相続した中古戸建てを住み替えで売却する際の税金の全体像
相続した中古戸建てを住み替えで売却する場合、相続税と譲渡所得税の2つの税金が関係します。相続時には相続税が課税され、売却時には譲渡所得税が発生します。これらは別々の税金であり、それぞれ独立して計算されます。
国税庁によれば、相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば「取得費加算の特例」で、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。住み替えのタイミングと税制優遇の活用が、節税の鍵となります。
この記事のポイント:
- 相続税と譲渡所得税は別々の税金で、相続税評価額と売却価格も異なる
- 小規模宅地等の特例(特定居住用)で330㎡まで評価額を80%減額できる
- 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、取得費加算の特例で相続税の一部を取得費に加算可能
- 買換え特例は課税の繰延、取得費加算特例は譲渡所得税の軽減で、併用不可
- 小規模宅地等の特例の居住要件を満たしながら住み替えるには、申告期限後の売却が必要
(1) 相続時にかかる税金(相続税)
相続税は、被相続人の死亡により財産を取得した場合に課される税金です。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、これを超える部分に課税されます。
中古戸建ての相続税評価額は、以下の合計で計算されます:
- 土地: 路線価方式または倍率方式
- 建物: 固定資産税評価額
一般的に、相続税評価額は時価の70~80%程度になります。
(2) 売却時にかかる税金(譲渡所得税)
譲渡所得税は、中古戸建てを売却した際の利益に対して課される税金です。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
税率:
- 所有期間5年超: 20.315%(長期譲渡所得)
- 所有期間5年以下: 39.63%(短期譲渡所得)
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定されます。相続の場合、被相続人の取得日から計算します。
(3) 相続税評価額と売却価格の違い
相続税評価額と売却価格は、以下のように異なります:
項目 | 相続税評価額 | 売却価格 |
---|---|---|
算定基準 | 路線価・固定資産税評価額 | 市場取引価格 |
時価との関係 | 時価の70~80%程度 | 時価 |
用途 | 相続税の計算 | 譲渡所得税の計算 |
例えば、相続税評価額3,000万円の中古戸建てが、4,000万円で売却できるケースは珍しくありません。この差額が、譲渡所得税の課税対象となる可能性があります。
2. 相続税の計算方法と中古戸建ての評価額
(1) 相続税の基礎控除と税率
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
計算例:
- 法定相続人が2人の場合: 3,000万円+600万円×2=4,200万円
- 法定相続人が3人の場合: 3,000万円+600万円×3=4,800万円
相続財産の合計がこの基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。
(2) 土地の評価方法(路線価・倍率方式)
土地の相続税評価額は、以下のいずれかの方法で計算されます:
路線価方式:
国税庁が定める路線価(1㎡あたりの評価額)に土地面積を乗じて計算します。市街地の土地に適用されます。
評価額 = 路線価 × 土地面積 × 各種補正率
倍率方式:
路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
(3) 建物の評価方法(固定資産税評価額)
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額がそのまま使われます。
固定資産税評価額は、新築時の建築費の50~70%程度になることが多く、経年劣化により毎年減少します。
3. 小規模宅地等の特例と住み替えのタイミング
(1) 特定居住用宅地等の特例(330㎡まで80%減額)
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地について、330㎡まで評価額を80%減額できる制度です。
計算例:
- 土地面積: 200㎡
- 自用地評価額: 4,000万円
- 特例適用後: 4,000万円×20%=800万円(3,200万円減額)
(2) 特例適用の居住要件と住み替えの関係
小規模宅地等の特例を適用するには、以下の要件を満たす必要があります:
配偶者が取得する場合:
- 無条件で適用可能
同居親族が取得する場合:
- 相続開始前から被相続人と同居していたこと
- 相続税の申告期限まで居住・所有を継続すること
住み替えとの関係:
住み替えを考えている場合、相続税の申告期限(10ヶ月)までは居住・所有を継続する必要があります。申告期限前に住み替えて転居すると、特例が適用できなくなる可能性があります。
(3) 特例適用後の売却タイミング
小規模宅地等の特例を適用した後であれば、住み替えで売却することに制限はありません。
売却タイミングの選択肢:
- 特例適用後に住み替え: 相続税を大幅に軽減でき、申告期限後は自由に売却可能
- すぐに住み替え: 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)で譲渡所得税を軽減できる
どちらが有利かは、相続税評価額・売却価格・譲渡所得などによって異なるため、税理士に相談してシミュレーションすることをお勧めします。
4. 売却時の譲渡所得税と取得費加算特例
(1) 譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は、以下の式で計算されます:
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
取得費:
- 相続の場合: 被相続人の取得費を引き継ぐ
- 取得費が不明な場合: 売却価格の5%を取得費とする
(2) 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)
相続税の申告期限(死亡から10ヶ月)から3年以内、つまり相続開始から3年10ヶ月以内に中古戸建てを売却した場合、「取得費加算の特例」が適用できます。
加算できる相続税額の計算式:
加算額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続財産の合計額)
この特例により、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。
(3) 居住用財産の買換え特例との使い分け
住み替えの場合、以下の2つの特例があります:
買換え特例:
- 特定の居住用財産を買い換えた場合、譲渡益への課税を繰り延べられる
- 将来の売却時に課税されるため、課税の「免除」ではなく「繰延」
取得費加算の特例:
- 相続税を支払った場合に適用できる
- 譲渡所得税を直接軽減できる(繰延ではなく軽減)
併用不可:
これらの特例は併用できないため、どちらが有利か試算が必要です。一般的に、相続税を支払った場合は取得費加算の特例が有利なケースが多いです。
5. 贈与税との関係と生前贈与の検討
(1) 贈与税の計算方法と税率
贈与税の基礎控除額は年間110万円です。これを超える部分に累進税率(10~55%)が適用されます。
(2) 暦年課税と相続時精算課税の違い
贈与税には以下の2つの制度があります:
暦年課税:
- 基礎控除: 年間110万円
- 税率: 10~55%(累進税率)
- 毎年110万円以内の贈与であれば贈与税非課税
相続時精算課税:
- 特別控除: 累計2,500万円
- 税率: 一律20%(2,500万円超の部分)
- 贈与者の相続時に、贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算
(3) 住み替え前の生前贈与のメリット・デメリット
メリット:
- 相続財産を減らし、将来の相続税を軽減できる
- 暦年課税で年110万円以内の持分贈与を繰り返せば、贈与税非課税
デメリット:
- 贈与税が相続税より高い場合がある(基礎控除が相続税より小さい)
- 住み替えで売却予定の場合、取得費は贈与時の評価額で計算されるため、譲渡所得税が増える可能性がある
- 相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻れない
将来の相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば、相続で取得する方が有利な場合が多いです。
6. 住み替えスケジュールと税務上の注意点
(1) 相続税申告期限(10ヶ月以内)
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
申告期限の計算例:
- 2024年4月15日に死亡
- 申告期限: 2025年2月15日まで
小規模宅地等の特例を適用する場合、この期限まで居住・所有を継続する必要があります。住み替えはこの期限後に行うのが安全です。
(2) 取得費加算特例の期限(3年10ヶ月)
取得費加算の特例は、相続税の申告期限(死亡から10ヶ月)から3年以内、つまり相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合に適用できます。
期限の計算例:
- 2024年4月15日に死亡
- 相続税申告期限: 2025年2月15日
- 取得費加算特例の期限: 2028年2月15日まで
住み替えのタイミングは、この期限内に設定することで、税制優遇を最大限活用できます。
(3) 住み替え先の取得タイミングと特例適用
住み替え先の取得タイミングによって、適用できる特例が異なります:
買換え特例を活用する場合:
- 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに住み替え先を取得
- 売却年の1月1日時点で所有期間10年超
- 居住期間10年以上
取得費加算特例を活用する場合:
- 住み替え先の取得タイミングに制限なし
- 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すればOK
住み替えを計画する際は、これらの要件を考慮してスケジュールを組むことが重要です。
まとめ
相続した中古戸建てを住み替えで売却する場合、相続税と譲渡所得税の2つの税金が関係します。これらは別々の税金であり、相続税評価額と売却価格も異なります。
小規模宅地等の特例(特定居住用)で330㎡まで評価額を80%減額できますが、相続税の申告期限(10ヶ月)まで居住・所有を継続する必要があります。住み替えは申告期限後に行うのが安全です。
相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば「取得費加算の特例」で、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。買換え特例は課税の繰延、取得費加算特例は譲渡所得税の軽減で、併用不可のため、どちらが有利か試算が必要です。一般的に、相続税を支払った場合は取得費加算の特例が有利なケースが多いです。
将来の相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば、生前贈与より相続で取得する方が有利な場合が多いです。住み替えのタイミングと税制優遇の活用については、税理士に相談して最適なスケジュールを立てることをお勧めします。