投資購入新築マンションの相続税・贈与税を徹底解説
投資用として新築マンションを購入する場合、将来の相続や贈与に関する税務処理を理解する必要があります。投資用不動産は相続税評価額が現金より低く、節税効果が期待できますが、小規模宅地等の特例の減額割合が居住用より低い点に注意が必要です。本記事では、投資用新築マンションの相続税評価額圧縮効果、貸家建付地の評価減、小規模宅地等の特例(貸付事業用)、生前贈与戦略を解説します。
この記事でわかること
- 投資用新築マンションの相続税評価額圧縮効果(現金比約7-8割)
- 貸家建付地と貸家の評価減の仕組み
- 小規模宅地等の特例(貸付事業用)の適用要件(200㎡まで50%減額)
- 生前贈与と相続時精算課税制度の活用
- 投資用マンションで注意すべき税務ポイント
投資購入新築マンションと相続税・贈与税の基本
相続税と贈与税の違い
相続税は被相続人の死亡により財産を取得した際に課される税金で、贈与税は個人から財産をもらったときに課される税金です。
項目 | 相続税 | 贈与税 |
---|---|---|
基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 | 年110万円 |
税率 | 10-55%(累進課税) | 10-55%(累進課税) |
申告期限 | 相続開始から10ヶ月以内 | 翌年2月1日〜3月15日 |
投資用マンションの税務
投資用マンションを所有する場合、以下の税務処理が発生します。
- 不動産所得: 賃貸収入から必要経費(減価償却費、管理費、修繕費など)を差し引いた金額に所得税が課される
- 相続税: 相続により投資用マンションを取得した場合、相続税評価額に基づいて相続税が課される
- 贈与税: 生前贈与により投資用マンションを取得した場合、贈与税が課される
居住用との違い
投資用マンションは居住用マンションと以下の点で異なります。
項目 | 投資用マンション | 居住用マンション |
---|---|---|
相続税評価額 | 貸家建付地として減額(約8割) | 小規模宅地等の特例で80%減額 |
小規模宅地等の特例 | 貸付事業用(200㎡・50%減額) | 居住用(330㎡・80%減額) |
住宅取得資金贈与非課税 | 適用不可 | 適用可(最大1,000万円) |
投資用新築マンションの相続税評価額圧縮効果
現金と不動産の評価額の違い
現金を不動産に変えることで、相続税評価額を圧縮できます。
例(現金1億円の場合):
資産 | 相続税評価額 | 圧縮率 |
---|---|---|
現金 | 1億円 | - |
不動産(購入直後) | 約7,000万円 | 30%減 |
賃貸不動産(貸家建付地) | 約5,600万円 | 44%減 |
新築マンションの評価方法
不動産の相続税評価は、土地と建物で評価方法が異なります。
土地(敷地権)の評価:
土地評価額 = 路線価 × 敷地面積 × 持分割合
建物の評価:
建物評価額 = 固定資産税評価額
固定資産税評価額は建築費の50-70%程度であるため、新築直後の建物評価額は購入価格より低くなります。
評価額計算例
新築マンション購入価格8,000万円(土地4,000万円、建物4,000万円)の場合:
評価対象 | 購入価格 | 相続税評価額 |
---|---|---|
土地(路線価80%) | 4,000万円 | 3,200万円 |
建物(固定資産税評価額60%) | 4,000万円 | 2,400万円 |
合計 | 8,000万円 | 5,600万円(70%) |
さらに賃貸に出すと貸家建付地として評価減が適用されます。
貸家建付地と貸家の評価減
貸家建付地の評価方法
賃貸に出している建物が建っている土地(貸家建付地)は、以下の計算式で評価額が減額されます。
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
標準的な数値:
- 借地権割合: 60-70%(路線価図で確認)
- 借家権割合: 30%(全国一律)
- 賃貸割合: 入居率(100%なら1.0)
例(自用地評価額3,200万円、借地権割合60%、賃貸割合100%):
貸家建付地評価額 = 3,200万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0) = 2,624万円(約82%)
貸家の評価方法
賃貸に出している建物は以下の計算式で評価額が減額されます。
貸家の評価額 = 自用家屋評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
例(自用家屋評価額2,400万円、賃貸割合100%):
貸家評価額 = 2,400万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 1,680万円(70%)
マンション敷地権の評価
賃貸に出した場合の合計評価額:
貸家建付地: 2,624万円
貸家: 1,680万円
合計: 4,304万円(購入価格8,000万円の約54%)
現金8,000万円が相続税評価額4,304万円になり、約46%の圧縮効果があります。
生前贈与と相続時精算課税制度
生前贈与による相続税対策
生前贈与は、相続税の節税効果が期待できます。贈与税の基礎控除は年110万円ですが、毎年110万円ずつ贈与することで、長期的に相続財産を減らせます。
例(毎年110万円を10年間贈与):
贈与総額 = 110万円 × 10年 = 1,100万円
贈与税 = 0円(基礎控除内)
相続財産の減少 = 1,100万円
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度は、贈与時に2,500万円まで非課税、相続時に精算する制度です。
特徴:
- 非課税枠: 2,500万円
- 税率: 2,500万円超の部分は一律20%
- 相続時の扱い: 贈与財産を相続税計算に含める(贈与時の評価額で計算)
- 注意点: 一度選択すると暦年贈与(年110万円控除)に戻れない
投資用不動産の贈与の注意点
投資用不動産を相続時精算課税制度で贈与する場合、以下の点に注意が必要です。
- 評価額の固定: 贈与時の評価額で相続税計算されるため、将来値下がりすると損
- 住宅取得資金贈与非課税は適用不可: 投資用不動産は居住用でないため、住宅取得資金贈与の非課税特例は利用できない
- 不動産取得税: 贈与により不動産を取得すると、不動産取得税(固定資産税評価額の3-4%)が課される
小規模宅地等の特例(貸付事業用)
貸付事業用宅地の特例
小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地は、200㎡まで50%減額できます。
減額率の比較:
用途 | 面積上限 | 減額率 |
---|---|---|
居住用(特定居住用宅地等) | 330㎡ | 80% |
事業用(特定事業用宅地等) | 400㎡ | 80% |
貸付事業用(貸付事業用宅地等) | 200㎡ | 50% |
適用要件と減額率(50%、200㎡まで)
主な要件:
- 事業継続要件: 相続開始前3年以内に貸付事業を開始した場合は適用不可(3年超の継続が必要)
- 保有継続要件: 申告期限(相続開始から10ヶ月)まで保有・事業継続
- 親族への貸付: 親族への貸付は原則として貸付事業用宅地に該当しない
計算例(貸家建付地評価額2,624万円、面積150㎡の場合):
特例適用後評価額 = 2,624万円 × (1 - 0.5) = 1,312万円
居住用との違い
投資用マンション(貸付事業用)は、居住用と比べて減額率が低く、面積上限も小さいです。
項目 | 投資用(貸付事業用) | 居住用 |
---|---|---|
減額率 | 50% | 80% |
面積上限 | 200㎡ | 330㎡ |
継続要件 | 3年超の事業継続 | 配偶者または同居親族 |
投資用新築マンションで注意すべき税務ポイント
入居率と評価額への影響
貸家建付地・貸家の評価減は、賃貸割合(入居率)に応じて減額されます。空室が多いと評価減が小さくなります。
例(入居率50%の場合):
貸家建付地評価額 = 3,200万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 0.5) = 2,912万円(約91%)
入居率100%の場合(2,624万円・約82%)と比べて評価額が高くなります。
相続後の不動産所得と所得税
相続により投資用マンションを取得した後も、賃貸収入に対して所得税が課されます。
不動産所得の計算:
不動産所得 = 賃貸収入 - 必要経費(減価償却費、管理費、修繕費、ローン利息など)
不動産所得は給与所得と合算して課税されるため、所得税の税率が上がる可能性があります。
複数相続人での共有リスク
投資用マンションを複数の相続人で共有すると、以下のリスクがあります。
- 売却の意思決定: 全員の同意が必要で、売却が困難
- 管理の煩雑さ: 修繕・リフォームの意思決定が複雑
- 収益分配: 賃料収入の分配でトラブルの可能性
遺産分割協議で単独所有にするか、売却して現金化することが推奨されます。
まとめ
投資用新築マンションの相続税・贈与税について、以下のポイントを押さえましょう。
- 相続税評価額圧縮効果: 現金を不動産に変えることで評価額を約70%に圧縮、さらに賃貸に出すと約54%まで圧縮
- 貸家建付地の評価減: 借地権割合・借家権割合・賃貸割合により評価額が減額
- 小規模宅地等の特例: 貸付事業用として200㎡まで50%減額(居住用は330㎡で80%減額)
- 生前贈与戦略: 暦年贈与(年110万円)または相続時精算課税制度(2,500万円)を活用
- 入居率が重要: 空室が多いと評価減が小さくなるため、入居率維持が節税につながる
投資用マンションの相続税・贈与税は複雑なため、税理士への相談を強くおすすめします。相続時精算課税制度の選択、小規模宅地等の特例の適用判断、遺産分割の方法など、専門家のサポートを活用することで、税負担を最適化できます。