投資用中古マンション売却のローン基礎|残債処理と税制

公開日: 2025/10/17

投資用中古マンション売却時のローン処理を理解する

投資用中古マンションを売却する際、不動産投資ローンの残債処理が重要な課題となります。住宅ローンと異なり、投資用ローンは金利が高く、一括返済手数料も高額になる場合があります。また、賃借人が入居中の「オーナーチェンジ物件」として売却する場合、ローンの扱いがどうなるのか疑問を持つ方も多いでしょう。

本記事では、住宅金融支援機構や国税庁の公的情報を基に、投資用中古マンション売却時のローン基礎知識を解説します。

この記事でわかること:

  • 住宅ローンと投資ローンの違い
  • 投資ローン残債の一括返済手続きと抵当権抹消
  • オーバーローン時の自己資金補填と対処法
  • 賃貸中売却(オーナーチェンジ)時のローン扱い
  • 投資用マンション売却の税制(長期譲渡・短期譲渡)
  • 次回投資ローン審査への影響

投資用中古マンション売却時のローン基礎

住宅ローンと投資ローンの違い

住宅金融支援機構によれば、住宅ローンと不動産投資ローンは目的と条件が異なります。

項目 住宅ローン 不動産投資ローン
目的 自己居住用住宅の購入 賃貸収入を得る投資用不動産の購入
金利 0.5%~1.5%程度(変動金利) 2.0%~4.5%程度
融資額 年収の5~8倍程度 物件の収益性により変動
審査基準 返済負担率、勤続年数 収益性、空室リスク、返済能力
税制優遇 住宅ローン控除あり 住宅ローン控除なし

投資用ローンは金利が高く、審査では物件の収益性(利回り)が重視されます。

投資用物件のローン特性

投資用中古マンションのローンには以下の特性があります:

特性1:収益性重視の審査

  • 物件の表面利回り・実質利回りが審査基準
  • 賃料収入でローン返済が可能か評価される
  • 築年数や立地により融資額が変動

特性2:自己資金比率の要求

  • 物件価格の20%~30%の頭金が必要な場合が多い
  • フルローン(頭金0円)は審査が厳しい

特性3:金利の変動リスク

  • 変動金利が主流で、金利上昇リスクあり
  • 固定金利は金利が高く設定される

売却時はこれらのローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。

投資ローン残債の一括返済手続き

残債確認と売却価格の比較

売却を検討する際、まずローン残債と想定売却価格を比較します。

確認方法:

  1. 返済予定表を確認
    • 金融機関から送付される返済予定表で残高を確認
  2. 収益還元法で売却価格を査定
    • 表面利回り:年間賃料 ÷ 売却価格
    • 実質利回り:(年間賃料 - 諸経費) ÷ 売却価格
  3. オーバーローンかアンダーローンか判断
    • ローン残債 > 売却価格 → オーバーローン(自己資金補填必要)
    • ローン残債 < 売却価格 → アンダーローン(手残りあり)

計算例:

  • ローン残債:2,000万円
  • 想定売却価格:2,300万円(表面利回り6%、年間賃料138万円)
  • 手残り:300万円(諸費用控除前)

一括返済の申請手順

投資用ローンを一括返済する手続きは以下の通りです。

手続きの流れ:

  1. 金融機関へ連絡
    • 売却予定日と一括返済希望日を伝える
  2. 一括返済手数料の確認
    • 固定金利期間中は手数料が高額(5万~10万円以上)
    • 変動金利期間中は比較的低額(1万~3万円程度)
  3. 返済額の確定
    • 返済日時点の残高と利息、手数料を合計
  4. 返済実行
    • 決済日に売却代金から一括返済
  5. 抵当権抹消書類の受領
    • 金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取る

投資用ローンは住宅ローンより一括返済手数料が高い場合が多いため、事前確認が重要です。

抵当権抹消のタイミング

投資用マンション売却時の抵当権抹消は、決済日に行うのが一般的です。

抵当権抹消の流れ:

  1. 決済日:買主から売主へ売却代金支払い
  2. 売主が金融機関へローンを一括返済
  3. 金融機関が抵当権抹消書類を司法書士に引き渡し
  4. 司法書士が所有権移転登記と抵当権抹消登記を同日申請

抵当権抹消登記費用:

  • 登録免許税:不動産1件につき1,000円(土地・建物で2,000円)
  • 司法書士報酬:1万~3万円程度
  • 合計:1.2万~3.2万円程度

オーバーローン時の対処法

売却益での完済可否判断

オーバーローン(ローン残債が売却価格を上回る状態)の場合、完済の可否を判断します。

判断基準:

  • 自己資金で差額を補填できるか
  • 売却時期を延期して市場価格の回復を待てるか
  • 賃料収入でローン返済を続けながら保有するか

オーバーローンの例:

  • ローン残債:2,500万円
  • 売却価格:2,200万円
  • 差額:300万円(不足)
  • 仲介手数料:約75万円(2,200万円×3%+6万円+税)
  • 必要自己資金:375万円以上

自己資金での補填

オーバーローンで自己資金補填が必要な場合、以下を準備します。

準備すべき金額:

  • ローン残債と売却価格の差額
  • 仲介手数料(売却価格の3%+6万円+税)
  • 抵当権抹消登記費用(1.2万~3.2万円)
  • 譲渡所得税(売却益が出る場合、後述)

資金調達方法:

  • 預貯金から充当
  • 他の投資物件の売却益を充当
  • 無担保ローン(ただし金利が高く、返済負担増)

自己資金が不足する場合、売却を延期し、ローン残債を減らしてから売却する選択肢もあります。

収益性評価と売却価格

投資用マンションの売却価格は、収益還元法で評価されます。

収益還元法の計算:

物件価格 = 年間純収益 ÷ 期待利回り

計算例:

  • 年間賃料収入:120万円
  • 年間諸経費:20万円(管理費、修繕積立金、固定資産税等)
  • 年間純収益:100万円
  • 期待利回り:5%
  • 物件価格:100万円 ÷ 0.05 = 2,000万円

賃料収入が安定している物件ほど高く評価され、オーバーローンを回避しやすくなります。

賃貸中売却時のローン扱い

オーナーチェンジ物件の特徴

賃借人が入居中の状態で売却する「オーナーチェンジ物件」は、投資家向けの売却方法です。

メリット:

  • 賃料収入が継続するため、買主にとって魅力的
  • 空室リスクがなく、収益性を見込みやすい
  • 引き渡し後すぐに賃料収入が得られる

デメリット:

  • 賃借人の属性(支払い履歴、残存期間)が価格に影響
  • 居住用として購入したい買主には売却しにくい
  • 賃貸借契約の引継ぎ手続きが必要

オーナーチェンジ物件でも、ローン完済と抵当権抹消は通常通り必要です。

賃借人の有無とローン完済

賃借人の有無は、ローン完済の可否に直接影響しませんが、売却価格に影響します。

賃借人あり:

  • 収益還元法で評価されるため、賃料水準が価格を左右
  • 賃料が相場より高い場合、売却価格が上昇
  • 賃料が低い場合、売却価格が下落

賃借人なし(空室):

  • 収益性が見込めないため、投資家にとって魅力が低下
  • 居住用として売却する選択肢もあるが、市場が限定される

賃借人が長期契約で安定している場合、売却価格が高くなりやすく、ローン完済もスムーズになります。

賃料収入とローン返済の関係

投資用マンション保有中は、賃料収入でローンを返済するのが基本です。

賃料収入とローン返済のバランス:

状況 賃料収入 ローン返済 手残り
プラス収支 月10万円 月8万円 月2万円
ゼロ収支 月10万円 月10万円 0円
マイナス収支 月10万円 月12万円 月-2万円(持ち出し)

マイナス収支が続くと保有コストが増加し、売却のタイミングを早める判断も必要になります。

投資用マンション売却の税制

譲渡所得税の計算

国税庁によれば、投資用マンション売却時には譲渡所得税が課されます。

譲渡所得の計算:

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費:

  • 購入価格 - 減価償却費
  • 購入時の仲介手数料、登記費用等も含む

譲渡費用:

  • 売却時の仲介手数料
  • 抵当権抹消登記費用
  • 測量費(必要な場合)

計算例:

  • 売却価格:2,300万円
  • 取得費:2,000万円(購入価格2,500万円 - 減価償却費500万円)
  • 譲渡費用:75万円(仲介手数料)
  • 譲渡所得:2,300万円 - 2,000万円 - 75万円 = 225万円

長期譲渡と短期譲渡の違い

国税庁によれば、譲渡所得税の税率は所有期間により異なります。

区分 所有期間 税率(所得税+住民税)
短期譲渡所得 5年以下 約39%(所得税30% + 住民税9%)
長期譲渡所得 5年超 約20%(所得税15% + 住民税5%)

所有期間の判定:

  • 取得日から売却した年の1月1日までの期間で判定
  • 例:2020年6月購入 → 2025年12月売却 → 2025年1月1日時点で4年7ヶ月 → 短期譲渡
  • 例:2020年6月購入 → 2026年1月売却 → 2026年1月1日時点で5年7ヶ月 → 長期譲渡

短期譲渡は税率が高いため、5年超保有してから売却する方が税負担を抑えられます。

減価償却費の取扱い

投資用マンションの建物部分は、減価償却費として毎年経費計上できます。

減価償却費の計算例:

  • 建物取得価額:1,500万円
  • 耐用年数:47年(RC造の場合)
  • 償却率:0.022(定額法)
  • 年間減価償却費:1,500万円 × 0.022 = 33万円
  • 5年間の累計減価償却費:33万円 × 5年 = 165万円

売却時の譲渡所得計算では、取得費から累計減価償却費を差し引くため、譲渡所得が増加し、税負担が増える点に注意が必要です。

次回投資ローン審査への影響

投資用マンションを売却後、次の投資物件を購入する際のローン審査への影響を考慮します。

プラス評価となるケース:

  • ローンを完済し、完済実績がある
  • 売却益を確保し、次回投資の自己資金として活用できる
  • 収益性の高い物件を保有していた実績

マイナス評価となる可能性のあるケース:

  • 短期売却を繰り返している(転売目的と見なされる)
  • オーバーローンで自己資金を大幅に持ち出した
  • 賃料収入が低く、マイナス収支が続いていた

次回投資ローン審査では、過去の投資実績、収益性、完済能力が総合的に評価されます。売却益を確保し、健全な投資実績を積むことが重要です。

まとめ

投資用中古マンション売却時のローン処理は、残債の一括返済と抵当権抹消が基本です。

重要なポイント:

  • 投資用ローンは住宅ローンより金利が高く、一括返済手数料も高額な場合が多い
  • ローン残債と売却価格を比較し、オーバーローンの場合は自己資金補填が必要
  • 賃貸中売却(オーナーチェンジ)でもローン完済は必須
  • 譲渡所得税は所有期間5年超なら約20%、5年以下なら約39%
  • 減価償却費は譲渡所得計算に影響し、税負担が増加する
  • 次回投資ローン審査では完済実績と売却益の確保が評価される

住宅金融支援機構や国税庁の公的情報を参考にしながら、不動産会社や税理士などの専門家と連携し、計画的に売却を進めることが大切です。

よくある質問

Q1投資用中古マンションを売却する場合、ローンはどうなりますか?

A1売却時に不動産投資ローンの残債を一括返済する必要があります。売却価格で完済できない場合(オーバーローン)は、差額を自己資金で補填します。また、金融機関が設定した抵当権を抹消する登記手続きも必須です。投資用ローンは住宅ローンより金利が高く、一括返済手数料も高額(固定金利期間中は5万~10万円以上)になる場合が多いため、事前に金融機関へ確認しましょう。

Q2賃借人が入居中の状態で売却できますか?

A2賃借人が入居中でも「オーナーチェンジ物件」として売却可能です。賃料収入が継続するため投資家向けに売却しやすく、収益還元法で評価されます。賃料水準が相場より高い場合は売却価格が上昇し、低い場合は下落します。ただし、ローン完済と抵当権抹消は通常通り必要です。また、賃貸借契約は買主に引き継がれるため、契約内容の確認と引継ぎ手続きが必要になります。

Q3投資用マンション売却時の税金はどうなりますか?

A3投資用マンション売却時には譲渡所得税が課されます。所有期間が5年超なら長期譲渡所得(税率約20%:所得税15%+住民税5%)、5年以下なら短期譲渡所得(税率約39%:所得税30%+住民税9%)です。譲渡所得は「売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)」で計算され、取得費は「購入価格 - 減価償却費」となります。短期譲渡は税率が高いため、5年超保有してから売却する方が税負担を抑えられます。

Q4投資ローンの一括返済に手数料はかかりますか?

A4投資用ローンの一括返済には手数料がかかる場合が多く、住宅ローンより高額になる傾向があります。固定金利期間中は5万~10万円以上、変動金利期間中は1万~3万円程度が相場です。金融機関により異なるため、売却を検討する段階で事前に確認しましょう。手数料は売却諸費用の一部として予算に組み込む必要があります。

Q5投資用マンション売却後、次の投資ローン審査に影響しますか?

A5完済実績はプラス評価となり、売却益を次回投資の自己資金として活用できる点も有利です。ただし、短期売却を繰り返すと転売目的と見なされ、審査で慎重に評価される可能性があります。また、オーバーローンで自己資金を大幅に持ち出した場合や、賃料収入が低くマイナス収支が続いていた場合もマイナス評価となる可能性があります。次回審査では過去の投資実績、収益性、完済能力が総合的に評価されるため、売却益の確保と健全な投資実績が重要です。

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