住み替えローンの基礎知識
現在の住宅から新築戸建てへの住み替えを検討する際、多くの方が直面するのがローンの問題です。既存の住宅ローンが残っている状態で新しいローンを組めるのか、売却と購入のタイミングをどう調整すればよいのか、資金計画の立て方に悩む方は少なくありません。住み替えでは、通常の住宅購入とは異なる特有の手続きやローン商品があり、それらを理解することが成功への第一歩です。
この記事でわかること
- 住み替えローンとダブルローンの違いと使い分け
- 新築戸建て特有の融資手続き(注文住宅・建売の違い)
- 住み替え時の審査基準と既存ローン残債の処理方法
- つなぎ融資の活用方法と売却・購入のタイミング調整
- 住み替え時の税金と控除制度の活用
(1) 住み替えローンとダブルローンの違い
住み替え時に利用できるローンには、大きく分けて「住み替えローン」と「ダブルローン」の2種類があります。
住み替えローン
住み替えローンは、既存の住宅を売却して新しい住宅を購入する際に利用する住宅ローンです。最大の特徴は、売却損がある場合(売却価格がローン残債を下回る場合)でも、その差額分を新居の購入資金に上乗せして融資を受けられることです。
例:
既存住宅のローン残債: 2,500万円
売却価格: 2,200万円
売却損: 300万円
新居の購入価格: 4,000万円
住み替えローンの借入額: 4,300万円(新居4,000万円 + 売却損300万円)
ダブルローン
ダブルローンは、旧宅のローンと新居のローンが一時的に重複する状態を指します。購入先行で住み替える場合に発生し、旧宅が売却できるまでの期間、両方のローンを返済する必要があります。
項目 | 住み替えローン | ダブルローン |
---|---|---|
目的 | 売却損の補填 | 購入先行時の資金繋ぎ |
借入額 | 新居価格 + 売却損 | 旧宅ローン + 新居ローン |
返済期間 | 長期(通常の住宅ローンと同じ) | 一時的(旧宅売却まで) |
審査 | 厳格(借入額が大きい) | 厳格(返済負担が大きい) |
(2) 新築戸建て特有の手続き(注文・建売)
新築戸建てへの住み替えでは、注文住宅と建売住宅で融資の手続きが異なります。
注文住宅の場合
注文住宅は完成までに数ヶ月〜1年程度かかるため、以下のような段階的な資金が必要です。
- 土地購入: 土地代金の支払い(土地先行融資)
- 着工金: 工事費の約30%
- 中間金: 工事費の約30%(上棟時など)
- 引渡金: 残りの40%(完成時)
これらの支払いには「つなぎ融資」を利用し、建物完成後に本融資へ切り替えて一括返済するのが一般的です。
建売住宅の場合
建売住宅は完成済みまたは完成間近のため、融資の手続きは比較的シンプルです。ただし、完成前に契約する場合は、引渡しまでの期間(1〜3ヶ月)に既存住宅を売却できるかがポイントとなります。
住み替えローンの種類(フラット35等)
住み替えに利用できるローン商品には、公的住宅ローンと民間金融機関の商品があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った商品を選びましょう。
(1) フラット35の住み替え融資
住宅金融支援機構が提供する「フラット35」は、住み替え時にも利用できます。
フラット35の特徴
- 固定金利: 全期間固定金利で将来の返済額が確定
- 保証料不要: 保証人や保証料が不要
- 繰上返済手数料無料: いつでも手数料なしで繰上返済可能
- 物件の技術基準: 新築戸建ては住宅金融支援機構の技術基準を満たす必要がある
住み替え時の利用条件
- 既存の住宅ローンを完済すること(売却代金で完済できない場合は要相談)
- 新居が自己居住用であること
- 借入額は新居の購入価格の100%まで(諸費用は含まない)
フラット35は長期固定金利のため、金利上昇リスクを避けたい方に向いています。
(2) 民間金融機関の住み替えローン商品
多くの銀行が住み替え専用のローン商品を提供しています。
民間住み替えローンの特徴
- オーバーローン対応: 売却損分も含めて融資する商品がある
- 変動金利: 固定金利より低金利だが、金利変動リスクあり
- 諸費用込み: 仲介手数料や登記費用も借入可能な商品もある
- 審査基準: 金融機関により異なるが、総返済負担率35%以内が目安
主な商品例
- 三菱UFJ銀行: 住み替えローン(売却損を最大500万円まで上乗せ可能)
- 三井住友銀行: 買換えローン(既存ローン完済と新居購入を同時実行)
- みずほ銀行: 住みかえローン(つなぎ融資との併用も可能)
各金融機関で条件が異なるため、複数の銀行に相談して比較検討することをおすすめします。
住み替え時の審査基準と必要書類
住み替えローンは通常の住宅ローンより審査が厳しくなる傾向があります。既存ローンの処理方法と審査のポイントを理解しておきましょう。
(1) 既存ローン残債の処理方法
住み替えローンを利用する際、既存の住宅ローンをどう処理するかが重要なポイントです。
売却価格 > ローン残債の場合
売却代金でローンを完済でき、余剰資金を新居の頭金に充てられます。この場合は審査も比較的スムーズです。
売却価格: 3,000万円
ローン残債: 2,200万円
余剰資金: 800万円(新居の頭金に)
新居購入価格: 4,500万円
新規借入額: 3,700万円(4,500万円 - 800万円)
売却価格 < ローン残債の場合(オーバーローン)
売却代金でローンを完済できない場合、差額分を自己資金で補うか、住み替えローンで差額分も含めて借り入れる必要があります。
売却価格: 2,200万円
ローン残債: 2,500万円
売却損: 300万円
新居購入価格: 4,000万円
新規借入額: 4,300万円(4,000万円 + 300万円)
この場合、借入額が増えるため審査が厳しくなり、年収や勤続年数、自己資金の多寡が重視されます。
(2) オーバーローン時の審査基準
全国銀行協会によると、住み替えローンの審査では以下の点が重視されます。
主な審査項目
項目 | 基準 | 備考 |
---|---|---|
年収 | 400万円以上が目安 | オーバーローンの場合は500万円以上推奨 |
勤続年数 | 3年以上が目安 | 転職直後は難しい場合も |
返済負担率 | 35%以内 | 年収に対する年間返済額の割合 |
自己資金 | 購入価格の10%以上 | オーバーローンでも頭金があると有利 |
信用情報 | クレジットカード延滞なし | 過去の返済履歴をチェック |
必要書類
- 本人確認書類(運転免許証等)
- 収入証明書(源泉徴収票、確定申告書等)
- 既存ローンの返済予定表・残高証明書
- 売却予定物件の売買契約書(または査定書)
- 購入予定物件の売買契約書・重要事項説明書
- 購入予定物件の建築確認通知書(新築の場合)
審査には通常2〜3週間かかるため、早めに準備を始めましょう。
つなぎ融資の活用(注文住宅・建売)
住み替えで新築戸建てを購入する場合、特に注文住宅ではつなぎ融資が必要になることが多くあります。
(1) 注文住宅のつなぎ融資(建築期間の資金繋ぎ)
注文住宅は建物が完成するまで本融資を実行できないため、建築期間中の支払いには「つなぎ融資」を利用します。
つなぎ融資の仕組み
国土交通省によると、つなぎ融資は以下のような流れで利用します。
【つなぎ融資の流れ】
1. 土地購入時: つなぎ融資で土地代金を支払い
2. 着工金支払時: つなぎ融資で着工金(工事費の約30%)を支払い
3. 中間金支払時: つなぎ融資で中間金(工事費の約30%)を支払い
4. 建物完成時: 本融資を実行し、つなぎ融資を一括返済
つなぎ融資の条件
- 金利: 年2〜3%程度(本融資より高め)
- 期間: 数ヶ月〜1年程度(建築期間に応じる)
- 返済: 本融資実行時に一括返済
- 利息: 毎月利息のみ支払い、元金は一括返済
つなぎ融資の利息計算例
土地代金2,000万円を6ヶ月借りた場合(金利2.5%):
利息 = 2,000万円 × 2.5% × 6/12 = 25万円
着工金・中間金でさらに借りる場合は、合計で数十万円の利息負担が発生します。
(2) 建売の完成前契約とローン条件
建売住宅を完成前に契約する場合、引渡しまでの期間(通常1〜3ヶ月)に既存住宅を売却できるかが重要です。
完成前契約のパターン
- 同時決済を目指す: 建売の引渡し日に合わせて既存住宅も売却決済
- 売却先行: 既存住宅を先に売却し、建売完成まで仮住まい
- 購入先行: 建売を先に購入し、既存住宅が売れるまでダブルローン
パターン1の同時決済が理想ですが、実現は容易ではありません。不動産会社に相談し、売却と購入のスケジュールを調整してもらうことが重要です。
売却と購入のタイミング調整
住み替えで最も悩むのが、売却と購入のどちらを先行させるかです。それぞれのメリット・デメリットを理解して判断しましょう。
(1) 売却先行 vs 購入先行の選択
売却先行のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
売却代金が確定し、資金計画が立てやすい | 仮住まいが必要(家賃・引越し費用2回分) |
売却を急がなくて済む(希望価格で売れる可能性) | 新居探しに時間制限がある |
ダブルローンの心配がない | 希望する物件が見つからないリスク |
購入先行のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
引越しが1回で済む | つなぎ融資やダブルローンのコスト |
じっくり新居を探せる | 売却を急ぐ必要があり、安値になるリスク |
希望する物件を逃さない | 資金計画に余裕が必要 |
選択の基準
- 既存ローン残債が多い: 売却先行がおすすめ(売却代金で完済が確実)
- 自己資金が豊富: 購入先行も選択可能(ダブルローンに耐えられる)
- 希望エリアに物件が少ない: 購入先行で希望物件を確保
- 子供の学校や仕事の都合: 引越し時期が決まっている場合は購入先行
(2) 仮住まい費用の考慮
売却先行の場合、仮住まいには以下のコストがかかります。
仮住まいのコスト
- 家賃: 月10〜20万円(地域による)
- 敷金・礼金: 家賃の2〜3ヶ月分
- 引越し費用: 2回分(旧宅→仮住まい、仮住まい→新居)で30〜50万円
仮住まい期間が3ヶ月の場合:
家賃: 15万円 × 3ヶ月 = 45万円
敷金・礼金: 15万円 × 3ヶ月 = 45万円
引越し費用: 40万円
合計: 130万円
このコストを新居の購入予算に組み込んで計画を立てましょう。
住み替え時の税務(譲渡所得・控除)
住み替えで既存住宅を売却する際、税金の知識も重要です。税制優遇措置を活用して節税しましょう。
(1) 旧宅売却時の譲渡所得税と3,000万円控除
国税庁によると、マイホームを売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。
3,000万円特別控除の適用条件
- 自分が住んでいた家を売却すること
- 住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却すること
- 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
- 売主と買主が親族関係でないこと
控除による節税効果
売却価格3,500万円、取得費500万円、譲渡費用100万円の場合:
【控除なし】
譲渡所得 = 3,500万円 - 500万円 - 100万円 = 2,900万円
譲渡所得税 = 2,900万円 × 20.315%(長期) = 589万円
【3,000万円控除あり】
譲渡所得 = 2,900万円 - 3,000万円 = 0円(マイナスは0)
譲渡所得税 = 0円
節税額 = 589万円
この特例を利用すれば、多くのケースで譲渡所得税を非課税にできます。
(2) 住み替え特例の適用条件
売却で損失が出た場合には、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」という特例もあります。
適用条件
- 所有期間が5年超であること(売却した年の1月1日時点で判定)
- 売却する住宅に住宅ローン残高があるか、新居で新たに住宅ローンを組むこと
- 新居の床面積が50㎡以上であること
特例の内容
- 譲渡損失を給与所得など他の所得から控除できる
- 控除しきれなかった損失は、翌年以降最大3年間(合計4年間)繰り越して控除可能
この特例を利用すれば、売却で損失が出ても所得税・住民税の還付を受けられます。
重要な注意点
3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できません。新居で住宅ローン控除を受ける場合、どちらが有利かを税理士に相談して判断しましょう。
まとめ
住み替えで新築戸建てを購入する際のローンと審査対策をまとめます。
- 住み替えローンとダブルローンを使い分け: 売却損がある場合は住み替えローン、購入先行の場合はつなぎ融資やダブルローンを検討
- 新築戸建ての種類で手続きが異なる: 注文住宅はつなぎ融資、建売は完成前契約のタイミングに注意
- オーバーローン時は審査が厳格: 年収・勤続年数・自己資金を整え、複数の金融機関に相談
- 売却と購入のタイミングを慎重に: 資金状況・家族の事情・市場動向を考慮して売却先行か購入先行かを選択
- 税制優遇措置を活用: 3,000万円特別控除や譲渡損失の繰越控除で節税
住み替えは複雑なプロセスですが、適切な準備と計画により、理想の新築戸建てへの住み替えが実現できます。