住み替え売却中古マンションの相続税・贈与税|完全ガイド

公開日: 2025/10/12

相続した中古マンションを売却して住み替える際、相続税と譲渡所得税という2つの税金が関わります。特に、相続開始から3年10ヶ月以内に売却する場合は「取得費加算の特例」、小規模宅地等の特例を活用すれば相続税評価額を80%減額できる可能性があります。この記事では、住み替えに伴う相続マンションの売却における税務処理の実務的な知識を解説します。

この記事のポイント

  • 相続時に相続税、売却時に譲渡所得税が別々にかかる
  • 相続開始から3年10ヶ月以内の売却で取得費加算の特例が適用可能
  • 小規模宅地等の特例と住み替えタイミングの調整が重要
  • 買換え特例と取得費加算特例は併用不可、選択が必要
  • 共有相続の場合は各相続人が持分に応じて取得費加算を計算

住み替え売却中古マンションと相続税・贈与税の全体像

相続時にかかる税金(相続税)

相続したマンションを住み替えで売却する場合、まず相続時に相続税が課税される可能性があります。相続税は、被相続人の死亡により財産を取得した場合に課される税金です(国税庁 相続税の計算)。

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となります。例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人の場合、基礎控除額は4,800万円となり、相続財産の総額がこれを超えた場合に相続税が課税されます。

売却時にかかる税金(譲渡所得税)

相続したマンションを売却する場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。譲渡所得は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

相続した不動産の取得費は、被相続人が購入した際の価格を引き継ぎます。取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費とすることができますが、これでは譲渡所得が大きくなり、税負担が増加します。

住み替え資金への影響

相続税と譲渡所得税の負担により、住み替え資金が減少する可能性があります。ただし、取得費加算の特例や小規模宅地等の特例を活用すれば、税負担を軽減できます。

住み替え資金のシミュレーション例

項目 金額
マンション売却価格 5,000万円
譲渡費用(仲介手数料等) 200万円
相続税 500万円
譲渡所得税(特例なし) 600万円
手取り額(特例なし) 3,700万円

取得費加算特例を適用すれば、譲渡所得税が軽減され、手取り額が増加します。

相続税の計算方法と中古マンションの評価額

相続税の基礎控除と税率

相続税は、相続財産の総額が基礎控除額を超えた場合に課税されます。基礎控除額の計算式は以下の通りです。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

相続税の税率は、法定相続分に応じた取得金額により10%から55%までの累進税率が適用されます。

マンション土地(敷地権)の評価方法

中古マンションの土地(敷地権)は、路線価方式で評価されます(国税庁 不動産の評価方法)。

評価額の計算式 敷地権の評価額 = 路線価 × 敷地権割合 × 専有面積に対応する土地面積

路線価は公示価格の約80%が目安となります。敷地権割合は、専有面積の割合で按分されます。

マンション建物の評価方法(固定資産税評価額)

建物は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。中古マンションの場合、経年劣化により新築時より低い評価となります。

固定資産税評価額は、毎年4月頃に市区町村から送付される固定資産税納税通知書に記載されています。

小規模宅地等の特例と住み替えのタイミング

特定居住用宅地等の特例(330㎡まで80%減額)

小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地について、一定の要件を満たせば相続税評価額を80%減額できる特例です(国税庁 小規模宅地等の特例)。

主な適用要件

  • 被相続人の居住用宅地であること
  • 相続人が配偶者、または同居親族であること
  • 相続税の申告期限まで保有・居住を継続すること
  • 限度面積は330㎡まで

マンションの場合、敷地権に対応する土地面積が対象となり、多くのマンションで特例の上限(330㎡)内に収まります。

特例適用の居住要件と住み替えの関係

小規模宅地等の特例は、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)まで保有・居住を継続することが要件となります。住み替えで早期に売却する場合、以下の判断が必要です。

  • 特例を優先する場合:相続税の申告期限まで保有し、特例を適用してから売却
  • 住み替えを優先する場合:特例を諦めて早期に売却し、住み替え先を確保

住み替えのタイミングにより、特例適用の可否が変わるため、事前に税理士に相談することが重要です。

共有相続の場合の特例適用

複数の相続人がマンションを共有で相続した場合、特例適用は相続人ごとに判定されます。配偶者は要件を満たしやすいですが、子などの相続人は同居要件を満たす必要があります。

売却時の譲渡所得税と取得費加算特例

譲渡所得税の計算方法

相続したマンションを売却する場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

譲渡所得税の税率

所有期間 所得税 住民税 合計
短期譲渡(5年以下) 30% 9% 39%
長期譲渡(5年超) 15% 5% 20%

相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得した日から計算されるため、多くの場合、長期譲渡所得となります。

取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)

取得費加算の特例は、相続税を支払った場合、相続開始から3年10ヶ月以内の売却で相続税額の一部を取得費に加算できる制度です(国税庁 取得費加算の特例)。

加算額の計算式 加算額 = 相続税額 × 譲渡資産の相続税評価額 ÷ 相続財産総額

具体例

  • 相続税額:1,000万円
  • マンションの相続税評価額:2,500万円
  • 相続財産総額:1億円

加算額 = 1,000万円 × 2,500万円 ÷ 1億円 = 250万円

この250万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が250万円減少し、譲渡所得税(長期譲渡20.315%)が約51万円軽減されます。

居住用財産の買換え特例との使い分け

居住用財産の買換え特例は、特定のマイホームを買い換えた場合、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べできる特例です(国税庁 居住用財産の買換え特例)。

ただし、取得費加算の特例とは併用できません。

買換え特例が有利なケース

  • 譲渡益が大きく、将来の売却予定がない場合
  • 住み替え先を長期保有する予定の場合

取得費加算特例が有利なケース

  • 相続税を支払った場合
  • 将来も住み替えの予定がある場合
  • 課税を繰り延べるよりも今回軽減したい場合

贈与税との関係と生前贈与の検討

贈与税の計算方法と税率

贈与税は、個人から財産をもらったときに課される税金です(国税庁 贈与税の計算と税率)。暦年課税の基礎控除は年110万円です。

暦年課税と相続時精算課税の違い

暦年課税

  • 基礎控除:年110万円
  • 贈与税率:10%~55%の累進税率
  • 相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算

相続時精算課税

  • 特別控除:2,500万円(累積)
  • 贈与税率:一律20%(特別控除超過分)
  • 相続時に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない

住み替え前の生前贈与のメリット・デメリット

メリット

  • 相続財産を減らし、相続税を軽減できる
  • 住み替え資金を事前に移転できる

デメリット

  • 贈与税が課税される可能性
  • 相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算される
  • マンションそのものを贈与する場合、登録免許税・不動産取得税が高額

住み替えスケジュールと税務上の注意点

相続登記から売却までの期限

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、相続を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。

住み替えで売却する場合でも、まず相続登記を完了させてから売却手続きを進めることが必須です。

相続税申告期限(10ヶ月以内)

相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。小規模宅地等の特例を適用するためには、申告が必須となります。

取得費加算特例の期限と住み替え先購入のタイミング

取得費加算の特例は、相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。住み替え先の購入タイミングは、この期限内に収める必要はありませんが、住み替え先の購入資金として売却代金を充てる場合、計画的なスケジュール管理が重要です。

住み替えスケジュールの例

時期 手続き
相続発生 相続財産の確認
3ヶ月以内 遺産分割協議
3年以内 相続登記
10ヶ月以内 相続税申告
3年10ヶ月以内 マンション売却(取得費加算特例適用)
売却後 住み替え先購入
売却翌年2-3月 譲渡所得税の確定申告

まとめ

相続した中古マンションを売却して住み替える際は、相続税と譲渡所得税の二重課税構造を理解し、小規模宅地等の特例・取得費加算の特例・買換え特例などの税制優遇を適切に選択することが重要です。

小規模宅地等の特例は相続税の申告期限(10ヶ月)まで保有・居住を継続することが要件となるため、住み替えのタイミングとの調整が必要です。一方、取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内の売却が要件となるため、計画的なスケジュール管理が重要です。

買換え特例と取得費加算特例は併用できないため、将来の売却予定や税率を考慮して選択します。相続税を支払った場合は、取得費加算特例が有利なケースが多いとされています。

共有で相続したマンションを売却する場合、各相続人が支払った相続税額の一部を、それぞれの持分に応じて取得費に加算できます。2024年4月から相続登記が義務化されたため、3年以内の手続きを忘れずに行いましょう。税理士や不動産会社への相談タイミングを適切に設定し、具体的な数字でシミュレーションすることで、最適な住み替えを実現できます。

よくある質問

Q1相続した中古マンションを売却して住み替える場合、相続税と譲渡所得税の両方がかかりますか?

A1相続時に相続税、売却時に譲渡所得税が別々にかかります。相続税は基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた場合に課税されます。譲渡所得税は、売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。ただし、相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、取得費加算の特例で相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。

Q2小規模宅地等の特例を使った後でも住み替えで売却できますか?

A2特例適用後の売却に期限制限はありません。ただし、特例は相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)まで保有・居住を継続することが要件となるため、この期間を過ぎてから住み替えで売却することになります。住み替えのタイミングで要件を満たさない場合、特例が否認され追徴課税の可能性があるため、事前に税理士に相談することが重要です。

Q3相続した中古マンションの住み替え売却で、買換え特例と取得費加算特例はどちらが有利ですか?

A3買換え特例は課税の繰延、取得費加算特例は譲渡所得税の軽減です。併用不可のため、将来の売却予定や税率を考慮して選択します。相続税を支払った場合は取得費加算特例が有利なケースが多いとされています。買換え特例を選択すると、将来の売却時に課税されるため、長期保有する予定がない場合は取得費加算特例が有利です。具体的な数字でシミュレーションして税理士に相談することをおすすめします。

Q4共有で相続したマンションを売却する場合、取得費加算特例は全員に適用されますか?

A4各相続人が支払った相続税額の一部を、それぞれの持分に応じて取得費に加算できます。共有者全員で売却する場合も、各自で取得費加算の計算が必要です。計算式は「加算額=相続税額×譲渡資産の相続税評価額÷相続財産総額」となります。共有相続の場合は税務処理が複雑になるため、税理士への相談をおすすめします。

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