中古戸建て売却のローン残債処理|基礎知識完全ガイド

公開日: 2025/10/20

中古戸建て売却の基礎知識

中古戸建ての売却を検討する際、住宅ローンの残債処理や税金、諸費用などの基礎知識を理解しておくことが重要です。特に初めて売却を行う場合、手続きの流れや必要な準備を把握しておくことで、スムーズに進めることができます。

この記事のポイント

  • 住宅ローン残債は売却代金で一括返済し、抵当権を抹消する必要がある
  • オーバーローン時は自己資金での補填や任意売却を検討
  • 譲渡所得税は売却利益に課税されるが、3,000万円特別控除で軽減可能
  • 仲介手数料、抵当権抹消費用、繰上返済手数料などの諸費用がかかる
  • 既存住宅売買瑕疵保険やインスペクションで売却をスムーズに

(1) 中古戸建て売却の流れ

中古戸建て売却の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 査定依頼: 不動産会社に物件の査定を依頼
  2. 媒介契約: 不動産会社と媒介契約を締結
  3. 売却活動: 広告掲載、内覧対応
  4. 売買契約: 買主と売買契約を締結
  5. 決済・引渡し: 売却代金の受領、所有権移転登記
  6. 確定申告: 売却翌年に譲渡所得税の申告

住宅ローンが残っている場合、決済時に一括返済と抵当権抹消の手続きが必要です。

(2) 築年数と売却価格の関係

中古戸建ての売却価格は、築年数によって大きく影響を受けます。一般的に、築20年を超えると建物の価値はほぼゼロとなり、土地価格のみで評価されることが多いです。

また、築年数が古い物件は買主が住宅ローン減税を受けられない場合があり、売却価格に影響する可能性があります。ただし、既存住宅売買瑕疵保険を付保することで、買主が住宅ローン減税を受けられる条件を満たせる場合もあります。

(3) 必要書類の準備

中古戸建て売却時には、以下の書類が必要です(法務省 - 不動産売却時の必要書類)。

  • 登記済権利証または登記識別情報: 所有権を証明する書類
  • 固定資産税納税通知書: 固定資産税の確認
  • 建築確認済証・検査済証: 建築時の適法性を証明
  • 測量図・境界確認書: 土地の境界を明示
  • 住宅ローン残高証明書: ローン残債の確認

これらの書類は売買契約前に準備しておくとスムーズです。

住宅ローン残債の一括返済

(1) 売却代金による一括返済の流れ

中古戸建てを売却する際、住宅ローンが残っている場合は、売却代金で一括返済する必要があります(金融庁 - 住宅ローンの残債がある場合の売却)。一般的な流れは以下の通りです。

  1. 残債確認: 金融機関に住宅ローンの残高を確認
  2. 売却価格の決定: 残債を上回る価格で売却できるか確認
  3. 決済日の調整: 買主と決済日を調整し、金融機関に通知
  4. 一括返済: 決済時に売却代金から残債を一括返済
  5. 抵当権抹消: 金融機関が抵当権を抹消する書類を発行

売却代金がローン残債を上回る場合(アンダーローン)は問題ありませんが、下回る場合(オーバーローン)は追加の対処が必要です。

(2) 抵当権抹消の手続き

住宅ローンを完済すると、金融機関が設定した抵当権を登記簿から削除する「抵当権抹消登記」が必要です。この手続きは決済日に行われることが多く、司法書士に依頼するのが一般的です。

抵当権抹消にかかる費用

  • 登録免許税: 不動産1つにつき1,000円
  • 司法書士報酬: 1~2万円程度

抵当権抹消を怠ると、次の所有者に迷惑をかけるだけでなく、売買契約自体が成立しない場合もあるため、必ず手続きを行いましょう。

(3) オーバーローン時の対処法

売却価格がローン残債を下回る「オーバーローン」の場合、以下の対処法があります。

対処法 内容 メリット デメリット
自己資金での補填 不足分を自己資金で補う 売却を確実に完了できる まとまった資金が必要
任意売却 金融機関の同意を得て売却 競売を回避できる 信用情報に影響あり
住み替えローン 新居購入時に残債を組み込む 売却と購入を同時進行 審査が厳しい

オーバーローンの場合は、早めに金融機関や不動産会社に相談することが重要です。

中古戸建て売却時の税金と控除

(1) 譲渡所得税の計算方法

中古戸建てを売却した際の利益(譲渡所得)には、所得税と住民税が課されます(国税庁 - 譲渡所得の計算方法)。

譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
  • 取得費: 購入価格、購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用など)
  • 譲渡費用: 売却時の諸費用(仲介手数料、測量費など)

取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」を使用できます。

(2) 3,000万円特別控除の適用要件

マイホームを売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「居住用財産の3,000万円特別控除」があります(国税庁 - 居住用財産の3,000万円特別控除)。

適用要件

  • 自己の居住用財産であること
  • 売却先が配偶者や直系血族でないこと
  • 売却した年の前年および前々年にこの特例を受けていないこと
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること

この特例を適用すれば、ほとんどのケースで譲渡所得税はかかりません。

(3) 長期譲渡と短期譲渡の税率

譲渡所得税の税率は、所有期間によって異なります。

所有期間 区分 所得税 住民税 合計
5年以下 短期譲渡所得 30.63% 9% 39.63%
5年超 長期譲渡所得 15.315% 5% 20.315%

所有期間の判定日: 売却した年の1月1日時点での所有期間で判定します。例えば、2020年4月に購入し2025年3月に売却した場合、2025年1月1日時点では所有期間が5年未満のため、短期譲渡所得となります。

売却にかかる費用と諸経費

(1) 仲介手数料の計算

不動産会社に売却を依頼した場合、成約時に仲介手数料を支払います。仲介手数料の上限は以下の通りです。

仲介手数料の上限額

売却価格 × 3% + 6万円 + 消費税

具体例

  • 売却価格2,000万円の場合: 2,000万円 × 3% + 6万円 = 66万円(税抜)、税込72.6万円
  • 売却価格3,000万円の場合: 3,000万円 × 3% + 6万円 = 96万円(税抜)、税込105.6万円

仲介手数料は売買契約時と決済時に分割して支払うことが多いです。

(2) 繰上返済手数料と抵当権抹消費用

住宅ローンを一括返済する際、金融機関によっては「繰上返済手数料」がかかります。

金融機関タイプ 繰上返済手数料の目安
メガバンク 3~5万円程度
ネット銀行 無料~数千円
地方銀行 1~3万円程度

また、抵当権抹消の登録免許税(不動産1つにつき1,000円)と司法書士報酬(1~2万円)もかかります。

(3) その他の諸費用

売却時には、以下の費用もかかる場合があります。

  • 測量費: 境界が不明確な場合、50~80万円程度
  • 建物解体費: 古家を解体して更地売却する場合、100~200万円程度
  • 印紙税: 売買契約書に貼付、1~3万円程度
  • 譲渡所得税: 売却益が出た場合(3,000万円特別控除で軽減可能)

不動産会社との媒介契約

(1) 専任媒介契約と一般媒介契約の違い

不動産会社に売却を依頼する際、媒介契約を締結します(国土交通省 - 不動産取引時の媒介契約)。主な契約形態は以下の3種類です。

契約形態 複数社依頼 レインズ登録 報告義務 特徴
専属専任媒介 不可 5日以内 週1回以上 最も拘束力が強い
専任媒介 不可 7日以内 2週に1回以上 バランス型
一般媒介 任意 なし 自由度が高い

レインズ: 不動産会社専用の物件情報ネットワーク。登録により全国の不動産会社が物件情報を閲覧できます。

(2) 契約形態の選択ポイント

契約形態の選び方は、物件の特性や売却方針によって異なります。

  • 専任媒介がおすすめ: 信頼できる不動産会社があり、積極的な販売活動を期待したい場合
  • 一般媒介がおすすめ: 複数社に依頼して幅広く買主を探したい場合、人気エリアで売却しやすい物件

専任媒介は1社に絞る分、不動産会社が積極的に販売活動を行う傾向がありますが、会社選びが重要です。一般媒介は複数社に依頼できますが、各社の販売意欲が下がる可能性もあります。

(3) レインズ登録と報告義務

専任媒介契約・専属専任媒介契約では、不動産会社に以下の義務があります。

  • レインズ登録義務: 契約から一定期間内に登録
  • 報告義務: 販売活動の進捗を定期的に報告

これにより、売主は販売状況を把握しやすくなります。一般媒介契約にはこれらの義務がないため、自分から不動産会社に確認する必要があります。

売却をスムーズにする方法

(1) 既存住宅売買瑕疵保険の活用

既存住宅売買瑕疵保険は、中古住宅の検査と保証がセットになった保険制度です(国土交通省 - 既存住宅売買瑕疵保険)。売主が保険に加入することで、買主に以下のメリットがあります。

  • 引渡し後に隠れた瑕疵が見つかった場合、補修費用が補償される
  • 築年数が古い物件でも住宅ローン減税を受けられる条件を満たせる

保険料は5~10万円程度ですが、買主の信頼を得られるため、売却がスムーズに進みやすくなります。

(2) インスペクションの実施

インスペクション(建物状況調査)は、専門家が建物の劣化状況を調査するサービスです。インスペクションを実施することで、以下のメリットがあります。

  • 買主が安心して購入できる
  • 瑕疵保険の加入条件を満たせる
  • 売却後のトラブルを防げる

費用は5~10万円程度です。インスペクション結果を買主に提示することで、売却価格の正当性を示すこともできます。

(3) リフォームの必要性

売却前にリフォームを行うべきかは、物件の状況や市場動向によって異なります。

リフォームが効果的なケース

  • 水回りの劣化が著しい場合
  • 壁紙・床の汚れや傷が目立つ場合
  • 外壁・屋根の劣化が見た目に影響している場合

リフォーム不要なケース

  • 買主がリフォーム前提で購入を検討している場合
  • リフォーム費用が売却価格に上乗せできない場合

大規模リフォームは費用対効果が低い場合が多いため、不動産会社と相談して判断しましょう。簡易的な清掃や修繕で印象を良くする方が効果的な場合もあります。

まとめ

中古戸建て売却では、住宅ローン残債の一括返済と抵当権抹消が必須です。売却代金で完済できない場合は、自己資金での補填や任意売却を検討する必要があります。

譲渡所得税は売却利益に課税されますが、マイホームであれば3,000万円特別控除を適用することで、多くのケースで税負担を軽減できます。また、所有期間が5年超の場合は長期譲渡所得となり、税率が低くなります。

仲介手数料、抵当権抹消費用、繰上返済手数料など諸費用も忘れずに計算し、手元に残る金額を把握しておきましょう。既存住宅売買瑕疵保険やインスペクションを活用することで、買主の信頼を得て売却をスムーズに進められます。

不動産会社との媒介契約は、物件の特性や売却方針に合わせて選びましょう。専任媒介は積極的な販売活動が期待でき、一般媒介は複数社に依頼できる自由度があります。

よくある質問

よくある質問

Q1中古戸建てを売却する際、住宅ローンが残っていても大丈夫ですか?

A1売却代金でローンを完済できれば問題なく売却可能です。決済時に売却代金から残債を一括返済し、金融機関が設定した抵当権を抹消する手続きを行います。売却価格がローン残債を下回る「オーバーローン」の場合は、不足分を自己資金で補填するか、金融機関の同意を得て任意売却を行う必要があります。住み替えローンで新居購入時に残債を組み込む方法もありますが、審査が厳しくなります。早めに金融機関や不動産会社に相談し、対処法を検討しましょう。

Q2中古戸建て売却時の仲介手数料はいくらですか?

A2仲介手数料の上限は「売却価格 × 3% + 6万円 + 消費税」です。例えば、売却価格が2,000万円の場合、仲介手数料は66万円(税抜)、消費税込みで72.6万円となります。売却価格が3,000万円の場合は96万円(税抜)、税込105.6万円です。仲介手数料は売買契約時と決済時に分割して支払うことが多いです。正式な契約時に金額を確認し、諸費用として資金計画に含めておきましょう。

Q3築年数が古い中古戸建ては売却しにくいですか?

A3築年数が古い物件は、買主が住宅ローン減税を受けられない場合があり、売却価格に影響する可能性があります。一般的に、築20年を超えると建物の価値はほぼゼロとなり、土地価格のみで評価されることが多いです。ただし、既存住宅売買瑕疵保険を付保することで、買主が住宅ローン減税を受けられる条件を満たせる場合もあります。インスペクションを実施して建物の状態を明示し、適正価格を設定することで、売却をスムーズに進められます。

Q4売却前にリフォームはすべきですか?

A4大規模リフォームは費用対効果が低い場合が多いため、不要なケースが多いです。買主の好みもあるため、リフォーム前提で購入を検討している買主も少なくありません。ただし、水回りの劣化が著しい場合や、壁紙・床の汚れや傷が目立つ場合は、簡易的な修繕が効果的です。不動産会社と相談し、費用対効果を検討して判断しましょう。清掃や整理整頓で印象を良くする方が、コストを抑えつつ効果的な場合もあります。

Q53,000万円特別控除は誰でも使えますか?

A5マイホームを売却した場合に適用される特例で、自己の居住用財産であることが必須条件です。売却先が配偶者や直系血族でないこと、売却した年の前年および前々年にこの特例を受けていないこと、居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することなどの要件があります。これらの条件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除でき、ほとんどのケースで譲渡所得税はかかりません。詳細は税務署や税理士に確認しましょう。

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