投資用マンション売却と相続税・贈与税の基礎
相続または贈与で投資用マンションを取得した場合、売却時には相続税・贈与税だけでなく譲渡所得税も考慮する必要があります。投資用マンションは居住用マンションとは税制上の扱いが異なり、適用できる特例や控除も限定的です。適切な知識を持つことで、税負担を軽減しながら売却を進めることができます。
この記事のポイント
- 投資用マンションの相続税評価額は貸家の評価減が適用され、実勢価格の7〜8割程度になる
- 小規模宅地等の特例は貸付事業用として200㎡まで50%減額(居住用より制限が厳しい)
- 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば取得費加算の特例が適用可能
- 居住用の3000万円特別控除は投資用には適用できない
- タワーマンション節税への規制強化により、令和6年以降の評価額が見直される
(1) 投資用と居住用の税制の違い
投資用マンションと居住用マンションでは、税制上の扱いが大きく異なります。
相続税評価:
- 投資用(賃貸中): 貸家の評価減が適用され、評価額が低くなる
- 居住用: 通常の評価額、ただし小規模宅地等の特例で330㎡まで80%減額可能
売却時の特例:
- 投資用: 居住用の3000万円特別控除は適用不可。取得費加算の特例のみ
- 居住用: 3000万円特別控除または取得費加算の特例(併用不可)
小規模宅地等の特例:
- 投資用: 貸付事業用宅地として200㎡まで50%減額
- 居住用: 330㎡まで80%減額
これらの違いを理解し、投資用マンションに適用できる特例を最大限活用することが重要です。
(2) 相続税評価額と実勢価格の乖離
投資用マンションの相続税評価額は、実勢価格(市場価格)よりも低くなることが一般的です。
国税庁の貸家・貸家建付地の評価によれば、賃貸中の建物は「貸家」として評価減が適用されます。評価額は「固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)」で計算され、借家権割合は通常30%です。
例えば、固定資産税評価額1000万円の建物が100%賃貸されている場合、評価額は1000万円 × (1 - 0.3 × 1.0)= 700万円となります。実勢価格が1200万円の場合、評価額との差は500万円にもなります。
この乖離を利用した相続税対策が「タワーマンション節税」として注目されてきましたが、令和6年以降、評価方法の見直しが行われています。
投資用マンションの相続税評価額の算出方法
(1) 貸家の評価減の仕組み
国税庁の貸家・貸家建付地の評価によれば、賃貸中の建物(貸家)の評価額は、通常の評価額から一定割合を減額して計算します。
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
- 借家権割合: 通常30%(地域によって異なる場合あり)
- 賃貸割合: 賃貸している部分の割合(全室賃貸なら100%)
この評価減が適用されるためには、相続開始時点で継続的に賃貸されている実態が必要です。一時的な空室は問題ありませんが、長期間空室の場合は賃貸割合が下がり、評価減の効果が減少します。
(2) 敷地権と専有部分の評価
マンションの相続税評価額は、土地部分と建物部分を分けて計算します。
マンションの評価額 = (敷地全体の評価額 × 敷地権割合)+ 専有部分の建物評価額
- 土地部分: 路線価方式または倍率方式で評価した敷地全体の評価額に、登記簿に記載された敷地権割合を乗じて計算
- 建物部分: 固定資産税評価額に貸家の評価減を適用
投資用マンションの場合、建物部分には貸家の評価減が適用されますが、土地部分には基本的に適用されません。ただし、貸付事業用宅地等の特例を適用できれば、土地部分の評価額をさらに減額できます。
(3) タワーマンション評価の見直し
近年、タワーマンションの高層階を利用した相続税対策が問題視され、令和6年以降、評価方法の見直しが行われています。従来、高層階でも低層階でも同じ評価額でしたが、新しい評価方法では高層階ほど評価額が上がる補正が導入されています。
これにより、従来の評価額よりも高くなる可能性があり、節税効果が減少する見込みです。タワーマンションの相続や売却を検討する場合は、最新の税制動向を確認することが重要です。
貸付事業用宅地等の特例と適用要件
(1) 200㎡まで50%減額の概要
国税庁の小規模宅地等の特例によれば、貸付事業用宅地(投資用マンションの敷地権を含む)について、一定の要件を満たせば評価額を減額できます。
貸付事業用宅地等の特例:
- 減額割合: 評価額の50%
- 適用面積: 200㎡まで
- 適用要件: 被相続人または生計を一にする親族が貸付事業を行っていたこと、相続人が貸付事業を継続すること
例えば、評価額2000万円の投資用マンションの敷地権が100㎡の場合、特例を適用すると2000万円 × 50% = 1000万円が減額され、評価額は1000万円になります。
(2) 居住用との違いと注意点
居住用宅地の小規模宅地等の特例は330㎡まで80%減額ですが、貸付事業用は200㎡まで50%減額と制限が厳しくなっています。
居住用宅地と貸付事業用宅地の比較:
項目 | 居住用宅地 | 貸付事業用宅地 |
---|---|---|
減額割合 | 80% | 50% |
適用面積 | 330㎡まで | 200㎡まで |
適用要件 | 居住継続・保有継続 | 貸付事業継続 |
また、貸付事業用宅地の特例を適用するためには、相続開始時点で継続的に貸付事業を行っている実態が必要です。相続後も貸付事業を継続し、相続税の申告期限(10ヶ月以内)まで保有することが求められます。
特例適用には申告が必須で、結果的に税額がゼロになる場合でも期限内に申告を行う必要があります。
相続した投資用マンション売却時の税金と取得費加算の特例
(1) 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)
相続した投資用マンションを売却する場合、国税庁の譲渡所得と取得費加算の特例によれば、「取得費加算の特例」を利用できる可能性があります。
この特例は、相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始日から数えると3年10ヶ月以内)に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる制度です。
計算式: 取得費に加算できる相続税額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)
この特例を適用することで、譲渡所得が減少し、譲渡所得税の負担を軽減できます。
(2) 減価償却費の計算と取得費
投資用マンションの売却時には、減価償却費を考慮した取得費の計算が必要です。国税庁の譲渡所得の計算(減価償却)によれば、建物部分については、取得価額から減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります。
取得費 = 建物の取得価額 - 減価償却費相当額 + 土地の取得価額
減価償却費相当額は、以下の計算式で算出します。
減価償却費相当額 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
- 償却率: 建物の構造によって異なる(鉄筋コンクリート造は0.015)
- 経過年数: 取得から売却までの年数
相続で取得した場合、被相続人が取得した時点からの経過年数で計算します。
(3) 譲渡所得税の計算方法
譲渡所得は、以下の計算式で算出します。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
- 取得費: 建物の取得価額から減価償却費相当額を差し引いた金額 + 土地の取得価額
- 譲渡費用: 仲介手数料・印紙税・測量費など
譲渡所得に対して、以下の税率で課税されます。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超): 20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
所有期間は、相続で取得した場合、被相続人が取得した時点から計算します。
贈与税の基本と投資用マンションの贈与
(1) 贈与税の基礎控除と税率
国税庁の贈与税のあらましによれば、贈与税には年110万円の基礎控除があります。1年間(1月1日から12月31日まで)に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかからず、申告も不要です。
贈与税の税率は累進課税で、贈与額が大きいほど税率も高くなります。一般的に、相続税よりも贈与税の方が税率が高く設定されているため、まとまった財産を移転する場合は、相続で取得する方が税負担が軽くなるケースが多いです。
(2) 投資用マンション贈与時の評価
投資用マンションを贈与する場合、贈与税の課税価格は相続税評価額と同様に計算します。賃貸中の投資用マンションであれば、貸家の評価減が適用されるため、評価額は実勢価格よりも低くなります。
ただし、投資用マンションの贈与は高額になることが多く、贈与税の負担も大きくなります。相続時精算課税制度を活用すれば、累計2500万円まで贈与税を非課税にできますが、一度選択すると暦年贈与に戻れないため、慎重な判断が必要です。
投資用マンション売却時の節税対策と注意点
(1) 売却タイミングの検討
投資用マンションの売却タイミングは、税負担に大きく影響します。
取得費加算の特例の適用期限: 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、取得費加算の特例が適用できます。この期限を過ぎると特例が使えなくなるため、相続した投資用マンションの売却を検討している場合は、早めに動くことが重要です。
所有期間による税率の違い: 所有期間が5年を超えると、譲渡所得税の税率が39.63%から20.315%に下がります。被相続人が取得した時点からの所有期間が5年を超えているかどうかを確認し、長期譲渡所得として扱えるかを検討しましょう。
(2) 継続的な賃貸実態の証明
貸家の評価減や貸付事業用宅地等の特例を適用するためには、相続開始時点で継続的に賃貸されている実態が必要です。
証明書類の準備:
- 賃貸借契約書
- 家賃の入金記録
- 管理会社との管理委託契約書
- 入居者の入居状況を示す書類
これらの書類を整備し、税務署から問い合わせがあった場合に速やかに提示できるようにしておくことが重要です。
また、相続後も貸付事業を継続する場合、相続税の申告期限(10ヶ月以内)まで賃貸を継続し、保有することが貸付事業用宅地等の特例の適用要件になります。
まとめ
投資用マンション売却時の相続税・贈与税について解説しました。投資用マンションの相続税評価額は貸家の評価減が適用され、実勢価格の7〜8割程度になります。小規模宅地等の特例は貸付事業用として200㎡まで50%減額と、居住用より制限が厳しくなっています。
相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば取得費加算の特例が適用でき、譲渡所得税を軽減できます。ただし、居住用の3000万円特別控除は投資用には適用できないため、売却タイミングや減価償却費の計算に注意が必要です。
タワーマンション節税への規制強化により、令和6年以降の評価額が見直されています。投資用マンションの相続や売却を検討する場合は、最新の税制動向を確認し、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問
Q1: 投資用マンションの相続税評価額と売却価格はなぜ異なるのですか?
A: 相続税評価額は路線価や固定資産税評価額をベースに算定され、国税庁の貸家・貸家建付地の評価によれば、賃貸中の場合は貸家の評価減(固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合))が適用されます。一方、売却価格は市場の需給で決まる実勢価格です。通常、相続税評価額は実勢価格の7〜8割程度になることが多いです。例えば、固定資産税評価額1000万円、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合、評価額は700万円になりますが、実勢価格は1200万円というケースもあります。
Q2: 投資用マンションにも小規模宅地等の特例は使えますか?
A: 使えます。ただし貸付事業用宅地として200㎡まで50%減額となり、居住用(330㎡まで80%減額)より制限が厳しいです。国税庁の小規模宅地等の特例によれば、適用要件として、被相続人または生計を一にする親族が貸付事業を行っていたこと、相続人が貸付事業を継続することが必要です。継続的な賃貸実態の証明(賃貸借契約書、家賃の入金記録など)が求められ、相続後も相続税の申告期限(10ヶ月以内)まで賃貸を継続し、保有することが条件です。
Q3: 相続した投資用マンションを売却する際の税金を抑える方法はありますか?
A: 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば取得費加算の特例が使えます。国税庁の譲渡所得と取得費加算の特例によれば、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。計算式は「取得費に加算できる相続税額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)」です。また、減価償却費の正確な計算も重要で、建物の取得価額から減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります。所有期間が5年を超えていれば、長期譲渡所得として税率が20.315%に下がります。
Q4: タワーマンション節税への規制強化とは何ですか?
A: 令和6年以降、高層階のマンションは相続税評価額の見直しが行われ、市場価格との乖離を是正する方向です。従来、タワーマンションの高層階と低層階は同じ評価額でしたが、新しい評価方法では高層階ほど評価額が上がる補正が導入されています。これにより、従来の評価額より高くなる可能性があり、節税効果が減少する見込みです。タワーマンションを利用した相続税対策は、評価額と時価の乖離を利用するものでしたが、この規制強化により効果が限定的になります。タワーマンションの相続や売却を検討する場合は、最新の税制動向を確認し、税理士に相談することをおすすめします。