マンション売却時の住宅ローン処理を理解する
マンションを売却する際、多くの方が住宅ローン残債を抱えています。売却を進めるには、ローンを完済し、金融機関が設定した抵当権を抹消する必要があります。しかし、売却価格がローン残債を下回る「オーバーローン」の場合、どう対処すればよいのでしょうか。
本記事では、住宅金融支援機構や国土交通省の公的情報を基に、マンション売却時の住宅ローン処理の基礎知識を解説します。
この記事でわかること:
- 住宅ローンの種類と売却時の完済原則
- ローン残債の確認方法と一括返済手続き
- オーバーローン・アンダーローンそれぞれの対応策
- 抵当権抹消手続きの流れと費用
- 金融機関との調整タイミング
- 住み替えローンの活用方法
マンション売却時の住宅ローン処理の基礎
住宅ローンの種類と特徴
住宅金融支援機構によれば、住宅ローンには以下の種類があります。
主な住宅ローンの種類:
種類 | 特徴 | 金利タイプ |
---|---|---|
民間銀行ローン | 金融機関が独自に提供 | 変動金利、固定金利選択型 |
フラット35 | 住宅金融支援機構と民間金融機関の提携 | 全期間固定金利 |
財形住宅融資 | 勤務先で財形貯蓄をしている方向け | 固定金利(5年ごと見直し) |
マンション売却時は、ローンの種類に関わらず、残債を完済する必要があります。
売却時のローン完済原則
マンションを売却する際、住宅ローンを完済し、抵当権を抹消することが原則です。
完済が必要な理由:
- 金融機関が設定した抵当権が登記されている
- 抵当権付きの物件は買主に所有権を完全に移転できない
- 売買契約の決済日までに抵当権抹消が必要
完済の流れ:
- ローン残債を確認
- 売却価格から残債を差し引いた金額(手残り)を試算
- 売却代金でローンを一括返済
- 金融機関から抵当権抹消書類を受領
- 法務局で抵当権抹消登記を申請
売却価格がローン残債を上回る場合(アンダーローン)は問題ありませんが、下回る場合(オーバーローン)は差額を自己資金で補う必要があります。
住宅ローン控除との関係
国税庁によれば、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、年末ローン残高の0.7%を所得税・住民税から最長13年間控除できる制度です。
売却時の注意点:
- 入居から10年未満で売却すると、住宅ローン控除の残期間分を放棄
- 譲渡益が出た場合、譲渡所得税の軽減措置(3,000万円特別控除など)との併用は不可
住宅ローン控除を受けている場合、売却のタイミングによっては控除を受けられなくなる期間が発生するため、税理士への相談が推奨されます。
住宅ローン残債の確認と完済方法
残債の確認方法
売却を検討する際、まずローン残債を正確に確認します。
確認方法:
- 返済予定表を確認
- 金融機関から毎年送付される返済予定表に残高が記載
- インターネットバンキングで確認
- ログインして現在の残高を確認
- 金融機関窓口で問い合わせ
- 売却を検討していることを伝え、正確な残債を確認
残債は日々変動するため、売却時期を決める前に最新の残高を確認しましょう。
一括返済の手続き
住宅ローンを一括返済する際の手続きは以下の通りです。
手続きの流れ:
- 金融機関へ連絡
- 一括返済の希望日を伝える(通常、売買契約の決済日)
- 返済額の確定
- 返済日時点の残高と利息を計算してもらう
- 返済実行
- 決済日に売却代金から一括返済
- 抵当権抹消書類の受領
- 金融機関から抵当権設定契約証書、登記識別情報などを受領
決済日は買主、売主、不動産会社、金融機関、司法書士が立ち会い、売却代金の入金とローン完済、抵当権抹消登記を同時に行います。
一括返済手数料
住宅ローンを一括返済する際、金融機関に手数料を支払う場合があります。
一括返済手数料の相場:
- 固定金利期間中:3万円~5万円程度
- 変動金利期間中:5千円~1万円程度
- 無料の金融機関もあり
手数料は金融機関により異なるため、事前に確認しましょう。
オーバーローン・アンダーローンの対応策
オーバーローンの定義と対応
オーバーローン: 住宅ローン残債が物件の売却価格を上回る状態。
例:
- ローン残債:2,500万円
- 売却価格:2,200万円
- 差額:300万円(不足)
対応策:
- 自己資金で補填
- 差額300万円を自己資金で支払い、ローンを完済
- 住み替えローンの活用
- 新居購入時のローンに残債を上乗せ
- 売却時期を見直す
- 市場価格が回復するまで売却を延期
オーバーローンでも売却自体は可能ですが、差額を準備できない場合は売却が困難になります。
アンダーローンの定義と対応
アンダーローン: 物件の売却価格が住宅ローン残債を上回る状態。
例:
- ローン残債:1,800万円
- 売却価格:2,200万円
- 手残り:400万円(諸費用控除前)
対応策:
- 売却代金でローンを完済し、残りを手元に残せる
- 手残りは新居購入の頭金や引越し費用に充当可能
アンダーローンの場合、売却手続きはスムーズに進みます。
自己資金補填の準備
オーバーローンで自己資金補填が必要な場合、以下を準備します。
準備すべき金額:
- ローン残債と売却価格の差額
- 仲介手数料(売却価格の3%+6万円+税)
- 抵当権抹消登記費用(1~3万円)
- 引越し費用、その他諸費用
資金調達方法:
- 預貯金から充当
- 親族からの援助
- 無担保ローン(ただし金利が高い)
売却を決める前に、総額でいくら必要か試算しましょう。
抵当権抹消手続きの流れ
抵当権抹消とは
抵当権は、住宅ローン契約時に金融機関が物件に設定する担保権です。ローン完済後、抵当権を登記から消す手続きが「抵当権抹消登記」です。
抵当権が残っているとどうなるか:
- 買主に所有権を完全に移転できない
- 売買契約の決済ができない
- 金融機関が物件を差し押さえるリスク(ローン滞納時)
そのため、売却時には必ず抵当権を抹消します。
必要書類と手続き
ローン完済後、金融機関から以下の書類を受領します。
抵当権抹消に必要な書類:
- 抵当権設定契約証書(または登記済証)
- 登記識別情報通知
- 委任状(金融機関が発行)
- 資格証明書(金融機関の登記簿謄本)
手続きの流れ:
- 金融機関から書類を受領
- 司法書士に依頼(通常は売買契約時の司法書士が対応)
- 法務局で抵当権抹消登記を申請
- 登記完了(申請から1~2週間)
決済日に司法書士が書類を受け取り、同日中に法務局へ申請することが一般的です。
抵当権抹消登記費用
抵当権抹消登記にかかる費用:
登録免許税:
- 不動産1件につき1,000円
- マンションの場合、土地(敷地権)と建物で2,000円
司法書士報酬:
- 1万円~3万円程度(地域・司法書士により変動)
合計:
- 1.2万円~3.2万円程度
費用は売主負担となるため、売却諸費用の一部として予算に組み込みましょう。
金融機関との調整タイミング
売却決定時の相談
売却を具体的に検討し始めた段階で、金融機関に相談することが推奨されます。
相談時に確認すべき事項:
- 現在のローン残債(正確な金額)
- 一括返済手数料の有無と金額
- 抵当権抹消の手続き方法
- 住み替えローンの利用可否(オーバーローンの場合)
事前に金融機関の了承を得ておくことで、売買契約後の手続きがスムーズに進みます。
売買契約前の確認事項
売買契約を締結する前に、以下を確認します。
確認事項:
- ローン残債と売却価格の差額
- オーバーローンの場合、差額を準備できるか
- 決済日のスケジュール
- 金融機関の営業日と調整(平日のみ)
- 一括返済の手続き
- 決済日の何日前までに連絡が必要か
売買契約書には「ローン完済を条件とする」旨を明記することが一般的です。
決済日の調整
決済日は、買主、売主、不動産会社、金融機関、司法書士が立ち会える日を調整します。
決済日の流れ:
- 買主から売主へ残代金の支払い(通常は銀行振込)
- 売主が金融機関へローンを一括返済
- 金融機関が抵当権抹消書類を司法書士に引き渡し
- 司法書士が所有権移転登記と抵当権抹消登記を申請
- 鍵の引き渡し
決済は通常1~2時間で完了します。
住み替えローンの活用
住み替えローンとは
住み替えローンは、現在の住宅ローン残債を新居購入時のローンに上乗せできる商品です。
仕組み:
- 旧居の売却価格:2,000万円
- ローン残債:2,300万円
- 差額(オーバーローン):300万円
- 新居の購入価格:3,000万円
- 住み替えローン借入額:3,300万円(新居価格3,000万円 + 残債差額300万円)
オーバーローン状態でも、新居購入と同時に旧居を売却できます。
適用条件と審査基準
国土交通省の調査によれば、住み替えローンは通常の住宅ローンより審査が厳しくなります。
主な適用条件:
- 旧居の売却と新居の購入を同時に行うこと
- 売却代金で可能な限り旧居のローンを返済すること
- 新居の担保価値が借入額に見合うこと
審査で重視される項目:
- 年収(安定性)
- 勤続年数(3年以上が目安)
- 返済負担率(年収に占める年間返済額の割合、通常30~35%以内)
- 信用情報(過去の延滞歴など)
住み替えローンは借入額が増えるため、返済負担も増加します。
利用時の注意点
注意すべきポイント:
返済負担の増加
- 借入額が増えるため、月々の返済額も増加
- 将来の収入減少や支出増加を考慮した返済計画が必要
金利が高い
- 住み替えローンは通常の住宅ローンより金利が高い場合がある
売却と購入のタイミング調整が難しい
- 旧居の引き渡しと新居の引き渡しを同日に設定する必要がある
担保割れのリスク
- 新居の価値が借入額を下回る「担保割れ」状態になりやすい
住み替えローンを利用する場合、金融機関の担当者と綿密に相談し、無理のない返済計画を立てることが重要です。
まとめ
マンション売却時の住宅ローン処理は、残債の確認と完済方法の決定が鍵となります。
重要なポイント:
- 売却時は住宅ローンを完済し、抵当権を抹消することが原則
- ローン残債は返済予定表、インターネットバンキング、金融機関窓口で確認
- オーバーローンの場合、自己資金補填または住み替えローンを検討
- 抵当権抹消登記は司法書士に依頼し、費用は1.2万円~3.2万円程度
- 売却決定時に金融機関へ相談し、一括返済手数料や手続き方法を確認
- 住み替えローンは審査が厳しく、返済負担が増加するため慎重に検討
住宅金融支援機構や国土交通省の公的情報を参考にしながら、不動産会社や金融機関、司法書士などの専門家と連携し、計画的に売却を進めることが大切です。