離婚時の戸建て売却と固定資産税|精算方法と財産分与

公開日: 2025/10/17

離婚時の戸建て売却における固定資産税の扱い

離婚に伴い戸建ての売却を検討する際、固定資産税や都市計画税の負担をどのように分担するのか、不安を感じる方は少なくありません。「離婚協議中の税金は誰が払うの?」「名義変更のタイミングで負担が変わる?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。

この記事のポイント:

  • 1月1日時点の登記名義人が納税義務者となる法的な仕組み
  • 離婚協議中の所有権と固定資産税の関係
  • 財産分与と固定資産税負担の考え方
  • 離婚売却時の日割り精算の実務(関東1/1起算、関西4/1起算)
  • 離婚協議書で取り決めるべき税負担のポイント
  • 名義変更のタイミングと住宅用地特例への影響

固定資産税・都市計画税の納税義務者は地方税法で明確に定められていますが、離婚時は財産分与や名義変更のタイミングによって実質的な負担者が変わる場合があります。本記事では、総務省や国税庁などの公的情報源をもとに、離婚時の戸建て売却における固定資産税の扱いを実務的な視点から解説します。

1. 離婚時の戸建て売却と固定資産税の基礎知識

(1) 固定資産税・都市計画税とは

固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・家屋・償却資産を所有している人に課される市町村税です。総務省の資料によれば、標準税率は1.4%ですが、各自治体が条例で税率を定めるため、地域によって実際の税率は異なります。

都市計画税は、都市計画区域内の土地・家屋に課される市町村税で、税率の上限は0.3%です。都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てられ、固定資産税と併せて課税されます。

固定資産税・都市計画税の特徴:

  • 課税時期:毎年1月1日(賦課期日)
  • 納税義務者:1月1日時点の登記簿上の所有者
  • 税率:固定資産税は標準1.4%、都市計画税は上限0.3%
  • 納期:年4回(自治体により異なる)

(2) 離婚時の不動産処分と税務

離婚に伴う戸建ての処分方法には、主に以下の選択肢があります:

  1. 売却して現金を分割: 最も明確な財産分与方法
  2. 一方が取得して他方に金銭を支払う: 名義変更が必要
  3. 共有名義のまま保持: 離婚後もトラブルのリスクあり

離婚による財産分与は、国税庁の説明によれば、原則として贈与税は非課税です。ただし、財産分与として相当な範囲を超える過大部分には贈与税が課税される場合があります。

(3) 納税義務の発生時期

固定資産税・都市計画税の納税義務は、毎年1月1日(賦課期日)時点の登記簿上の所有者に発生します。離婚協議中であっても、1月1日時点で登記名義人であれば納税義務を負います。

共有名義の場合、持ち分に応じて連帯して納税義務を負うため、離婚協議中でも元配偶者と共同で納税する必要があります。

2. 離婚時の固定資産税納税義務者の考え方

(1) 1月1日時点の登記名義人が納税義務者

総務省の資料では、固定資産税の納税義務者は「賦課期日(毎年1月1日)現在の登記簿上の所有者」と定められています。離婚協議中や調停中であっても、この原則は変わりません。

登記名義と納税義務の関係:

1月1日時点の名義 納税義務者 備考
夫単独名義 離婚協議中でも夫が全額納税
妻単独名義 離婚協議中でも妻が全額納税
共有名義(夫50%、妻50%) 夫と妻が連帯納税 持ち分に応じて連帯責任

(2) 離婚協議中の所有権と納税義務

離婚協議中は、法律上は婚姻関係が継続しているため、戸建ての所有権も婚姻中の状態のままです。このため、離婚協議中に納付期限が来た固定資産税は、登記名義人が納税義務を負います。

実務的には、離婚協議書で「売却までの固定資産税は夫婦で折半する」「一方が立て替えて後日精算する」といった取り決めをすることで、トラブルを避けることができます。

(3) 名義変更前の納税義務の扱い

離婚が成立し、財産分与として一方が戸建てを取得する場合でも、名義変更(所有権移転登記)が完了するまでは、元の登記名義人が納税義務を負います。

例えば、2025年3月に離婚が成立し、妻が戸建てを取得することになったが、名義変更が2025年6月になった場合:

  • 2025年度の固定資産税:2025年1月1日時点の名義人(元夫)が納税義務者
  • 2026年度の固定資産税:2026年1月1日時点の名義人(妻)が納税義務者

名義変更のタイミングによって納税義務者が変わるため、離婚協議で税負担の扱いを明確にしておくことが重要です。

3. 財産分与と固定資産税の関係

(1) 財産分与の基本的な考え方

財産分与とは、離婚時に夫婦の共有財産を分割することです。婚姻中に形成された財産は、原則として夫婦の共有財産とみなされ、離婚時に公平に分配されます。

戸建てが財産分与の対象となる場合、以下のいずれかの方法で処理されます:

  1. 売却して現金を分割: 売却価格から住宅ローン残債を差し引いた金額を分割
  2. 一方が取得: 評価額の半分相当を他方に金銭で支払う
  3. 代償分割: 戸建てを取得する側が他の財産を渡す

(2) 財産分与と贈与税の非課税

国税庁の説明によれば、離婚による財産分与は、財産分与として相当な範囲であれば贈与税は非課税です。これは、財産分与が婚姻中に形成された共有財産の清算という性質を持つためです。

財産分与と税金のポイント:

  • 財産分与として相当な範囲:贈与税非課税
  • 過大な財産分与:超過部分に贈与税が課税される可能性
  • 固定資産税:名義変更後の1月1日から新所有者に納税義務

(3) 過大部分への課税リスク

財産分与として相当な範囲を超える過大な部分には、贈与税が課税される可能性があります。相当な範囲とは、夫婦の協力によって形成された財産の清算として社会通念上妥当と認められる範囲です。

例えば、夫名義の戸建て(評価額3,000万円)を妻が取得し、他に財産分与がない場合、夫婦の寄与度が50%ずつであれば1,500万円相当が相当な範囲と考えられます。評価額全額を妻が取得する場合、超過部分の1,500万円に贈与税が課税される可能性があります。

4. 離婚売却時の固定資産税日割り精算の実務

(1) 日割り精算の基本的な仕組み

離婚により戸建てを売却する場合、通常の売却と同様に、引き渡し日を基準とした固定資産税の日割り精算が行われます。これは法律上の義務ではなく、不動産取引における商習慣です。

日割り精算の手順:

  1. 年税額の確認(納税通知書で確認)
  2. 引き渡し日の確定(売買契約で決定)
  3. 起算日の決定(関東1/1起算、関西4/1起算)
  4. 日数計算(引き渡し日前日まで売主負担、以降買主負担)
  5. 精算金の授受(決済時に買主が売主に支払う)

(2) 関東(1/1起算)と関西(4/1起算)の違い

固定資産税の日割り精算は、地域によって起算日の慣習が異なります。関東地方では1月1日起算、関西地方では4月1日起算が一般的です。

起算日による精算額の違い(年税額150,000円、5月1日引き渡しの場合):

起算日 売主負担期間 売主負担額 買主負担期間 買主負担額
1月1日起算(関東) 1/1〜4/30(120日) 約49,315円 5/1〜12/31(245日) 約100,685円
4月1日起算(関西) 4/1〜4/30(30日) 約12,329円 5/1〜翌3/31(335日) 約137,671円

同じ引き渡し日でも起算日が異なると精算額が大きく変わるため、売買契約時に起算日を確認することが重要です。

(3) 売買契約書への記載例

離婚による売却の場合も、売買契約書に固定資産税の精算方法を明記します。通常の売却と同様の記載内容ですが、離婚の場合は元配偶者との精算も考慮する必要があります。

売買契約書の記載例:

第○条(固定資産税・都市計画税の精算)
1. 本物件の固定資産税および都市計画税は、令和○年1月1日を起算日とし、引き渡し日の前日までを売主の負担、引き渡し日以降を買主の負担とする。
2. 買主は、本物件引き渡し時に、令和○年度の固定資産税および都市計画税のうち買主負担分を売主に支払うものとする。
3. 精算金額は、令和○年度の納税通知書記載の税額に基づき日割り計算する。

離婚売却の場合、売主が元夫婦であれば、売却代金の配分と同様に、精算金の配分も離婚協議書で定めておくことが望ましいです。

5. 離婚協議書での税負担の取り決めポイント

(1) 売却までの固定資産税負担

離婚協議から戸建ての売却までに時間がかかる場合、その間の固定資産税負担を明確にしておく必要があります。

離婚協議書での記載例:

  • 「売却までの固定資産税・都市計画税は、夫婦が折半して負担する」
  • 「夫が立て替えて納付し、売却時の精算金から差し引く」
  • 「居住している妻が全額負担する」

特に共有名義の場合、どちらか一方が納付すると連帯債務が履行されたとみなされるため、後日の清算方法を明記することが重要です。

(2) 売却時の精算方法の合意

離婚により戸建てを売却する場合、買主から受け取る固定資産税の精算金をどのように扱うかを決めておきます。

取り決めのパターン:

  • 売却代金と一体として財産分与の対象とする
  • 納税義務者(登記名義人)が受け取る
  • 実際に納税した者が受け取る

例えば、夫名義の戸建てで、夫が固定資産税を納付済みの場合、買主からの精算金は夫が受け取るのが自然です。一方で、妻が立て替えて納付していた場合は、妻が受け取るべきでしょう。

(3) トラブル防止のための記載事項

離婚協議書には、以下の事項を明記することでトラブルを防止できます:

  1. 売却時期の目標: 「離婚成立後○ヶ月以内に売却活動を開始する」
  2. 売却価格の合意: 「査定価格○○万円を下限として売却する」
  3. 固定資産税の負担: 「売却までの固定資産税は○○が負担する」
  4. 精算金の扱い: 「買主からの精算金は売却代金と一体として扱う」
  5. 名義変更費用: 「登記費用・不動産会社手数料は売却代金から差し引く」

これらを公正証書として作成しておくと、後日の紛争を防ぐことができます。

6. 名義変更のタイミングと住宅用地特例

(1) 住宅用地の特例措置の概要

住宅用地には、固定資産税・都市計画税の課税標準を軽減する特例があります。総務省の資料によれば、以下の軽減措置が適用されます:

小規模住宅用地(200㎡以下の部分):

  • 固定資産税:課税標準が評価額の1/6に軽減
  • 都市計画税:課税標準が評価額の1/3に軽減

一般住宅用地(200㎡超の部分):

  • 固定資産税:課税標準が評価額の1/3に軽減
  • 都市計画税:課税標準が評価額の2/3に軽減

この特例により、住宅の敷地として利用されている土地の税負担は大幅に軽減されています。

(2) 離婚後の名義変更と特例適用

離婚により一方が戸建てを取得し、名義変更(所有権移転登記)を行っても、住宅として継続利用されている限り、住宅用地特例は適用され続けます。

名義変更による特例適用への影響:

  • 住宅として継続利用:特例適用継続
  • 空き家のまま放置:翌年度から特例適用終了の可能性
  • 取り壊し:翌年度から特例適用終了

離婚後、元配偶者が転居して空き家になった場合でも、取得者が住み続けるか、賃貸として利用すれば特例は継続されます。

(3) 売却による特例喪失のタイミング

離婚により戸建てを売却する場合、売却後の土地利用によって住宅用地特例の適用が変わります。

売却後の特例適用:

買主の利用方法 住宅用地特例 税額への影響
住宅を建てる 翌年度から再適用 軽減継続
既存住宅を継続利用 継続適用 変化なし
更地のまま放置 翌年度から不適用 税額増加
駐車場・事業用地 翌年度から不適用 税額増加

ただし、売却年度の固定資産税精算は「売却前年の評価額・税額」を基準とするため、売却後の特例喪失が精算額に影響することはありません。買主が支払う翌年度以降の税額に影響します。

まとめ

離婚時の戸建て売却における固定資産税・都市計画税は、法律上は1月1日時点の登記名義人が納税義務を負います。共有名義の場合は、持ち分に応じて連帯して納税義務を負うため、離婚協議中でも元配偶者と共同で納税する必要があります。

離婚による財産分与として一方が戸建てを取得する場合、財産分与として相当な範囲であれば贈与税は非課税です。ただし、名義変更が完了するまでは元の登記名義人が納税義務を負うため、名義変更のタイミングと税負担の関係を理解しておくことが重要です。

戸建てを売却する場合は、通常の売却と同様に、引き渡し日を基準とした固定資産税の日割り精算が行われます。関東では1月1日起算、関西では4月1日起算が一般的で、起算日によって精算額が変わるため、売買契約時に確認が必要です。

離婚協議書には、売却までの固定資産税負担、売却時の精算方法、名義変更のタイミングなどを明記することで、後日のトラブルを防ぐことができます。公正証書として作成しておくと、さらに安心です。

離婚という困難な状況下での不動産売却は、感情的にも複雑ですが、税負担の扱いを明確にし、適切に取り決めることで、スムーズに手続きを進めることができます。

よくある質問

Q1. 離婚協議中に戸建てを売却する場合、固定資産税は誰が払うのですか?

1月1日時点の登記名義人が納税義務者となります。夫単独名義なら夫、妻単独名義なら妻、共有名義なら持ち分に応じて夫婦が連帯して納税義務を負います。離婚協議中であっても、この法律上の原則は変わりません。ただし、実務的には離婚協議書で「売却までの固定資産税は折半する」「一方が立て替えて後日精算する」といった取り決めをすることで、公平な負担にすることができます。売却時は引き渡し日を基準に日割り精算が行われ、買主が残日数分を売主に支払います。

Q2. 離婚による財産分与で戸建ての名義を変更すると贈与税はかかりますか?

国税庁の説明によれば、離婚による財産分与は、財産分与として相当な範囲であれば贈与税は非課税です。これは、財産分与が婚姻中に形成された共有財産の清算という性質を持つためです。ただし、財産分与として相当な範囲を超える過大な部分には贈与税が課税される可能性があります。固定資産税の納税義務については、名義変更後の翌年1月1日から新所有者に移ります。例えば、2025年3月に名義変更した場合、2025年度は元の名義人、2026年度から新所有者が納税義務を負います。

Q3. 離婚で戸建てを売却する際の固定資産税精算はどうなりますか?

通常の売却と同様に、引き渡し日を基準とした日割り精算が行われます。関東地方では1月1日を起算日、関西地方では4月1日を起算日とする慣習があり、起算日によって精算額が変わります。例えば、年税額150,000円で5月1日引き渡しの場合、1月1日起算なら買主負担が約100,685円、4月1日起算なら約137,671円となります。離婚売却の場合、売主が元夫婦であれば、買主からの精算金の配分も離婚協議書で定めておくことが望ましいです。納税義務者が受け取るのか、実際に納税した者が受け取るのか、売却代金と一体として扱うのかを明確にしましょう。

Q4. 離婚後に名義変更するタイミングで固定資産税の負担は変わりますか?

固定資産税の納税義務は、毎年1月1日時点の登記名義人に発生します。名義変更のタイミングによって、以下のように負担者が変わります:

  • 12月中に名義変更: 翌年1月1日時点の新所有者が翌年度から納税
  • 1月2日以降に名義変更: 翌年1月1日時点の元の所有者が当年度は納税義務を負い、翌々年度から新所有者に移行

例えば、2025年12月に名義変更すれば、2026年1月1日時点の新所有者が2026年度の固定資産税を納税します。一方、2026年1月2日に名義変更すれば、2026年度は元の所有者が納税し、2027年度から新所有者に移ります。名義変更のタイミングによって数万円〜数十万円の負担差が生じる可能性があるため、離婚協議でタイミングと税負担の調整を行うことが重要です。

よくある質問

Q1離婚協議中に戸建てを売却する場合、固定資産税は誰が払うのですか?

A11月1日時点の登記名義人が納税義務者となります。夫単独名義なら夫、妻単独名義なら妻、共有名義なら持ち分に応じて夫婦が連帯して納税義務を負います。離婚協議中であっても、この法律上の原則は変わりません。ただし、実務的には離婚協議書で「売却までの固定資産税は折半する」「一方が立て替えて後日精算する」といった取り決めをすることで、公平な負担にすることができます。売却時は引き渡し日を基準に日割り精算が行われ、買主が残日数分を売主に支払います。

Q2離婚による財産分与で戸建ての名義を変更すると贈与税はかかりますか?

A2国税庁の説明によれば、離婚による財産分与は、財産分与として相当な範囲であれば贈与税は非課税です。これは、財産分与が婚姻中に形成された共有財産の清算という性質を持つためです。ただし、財産分与として相当な範囲を超える過大な部分には贈与税が課税される可能性があります。固定資産税の納税義務については、名義変更後の翌年1月1日から新所有者に移ります。例えば、2025年3月に名義変更した場合、2025年度は元の名義人、2026年度から新所有者が納税義務を負います。

Q3離婚で戸建てを売却する際の固定資産税精算はどうなりますか?

A3通常の売却と同様に、引き渡し日を基準とした日割り精算が行われます。関東地方では1月1日を起算日、関西地方では4月1日を起算日とする慣習があり、起算日によって精算額が変わります。例えば、年税額150,000円で5月1日引き渡しの場合、1月1日起算なら買主負担が約100,685円、4月1日起算なら約137,671円となります。離婚売却の場合、売主が元夫婦であれば、買主からの精算金の配分も離婚協議書で定めておくことが望ましいです。納税義務者が受け取るのか、実際に納税した者が受け取るのか、売却代金と一体として扱うのかを明確にしましょう。

Q4離婚後に名義変更するタイミングで固定資産税の負担は変わりますか?

A4固定資産税の納税義務は、毎年1月1日時点の登記名義人に発生します。名義変更のタイミングによって、以下のように負担者が変わります: - **12月中に名義変更**: 翌年1月1日時点の新所有者が翌年度から納税 - **1月2日以降に名義変更**: 翌年1月1日時点の元の所有者が当年度は納税義務を負い、翌々年度から新所有者に移行 例えば、2025年12月に名義変更すれば、2026年1月1日時点の新所有者が2026年度の固定資産税を納税します。一方、2026年1月2日に名義変更すれば、2026年度は元の所有者が納税し、2027年度から新所有者に移ります。名義変更のタイミングによって数万円〜数十万円の負担差が生じる可能性があるため、離婚協議でタイミングと税負担の調整を行うことが重要です。

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