相続後の土地購入と固定資産税・都市計画税の関係
相続により資金を得た、または相続した土地を売却して新たに土地を購入する場合、固定資産税・都市計画税の負担を正確に理解しておくことが重要です。本記事では、相続後の土地購入における税務のポイントを詳しく解説します。
本記事のポイント
- 相続による土地取得と新規購入では税制が大きく異なる
- 固定資産税は標準税率1.4%、都市計画税は上限0.3%で課税される
- 住宅用地の特例により固定資産税を最大1/6に軽減できる
- 1月1日時点の所有者が納税義務者となるため購入タイミングが重要
- 更地のままでは高額な固定資産税が課される
(1) 固定資産税・都市計画税とは
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・建物を所有している人に課される地方税です。標準税率は1.4%で、市町村が課税します(参照:総務省:固定資産税の概要)。
都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てるための目的税です。税率は上限0.3%で、主に市街化区域内の土地に課税されます(参照:総務省:都市計画税)。
税金の種類 | 税率 | 課税主体 | 課税対象 |
---|---|---|---|
固定資産税 | 1.4%(標準税率) | 市町村 | 全国の土地・建物 |
都市計画税 | 上限0.3% | 市町村 | 主に市街化区域内の土地・建物 |
相続後に新規購入した土地も、購入翌年から固定資産税・都市計画税の納税義務が発生します。
(2) 相続と土地取得の税務
相続により土地を取得した場合と、相続資金で新規購入した場合では、税務上の取り扱いが異なります。
相続により土地を取得した場合
- 相続税の課税対象となる(基礎控除額を超える場合)
- 不動産取得税は非課税
- 登録免許税は固定資産税評価額の0.4%
- 固定資産税・都市計画税は相続後も継続して課税
相続資金で新規購入した場合
- 不動産取得税が課税される(評価額×3~4%)
- 登録免許税は固定資産税評価額の2%(軽減措置適用で1.5%の場合あり)
- 固定資産税・都市計画税は購入翌年から課税
相続と新規購入での税制の違い
相続と新規購入では、初期費用として発生する税金に大きな違いがあります。相続した土地を売却して新たに購入する場合、この違いを理解しておくことが重要です。
(1) 相続は不動産取得税非課税
相続により土地を取得した場合、不動産取得税は非課税です(参照:東京都主税局:不動産取得税)。これは、相続が売買のような対価を伴う取引ではなく、被相続人の財産を承継する行為だからです。
相続税の課税対象にはなりますが、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば相続税も課税されません。
(2) 新規購入は不動産取得税・登録免許税が発生
相続資金で新たに土地を購入する場合、以下の税金が発生します。
税金の種類 | 税率・計算方法 | 備考 |
---|---|---|
不動産取得税 | 固定資産税評価額×3~4% | 一度だけ課される |
登録免許税(所有権移転) | 固定資産税評価額×2% | 軽減措置適用で1.5%の場合あり |
固定資産税 | 固定資産税評価額×1.4% | 毎年課税(翌年から) |
都市計画税 | 固定資産税評価額×0.3%以下 | 毎年課税(市街化区域内) |
具体例:評価額3,000万円の土地を購入した場合
- 不動産取得税:3,000万円×3%=90万円
- 登録免許税:3,000万円×2%=60万円
- 固定資産税(初年度):3,000万円×1.4%=42万円/年
- 都市計画税(初年度):3,000万円×0.3%=9万円/年
初期費用として約150万円、年間の維持費として約51万円が発生します。
(3) 固定資産税は両者とも翌年から課税
相続で取得した場合も、新規購入した場合も、固定資産税・都市計画税は翌年から継続して課税されます。1月1日時点の所有者が納税義務者となるため、購入タイミングによっては初年度の税負担が発生しない場合もあります。
固定資産税の計算方法と税率
固定資産税の税額は、土地の固定資産税評価額に税率を掛けて計算されます。評価額の決まり方と具体的な計算方法を見ていきましょう。
(1) 固定資産税評価額の決まり方
固定資産税評価額は、市町村が3年ごとに見直しを行い、固定資産課税台帳に登録します(令和6年度が基準年度)。土地の評価額は、路線価(国税庁が定める相続税評価額の基準)の約70%が目安とされています。
評価額の目安
- 時価(市場価格)の約70%
- 路線価(相続税評価額)の約90%
例えば、時価5,000万円の土地であれば、固定資産税評価額は約3,500万円となります。
(2) 標準税率1.4%と計算例
固定資産税の標準税率は1.4%です(参照:東京都主税局:固定資産税・都市計画税)。市町村の条例により税率が異なる場合もありますが、ほとんどの自治体が標準税率を採用しています。
計算式 固定資産税 = 固定資産税評価額 × 1.4%
具体例
土地の評価額 | 固定資産税(年額) | 都市計画税(年額) | 合計 |
---|---|---|---|
1,000万円 | 14万円 | 3万円 | 17万円 |
3,000万円 | 42万円 | 9万円 | 51万円 |
5,000万円 | 70万円 | 15万円 | 85万円 |
1億円 | 140万円 | 30万円 | 170万円 |
(3) 都市計画税(上限0.3%)
都市計画税は、市街化区域内の土地に課税される目的税です。税率は自治体の条例で決定されますが、上限は0.3%です。
計算式 都市計画税 = 固定資産税評価額 × 0.3%以下
市街化調整区域や非線引き区域の土地には都市計画税が課税されない場合が多いです。
住宅用地の特例措置の活用
土地の上に住宅を建てると、「住宅用地の特例措置」により固定資産税・都市計画税を大幅に軽減できます。相続資金で土地を購入した場合、住宅の建築計画とセットで検討することが重要です。
(1) 小規模住宅用地(200㎡以下:評価額の1/6)
200㎡以下の住宅用地(小規模住宅用地)は、固定資産税の課税標準額が評価額の1/6に、都市計画税は評価額の1/3に軽減されます。
軽減効果の例:評価額3,000万円の土地(150㎡)
項目 | 更地の場合 | 住宅用地の場合 | 軽減額 |
---|---|---|---|
固定資産税 | 42万円 | 7万円 | 35万円 |
都市計画税 | 9万円 | 3万円 | 6万円 |
合計 | 51万円 | 10万円 | 41万円 |
住宅を建築することで、年間約41万円の税負担軽減が可能です。
(2) 一般住宅用地(200㎡超:評価額の1/3)
200㎡を超える住宅用地部分(一般住宅用地)は、固定資産税の課税標準額が評価額の1/3に、都市計画税は評価額の2/3に軽減されます。
軽減効果の例:評価額5,000万円の土地(300㎡)
- 200㎡以下の部分:小規模住宅用地の特例適用(1/6)
- 200㎡超の部分(100㎡):一般住宅用地の特例適用(1/3)
項目 | 更地の場合 | 住宅用地の場合 | 軽減額 |
---|---|---|---|
固定資産税 | 70万円 | 約18万円 | 約52万円 |
都市計画税 | 15万円 | 約7万円 | 約8万円 |
合計 | 85万円 | 約25万円 | 約60万円 |
(3) 更地期間の高額な税負担
土地のみを購入し、住宅を建築しない期間(更地期間)は、住宅用地の特例が適用されません。そのため、**評価額×1.4%**の固定資産税が満額課税されます。
相続資金で土地を購入する場合、住宅の建築計画を明確にし、更地期間を最小限にすることが重要です。
固定資産税の納税時期と方法
固定資産税・都市計画税は、毎年4~6月頃に納税通知書が届き、年4回に分けて納付するか、一括で納付します。
(1) 納税通知書(4〜6月頃)
固定資産税の納税通知書は、毎年4~6月頃に市町村から送付されます(参照:三菱UFJ銀行:固定資産税の納税方法)。通知書には、以下の情報が記載されています。
- 固定資産税評価額
- 課税標準額(特例適用後の金額)
- 税額(固定資産税+都市計画税)
- 納付期限(年4回に分割)
1月1日時点で土地を所有していた場合、その年の4~6月頃に納税通知書が届きます。
(2) 年4回分割払いまたは一括払い
固定資産税の納付方法は、以下の2つから選択できます。
年4回分割払い
- 第1期:4~6月頃
- 第2期:7~9月頃
- 第3期:10~12月頃
- 第4期:翌年1~3月頃
一括払い
- 第1期の納付期限までに全額を納付
- 一括払いによる割引はない自治体が多い
納付方法は、銀行窓口、コンビニ、口座振替、クレジットカード、電子マネーなど、複数の選択肢があります。
相続後の土地購入で注意すべき税務ポイント
相続資金で土地を購入する場合、購入タイミングや相続土地の売却タイミングにより、税負担が変わります。税務上の注意点を詳しく見ていきましょう。
(1) 1月1日時点の所有者が納税義務者
固定資産税の納税義務者は、1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている所有者です。例えば、2025年3月に土地を購入した場合、2025年1月1日時点では所有していないため、2025年分の固定資産税は課税されません。2026年1月1日時点で所有しているため、2026年4月頃に納税通知書が届きます。
購入タイミングと初年度の税負担
購入時期 | 初年度の納税義務 |
---|---|
1月2日~12月31日 | なし(翌年から課税) |
1月1日 | あり(同年から課税) |
購入タイミングを調整することで、初年度の税負担を回避できます。
(2) 相続土地売却と新規購入のタイミング
相続した土地を売却して新たに土地を購入する場合、売却と購入のタイミングにより税負担が変わります。
ケース1:同一年内に売却と購入を完了
- 売却後、購入までの期間に1月1日をまたがなければ、その年の固定資産税負担がない
- 譲渡所得税が発生する場合、確定申告が必要
ケース2:年をまたいで売却と購入
- 売却年の1月1日時点で相続土地を所有していれば、その年の固定資産税が課税される
- 購入翌年から新規購入した土地の固定資産税が課税される
譲渡所得税の注意点
相続した土地を売却する場合、売却益(譲渡所得)に対して譲渡所得税が課される可能性があります。譲渡所得は、売却価格から取得費(被相続人が購入した価格または相続税評価額)と譲渡費用を差し引いた金額です。
譲渡所得税の税率は、所有期間により異なります。
所有期間 | 税率 | 備考 |
---|---|---|
5年以下(短期譲渡所得) | 約39% | 所得税30%+住民税9% |
5年超(長期譲渡所得) | 約20% | 所得税15%+住民税5% |
相続により取得した土地の所有期間は、被相続人が取得した日から計算されます。
まとめ
相続後の土地購入における固定資産税・都市計画税については、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 相続による土地取得は不動産取得税非課税だが、新規購入は課税対象(評価額×3~4%)
- 固定資産税は標準税率1.4%、都市計画税は上限0.3%で毎年課税される
- 住宅用地の特例により、固定資産税を最大1/6に軽減できる(200㎡以下)
- 更地のままでは住宅用地の特例が適用されず、高額な固定資産税が課される
- 1月1日時点の所有者が納税義務者となるため、購入タイミングで初年度の税負担を調整できる
- 相続土地の売却と新規購入のタイミングにより、譲渡所得税と固定資産税の負担が変わる
固定資産税・都市計画税は毎年継続して課税される税金のため、長期的な視点で税負担を考慮することが重要です。相続資金で土地を購入する際は、住宅の建築計画とセットで検討し、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
FAQ
Q1. 相続で土地を取得した場合と新規購入では、税金にどのような違いがありますか?
相続による土地取得は不動産取得税が非課税ですが、新規購入は課税対象(評価額×3~4%)となります。登録免許税も相続は0.4%、新規購入は1.5~2%と違いがあります。ただし、固定資産税・都市計画税は両者とも翌年から同じように課税されます。相続の場合は相続税の課税対象になりますが、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば相続税も非課税です。
Q2. 相続した土地を売却して新しく土地を購入した場合、固定資産税はどうなりますか?
固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者です。相続土地を売却し新規購入した場合、購入翌年から固定資産税が発生します。売却と購入を同一年内に行い、1月1日時点で不動産を所有していない期間が生じれば、その年の固定資産税負担がありません。ただし、相続土地の売却益には譲渡所得税が課される可能性があるため、売却タイミングと購入タイミングを税理士に相談することをお勧めします。
Q3. 相続で得た資金で土地だけを購入した場合、固定資産税はどのくらいかかりますか?
更地として固定資産税評価額×1.4%の固定資産税が課税されます。住宅用地の特例(1/6軽減)は適用されません。例えば、評価額3,000万円の土地であれば、固定資産税42万円+都市計画税9万円=年間51万円の税負担が発生します。住宅を建築すると特例適用で税額が約10万円に軽減されるため、約41万円の節税効果があります。建築計画とセットで検討することが重要です。
Q4. 相続した土地を売却する際、譲渡所得税と固定資産税の関係は?
相続土地の売却益には譲渡所得税が課される可能性があります。所有期間5年以下は約39%、5年超は約20%の税率です(所有期間は被相続人が取得した日から計算)。固定資産税は1月1日時点の所有者に課税されるため、売却タイミングにより当年の税負担の有無が変わります。売却後に新規購入する場合も、購入タイミングを考慮して初年度の固定資産税負担を調整できます。
Q5. 住宅用地の特例はどのような条件で適用できますか?
土地の上に住宅が建っていることが条件です。200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は固定資産税の課税標準額が1/6、都市計画税は1/3に軽減されます。200㎡を超える部分(一般住宅用地)は固定資産税が1/3、都市計画税は2/3に軽減されます。相続資金で土地を購入した場合、住宅を建築するまでは更地として満額の固定資産税が課税されるため、建築計画を明確にし、更地期間を最小限にすることが重要です。