記が必須となりました。未登記のまま放置すると過料が課されるため、相続発生後は速やかに相続登記を行うことが重要です。
(3) 固定資産税評価額と相続税評価額
固定資産税評価額と相続税評価額は異なる概念ですが、密接に関連しています(参照:国税庁:相続税と固定資産税評価額)。
評価額の種類 | 評価主体 | 用途 | 時価との関係 |
---|---|---|---|
固定資産税評価額 | 市町村 | 固定資産税の課税標準 | 時価の約70% |
相続税評価額 | 国税庁 | 相続税の課税標準 | 時価の約80% |
マンションの相続税評価額は、固定資産税評価額を基に計算されるため、固定資産税納税通知書は相続税申告の際にも必要となります。
売却時の固定資産税清算実務
相続したマンションを売却する場合、固定資産税・都市計画税は引渡し日で日割り清算するのが通例です。清算方法と地域差について詳しく見ていきましょう。
(1) 引渡し日での日割り清算
固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者(売主)ですが、実務上は引渡し日を基準に日割り計算し、買主が残日数分を売主に支払うのが一般的です。
日割り清算の計算例
- 年間固定資産税:36万円(固定資産税30万円+都市計画税6万円)
- 引渡し日:7月1日(起算日1月1日の場合)
- 売主負担期間:1月1日~6月30日(181日)
- 買主負担期間:7月1日~12月31日(184日)
売主負担額:36万円 × 181日 ÷ 365日 = 約17.8万円 買主負担額:36万円 × 184日 ÷ 365日 = 約18.2万円
買主は、売主に約18.2万円を支払います(清算金)。
(2) 日割り起算日の地域差(関東1/1、関西4/1)
日割り清算の起算日は、地域により異なります。
地域 | 起算日 | 理由 |
---|---|---|
関東 | 1月1日 | 固定資産税の納税義務者基準日 |
関西 | 4月1日 | 納税通知書の発送時期 |
起算日が異なると、清算金額も変わります。売買契約書に起算日を明記し、トラブルを防ぐことが重要です。
(3) 清算金の取り扱い
固定資産税の清算金は、売買代金の一部として扱われます。買主が売主に支払う清算金は、売主にとって売却代金の一部となり、譲渡所得の計算に含まれます。
譲渡所得の計算 譲渡所得 = 売却価格(清算金含む) - 取得費 - 譲渡費用
清算金は、確定申告の際に譲渡所得として申告する必要があります。
相続後の空き家と住宅用地特例
相続したマンションを空き家にしたまま長期間放置すると、住宅用地の特例を喪失するリスクがあります。特例喪失により固定資産税が大幅に増加するため、早期売却が重要です。
(1) 住宅用地特例(200㎡以下1/6)
住宅用地(住宅が建っている土地)には、固定資産税・都市計画税の軽減措置があります(参照:総務省:住宅用地の課税標準の特例)。
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地(200㎡以下) | 評価額の1/6 | 評価額の1/3 |
一般住宅用地(200㎡超) | 評価額の1/3 | 評価額の2/3 |
マンションの敷地権(土地の共有持分)にも適用されます。
軽減効果の例:評価額3,000万円のマンション敷地権(150㎡)
項目 | 特例適用前 | 特例適用後 | 軽減額 |
---|---|---|---|
固定資産税 | 42万円 | 7万円 | 35万円 |
都市計画税 | 9万円 | 3万円 | 6万円 |
合計 | 51万円 | 10万円 | 41万円 |
(2) 空き家期間による特例喪失リスク
住宅用地の特例は、居住用途の維持が前提です。相続後に空き家にしたまま長期間放置すると、以下のリスクがあります。
特例喪失の可能性
- 空き家期間が長期化すると、市町村が「居住用途」と認めなくなる
- 特例が喪失すると、固定資産税が約6倍に跳ね上がる
- 特例喪失は翌年度の課税に反映される
相続後の空き家期間が1年以内であれば特例が維持されることが多いですが、2年以上の空き家は特例喪失のリスクが高まります。
(3) 早期売却の重要性
相続したマンションを利用する予定がない場合、早期売却が固定資産税負担を軽減する鍵となります。
早期売却のメリット
- 住宅用地特例を維持できる
- 固定資産税負担を最小限に抑えられる
- 相続税納税資金として活用できる
- 空き家管理の手間とコストを削減できる
相続発生後、速やかに売却活動を開始することをお勧めします。
未納税額の処理と注意点
被相続人に固定資産税の未納額がある場合、相続人が支払義務を負います。未納額の処理と注意点について見ていきましょう。
未納税額の承継
固定資産税の納税義務は相続財産に紐づくため、被相続人の未納額は相続債務として扱われます。相続人は、未納額を含めた納税義務を承継します。
未納額の確認方法
- 市町村の固定資産税課に問い合わせ
- 納税証明書(未納がないことの証明)を取得
- 売却前に未納額を確認し清算する
未納がある場合の対応
未納額がある場合、以下の対応が必要です。
- 市町村に連絡:未納額の確認と納付方法の相談
- 分割納付の検討:一括納付が困難な場合、分割納付を申請
- 売却代金から清算:マンション売却代金から未納額を支払う
売却時の注意点
未納額がある状態でマンションを売却すると、以下のリスクがあります。
- 買主から信用を失う可能性
- 売買契約に支障が出る
- 引渡し後に未納額が発覚すると、買主とのトラブルになる
売却前に未納額を確認し、清算しておくことが重要です。
延滞金の発生
固定資産税を納期限までに納付しない場合、延滞金が発生します。延滞金の利率は自治体により異なりますが、年率2.4%~14.6%程度です。未納額が増えると延滞金も高額になるため、早期の納付が重要です。
まとめ
相続したマンションを売却する際の固定資産税・都市計画税については、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 相続発生年度の固定資産税は相続人が納税義務を承継する
- 共同相続の場合、相続人全員が連帯して納税義務を負う
- 売却時は引渡し日で日割り清算するのが通例(地域により起算日が異なる)
- 相続後の空き家期間が長期化すると住宅用地特例を喪失し、固定資産税が約6倍に跳ね上がるリスクがある
- 相続登記は2024年4月から義務化(3年以内、過料あり)され、早期の登記が必須
- 被相続人の未納税額は相続債務として承継されるため、売却前に確認・清算が必要
固定資産税・都市計画税は毎年継続して課税される税金のため、相続後の早期売却が税負担を軽減する鍵となります。売却を検討する際は、不動産会社や税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
FAQ
Q1. 相続したマンションを売却する場合、固定資産税は誰が払いますか?
1月1日時点の所有者(売主)が納税義務者です。相続発生後は相続人が納税義務を承継します。売却年度は引渡し日で日割り清算し、買主が残日数分を売主(相続人)に支払うのが通例です。例えば、年間固定資産税36万円、7月1日引渡しの場合、買主は約18.2万円を売主に支払います(関東の場合、起算日1月1日)。清算金は売却代金の一部として扱われ、譲渡所得の計算に含まれます。
Q2. 相続登記をしていないマンションの固定資産税は誰に請求されますか?
登記簿上は被相続人のままでも、市町村は戸籍調査により相続人を特定し、納税通知書を送付します。相続人全員が連帯して納税義務を負います。ただし、2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が課されます。早期の相続登記が必須です。
Q3. 相続後に空き家にしたマンションの固定資産税が高くなると聞きましたが?
住宅用地の特例(200㎡以下の部分は評価額の1/6に軽減)は、居住用途の維持が前提です。相続後の空き家期間が長期化すると、市町村が「居住用途」と認めなくなり、特例を喪失するリスクがあります。特例喪失により、翌年度から固定資産税が約6倍に跳ね上がる可能性があります。例えば、年間10万円だった固定資産税が約60万円に増加します。早期売却が税負担軽減の鍵です。
Q4. 被相続人の固定資産税未納分がある場合、相続人が払わなければなりませんか?
固定資産税の納税義務は相続財産に紐づくため、未納額は相続債務として扱われ、相続人が支払義務を負います。未納額がある状態で売却すると、買主から信用を失う可能性があります。売却前に市町村に問い合わせて未納額を確認し、清算することが重要です。未納額を納期限までに納付しない場合、延滞金(年率2.4%~14.6%程度)が発生します。
Q5. 売却時の固定資産税清算で、関東と関西で起算日が違うのはなぜですか?
固定資産税の納税義務者基準日は全国共通で1月1日ですが、日割り清算の起算日は地域により異なります。関東は1月1日を起算日とするのが一般的ですが、関西は納税通知書の発送時期(4月頃)に合わせて4月1日を起算日とする慣習があります。起算日が異なると清算金額も変わるため、売買契約書に起算日を明記し、買主・売主間でトラブルを防ぐことが重要です。