相続購入マンションの固定資産税・都市計画税とは
相続でマンションを取得した場合、固定資産税と都市計画税の納税義務を引き継ぐことになります。これらの税金は毎年課されるため、相続後の資金計画に大きく影響します。課税の仕組みと軽減措置を正しく理解しておくことが重要です。
この記事のポイント
- 固定資産税は1月1日時点の所有者に課される市町村税(標準税率1.4%)
- 都市計画税は市街化区域内の物件に課される目的税(制限税率0.3%)
- 相続発生時期によって納税義務の承継タイミングが異なる
- 小規模住宅用地の特例で土地部分の課税標準が1/6に軽減
- 新築マンションは3年間建物部分の税額が1/2に減額される
固定資産税の基本(標準税率1.4%)
固定資産税は、毎年1月1日時点の土地・建物所有者に課される市町村税です(総務省「固定資産税」)。
固定資産税の基本
- 納税義務者:1月1日時点の所有者
- 課税主体:市町村(東京23区は都)
- 標準税率:1.4%(自治体により異なる場合あり)
- 課税標準:固定資産税評価額(原則として時価の70%程度)
計算式 固定資産税 = 固定資産税評価額 × 税率(標準1.4%)
都市計画税の課税要件(市街化区域・制限税率0.3%)
都市計画税は、市街化区域内の土地・建物に課される目的税です(総務省「都市計画税」)。道路・公園・下水道等の都市計画事業の費用に充てられます。
都市計画税の基本
- 課税対象:市街化区域内の土地・建物
- 制限税率:0.3%以下(自治体により異なる)
- 課税標準:固定資産税評価額
- 非課税:市街化調整区域は課税されない
計算式 都市計画税 = 固定資産税評価額 × 税率(制限0.3%)
マンションが市街化区域内にある場合、固定資産税と都市計画税の両方が課税されます。
マンション特有の課税構造(専有部分+土地持分)
マンションの固定資産税は、専有部分(各戸の建物)と土地持分(敷地の共有持分)の両方に対して課税されます。
課税対象
- 建物部分:専有面積に基づく評価額
- 土地部分:敷地全体の評価額 × 各戸の共有持分割合
計算例
- 専有面積:70㎡
- 建物評価額:1,500万円
- 敷地評価額:3億円
- 共有持分:1/100
- 土地評価額(自己分):3億円 × 1/100 = 300万円
合計評価額:1,500万円 + 300万円 = 1,800万円
固定資産税(軽減前):1,800万円 × 1.4% = 25.2万円
実際には後述する軽減措置が適用されるため、税額はこれより低くなります。
相続時の納税義務と課税タイミング
1月1日時点の所有者が納税義務者
固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日時点の所有者が納税義務者となります(総務省「固定資産税」)。
課税タイミングの原則
- 課税基準日:毎年1月1日
- 納税義務者:1月1日時点の登記簿上の所有者
- 年度途中の所有権移転:1月1日時点の所有者が1年分を納税
相続の場合も、この原則が適用されます。
相続発生日と納税義務の承継
相続が発生した時期によって、納税義務の承継タイミングが異なります。
パターン1:1月1日より前に相続が発生した場合
- 1月1日時点の所有者:相続人
- 納税義務者:相続人(当該年度から)
- 納税通知書:相続人に送付
パターン2:1月1日より後に相続が発生した場合
- 1月1日時点の所有者:被相続人
- 納税義務者:被相続人(相続人が納税義務を承継)
- 納税通知書:被相続人宛に送付(相続人が納税)
具体例
- 相続発生日:2024年10月
- 2024年度(1/1時点は被相続人):被相続人に課税、相続人が納税義務を承継
- 2025年度(1/1時点は相続人):相続人に課税
遺産分割協議中の納税義務者の特定
相続発生後、遺産分割協議が完了していない場合でも、固定資産税の納税義務は発生します。
協議未了時の取扱い
- 1月1日時点で遺産分割未了の場合:相続人全員が連帯して納税義務を負う
- 自治体の対応:相続人代表者を指定して納税通知書を送付
- 実際の負担:相続人間で協議して負担割合を決定
相続人代表者の指定 自治体は、相続人の中から代表者を指定し、納税通知書を送付します。代表者は他の相続人の分もまとめて納税し、後日相続人間で精算します。
遺産分割協議での決定事項
- マンションを誰が相続するか
- 固定資産税の負担割合
- 過去に支払った固定資産税の精算方法
協議で決定した内容は、遺産分割協議書に明記します。
マンションの固定資産税評価と計算方法
専有面積による建物評価
マンションの建物部分の固定資産税評価額は、専有面積に基づいて算定されます。
評価の基本
- 評価方法:再建築価格方式(建物を新築した場合の価格を基準)
- 経年減価:築年数に応じて評価額が減少
- 専有面積:各戸の床面積(壁芯面積ではなく内法面積)
評価額の目安
- 新築時:建築費の50~70%程度
- 築10年:新築時の60~70%程度
- 築20年:新築時の40~50%程度
新築マンションの場合、相続後も建物評価額は比較的高い水準で維持されます。
共有持分による土地評価
マンションの土地部分は、敷地全体の評価額に各戸の共有持分割合を乗じて算定されます。
共有持分の決定方法 共有持分は、各戸の専有面積の割合で決定されるのが一般的です。
計算例
- マンション総戸数:100戸
- 各戸の専有面積:70㎡
- マンション全体の専有面積合計:7,000㎡
- 共有持分:70㎡ / 7,000㎡ = 1/100
土地評価額の計算
- 敷地全体の固定資産税評価額:3億円
- 自己の土地評価額:3億円 × 1/100 = 300万円
この土地評価額に対して固定資産税・都市計画税が課税されます。
評価替え(3年ごと)と税額変動
固定資産税評価額は、3年ごとに見直されます(評価替え)。
評価替えの仕組み
- 基準年度:3年ごと(直近は2024年度)
- 次回:2027年度
- 評価方法:時価の変動を反映
税額変動の要因
- 建物の経年劣化による評価額の減少
- 土地の時価変動(地価の上昇・下落)
- 新築特例の終了(3年経過後)
一般的に、建物は経年劣化により評価額が下がるため、税額は徐々に減少します。ただし、土地の地価上昇や新築特例の終了により、税額が上昇するケースもあります。
相続後の軽減措置と特例適用
小規模住宅用地の特例(200㎡以下1/6)
住宅用地は、固定資産税・都市計画税の課税標準が軽減されます(総務省「住宅用地の特例」)。
軽減措置の内容
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地(200㎡以下) | 課税標準1/6 | 課税標準1/3 |
一般住宅用地(200㎡超) | 課税標準1/3 | 課税標準2/3 |
マンションの場合の適用面積 マンションは、「敷地面積 / 総戸数 × 10」が各戸の適用面積の上限となります。
計算例
- 敷地面積:3,000㎡
- 総戸数:100戸
- 適用面積上限:3,000㎡ / 100戸 × 10 = 300㎡
各戸の土地持分が200㎡以下であれば、全額が小規模住宅用地として1/6の軽減を受けられます。
税額の計算例
- 土地評価額:300万円
- 軽減前:300万円 × 1.4% = 4.2万円
- 軽減後:300万円 × 1/6 × 1.4% = 0.7万円
年間3.5万円の軽減効果があります。
新築マンションの減額特例(3年間1/2)
新築マンションの建物部分は、3年間固定資産税が1/2に減額されます(総務省「新築住宅の減額特例」)。
特例の内容
- 対象:新築後3年間(中高層耐火建築物)
- 減額割合:建物部分の固定資産税1/2
- 適用面積:120㎡まで(それを超える部分は通常課税)
- 要件:床面積50㎡以上280㎡以下
注意点 都市計画税は減額対象外です。固定資産税のみが減額されます。
税額の計算例(新築マンション)
- 建物評価額:1,500万円
- 土地評価額:300万円(小規模住宅用地特例適用後:50万円相当)
1年目~3年目(新築特例期間中)
- 建物:1,500万円 × 1.4% × 1/2 = 10.5万円
- 土地:50万円相当 × 1.4% = 0.7万円
- 合計:11.2万円/年
4年目以降(新築特例終了後)
- 建物:1,500万円 × 1.4% = 21.0万円
- 土地:0.7万円
- 合計:21.7万円/年
新築特例が終了すると、税額が約2倍になります。資金計画に注意が必要です。
特例適用の継続条件
相続によりマンションを取得した場合でも、各種軽減措置は継続して適用されます。
継続適用される特例
- 小規模住宅用地の特例:居住用として使用している限り適用継続
- 新築住宅の減額特例:新築後3年間は相続後も残期間適用
適用が終了するケース
- 住宅を取り壊した場合
- 住宅用以外の用途に変更した場合(事務所、店舗等)
- 空き家として放置し、管理不全状態になった場合
相続後も居住用として使用していれば、特例は継続適用されます。
納期と支払い方法の実務
固定資産税・都市計画税の納期は、自治体によって異なりますが、一般的には年4回に分けて納付します。
標準的な納期(東京都の例)
- 第1期:6月
- 第2期:9月
- 第3期:12月
- 第4期:翌年2月
納付方法
- 納付書による納付(金融機関、コンビニ等)
- 口座振替
- クレジットカード払い
- スマートフォン決済(PayPay、LINE Pay等)
一括納付 第1期の納期限までに一括納付することも可能です。ただし、一括納付による割引はありません。
相続直後の納付 相続発生直後で名義変更が完了していない場合でも、納税通知書が届いたら期限までに納付する必要があります。納付後、遺産分割協議で決定した負担割合に基づき、相続人間で精算します。
相続登記と固定資産税の関係
相続登記未了でも納税義務は発生する
相続登記が完了していなくても、固定資産税の納税義務は発生します。
登記と課税の関係
- 登記簿上の所有者:被相続人のまま
- 実際の所有者:相続人
- 納税義務者:相続人(自治体が相続人を調査)
自治体は、戸籍謄本等を調査して相続人を特定し、納税通知書を送付します。
相続登記の義務化(2024年4月施行)
2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記することが法律で義務付けられました。
義務化のポイント
- 期限:相続開始を知った日から3年以内
- 罰則:正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
- 対象:2024年4月以前の相続も含む
相続登記が完了していないと、将来の売却や担保設定ができません。早期に登記手続きを進めることが重要です。
相続登記完了後の固定資産税
相続登記が完了すると、翌年度から正式に相続人宛に納税通知書が送付されます。
登記完了後の流れ
- 相続登記申請(法務局)
- 登記完了(1~2週間)
- 自治体への通知(法務局から自動的に通知)
- 翌年度から相続人宛に納税通知書送付
登記完了前でも納税義務は発生しているため、納税通知書が届いたら期限までに納付してください。
まとめ
相続でマンションを取得した場合、固定資産税と都市計画税の納税義務を引き継ぎます。毎年1月1日時点の所有者が納税義務者となるため、相続発生時期によって納税義務の承継タイミングが異なります。
小規模住宅用地の特例により土地部分の課税標準が1/6に軽減され、新築マンションの場合は3年間建物部分の税額が1/2に減額されます。これらの特例は相続後も継続適用されますが、新築特例終了後は税額が約2倍になるため、資金計画に注意が必要です。
相続登記は2024年4月から義務化され、相続から3年以内の登記が必要です。登記未了でも納税義務は発生するため、早期に司法書士に相談し、登記手続きを進めることをお勧めします。
よくある質問
Q1. 相続でマンションを取得した場合、いつから固定資産税を払うのですか?
A. 1月1日時点の所有者が納税義務者です。相続発生が1月1日より前なら相続人が当該年度から納税義務を負います。1月1日より後に相続が発生した場合は、被相続人に課税された税金を相続人が承継します。相続登記の完了時期は課税とは無関係です。
Q2. 遺産分割協議中で相続人が確定していない場合、固定資産税は誰が払いますか?
A. 1月1日時点で遺産分割未了の場合、相続人全員が連帯して納税義務を負います。自治体は相続人代表者を指定して納税通知書を送付します。実際の負担割合は相続人間で協議して決定します。
Q3. 相続したマンションが新築の場合、固定資産税の減額特例は引き継がれますか?
A. 新築住宅の減額特例(3年間建物部分1/2)は物件に紐づく制度で、相続後も残期間は継続適用されます。ただし特例終了後は税額が約2倍になるため、資金計画に注意が必要です。
Q4. 相続登記をしないと固定資産税は誰に請求されますか?
A. 登記簿上は被相続人のままでも、自治体は戸籍謄本等を調査して相続人を特定し、納税通知書を送付します。相続人が納税義務を負います。ただし、相続登記未了は2024年4月から過料の対象となるため、早期の登記が必須です。