新築マンション売却における相続税・贈与税の基礎知識
新築マンションを相続した場合、相続税・贈与税・譲渡所得税の3つの税金が関係します。相続時には相続税が課税され、売却時には譲渡所得税が発生する可能性があります。また、生前贈与を活用した場合は贈与税も関わってきます。
この記事のポイント:
- 相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、これを超える部分に課税される
- 新築マンションは固定資産税評価額(時価の50~70%)で評価されるため、現金より評価額が低く節税効果がある
- 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば「取得費加算の特例」で相続税の一部を取得費に加算できる
- 小規模宅地等の特例を適用すれば330㎡まで評価額を80%減額できるが、売却前に適用する必要がある
- 相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内、譲渡所得税の確定申告は売却翌年の2~3月
(1) 相続税・贈与税・譲渡所得税の関係
新築マンション売却で関係する税金の種類は以下の通りです:
税金の種類 | 課税タイミング | 主な特徴 |
---|---|---|
相続税 | 相続発生時 | 基礎控除あり。マンションは固定資産税評価額で評価 |
贈与税 | 生前贈与時 | 年110万円まで非課税。住宅取得資金贈与の特例あり |
譲渡所得税 | マンション売却時 | 3,000万円特別控除あり。所有期間5年で税率が変わる |
(2) 新築マンション売却時に関係する税金の全体像
相続した新築マンションを売却する場合、以下の流れで税金が発生します:
- 相続発生: 相続税の評価額を計算(固定資産税評価額ベース)
- 相続税申告: 10ヶ月以内に申告・納付
- 売却: 譲渡所得税を計算(売却価格-取得費-譲渡費用)
- 確定申告: 売却翌年2~3月に申告
2. 相続税の基本(基礎控除・評価額・申告期限)
(1) 相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)
国税庁によれば、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
計算例:
- 法定相続人が2人の場合: 3,000万円+600万円×2=4,200万円
- 法定相続人が3人の場合: 3,000万円+600万円×3=4,800万円
相続財産の合計がこの基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。
(2) 新築マンションの相続税評価額(固定資産税評価額・路線価)
新築マンションの相続税評価額は、以下の合計で計算されます:
- 土地: 路線価×敷地権割合(持分面積)
- 建物: 固定資産税評価額
一般的に、新築マンションの相続税評価額は時価の50~70%程度になることが多く、現金で相続するよりも評価額が低くなります。これが不動産相続の節税効果と言われる理由です。
評価額の例:
- 時価5,000万円の新築マンション
- 固定資産税評価額: 2,500万円(時価の50%)
- 路線価評価(土地部分): 1,000万円
- 相続税評価額合計: 3,500万円(時価の70%)
(3) 相続税申告期限(相続開始から10ヶ月以内)
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限内に申告・納付しないと、延滞税や加算税が課される可能性があります。
申告期限の計算例:
- 2024年4月15日に死亡
- 申告期限: 2025年2月15日まで
3. 贈与税の基本(暦年贈与・相続時精算課税)
(1) 贈与税の基礎控除(年110万円)
贈与税の基礎控除額は年間110万円です。1年間に受けた贈与の合計が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
複数年にわたって計画的に贈与することで、相続財産を減らし、将来の相続税を軽減することができます。ただし、毎年同じ金額を同じ時期に贈与すると「連年贈与」とみなされ、一括贈与と判断される可能性があるため注意が必要です。
(2) 住宅取得資金贈与の非課税特例
直系尊属(父母・祖父母)から住宅取得資金の贈与を受けた場合、以下の金額まで非課税となります(2024年):
- 省エネ等住宅: 1,000万円まで非課税
- 一般住宅: 500万円まで非課税
この特例は、新築マンションの購入資金として活用できます。
(3) 相続時精算課税制度(2,500万円まで非課税)
相続時精算課税制度を選択すると、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税が非課税になります。
ただし、この制度を選択すると暦年課税(年110万円の基礎控除)には戻れません。また、贈与者の相続時に、贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算します。
4. 新築マンション売却時の譲渡所得税
(1) 譲渡所得税の計算方法(取得費・譲渡費用)
譲渡所得税は、以下の式で計算されます:
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
取得費:
- 相続の場合: 被相続人の取得費を引き継ぐ
- 取得費が不明な場合: 売却価格の5%を取得費とする
譲渡費用:
- 仲介手数料
- 印紙税
- 測量費
- 立退料
- 建物の取り壊し費用
(2) 居住用財産の3,000万円特別控除
相続したマンションに居住していた場合、または被相続人が居住していたマンションを相続した場合、居住用財産の3,000万円特別控除が適用できる可能性があります。
適用要件:
- 自己の居住用財産であること
- 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 親子・夫婦など特別な関係者への売却でないこと
(3) 所有期間5年以内の短期譲渡と税率
譲渡所得税の税率は、所有期間によって異なります:
所有期間 | 税率(所得税+住民税) | 区分 |
---|---|---|
5年以下 | 39.63% | 短期譲渡所得 |
5年超 | 20.315% | 長期譲渡所得 |
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定されます。相続の場合、被相続人の取得日から計算します。
5. 小規模宅地等の特例とマンション売却
(1) 小規模宅地等の特例(評価額80%減)の適用要件
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地について、330㎡まで評価額を80%減額できる制度です。
適用要件:
- 被相続人が居住していた宅地であること
- 配偶者が取得する場合: 無条件で適用
- 同居親族が取得する場合: 相続税の申告期限まで居住・所有を継続
- 別居親族が取得する場合: 「家なき子特例」の要件を満たすこと
(2) マンションでの特例適用(専有面積330㎡まで)
マンションの場合、敷地権割合に応じた土地部分が特例の対象となります。専有面積が330㎡以下であれば、全額が80%減額の対象です。
計算例:
- 新築マンション(専有面積80㎡)
- 土地の相続税評価額: 2,000万円
- 特例適用後: 2,000万円×20%=400万円(1,600万円減額)
(3) 売却前後での特例適用の違い
小規模宅地等の特例は、相続税申告時(10ヶ月以内)に適用されます。売却後は適用できないため、以下の選択肢を検討する必要があります:
- 特例を適用してから売却: 相続税を大幅に軽減できるが、申告期限まで所有・居住を継続する必要がある
- すぐに売却: 「取得費加算の特例」(相続開始から3年10ヶ月以内)で譲渡所得税を軽減できる
どちらが有利かは、相続税評価額・売却価格・譲渡所得などによって異なるため、税理士に相談してシミュレーションすることをお勧めします。
6. 確定申告の流れと必要書類
(1) 相続税申告の手続き(相続開始から10ヶ月以内)
相続税の申告は、被相続人の住所地の税務署に提出します。
必要書類:
- 相続税申告書
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書付き)
- マンションの登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
- 路線価図(土地評価用)
(2) 譲渡所得税の確定申告(売却翌年2~3月)
譲渡所得税の確定申告は、マンションを売却した年の翌年2月16日~3月15日に行います。
必要書類:
- 確定申告書(第一表・第二表)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 売買契約書のコピー(売却時・購入時)
- 登記事項証明書
- 仲介手数料等の領収書
- (取得費加算の特例を適用する場合)相続税申告書の写し
(3) 必要書類(登記事項証明書・売買契約書等)
相続登記は2024年4月から義務化されており、相続開始を知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記の必要書類:
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- マンションの登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
登記手続きは司法書士に依頼することが一般的です。費用は5~10万円程度が相場です。
まとめ
新築マンションを相続した場合、相続税・贈与税・譲渡所得税の3つの税金を正しく理解することが重要です。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、新築マンションは固定資産税評価額(時価の50~70%)で評価されるため、現金より節税効果があります。相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば「取得費加算の特例」で相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。
小規模宅地等の特例を適用すれば330㎡まで評価額を80%減額できますが、売却前に適用する必要があるため、特例適用と売却のタイミングを慎重に判断することが重要です。相続税の申告期限は10ヶ月以内、相続登記は3年以内と、それぞれ期限が定められているため、早めに税理士や司法書士に相談することをお勧めします。