投資用土地の相続税・贈与税|評価方法と特例2025

公開日: 2025/10/20

投資用土地の相続税・贈与税を正しく理解する

投資目的で土地を購入し、賃貸事業や駐車場経営を行う場合、将来の相続対策も重要なテーマとなります。投資用土地は居住用土地と異なり、小規模宅地等の特例の減額率が低く(50%)、対象面積も200㎡までと限定されるなど、税務上の取り扱いが異なります。

本記事では、国税庁の公的情報を基に、投資用土地の相続税・贈与税の基礎知識と税務戦略を解説します。

この記事でわかること:

  • 投資用土地の相続税計算と基礎控除
  • 貸付事業用宅地の小規模宅地等の特例(50%減額)
  • 路線価方式・倍率方式による評価額算定
  • 相続後の賃料収入に対する不動産所得税
  • 生前贈与と相続時精算課税制度の活用
  • 納税資金対策としての延納・物納

投資用土地の相続税計算の基礎知識

相続税の基礎控除と税率

国税庁によれば、相続税は相続により財産を取得した場合に課される国税です。

相続税の基礎控除:

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数

例:

  • 法定相続人3人の場合:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
  • 相続財産総額(土地・現金・株式等の合計)が4,800万円以下なら相続税は非課税

投資用土地を含む相続財産の総額が基礎控除を超える場合、相続税が課されます。

相続税の税率(累進税率):

課税価格 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

投資用土地の評価額が高額になるほど、相続税負担も大きくなります。

投資用土地特有の評価方法

投資用土地は「自用地」または「貸宅地」として評価されます。

自用地:

  • 更地や自己使用の土地
  • 路線価方式または倍率方式で評価
  • 評価減なし

貸宅地:

  • 他人に貸している土地(借地権が設定されている場合)
  • 借地権割合により評価額が減額
  • 計算式:自用地評価額 × (1 - 借地権割合)

賃貸アパート・マンションを建てている場合は「貸家建付地」として評価され、さらに減額されます。

貸家建付地の評価:

評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

借地権割合は地域により30%~90%、借家権割合は全国一律30%です。

居住用との違い

投資用土地と居住用土地では、小規模宅地等の特例の内容が異なります。

項目 居住用 投資用(貸付事業用)
減額率 80%減額 50%減額
対象面積 330㎡まで 200㎡まで
主な要件 配偶者または同居親族が相続 事業継続要件

投資用土地は減額率が低く、対象面積も狭いため、相続税負担が大きくなりやすいです。

貸付事業用宅地の小規模宅地等の特例

50%減額の適用要件

国税庁によれば、貸付事業用宅地の小規模宅地等の特例により、投資用土地の評価額を50%減額できます。

適用要件:

  1. 被相続人が貸付事業を行っていた土地
    • アパート・マンション、駐車場、貸地など
  2. 事業継続要件
    • 相続人が相続税申告期限まで貸付事業を継続すること
  3. 事業規模要件(原則)
    • 一定規模以上の貸付事業(5棟10室基準など)

賃貸アパート・マンションを相続し、事業を継続する場合に適用されます。

適用上限(200㎡まで)

貸付事業用の特例は、200㎡までが対象です。

計算例:

  • 賃貸アパートの敷地:300㎡
  • 自用地評価額:6,000万円(200千円/㎡ × 300㎡)
  • 貸家建付地評価額:約4,200万円(借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合)
  • 特例適用後(200㎡分のみ):200㎡分の50%減額 + 100㎡分は減額なし

200㎡を超える部分は減額されないため、広大な投資用土地ほど特例の恩恵が限定的です。

居住用との併用ルール

居住用(特定居住用宅地等)と貸付事業用(貸付事業用宅地等)を併用する場合、以下の調整計算が必要です。

併用時の計算式:

居住用面積 + 貸付事業用面積 × 200/330 ≤ 330㎡

例:

  • 居住用:200㎡(80%減額)
  • 貸付事業用:165㎡(50%減額希望)
  • 計算:200 + 165 × (200/330) = 300㎡ ≤ 330㎡ → 併用可能

ただし、貸付事業用は完全には200㎡適用できず、調整後の面積が対象となります。

土地の相続税評価額の算定方法

路線価方式による評価

市街地の投資用土地は「路線価方式」で評価されます。

路線価方式の計算:

評価額 = 路線価 × 面積 × 各種補正率

路線価:

  • 国税庁が毎年7月に公表
  • 道路に面した土地の1㎡あたりの評価額(千円単位)
  • 国税庁のWebサイト「路線価図」で確認可能

補正率の例:

  • 奥行価格補正率
  • 不整形地補正率
  • 側方路線影響加算率(角地の場合)

計算例:

  • 路線価:400千円/㎡
  • 面積:250㎡
  • 補正率:1.00
  • 自用地評価額:400千円 × 250㎡ = 1億円

倍率方式による評価

路線価が設定されていない郊外や地方の投資用土地は「倍率方式」で評価されます。

倍率方式の計算:

評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

倍率:

  • 国税庁が地域ごとに設定(例:1.1倍、1.2倍など)
  • 「評価倍率表」で確認可能

計算例:

  • 固定資産税評価額:3,000万円
  • 倍率:1.1倍
  • 自用地評価額:3,000万円 × 1.1 = 3,300万円

貸宅地の評価(借地権割合による減額)

他人に土地を貸している場合(借地権が設定されている場合)、貸宅地として評価されます。

貸宅地の評価:

評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合)

借地権割合:

  • 地域により30%~90%(路線価図に記載)
  • 都心部ほど高く、郊外ほど低い傾向

計算例:

  • 自用地評価額:1億円
  • 借地権割合:60%
  • 貸宅地評価額:1億円 × (1 - 0.6) = 4,000万円

借地権が設定されている投資用土地は、評価額が大幅に減額されます。

相続後の不動産所得と確定申告

賃料収入の所得税課税

国税庁によれば、相続後の賃料収入は「不動産所得」として所得税の対象となります。

不動産所得の計算:

不動産所得 = 賃料収入 - 必要経費

相続により投資用土地を取得した後も、賃料収入が発生し続けるため、毎年確定申告が必要です。

不動産所得の計算方法

賃料収入に含まれるもの:

  • 家賃・地代
  • 駐車場使用料
  • 礼金・更新料
  • 共益費・管理費(賃借人負担分)

必要経費に含まれるもの:

  • 減価償却費(建物)
  • 修繕費
  • 固定資産税・都市計画税
  • 管理会社への管理委託費
  • 損害保険料
  • ローン利息(元本返済分は経費にならない)

必要経費の範囲

投資用土地の場合、土地そのものは減価償却できませんが、建物や設備は減価償却費として経費計上できます。

減価償却費の計算例:

  • 建物取得価額:5,000万円
  • 耐用年数:47年(RC造の場合)
  • 償却率:0.022(定額法)
  • 年間減価償却費:5,000万円 × 0.022 = 110万円

また、固定資産税・都市計画税、修繕費、管理費なども全額経費となります。

生前贈与と相続時精算課税制度の活用

暦年贈与の活用

暦年贈与は、毎年110万円の基礎控除を利用した贈与です。

投資用土地での活用:

  • 土地の持分を毎年少しずつ贈与
  • 例:評価額1億円の土地を10年かけて贈与(年1,000万円相当)
  • 年110万円を超える部分に贈与税が課される

メリット:

  • 長期的に相続財産を圧縮できる
  • 相続税の累進税率を回避

デメリット:

  • 贈与税が毎年発生(110万円超の場合)
  • 登記費用が複数回発生

相続時精算課税制度の仕組み

国税庁によれば、相続時精算課税制度は、生前に2,500万円まで贈与税を非課税とし、相続時に贈与財産を相続財産に加算して精算する制度です。

制度の概要:

  • 2,500万円まで贈与税非課税
  • 2,500万円を超える部分は一律20%の税率
  • 贈与者が死亡した際、贈与財産を相続財産に加算

選択要件:

  • 贈与者:60歳以上の父母または祖父母
  • 受贈者:18歳以上の子または孫

投資用土地での活用:

  • 評価額2,000万円の投資用土地を贈与
  • 贈与税:0円(2,500万円以内)
  • 相続時に2,000万円を相続財産に加算

どちらが有利かの判断基準

暦年贈与が有利なケース:

  • 贈与者の相続までに10年以上の期間がある
  • 贈与額が年数百万円以内
  • 賃料収入を子に移転し、相続財産の増加を抑制したい

相続時精算課税が有利なケース:

  • 高額な投資用土地を早期に贈与したい
  • 贈与財産の価値上昇が予想される(贈与時の評価額で固定)
  • 相続税率が贈与税率より低い場合

投資用土地は賃料収入を生むため、早期に子に贈与することで相続財産の増加を防ぐ効果があります。ただし、税理士への事前相談が重要です。

納税資金対策(延納・物納)

納付期限と納付方法

相続税の納付期限は、相続開始から10ヶ月以内です。

納付方法:

  1. 一括納付(原則):現金で一括納付
  2. 延納:分割払い(年賦)
  3. 物納:不動産等で納付

投資用土地を相続した場合、土地は現金化しにくいため、納税資金の確保が課題となります。

延納の要件と手続き

国税庁によれば、相続税を一括で納付できない場合、延納(分割払い)が認められます。

延納の要件:

  • 相続税額が10万円を超えること
  • 金銭で一括納付することが困難であること
  • 担保を提供すること(延納税額が100万円を超え、延納期間が3年を超える場合)

延納期間:

  • 最長20年(不動産等の割合により変動)
  • 延納利子税が発生(年1.0%~1.5%程度)

物納の要件と手続き

物納は、相続税を不動産等で納付する制度です。

物納の要件:

  • 延納によっても金銭で納付することが困難であること
  • 物納財産が一定の要件を満たすこと(相続財産であること、抵当権が設定されていないことなど)

物納可能な財産の順位:

  1. 第1順位:国債、不動産、船舶等
  2. 第2順位:社債、株式等
  3. 第3順位:動産

投資用土地は第1順位の物納財産として認められます。ただし、物納財産の評価額は相続税評価額となるため、実勢価格より低く評価される点に注意が必要です。

まとめ

投資用土地の相続税・贈与税は、居住用土地と異なる評価方法や特例が適用されます。

重要なポイント:

  • 投資用土地は貸付事業用宅地として200㎡まで50%減額(居住用は330㎡で80%)
  • 路線価方式・倍率方式で評価し、貸宅地や貸家建付地はさらに減額
  • 相続後の賃料収入は不動産所得として所得税の対象
  • 生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)により相続財産を圧縮可能
  • 納税資金対策として延納・物納の活用も検討
  • 相続税申告期限は相続開始から10ヶ月以内

国税庁の公式情報を参考にしながら、税理士や不動産会社などの専門家と連携し、計画的な相続対策を行うことが重要です。

よくある質問

Q1投資用土地でも小規模宅地等の特例は使えますか?

A1投資用土地は貸付事業用宅地として小規模宅地等の特例が適用可能で、200㎡まで50%減額されます。ただし、居住用(330㎡で80%減額)と比べて減額率が低く、対象面積も狭くなります。適用要件として、被相続人が貸付事業を行っていたこと、相続人が相続税申告期限まで貸付事業を継続することが必要です。賃貸アパート・マンション、駐車場、貸地などが対象となります。

Q2投資用土地の相続税評価額はどう計算しますか?

A2投資用土地の相続税評価額は、路線価方式(市街地)または倍率方式(郊外)で算定します。他人に貸している場合は貸宅地として借地権割合により評価額が減額されます。例えば、自用地評価額1億円、借地権割合60%の場合、貸宅地評価額は4,000万円(1億円×(1-0.6))となります。賃貸アパート・マンションを建てている場合は貸家建付地として、借地権割合×借家権割合×賃貸割合でさらに減額されます。

Q3相続後の賃料収入に税金はかかりますか?

A3相続後の賃料収入は不動産所得として所得税の対象となります。不動産所得は、賃料収入から必要経費(減価償却費、修繕費、固定資産税、管理費、ローン利息など)を差し引いた金額で計算します。毎年確定申告が必要で、不動産所得は給与所得などと合算して累進税率(5%~45%)が適用されます。建物の減価償却費を経費計上することで、税負担を軽減できます。

Q4相続税を物納できますか?

A4相続税を金銭で一括納付できず、延納によっても困難な場合、物納が認められます。投資用土地は第1順位の物納財産として認められます。ただし、物納財産の評価額は相続税評価額(路線価ベース)となるため、実勢価格より低く評価される点に注意が必要です。また、抵当権が設定されている土地や境界が不明確な土地は物納できないため、事前に担保解除や測量を行う必要があります。

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