投資用土地の相続税・贈与税を正しく理解する
投資目的で土地を購入し、賃貸事業や駐車場経営を行う場合、将来の相続対策も重要なテーマとなります。投資用土地は居住用土地と異なり、小規模宅地等の特例の減額率が低く(50%)、対象面積も200㎡までと限定されるなど、税務上の取り扱いが異なります。
本記事では、国税庁の公的情報を基に、投資用土地の相続税・贈与税の基礎知識と税務戦略を解説します。
この記事でわかること:
- 投資用土地の相続税計算と基礎控除
- 貸付事業用宅地の小規模宅地等の特例(50%減額)
- 路線価方式・倍率方式による評価額算定
- 相続後の賃料収入に対する不動産所得税
- 生前贈与と相続時精算課税制度の活用
- 納税資金対策としての延納・物納
投資用土地の相続税計算の基礎知識
相続税の基礎控除と税率
国税庁によれば、相続税は相続により財産を取得した場合に課される国税です。
相続税の基礎控除:
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例:
- 法定相続人3人の場合:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 相続財産総額(土地・現金・株式等の合計)が4,800万円以下なら相続税は非課税
投資用土地を含む相続財産の総額が基礎控除を超える場合、相続税が課されます。
相続税の税率(累進税率):
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
投資用土地の評価額が高額になるほど、相続税負担も大きくなります。
投資用土地特有の評価方法
投資用土地は「自用地」または「貸宅地」として評価されます。
自用地:
- 更地や自己使用の土地
- 路線価方式または倍率方式で評価
- 評価減なし
貸宅地:
- 他人に貸している土地(借地権が設定されている場合)
- 借地権割合により評価額が減額
- 計算式:自用地評価額 × (1 - 借地権割合)
賃貸アパート・マンションを建てている場合は「貸家建付地」として評価され、さらに減額されます。
貸家建付地の評価:
評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合は地域により30%~90%、借家権割合は全国一律30%です。
居住用との違い
投資用土地と居住用土地では、小規模宅地等の特例の内容が異なります。
項目 | 居住用 | 投資用(貸付事業用) |
---|---|---|
減額率 | 80%減額 | 50%減額 |
対象面積 | 330㎡まで | 200㎡まで |
主な要件 | 配偶者または同居親族が相続 | 事業継続要件 |
投資用土地は減額率が低く、対象面積も狭いため、相続税負担が大きくなりやすいです。
貸付事業用宅地の小規模宅地等の特例
50%減額の適用要件
国税庁によれば、貸付事業用宅地の小規模宅地等の特例により、投資用土地の評価額を50%減額できます。
適用要件:
- 被相続人が貸付事業を行っていた土地
- アパート・マンション、駐車場、貸地など
- 事業継続要件
- 相続人が相続税申告期限まで貸付事業を継続すること
- 事業規模要件(原則)
- 一定規模以上の貸付事業(5棟10室基準など)
賃貸アパート・マンションを相続し、事業を継続する場合に適用されます。
適用上限(200㎡まで)
貸付事業用の特例は、200㎡までが対象です。
計算例:
- 賃貸アパートの敷地:300㎡
- 自用地評価額:6,000万円(200千円/㎡ × 300㎡)
- 貸家建付地評価額:約4,200万円(借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合)
- 特例適用後(200㎡分のみ):200㎡分の50%減額 + 100㎡分は減額なし
200㎡を超える部分は減額されないため、広大な投資用土地ほど特例の恩恵が限定的です。
居住用との併用ルール
居住用(特定居住用宅地等)と貸付事業用(貸付事業用宅地等)を併用する場合、以下の調整計算が必要です。
併用時の計算式:
居住用面積 + 貸付事業用面積 × 200/330 ≤ 330㎡
例:
- 居住用:200㎡(80%減額)
- 貸付事業用:165㎡(50%減額希望)
- 計算:200 + 165 × (200/330) = 300㎡ ≤ 330㎡ → 併用可能
ただし、貸付事業用は完全には200㎡適用できず、調整後の面積が対象となります。
土地の相続税評価額の算定方法
路線価方式による評価
市街地の投資用土地は「路線価方式」で評価されます。
路線価方式の計算:
評価額 = 路線価 × 面積 × 各種補正率
路線価:
- 国税庁が毎年7月に公表
- 道路に面した土地の1㎡あたりの評価額(千円単位)
- 国税庁のWebサイト「路線価図」で確認可能
補正率の例:
- 奥行価格補正率
- 不整形地補正率
- 側方路線影響加算率(角地の場合)
計算例:
- 路線価:400千円/㎡
- 面積:250㎡
- 補正率:1.00
- 自用地評価額:400千円 × 250㎡ = 1億円
倍率方式による評価
路線価が設定されていない郊外や地方の投資用土地は「倍率方式」で評価されます。
倍率方式の計算:
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
倍率:
- 国税庁が地域ごとに設定(例:1.1倍、1.2倍など)
- 「評価倍率表」で確認可能
計算例:
- 固定資産税評価額:3,000万円
- 倍率:1.1倍
- 自用地評価額:3,000万円 × 1.1 = 3,300万円
貸宅地の評価(借地権割合による減額)
他人に土地を貸している場合(借地権が設定されている場合)、貸宅地として評価されます。
貸宅地の評価:
評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合)
借地権割合:
- 地域により30%~90%(路線価図に記載)
- 都心部ほど高く、郊外ほど低い傾向
計算例:
- 自用地評価額:1億円
- 借地権割合:60%
- 貸宅地評価額:1億円 × (1 - 0.6) = 4,000万円
借地権が設定されている投資用土地は、評価額が大幅に減額されます。
相続後の不動産所得と確定申告
賃料収入の所得税課税
国税庁によれば、相続後の賃料収入は「不動産所得」として所得税の対象となります。
不動産所得の計算:
不動産所得 = 賃料収入 - 必要経費
相続により投資用土地を取得した後も、賃料収入が発生し続けるため、毎年確定申告が必要です。
不動産所得の計算方法
賃料収入に含まれるもの:
- 家賃・地代
- 駐車場使用料
- 礼金・更新料
- 共益費・管理費(賃借人負担分)
必要経費に含まれるもの:
- 減価償却費(建物)
- 修繕費
- 固定資産税・都市計画税
- 管理会社への管理委託費
- 損害保険料
- ローン利息(元本返済分は経費にならない)
必要経費の範囲
投資用土地の場合、土地そのものは減価償却できませんが、建物や設備は減価償却費として経費計上できます。
減価償却費の計算例:
- 建物取得価額:5,000万円
- 耐用年数:47年(RC造の場合)
- 償却率:0.022(定額法)
- 年間減価償却費:5,000万円 × 0.022 = 110万円
また、固定資産税・都市計画税、修繕費、管理費なども全額経費となります。
生前贈与と相続時精算課税制度の活用
暦年贈与の活用
暦年贈与は、毎年110万円の基礎控除を利用した贈与です。
投資用土地での活用:
- 土地の持分を毎年少しずつ贈与
- 例:評価額1億円の土地を10年かけて贈与(年1,000万円相当)
- 年110万円を超える部分に贈与税が課される
メリット:
- 長期的に相続財産を圧縮できる
- 相続税の累進税率を回避
デメリット:
- 贈与税が毎年発生(110万円超の場合)
- 登記費用が複数回発生
相続時精算課税制度の仕組み
国税庁によれば、相続時精算課税制度は、生前に2,500万円まで贈与税を非課税とし、相続時に贈与財産を相続財産に加算して精算する制度です。
制度の概要:
- 2,500万円まで贈与税非課税
- 2,500万円を超える部分は一律20%の税率
- 贈与者が死亡した際、贈与財産を相続財産に加算
選択要件:
- 贈与者:60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者:18歳以上の子または孫
投資用土地での活用:
- 評価額2,000万円の投資用土地を贈与
- 贈与税:0円(2,500万円以内)
- 相続時に2,000万円を相続財産に加算
どちらが有利かの判断基準
暦年贈与が有利なケース:
- 贈与者の相続までに10年以上の期間がある
- 贈与額が年数百万円以内
- 賃料収入を子に移転し、相続財産の増加を抑制したい
相続時精算課税が有利なケース:
- 高額な投資用土地を早期に贈与したい
- 贈与財産の価値上昇が予想される(贈与時の評価額で固定)
- 相続税率が贈与税率より低い場合
投資用土地は賃料収入を生むため、早期に子に贈与することで相続財産の増加を防ぐ効果があります。ただし、税理士への事前相談が重要です。
納税資金対策(延納・物納)
納付期限と納付方法
相続税の納付期限は、相続開始から10ヶ月以内です。
納付方法:
- 一括納付(原則):現金で一括納付
- 延納:分割払い(年賦)
- 物納:不動産等で納付
投資用土地を相続した場合、土地は現金化しにくいため、納税資金の確保が課題となります。
延納の要件と手続き
国税庁によれば、相続税を一括で納付できない場合、延納(分割払い)が認められます。
延納の要件:
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で一括納付することが困難であること
- 担保を提供すること(延納税額が100万円を超え、延納期間が3年を超える場合)
延納期間:
- 最長20年(不動産等の割合により変動)
- 延納利子税が発生(年1.0%~1.5%程度)
物納の要件と手続き
物納は、相続税を不動産等で納付する制度です。
物納の要件:
- 延納によっても金銭で納付することが困難であること
- 物納財産が一定の要件を満たすこと(相続財産であること、抵当権が設定されていないことなど)
物納可能な財産の順位:
- 第1順位:国債、不動産、船舶等
- 第2順位:社債、株式等
- 第3順位:動産
投資用土地は第1順位の物納財産として認められます。ただし、物納財産の評価額は相続税評価額となるため、実勢価格より低く評価される点に注意が必要です。
まとめ
投資用土地の相続税・贈与税は、居住用土地と異なる評価方法や特例が適用されます。
重要なポイント:
- 投資用土地は貸付事業用宅地として200㎡まで50%減額(居住用は330㎡で80%)
- 路線価方式・倍率方式で評価し、貸宅地や貸家建付地はさらに減額
- 相続後の賃料収入は不動産所得として所得税の対象
- 生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)により相続財産を圧縮可能
- 納税資金対策として延納・物納の活用も検討
- 相続税申告期限は相続開始から10ヶ月以内
国税庁の公式情報を参考にしながら、税理士や不動産会社などの専門家と連携し、計画的な相続対策を行うことが重要です。