離婚で土地を売却する際の固定資産税・都市計画税の扱い
離婚に伴い土地の売却を検討する際、固定資産税や都市計画税の負担について不安を感じる方は少なくありません。「共有名義の場合は誰が払うの?」「名義変更のタイミングで税負担は変わる?」「建物を取り壊すと税額が上がるって本当?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事のポイント:
- 共有名義の土地は共有者全員に連帯納税義務がある
- 1月1日時点の登記名義で納税義務者が確定する
- 財産分与での名義変更は贈与税非課税だが、タイミングで納税義務者が変わる
- 離婚売却時の日割り精算金は元配偶者と分配する必要がある
- 建物を取り壊すと住宅用地特例が喪失し、固定資産税が最大6倍に増加
- 離婚協議書で税負担の取り決めを明記することが重要
固定資産税・都市計画税は地方税法で定められた市町村税であり、共有名義の場合の連帯納税義務も明確に規定されています。本記事では、総務省や国税庁などの公的情報源をもとに、離婚時の土地売却における固定資産税の扱いを実務的な視点から解説します。
1. 離婚時の土地売却と固定資産税の基礎知識
(1) 固定資産税・都市計画税とは
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・家屋・償却資産を所有している人に課される市町村税です。総務省の資料によれば、標準税率は1.4%ですが、各自治体が条例で税率を定めるため、地域によって実際の税率は異なります。
都市計画税は、都市計画区域内の土地・家屋に課される市町村税で、税率の上限は0.3%です。都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てられ、固定資産税と併せて課税されます。市街化区域内の土地は原則として都市計画税の課税対象となりますが、市街化調整区域は課税されない場合があります。
固定資産税・都市計画税の特徴:
- 課税時期:毎年1月1日(賦課期日)
- 納税義務者:1月1日時点の登記簿上の所有者
- 税率:固定資産税は標準1.4%、都市計画税は上限0.3%
- 納期:年4回(自治体により異なる)
(2) 離婚時の土地処分と税務
離婚に伴う土地の処分方法には、主に以下の選択肢があります:
- 売却して現金を分割: 最も明確な財産分与方法
- 一方が取得して他方に金銭を支払う: 名義変更が必要
- 共有名義のまま保持: 離婚後もトラブルのリスクあり
- 建物を取り壊して更地で売却: 住宅用地特例喪失のリスク
国税庁の説明によれば、離婚による財産分与は、財産分与として相当な範囲であれば贈与税は非課税です。ただし、財産分与として相当な範囲を超える過大部分には贈与税が課税される場合があります。
(3) 納税義務の発生時期
固定資産税・都市計画税の納税義務は、毎年1月1日(賦課期日)時点の登記簿上の所有者に発生します。離婚協議中であっても、1月1日時点で登記名義人であれば納税義務を負います。
登記名義と納税義務の関係:
1月1日時点の名義 | 納税義務者 | 備考 |
---|---|---|
夫単独名義 | 夫 | 離婚協議中でも夫が全額納税 |
妻単独名義 | 妻 | 離婚協議中でも妻が全額納税 |
共有名義(夫50%、妻50%) | 夫と妻が連帯納税 | 共有者全員が全額の納税義務 |
2. 離婚時の固定資産税納税義務と共有名義
(1) 共有名義の連帯納税義務
土地が共有名義の場合、地方税法の規定により、共有者全員が連帯して納税義務を負います。これは「連帯納税義務」と呼ばれ、持ち分に応じた按分ではなく、各共有者が全額の納税義務を負うことを意味します。
連帯納税義務の特徴:
- 共有者全員が全額の納税義務を負う(持ち分50%でも100%の義務)
- 自治体は、いずれの共有者に対しても全額の納付を請求できる
- 一人が納付すれば、他の共有者の納税義務も履行されたとみなされる
- 共有者間での負担割合は、内部で協議して決める
例えば、夫婦で土地を共有(持ち分各50%)し、固定資産税が年間200,000円の場合:
- 法律上:夫も妻も各200,000円の納税義務を負う
- 実務上:一方が200,000円を納付すれば、両者の義務が履行される
- 内部負担:離婚協議で100,000円ずつ負担することを合意できる
(2) 1月1日時点の登記名義と納税義務
固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点の登記簿上の所有者です。離婚協議中や調停中であっても、1月1日時点の登記名義で納税義務者が確定します。
例えば、2025年3月に離婚が成立し、妻が土地を取得することになったが、名義変更が2025年6月になった場合:
- 2025年度の固定資産税: 2025年1月1日時点の名義人が納税義務者
- 共有名義なら両者が連帯納税義務
- 夫単独名義なら夫が納税義務者
- 2026年度の固定資産税: 2026年1月1日時点の名義人(妻)が納税義務者
名義変更のタイミングによって納税義務者が変わるため、離婚協議で税負担の扱いを明確にしておくことが重要です。
(3) 内部負担割合の協議
連帯納税義務は法律上の義務であり、共有者間での負担割合は内部的に協議して決めます。離婚の場合、離婚協議書で負担割合を明記することが推奨されます。
内部負担割合の決め方:
- 持ち分割合に応じて負担(各50%の場合は半額ずつ)
- 居住している側が全額負担
- 売却代金から一方が立て替え分を差し引く
- 一方が全額負担し、財産分与の金額で調整
離婚協議書に記載することで、後日のトラブルを防ぐことができます。
3. 財産分与と固定資産税の関係
(1) 財産分与の基本的な考え方
財産分与とは、離婚時に夫婦の共有財産を分割することです。婚姻中に形成された財産は、原則として夫婦の共有財産とみなされ、離婚時に公平に分配されます。
土地が財産分与の対象となる場合、以下のいずれかの方法で処理されます:
- 売却して現金を分割: 売却価格を夫婦で分割
- 一方が取得: 評価額の半分相当を他方に金銭で支払う
- 代償分割: 土地を取得する側が他の財産を渡す
(2) 名義変更と納税義務の移転
財産分与により土地の名義を変更しても、固定資産税の納税義務は1月1日時点の登記名義で判断されます。名義変更のタイミングによって、以下のように納税義務者が変わります:
名義変更のタイミングと納税義務:
名義変更時期 | 当年度の納税義務者 | 翌年度の納税義務者 |
---|---|---|
12月中に変更 | 旧所有者 | 新所有者 |
1月2日以降に変更 | 旧所有者 | 旧所有者(翌年度も) |
例えば、2025年12月に妻へ名義変更すれば、2026年1月1日時点で妻が所有者となり、2026年度から妻が納税義務を負います。一方、2026年1月2日に変更すれば、2026年度は元の所有者が納税義務を負い、2027年度から妻に移ります。
名義変更のタイミングによって数万円〜数十万円の負担差が生じる可能性があるため、離婚協議でタイミングと税負担の調整を行うことが重要です。
(3) 財産分与時の登録免許税と不動産取得税
財産分与による所有権移転には、登録免許税と不動産取得税が課税されます。
財産分与時の税金:
税金 | 税率 | 負担者 | 備考 |
---|---|---|---|
登録免許税 | 固定資産税評価額の2% | 原則として新所有者 | 登記時に納付 |
不動産取得税 | 固定資産税評価額の3%(土地) | 新所有者 | 取得後6ヶ月〜1年で納付書送付 |
贈与税 | 非課税(相当な範囲) | - | 過大部分には課税 |
例えば、固定資産税評価額2,000万円の土地を妻が取得する場合:
- 登録免許税:2,000万円 × 2% = 40万円
- 不動産取得税:2,000万円 × 3% = 60万円
- 合計:100万円
財産分与での名義変更には、固定資産税以外にも相応のコストがかかるため、売却して現金を分割する方が費用を抑えられる場合もあります。
4. 離婚売却時の固定資産税日割り精算
(1) 日割り精算の基本的な仕組み
離婚により土地を売却する場合、通常の売却と同様に、引き渡し日を基準とした固定資産税の日割り精算が行われます。これは法律上の義務ではなく、不動産取引における商習慣です。
日割り精算の手順:
- 年税額の確認(納税通知書で確認)
- 引き渡し日の確定(売買契約で決定)
- 起算日の決定(関東1/1起算、関西4/1起算)
- 日数計算(引き渡し日前日まで売主負担、以降買主負担)
- 精算金の授受(決済時に買主が売主に支払う)
例えば、年税額が200,000円、6月1日引き渡し、1月1日起算の場合:
- 売主負担(1/1〜5/31): 200,000円 × 151日 / 365日 ≒ 82,740円
- 買主負担(6/1〜12/31): 200,000円 × 214日 / 365日 ≒ 117,260円
決済時に、買主が売主に117,260円を支払うことで精算が完了します。
(2) 元配偶者との精算金の分配
離婚により土地を売却する場合、売主が元夫婦であれば、買主から受け取る精算金も元配偶者と分配する必要があります。
精算金分配のパターン:
共有名義(持ち分50%ずつ)の場合:
- 精算金117,260円を半額ずつ分配:各58,630円
単独名義だが財産分与で半分ずつの場合:
- 売却代金と精算金を合算して分配
- 例:売却代金3,000万円 + 精算金117,260円 = 30,117,260円
- 各自の受取額:30,117,260円 × 50% = 15,058,630円
立て替え分がある場合:
- 夫が固定資産税200,000円を納付済み
- 売主負担は82,740円、買主から117,260円を受領
- 夫の実質負担:200,000円 - 117,260円 = 82,740円
- 妻は82,740円の半額41,370円を夫に支払う
離婚協議書で精算金の分配方法を明記しておくことで、決済時のトラブルを防ぐことができます。
(3) 売買契約書への記載例
離婚による売却の場合も、売買契約書に固定資産税の精算方法を明記します。
売買契約書の記載例:
第○条(固定資産税・都市計画税の精算)
1. 本物件の固定資産税および都市計画税は、令和○年1月1日を起算日とし、引き渡し日の前日までを売主の負担、引き渡し日以降を買主の負担とする。
2. 買主は、本物件引き渡し時に、令和○年度の固定資産税および都市計画税のうち買主負担分を売主に支払うものとする。
3. 精算金額は、令和○年度の納税通知書記載の税額に基づき日割り計算する。
4. 売主が複数の場合、精算金は売主間で別途定める割合により分配する。
売主が元夫婦の場合、第4項のように精算金の分配を明記することが望ましいです。
5. 離婚協議書での税負担の取り決め
(1) 売却までの固定資産税負担
離婚協議から土地の売却までに時間がかかる場合、その間の固定資産税負担を明確にしておく必要があります。
離婚協議書での記載例:
- 「売却までの固定資産税・都市計画税は、夫婦が折半して負担する」
- 「夫が立て替えて納付し、売却時の精算金から差し引く」
- 「居住している妻が全額負担する」
特に共有名義の場合、どちらか一方が納付すると連帯債務が履行されたとみなされるため、後日の清算方法を明記することが重要です。
(2) 共有名義での負担割合
共有名義の土地は連帯納税義務があるため、内部での負担割合を離婚協議書で明確にします。
記載例:
第○条(固定資産税の負担)
1. 本件土地の固定資産税・都市計画税は、売却までの間、甲(夫)と乙(妻)が各50%ずつ負担する。
2. 甲が立て替えて納付した場合、乙は甲の請求により直ちに乙負担分を甲に支払う。
3. 売却時の精算金は、甲乙各50%ずつ受領する。
(3) トラブル防止のための記載事項
離婚協議書には、以下の事項を明記することでトラブルを防止できます:
- 売却時期の目標: 「離婚成立後○ヶ月以内に売却活動を開始する」
- 売却価格の合意: 「査定価格○○万円を下限として売却する」
- 固定資産税の負担: 「売却までの固定資産税は○○が負担する」
- 精算金の扱い: 「買主からの精算金は売却代金と一体として扱う」
- 名義変更費用: 「登記費用・不動産会社手数料は売却代金から差し引く」
- 建物取り壊し費用: 「取り壊す場合は売却代金から差し引き、残額を分配する」
これらを公正証書として作成しておくと、後日の紛争を防ぐことができます。
6. 更地化と住宅用地特例の喪失リスク
(1) 住宅用地の特例措置の概要
土地の上に住宅が建っている場合、住宅用地特例により固定資産税・都市計画税が大幅に軽減されます。総務省の資料によれば、以下の軽減措置が適用されます:
小規模住宅用地(200㎡以下の部分):
- 固定資産税:課税標準が評価額の1/6に軽減
- 都市計画税:課税標準が評価額の1/3に軽減
一般住宅用地(200㎡超の部分):
- 固定資産税:課税標準が評価額の1/3に軽減
- 都市計画税:課税標準が評価額の2/3に軽減
例えば、評価額2,000万円、面積150㎡の土地に住宅がある場合:
- 特例適用時: 2,000万円 × 1/6 × 1.4% + 2,000万円 × 1/3 × 0.3% = 約66,667円
- 特例なし: 2,000万円 × 1.4% + 2,000万円 × 0.3% = 340,000円
(2) 建物取り壊しによる税額増加
建物を取り壊して更地にすると、翌年度から住宅用地特例が適用されなくなり、固定資産税が大幅に増加します。
建物取り壊しによる税額の変化例(評価額2,000万円、150㎡):
状態 | 固定資産税 | 都市計画税 | 合計 |
---|---|---|---|
建物あり(特例適用) | 約46,667円 | 約20,000円 | 約66,667円 |
更地(特例なし) | 280,000円 | 60,000円 | 340,000円 |
更地にすると、固定資産税が約6倍、都市計画税が約3倍になります。
(3) 離婚時の更地化タイミング
離婚により土地を売却する場合、建物を取り壊すタイミングによって固定資産税の負担が大きく変わります。
更地化のタイミング別の税負担:
取り壊し時期 | 1月1日時点の状態 | 固定資産税 |
---|---|---|
12月中に取り壊し | 更地 | 特例なし(高額) |
1月2日以降に取り壊し | 建物あり | 特例適用(軽減) |
節税のポイント:
- 1月1日時点で建物が存在していれば、その年度は住宅用地特例が適用される
- 建物を取り壊す場合は、1月2日以降に行うことで当年度の税負担を抑えられる
- 売却が決まってから取り壊すことで、無駄な税負担を避けられる
離婚で土地を売却する場合、建物の取り壊しは売却が決まってから、できれば1月2日以降に行うことで、固定資産税の負担を最小限に抑えることができます。
まとめ
離婚時の土地売却における固定資産税・都市計画税は、1月1日時点の登記名義人が納税義務を負います。共有名義の場合は、共有者全員が連帯して納税義務を負うため、離婚協議書で内部負担割合を明記することが重要です。
財産分与により一方が土地を取得する場合、名義変更のタイミングによって納税義務者が変わります。12月中に名義変更すれば翌年度から新所有者に納税義務が移りますが、1月2日以降なら当年度は旧所有者が納税義務を負います。
土地を売却する場合は、引き渡し日を基準とした日割り精算が行われます。離婚売却の場合、売主が元夫婦であれば、精算金も元配偶者と分配する必要があるため、離婚協議書で分配方法を定めておくことが望ましいです。
建物を取り壊して更地にすると、住宅用地特例が適用されなくなり、固定資産税が最大6倍に増加します。建物の取り壊しは売却が決まってから、できれば1月2日以降に行うことで、税負担を最小限に抑えることができます。
離婚協議書には、売却までの固定資産税負担、精算金の分配方法、建物取り壊しのタイミングなどを明記することで、後日のトラブルを防ぐことができます。公正証書として作成しておくと、さらに安心です。
よくある質問
Q1. 離婚で土地が共有名義の場合、固定資産税は誰が払うのですか?
地方税法の規定により、共有者全員が連帯して納税義務を負います。これは「連帯納税義務」と呼ばれ、各共有者が全額の納税義務を負うことを意味します。持ち分が50%であっても、一人で全額を納付する義務があります。実務的には、一方が全額を納付すれば両者の義務が履行されたとみなされますが、内部での負担割合は離婚協議で決めます。離婚協議書に「固定資産税は折半する」「一方が立て替えて後日精算する」といった取り決めを明記することで、トラブルを防ぐことができます。
Q2. 離婚で土地の名義を変更すると固定資産税はどうなりますか?
固定資産税の納税義務は、毎年1月1日時点の登記名義人に発生します。財産分与により土地の名義を変更しても、納税義務は1月1日時点の名義で判断されます。例えば、2025年12月に妻へ名義変更すれば、2026年1月1日時点で妻が所有者となり、2026年度から妻が納税義務を負います。一方、2026年1月2日に変更すれば、2026年度は元の所有者が納税義務を負い、2027年度から妻に移ります。名義変更のタイミングによって税負担が変わるため、離婚協議でタイミングと税負担の調整を行うことが重要です。なお、財産分与は贈与税非課税ですが、登録免許税(評価額の2%)と不動産取得税(評価額の3%)は課税されます。
Q3. 離婚で土地を売却する際の固定資産税精算はどうなりますか?
通常の売却と同様に、引き渡し日を基準とした日割り精算が行われます。関東地方では1月1日を起算日、関西地方では4月1日を起算日とする慣習があります。買主から受け取った精算金は、元配偶者との間で財産分与割合に応じて分配する必要があります。共有名義の場合は両者の同意が必要です。例えば、持ち分50%ずつで精算金が117,260円の場合、各58,630円ずつ受け取ります。離婚協議書で「精算金は売却代金と一体として扱う」「各50%ずつ受領する」といった取り決めを明記しておくことが望ましいです。
Q4. 離婚で建物を取り壊して土地を売却すると固定資産税はどうなりますか?
建物を取り壊して更地にすると、住宅用地特例が適用されなくなり、固定資産税が最大6倍に増加します。1月1日時点で更地だと高額な固定資産税が課税されます。節税のためには、建物の取り壊しは1月2日以降に行うことが有利です。1月1日時点で建物が存在していれば、その年度は住宅用地特例が適用され、税負担を抑えられます。例えば、評価額2,000万円の土地で、特例適用時は年間約66,667円ですが、更地にすると約340,000円になります。離婚で土地を売却する場合、建物の取り壊しは売却が決まってから、できれば1月2日以降に行うことをおすすめします。