新築マンション購入で知っておくべき相続税・贈与税の基礎知識
新築マンションを購入する際、親からの資金援助を受けるケースは少なくありません。その際に気になるのが贈与税です。「いくらまでなら贈与税がかからないのか」「どんな非課税制度があるのか」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
贈与税には年110万円の基礎控除があり、住宅取得資金の贈与には最大1000万円の非課税制度も用意されています。また、将来的な相続のことも考えて、相続税の基礎控除や相続時精算課税制度についても理解しておくことが大切です。
本記事では、新築マンション購入時に関係する相続税・贈与税の基礎知識について、初心者にもわかりやすく体系的に解説します。
この記事のポイント
- 贈与税の基礎控除は年110万円、これを超えると課税対象
- 住宅取得資金贈与の非課税制度で最大1000万円まで非課税
- 相続時精算課税制度は累計2500万円まで非課税だが、一度選択すると暦年贈与に戻れない
- 相続税の基礎控除は3000万円+600万円×法定相続人数
- 非課税制度を使う場合は税額がゼロでも申告が必要
1. 新築マンション購入と相続税・贈与税の基本
(1) 相続税とは
国税庁の公式情報によれば、相続税は被相続人の死亡により財産を取得した際に課される税金です。
相続税の基礎控除額:
- 3000万円+600万円×法定相続人数
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の計3人の場合:
- 基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 3人 = 4800万円
相続財産が4800万円以下であれば相続税はかかりません。
(2) 贈与税とは
贈与税は個人から財産をもらったときに課される税金です。親から子へ、祖父母から孫への資金援助などが該当します。
贈与税の基礎控除額:
- 年110万円
1年間(1月1日~12月31日)にもらった財産の合計が110万円以下であれば贈与税はかかりません。
(3) マンション購入で関係する税金
新築マンション購入時に関係する主な税金:
税金の種類 | 課税タイミング | 概要 |
---|---|---|
贈与税 | 親からの資金援助時 | 年110万円を超える贈与に課税 |
不動産取得税 | 購入時 | 一度だけ課税される都道府県税(軽減措置あり) |
登録免許税 | 購入時 | 所有権移転登記等の際に課税 |
固定資産税・都市計画税 | 保有中(毎年) | 毎年1月1日時点の所有者に課税 |
相続税 | 将来の相続時 | 相続財産が基礎控除額を超える場合に課税 |
本記事では主に贈与税と相続税について解説します。
2. 贈与税の基礎知識
(1) 贈与税の基礎控除(年110万円)
国税庁の公式情報によれば、贈与税には年110万円の基礎控除があります。これを「暦年贈与」といいます。
具体例:
- 2024年に親から100万円の援助 → 基礎控除内のため贈与税なし
- 2024年に親から200万円の援助 → 110万円を超える90万円に対して贈与税が課税
複数年に分けて援助を受ける場合:
- 2024年:100万円(贈与税なし)
- 2025年:100万円(贈与税なし)
- 2026年:100万円(贈与税なし)
- 合計300万円の援助を受けても、各年110万円以下なので贈与税はかかりません
(2) 贈与税の計算方法
基礎控除を超える贈与を受けた場合の贈与税の計算方法:
贈与税額 = (贈与額 - 110万円)× 税率 - 控除額
贈与税の税率(一般税率):
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
計算例(500万円の贈与を受けた場合):
- 課税価格 = 500万円 - 110万円 = 390万円
- 贈与税額 = 390万円 × 20% - 25万円 = 53万円
(3) 申告の要否
申告が必要なケース:
- 年110万円を超える贈与を受けた場合
- 住宅取得資金贈与の非課税制度など、特例を使う場合(税額がゼロでも申告必須)
申告期限:
- 贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日
3. 住宅取得資金贈与の非課税特例
(1) 非課税制度の概要
国税庁の公式情報によれば、新築マンションなど住宅の取得資金として親や祖父母から贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税となる制度があります。
これを「住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」といいます。
(2) 非課税限度額と適用要件
非課税限度額(2024年1月1日以降の贈与):
- 省エネ等住宅:1000万円
- 一般住宅:500万円
省エネ等住宅とは、省エネ基準、耐震等級2以上または3以上、バリアフリー基準のいずれかを満たす住宅です。多くの新築マンションは省エネ等住宅に該当します。
主な適用要件:
- 贈与を受ける人が18歳以上(成年年齢の引き下げにより)
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得し、居住開始または居住確実
- 贈与者は直系尊属(親・祖父母等)であること
- 住宅の床面積が40㎡以上240㎡以下
暦年贈与との併用:
住宅取得資金贈与の非課税制度と暦年贈与の基礎控除(110万円)は併用できます。
併用例:
- 住宅取得資金贈与の非課税:1000万円
- 暦年贈与の基礎控除:110万円
- 合計1110万円まで贈与税なし
(3) 申告手続きと必要書類
重要:非課税制度を使う場合は、税額がゼロでも申告が必要です。
申告期限:
- 贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日
必要書類:
- 贈与税の申告書
- 戸籍謄本(贈与者が直系尊属であることの証明)
- 登記事項証明書(住宅を取得したことの証明)
- 売買契約書の写し
- 住民票の写し
- 省エネ等住宅証明書(該当する場合)
4. 相続時精算課税制度
(1) 制度の概要
相続時精算課税制度は、60歳以上の親(祖父母)から18歳以上の子(孫)への贈与で選択できる制度です。
制度の特徴:
- 累計2500万円までの贈与は贈与税非課税
- 2500万円を超える部分は一律20%の贈与税
- 相続時に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算
(2) 2500万円までの非課税
計算例(3000万円の贈与を受けた場合):
- 2500万円まで:贈与税なし
- 2500万円を超える500万円:500万円 × 20% = 100万円
- 贈与税額:100万円
暦年贈与で3000万円の贈与を受けた場合の贈与税は約1200万円なので、相続時精算課税制度の方が当面の税負担は軽くなります。
相続時の精算:
贈与者が亡くなった時、贈与した財産(贈与時の価額)を相続財産に加算して相続税を計算します。すでに支払った贈与税は相続税から控除されます。
(3) 暦年贈与との比較
項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税制度 |
---|---|---|
基礎控除 | 年110万円 | 累計2500万円 |
税率 | 10%~55%(累進) | 一律20%(2500万円超) |
相続時の扱い | 加算なし(相続前3年以内を除く) | 全額加算 |
選択後の変更 | 可能 | 不可(一度選択すると暦年贈与に戻れない) |
選択の目安:
- 大きな援助を一度に受ける場合:相続時精算課税が有利
- 少額を毎年継続的に受ける場合:暦年贈与が有利
- ただし、一度相続時精算課税を選択すると暦年贈与に戻れないため、慎重な判断が必要
5. 相続税の基礎と将来への備え
(1) 相続税の基礎控除
前述の通り、相続税の基礎控除額は:
- 3000万円+600万円×法定相続人数
この基礎控除額を超える相続財産がある場合に相続税が課税されます。
相続税の税率(2024年時点):
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | - |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
(2) マンションの相続税評価
国税庁の公式情報によれば、マンションの相続税評価額は以下のように計算されます:
建物(専有部分):
- 固定資産税評価額で評価
- 一般的に購入価格の約50%~70%
土地(敷地権):
- 路線価または倍率方式で評価
- 一般的に時価の約70%~80%
マンション全体としては、購入価格の約60%~70%程度の評価額になることが多いです。
(3) 将来の相続対策
新築マンションを購入することは、将来の相続対策としても有効な場合があります:
現金と不動産の比較:
- 現金5000万円 → 相続税評価額5000万円(額面通り)
- 5000万円のマンション → 相続税評価額約3000~3500万円(購入価格の60%~70%)
現金を不動産に変えることで相続税評価額を圧縮できます。
小規模宅地等の特例:
国税庁の公式情報によれば、居住用の宅地について、一定要件を満たせば330㎡まで相続税評価額を80%減額できる特例があります。
ただし、マンションの敷地権は持分が小さいため、この特例の恩恵は限定的です。
6. 新築マンション購入時の税務手続き
(1) 贈与税申告期限(翌年3/15)
親から資金援助を受けて新築マンションを購入した場合の贈与税申告期限:
- 贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日
例えば、2024年に援助を受けた場合、2025年2月1日~3月15日に申告します。
期限を過ぎると:
- 非課税制度が使えなくなる
- 無申告加算税や延滞税が課される可能性
(2) 必要書類の準備
贈与税申告に必要な主な書類:
基本書類:
- 贈与税の申告書
- マイナンバーカードまたは本人確認書類
住宅取得資金贈与の非課税制度を使う場合:
- 戸籍謄本
- 登記事項証明書
- 売買契約書の写し
- 住民票の写し
- 省エネ等住宅証明書(該当する場合)
相続時精算課税制度を使う場合:
- 相続時精算課税選択届出書
- 戸籍謄本
- 受贈者の戸籍の附票の写し
(3) 税理士への相談推奨
贈与税・相続税の制度は複雑で、選択を誤ると不利になる場合があります。以下のケースでは税理士への相談をお勧めします:
- 援助額が大きい場合(500万円以上)
- 相続時精算課税制度の選択を検討している場合
- 将来的な相続税対策も含めて総合的に考えたい場合
- 複数の親族から援助を受ける場合
税理士費用は一般的に数万円~十数万円程度ですが、適切なアドバイスにより数十万円~数百万円の節税効果が得られることもあります。
まとめ
新築マンション購入時の相続税・贈与税の基礎知識について、以下のポイントを押さえておきましょう:
- 贈与税の基礎控除:年110万円まで非課税、複数年に分ければ税負担を軽減可能
- 住宅取得資金贈与の非課税制度:最大1000万円(省エネ等住宅)まで非課税、暦年贈与と併用で1110万円まで可能
- 相続時精算課税制度:累計2500万円まで非課税だが、一度選択すると暦年贈与に戻れない
- 非課税制度を使う場合の申告:税額がゼロでも翌年3月15日までに申告必須
- 相続税対策:現金を不動産に変えることで評価額を圧縮できる
親からの資金援助を受ける際は、これらの制度を正しく理解し、適切に活用することで大幅な節税が可能です。ただし、制度の選択によっては将来的に不利になる場合もあるため、専門家に相談しながら慎重に判断することをお勧めします。
よくある質問
Q1: 親から援助を受ける場合、贈与税はいくらかかりますか?
A: 年110万円までは基礎控除で贈与税はかかりません。また、新築マンションの購入資金として援助を受ける場合、住宅取得資金贈与の非課税制度を使えば最大1000万円(省エネ等住宅の場合)まで非課税になります。この2つを併用すれば、合計1110万円まで贈与税なしで援助を受けられます。ただし、非課税制度を使う場合は税額がゼロでも申告が必要です。
Q2: 住宅取得資金贈与の非課税枠はいくらですか?
A: 2024年1月1日以降の贈与については、省エネ等住宅で最大1000万円、一般住宅で最大500万円です。省エネ等住宅とは、省エネ基準、耐震等級2以上または3以上、バリアフリー基準のいずれかを満たす住宅で、多くの新築マンションが該当します。この非課税制度は暦年贈与の基礎控除(年110万円)と併用できるため、合計1110万円まで贈与税なしで援助を受けることが可能です。
Q3: 相続時精算課税制度と暦年贈与、どちらが有利ですか?
A: 援助額が大きい場合は相続時精算課税制度が有利ですが、一度選択すると暦年贈与に戻れないため慎重な判断が必要です。相続時精算課税制度は累計2500万円まで贈与税が非課税ですが、相続時に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算します。暦年贈与は年110万円までの基礎控除を毎年使えるため、少額を長期間にわたって贈与する場合は有利です。将来の相続財産の総額や家族構成などを考慮して、税理士に相談することをお勧めします。
Q4: 贈与税の申告は必要ですか?
A: 住宅取得資金贈与の非課税制度や相続時精算課税制度を使う場合は、税額がゼロでも申告が必要です。申告期限は贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日です。申告を怠ると非課税制度が使えなくなり、本来不要だった贈与税や無申告加算税が課される可能性があります。暦年贈与で年110万円以下の援助のみを受けた場合は申告不要ですが、110万円を超える場合は申告が必要です。