離婚後のマンション購入と相続税・贈与税の関係
離婚後に新たな生活を始めるためマンションを購入する場合、購入資金の出所によって相続税や贈与税の課税関係が異なります。親からの資金援助や相続で得た資金を活用する際は、税務上の取り扱いを理解しておくことが重要です。また、離婚時の財産分与と贈与の違いも把握しておく必要があります。
この記事のポイント
- 離婚時の財産分与は原則として贈与税が非課税(過大な分与を除く)
- 親からの住宅取得資金贈与は最大1000万円まで非課税措置が利用可能
- 相続時精算課税制度を活用すれば累計2500万円まで非課税で贈与を受けられる
- 一度相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与に戻れない
- 離婚前の贈与と離婚後の贈与では税務上の扱いが異なる
(1) 購入資金の出所と課税関係
離婚後のマンション購入資金の出所は、主に以下のパターンがあります。
- 財産分与で得た資金: 離婚時に元配偶者から受け取った財産分与は、原則として贈与税が非課税です。国税庁の離婚による財産分与と贈与税によれば、財産分与は婚姻中に形成した共有財産の清算であり、贈与とは異なります。
- 親からの資金援助: 親から住宅購入資金の援助を受ける場合、年110万円を超える金額には原則として贈与税がかかります。ただし、住宅取得等資金の贈与税非課税措置を活用すれば、一定額まで非課税で受け取ることができます。
- 相続で得た資金: 親や親族から相続した現金でマンションを購入する場合、相続税の課税対象になる可能性があります。相続税は基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)を超える財産に課税されます。
(2) 離婚と相続・贈与のタイミング
離婚前と離婚後では、贈与の税務上の扱いが異なります。
- 離婚前の贈与: 離婚前に配偶者から贈与を受けた場合、通常の贈与として贈与税が課税される可能性があります。ただし、配偶者控除(婚姻期間20年以上で居住用不動産または購入資金の贈与に2000万円まで控除)が適用できる場合があります。
- 離婚時の財産分与: 離婚に伴う財産分与として受け取った場合は、原則として贈与税が非課税です。
- 離婚後の贈与: 離婚後に元配偶者から贈与を受けた場合は、通常の贈与として贈与税が課税されます。
タイミングによって税務上の扱いが大きく異なるため、計画的に進めることが重要です。
離婚による財産分与と贈与税の課税関係
(1) 財産分与の原則的な非課税扱い
国税庁の離婚による財産分与と贈与税によれば、離婚に伴う財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を清算するものであり、原則として贈与税は課税されません。
財産分与の対象となるのは、婚姻中に形成した共有財産です。例えば、婚姻中に購入したマンションや貯蓄などが該当します。離婚時にこれらの財産を分配することは、贈与ではなく財産の清算とみなされます。
(2) 過大な分与として贈与税が課されるケース
ただし、以下のような場合は、過大な分与として贈与税が課される可能性があります。
- 婚姻中の財産形成への寄与度を大きく超える分与: 一方の配偶者の財産形成への寄与度が極めて低いにもかかわらず、多額の財産分与を受けた場合
- 贈与税や相続税の回避を目的とした離婚: 租税回避を主たる目的として離婚・財産分与を行った場合
このような場合、分与額のうち相当と認められる部分を超える金額に対して贈与税が課税される可能性があります。
(3) 財産分与の登記手続き
離婚時の財産分与によってマンションの所有権が移転する場合、登記手続きが必要です。財産分与を原因とする所有権移転登記は、離婚協議書や調停調書などを添付して法務局で行います。
登記費用として、登録免許税(不動産の評価額の2%)や司法書士への報酬が発生します。また、不動産取得税も課税される可能性があるため、事前に費用を確認しておくことが重要です。
親からの住宅取得資金贈与の非課税措置
(1) 非課税措置の概要と適用要件
国税庁の住宅取得等資金の贈与税の非課税措置によれば、親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税になる制度があります。
この制度を利用することで、基礎控除(年110万円)とは別枠で、住宅取得資金の贈与を非課税で受けることができます。非課税枠は、住宅の種類や契約時期によって異なりますが、最大で1000万円程度です。
主な適用要件:
- 贈与を受ける人が直系卑属(子・孫)であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の場合は1000万円以下)
- 取得する住宅の床面積が50㎡以上240㎡以下(一定の場合は40㎡以上)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住開始または居住確実であること
(2) 床面積・所得制限などの注意点
この非課税措置を受けるためには、床面積や所得制限などの要件を満たす必要があります。
- 床面積要件: 取得する住宅の床面積が50㎡以上240㎡以下であることが原則です。ただし、40㎡以上50㎡未満の住宅でも、所得制限が1000万円以下になる点に注意が必要です。
- 所得制限: 贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の場合は1000万円以下)であることが条件です。
- 居住開始期限: 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始するか、居住が確実であることが必要です。
- 申告が必須: 非課税措置を受けるためには、たとえ贈与税がゼロでも必ず贈与税の申告が必要です。申告期限は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。
相続時精算課税制度の活用とメリット・デメリット
(1) 2,500万円特別控除の仕組み
国税庁の相続時精算課税制度によれば、60歳以上の親から18歳以上の子への贈与について、累計2500万円まで贈与税を非課税とし、相続時に精算する制度があります。
この制度を選択すると、贈与時には贈与税がかからず、贈与者が亡くなった時に贈与額が相続財産に加算され、相続税が課税されます。まとまった金額の資金援助を受けたい場合に有効な制度です。
(2) 離婚後の適用における注意点
離婚後にマンション購入資金として親から贈与を受ける場合、相続時精算課税制度を活用できます。住宅取得等資金の非課税措置(最大1000万円)と併用することも可能です。
例えば、3000万円の資金援助を受ける場合、非課税措置で1000万円、相続時精算課税で2000万円をカバーし、贈与税をゼロにすることができます。
ただし、この制度は親から子への贈与が対象であり、元配偶者からの贈与には適用できません。
(3) 暦年贈与に戻れないリスク
相続時精算課税制度には重要な注意点があります。一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与について、暦年贈与(年110万円の基礎控除)に戻ることができません。
また、少額の贈与でも毎回申告が必要になります。将来的に長期間にわたって暦年贈与を受ける予定がある場合、制度選択は慎重に検討する必要があります。
さらに、贈与した財産は相続時に相続財産として加算されるため、相続税が増える可能性があります。将来の税制改正リスクも考慮が必要です。
相続したマンション購入資金と小規模宅地等の特例
(1) 小規模宅地等の特例の概要
国税庁の小規模宅地等の特例によれば、被相続人が居住していた宅地について、一定の要件を満たせば評価額を大幅に減額できる特例があります。
この特例により、居住用宅地(マンションの敷地権を含む)について、330㎡まで評価額を80%減額できます。相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
(2) 離婚後の居住実態と適用要件
小規模宅地等の特例を適用するためには、被相続人が居住していた宅地であることが条件です。離婚後に親の自宅に戻って同居している場合、将来の相続時に特例を適用できる可能性があります。
主な適用要件:
- 被相続人が居住していた宅地であること
- 相続人が配偶者、または同居していた親族であること
- 同居親族が相続した場合、相続税の申告期限まで居住・保有を継続すること
ただし、離婚後に別居している場合や、新規購入したマンションでは、相続時点で特例を適用できない可能性が高いため、事前に確認が必要です。
離婚後のマンション購入で注意すべき税務ポイント
(1) 離婚前の贈与と離婚後の贈与の違い
離婚前と離婚後では、贈与の税務上の扱いが大きく異なります。
離婚前の贈与:
- 配偶者控除(婚姻期間20年以上で居住用不動産または購入資金の贈与に2000万円まで控除)が適用できる可能性がある
- 通常の贈与として贈与税が課税される場合もある
離婚時の財産分与:
- 原則として贈与税が非課税
- ただし、過大な分与の場合は超過部分に贈与税が課される
離婚後の贈与:
- 元配偶者から贈与を受けた場合は、通常の贈与として贈与税が課税される
- 配偶者控除は適用できない
タイミングによって税負担が大きく変わるため、離婚協議の際に財産分与の方法を慎重に検討することが重要です。
(2) 税制改正による影響
相続税・贈与税の制度は税制改正によって変更される可能性があります。特に近年、相続時精算課税制度の見直しや住宅取得等資金の贈与税非課税措置の期限延長などが行われています。
最新の税制動向を確認し、適用期限や要件の変更に注意することが重要です。マンション購入を計画する際は、税理士などの専門家に相談し、最新の税制に基づいたアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
離婚後のマンション購入における相続税・贈与税の取り扱いについて解説しました。離婚時の財産分与は原則として贈与税が非課税ですが、過大な分与の場合は課税される可能性があります。親からの資金援助を受ける場合、住宅取得等資金の贈与税非課税措置(最大1000万円)や相続時精算課税制度(2500万円)を活用することで、税負担を軽減できます。
ただし、相続時精算課税制度は一度選択すると暦年贈与に戻れないため、慎重な判断が必要です。また、離婚前の贈与と離婚後の贈与では税務上の扱いが異なるため、タイミングにも注意が必要です。
税制は改正されることがあり、個別のケースによって適用できる特例や有利な選択肢は異なります。実際に制度を利用する際は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問
Q1: 離婚時に元配偶者からマンション購入資金を受け取った場合、贈与税はかかりますか?
A: 離婚に伴う財産分与として受け取った場合は、原則として贈与税は非課税です。国税庁の離婚による財産分与と贈与税によれば、財産分与は婚姻中に形成した共有財産の清算であり、贈与とは異なります。ただし、婚姻中の財産形成への寄与度を大きく超える過大な分与の場合は、超過部分に贈与税が課される可能性があります。また、租税回避を主たる目的として離婚・財産分与を行った場合も課税対象になることがあるため注意が必要です。
Q2: 親からマンション購入資金を贈与してもらう場合、税金を抑える方法はありますか?
A: 住宅取得等資金の贈与税非課税措置を利用すれば最大1000万円まで非課税で贈与を受けられます。国税庁の住宅取得等資金の贈与税の非課税措置によれば、この制度は基礎控除(年110万円)とは別枠で利用できます。さらに、相続時精算課税制度を併用すれば累計2500万円まで非課税で贈与を受けることが可能です。ただし、所得制限(2000万円以下)や床面積要件(50㎡以上)などの適用条件を満たす必要があり、必ず贈与税の申告が必要です。
Q3: 相続時精算課税制度を選択すると、どのようなデメリットがありますか?
A: 一度選択すると暦年贈与(年110万円の基礎控除)に戻ることができません。国税庁の相続時精算課税制度によれば、この制度を選択すると少額の贈与でも毎回申告が必要になります。また、贈与した財産は相続時に相続財産として加算されるため、相続税が増える可能性があります。将来的に長期間にわたって暦年贈与を受ける予定がある場合や、相続財産が基礎控除額を大きく超える場合は、この制度が不利になることがあります。税制改正リスクも考慮し、長期的な視点で判断することが重要です。
Q4: 離婚前と離婚後で贈与の税務上の扱いは違いますか?
A: 大きく異なります。離婚前の贈与は通常の贈与として贈与税が課税されますが、配偶者控除(婚姻期間20年以上で居住用不動産または購入資金の贈与に2000万円まで控除)が適用できる場合があります。離婚に伴う財産分与は原則非課税です。離婚後に元配偶者から贈与を受けた場合は、通常の贈与として課税対象となり、配偶者控除も適用できません。タイミングによって税負担が大きく変わるため、離婚協議の際に財産分与の方法を慎重に検討し、必要に応じて税理士に相談することをおすすめします。