相続土地売却の税金基礎|相続税・贈与税の計算と節税対策

公開日: 2025/10/12

相続で土地を取得し、売却を検討している方にとって、税金の問題は最も気になるポイントの一つです。「相続税を払ったから、売却時の税金は不要では?」と考える方もいますが、実際には相続税と譲渡所得税は別々に課税される税金です。

この記事では、相続土地売却における相続税と贈与税の基礎知識、土地の評価方法、取得費の計算ルール、取得費加算の特例による節税方法、申告手続きの流れまで、初めて相続土地を売却する方に向けて体系的に解説します。

この記事のポイント

  • 相続税と譲渡所得税は完全に別物の税金
  • 土地の相続税評価は路線価方式または倍率方式で計算
  • 取得費は被相続人の取得価格を引き継ぐため古い土地は税負担が大きい
  • 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)で相続税の一部を取得費に加算できる
  • 小規模宅地等の特例で相続税評価額を最大80%減額可能

1. 相続土地売却で関わる2つの税金

(1) 相続税:相続時の財産評価に課税

相続税は、被相続人(亡くなった方)から財産を相続した時点で課される税金です。土地の場合、相続時の評価額(路線価や固定資産税評価額を基準とした金額)に対して課税されます。

相続税の特徴

  • 課税タイミング:相続発生時(被相続人の死亡時)
  • 課税対象:相続財産全体の評価額
  • 申告期限:相続開始から10ヶ月以内
  • 基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人数

(2) 譲渡所得税:売却益に課税

譲渡所得税は、相続した土地を売却した際に得た利益(譲渡益)に対して課される税金です。相続税とは完全に別の税金で、売却時に改めて計算されます。

譲渡所得税の特徴

  • 課税タイミング:土地を売却した時
  • 課税対象:譲渡益(売却価格-取得費-譲渡費用)
  • 申告期限:売却した翌年の確定申告期間(2月16日~3月15日)
  • 税率:所有期間により異なる(短期39.63%、長期20.315%)

(3) 2つの税金は完全に別物

相続税と譲渡所得税は、課税タイミングも課税対象も異なる別々の税金です。

項目 相続税 譲渡所得税
課税時期 相続時 売却時
課税対象 相続財産の評価額 売却による利益
申告期限 10ヶ月以内 売却翌年の確定申告
節税特例 小規模宅地の特例など 取得費加算の特例など

「相続税を払ったから譲渡所得税は不要」という誤解がありますが、売却して利益が出れば譲渡所得税も課税されます。ただし、取得費加算の特例を使えば、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を軽減できます。

2. 相続税の仕組みと土地の評価方法

(1) 基礎控除額の計算(3000万円+600万円×法定相続人数)

相続税には基礎控除があり、相続財産の総額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。

基礎控除額の計算式

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数

計算例

法定相続人数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

例えば、配偶者と子2人の計3人が相続人の場合、基礎控除額は4,800万円となります。相続財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税の申告も納税も不要です。

(2) 路線価方式と倍率方式による土地評価

土地の相続税評価額は、国税庁が定める2つの方法で計算されます。

路線価方式(市街地の土地)

路線価とは、道路に面した土地の1㎡あたりの評価額で、国税庁が毎年7月に公表します。

評価額 = 路線価 × 地積 × 補正率

補正率には、土地の形状(不整形地、間口狭小、奥行長大など)や接道状況による調整が含まれます。

倍率方式(路線価のない地域)

路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価します。

評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

倍率は地域ごとに国税庁が定めており、「財産評価基準書」で確認できます。

路線価と時価の関係

路線価はおおむね時価(実勢価格)の80%程度に設定されています。そのため、相続税評価額と実際の売却価格には差が生じます。

(3) 小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減額)

小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たす居住用や事業用の宅地について、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。

特例の内容

用途 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等 330㎡ 80%減額
特定事業用宅地等 400㎡ 80%減額
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%減額

適用例

居住用土地の評価額が5,000万円、面積が250㎡の場合:

減額後の評価額 = 5,000万円 × (1 - 0.8) = 1,000万円

4,000万円の減額により、相続税が大幅に軽減されます。

主な適用要件(特定居住用宅地等)

  • 被相続人の居住用宅地であること
  • 配偶者が取得する場合は無条件で適用
  • 同居親族が取得する場合は相続税申告期限まで居住・保有継続が必要
  • 非同居親族でも一定要件で適用可能(家なき子特例)

3. 贈与税との違いと注意点

(1) 贈与税の基礎控除(年110万円)

贈与税は、個人から財産の贈与を受けた場合に課される税金です。

基礎控除

  • 年間110万円まで非課税
  • 110万円を超える部分に累進課税(10%~55%)

土地の贈与における注意点

土地を贈与する場合、評価額が110万円を超えるケースが多く、贈与税が高額になりがちです。相続で取得する方が税負担が少ない場合が多いため、生前贈与は慎重に検討が必要です。

(2) 相続時精算課税制度との関係

相続時精算課税制度を選択すると、累計2,500万円までの贈与が非課税となり、相続時に精算されます。

特徴

  • 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与
  • 累計2,500万円まで非課税
  • 相続時に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない

土地の贈与で活用できる制度ですが、将来の相続税額に影響するため、専門家への相談が推奨されます。

(3) 土地の評価方法は相続税と同じ

贈与税における土地の評価方法は、相続税と同じく路線価方式または倍率方式を使用します。そのため、評価額の計算方法は共通です。

4. 売却時の取得費計算ルール

(1) 被相続人の取得価格を引き継ぐ

相続した土地の取得費は、被相続人(亡くなった方)が取得した時の価格を引き継ぎます。

取得費に含まれるもの

  • 購入代金
  • 購入時の仲介手数料
  • 登記費用
  • 測量費
  • 造成費用
  • 土地改良費用など

相続税評価額ではない点に注意

取得費の計算には、相続税評価額ではなく、被相続人が実際に取得した時の価格を使用します。相続税と譲渡所得税では評価の基準が異なるため注意が必要です。

(2) 古い土地は概算取得費5%になりがち

被相続人の取得時期が古く、購入時の契約書などが残っていない場合、取得費が不明となります。この場合、概算取得費を使用します。

概算取得費の計算

概算取得費 = 売却価格 × 5%

売却価格が5,000万円の場合:

概算取得費 = 5,000万円 × 5% = 250万円

(3) 譲渡益95%に課税される理由

概算取得費(5%)を使用すると、譲渡益が売却価格の95%となり、税負担が非常に大きくなります。

計算例

  • 売却価格:5,000万円
  • 概算取得費:250万円(5%)
  • 譲渡費用:200万円(仲介手数料など)
譲渡益 = 5,000万円 - 250万円 - 200万円 = 4,550万円
長期譲渡所得税 = 4,550万円 × 20.315% = 約924万円

取得費が不明な古い土地の場合、取得費加算の特例の活用が特に重要になります。

5. 取得費加算の特例で税負担を軽減

(1) 相続税の一部を取得費に加算できる

取得費加算の特例は、相続した土地を売却する際、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。

適用要件

  • 相続または遺贈により土地を取得したこと
  • 相続税を納付したこと
  • 相続開始日から3年10ヶ月以内に売却すること

加算額の計算式

加算額 = 支払った相続税 × (売却した土地の相続税評価額 ÷ 相続財産全体の相続税評価額)

(2) 3年10ヶ月以内の売却が要件

この特例の最も重要な要件が「相続開始日から3年10ヶ月以内」という期限です。

期限の計算例

  • 相続発生日:2024年1月15日
  • 相続税申告期限:2024年11月15日(10ヶ月後)
  • 取得費加算特例の期限:2027年11月15日(3年10ヶ月後)

この期限を過ぎると特例が使えなくなるため、売却を検討している場合は早めに行動することが重要です。

(3) 特例の適用で実質的な税負担減

取得費加算の特例により、譲渡所得税を大幅に軽減できます。

節税効果の例

  • 売却価格:5,000万円
  • 取得費:250万円(概算取得費5%)
  • 譲渡費用:200万円
  • 支払った相続税:1,000万円
  • 売却した土地の相続税評価額:4,000万円
  • 相続財産全体の相続税評価額:1億円

加算額の計算

加算額 = 1,000万円 × (4,000万円 ÷ 1億円) = 400万円

譲渡所得税の比較

特例なしの場合:

譲渡益 = 5,000万円 - 250万円 - 200万円 = 4,550万円
税額 = 4,550万円 × 20.315% = 約924万円

特例ありの場合:

譲渡益 = 5,000万円 - (250万円 + 400万円) - 200万円 = 4,150万円
税額 = 4,150万円 × 20.315% = 約843万円

節税額:約81万円

6. 相続税・贈与税の申告手続き

(1) 相続税:相続開始から10ヶ月以内

相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

申告の流れ

  1. 相続人の確定(戸籍謄本の収集)
  2. 相続財産の調査・評価
  3. 遺産分割協議
  4. 相続税申告書の作成
  5. 税務署への提出・納税

申告が必要な場合

  • 相続財産の総額が基礎控除額を超える場合
  • 小規模宅地等の特例を適用する場合(基礎控除内でも申告必須)

期限を過ぎた場合のペナルティ

  • 無申告加算税:15%~20%
  • 延滞税:年2.4%~8.7%(2024年時点)
  • 小規模宅地等の特例が使えなくなる

(2) 贈与税:翌年2月1日~3月15日

贈与税の申告期間は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。

申告が必要な場合

  • 年間110万円を超える贈与を受けた場合
  • 相続時精算課税制度を選択した場合(金額にかかわらず申告必須)

(3) 譲渡所得税:売却翌年の確定申告

土地を売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行います。

申告に必要な書類

  • 売買契約書のコピー
  • 取得費の証明書類(被相続人の購入時契約書など)
  • 譲渡費用の領収書(仲介手数料、測量費など)
  • 相続税申告書のコピー(取得費加算の特例を使う場合)
  • 相続時の遺産分割協議書のコピー

取得費が不明な場合

被相続人の購入時契約書が見つからない場合でも、以下の方法で取得費を証明できる可能性があります。

  • 通帳の記録
  • 登記簿謄本の権利部(購入時期の推定)
  • 当時の公示価格や路線価からの推定
  • 不動産会社の過去の取引記録

これらの資料を集めて税理士に相談することで、概算取得費(5%)よりも有利な取得費を計算できる場合があります。

まとめ

相続土地の売却では、相続税と譲渡所得税という2つの税金が関わります。相続税は相続時の財産評価に課税され、譲渡所得税は売却益に課税される完全に別の税金です。

土地の相続税評価は路線価方式または倍率方式で計算され、小規模宅地等の特例を使えば評価額を最大80%減額できます。売却時の取得費は被相続人の取得価格を引き継ぎますが、古い土地で取得費が不明な場合は概算取得費(売却価格×5%)となり、税負担が大きくなりがちです。

取得費加算の特例を活用すれば、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を軽減できますが、相続開始から3年10ヶ月以内という期限があります。相続税申告(10ヶ月以内)、譲渡所得税の確定申告(売却翌年)と複数の期限があるため、早めに専門家に相談し、計画的に進めることが重要です。

よくある質問

Q1: 相続税を払ったら譲渡所得税は不要ですか?

A: いいえ、相続税と譲渡所得税は別物の税金です。相続税は相続時の財産評価に課税され、譲渡所得税は売却益に課税されます。そのため、相続税を支払った後に土地を売却して利益が出た場合は、譲渡所得税も課税されます。ただし、取得費加算の特例を使えば、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を軽減できます。この特例は相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。

Q2: 古い土地の取得費がわかりません。どうすればいいですか?

A: 被相続人の取得価格を引き継ぐのが原則ですが、購入時の契約書などが見つからず取得費が不明の場合は、概算取得費(売却価格×5%)を使用できます。ただし、この場合は譲渡益が売却価格の95%となり、税負担が非常に大きくなります。通帳の記録、登記簿謄本、当時の公示価格などから取得費を推定できる場合もあるため、まずは税理士に相談することをお勧めします。取得費加算の特例も活用して節税を図りましょう。

Q3: 小規模宅地等の特例は売却しても使えますか?

A: はい、使えます。小規模宅地等の特例は、相続税申告時に一定の要件(居住継続・保有継続など)を満たせば適用できます。売却は相続税申告期限(10ヶ月)後でも問題ありません。ただし、取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があるため、両方の特例を活用する場合はタイミングの調整が必要です。小規模宅地の特例で相続税を軽減し、取得費加算の特例で譲渡所得税を軽減するという併用が可能です。

Q4: 相続税の申告期限は?

A: 相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。例えば、2024年1月15日に死亡した場合、申告期限は2024年11月15日となります。期限内に遺産分割協議が未了でも、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば申告不要です。ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合は、基礎控除内でも申告が必須です。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されるため、早めの準備が重要です。

Q5: 贈与税と相続税、どちらが有利ですか?

A: 一般的に、土地のような高額な財産の場合は相続の方が有利なケースが多いです。贈与税の基礎控除は年110万円と少なく、税率も10%~55%と高めです。一方、相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人数と大きく、小規模宅地等の特例で評価額を最大80%減額できる場合もあります。ただし、相続時精算課税制度を活用すれば累計2,500万円まで非課税で贈与でき、将来の相続税対策になる場合もあります。個別の状況により最適な方法が異なるため、税理士に相談することをお勧めします。

よくある質問

Q1相続税を払ったら譲渡所得税は不要ですか?

A1いいえ、相続税と譲渡所得税は別物の税金です。相続税は相続時の財産評価に課税され、譲渡所得税は売却益に課税されます。そのため、相続税を支払った後に土地を売却して利益が出た場合は、譲渡所得税も課税されます。ただし、取得費加算の特例を使えば、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を軽減できます。この特例は相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。

Q2古い土地の取得費がわかりません。どうすればいいですか?

A2被相続人の取得価格を引き継ぐのが原則ですが、購入時の契約書などが見つからず取得費が不明の場合は、概算取得費(売却価格×5%)を使用できます。ただし、この場合は譲渡益が売却価格の95%となり、税負担が非常に大きくなります。通帳の記録、登記簿謄本、当時の公示価格などから取得費を推定できる場合もあるため、まずは税理士に相談することをお勧めします。取得費加算の特例も活用して節税を図りましょう。

Q3小規模宅地等の特例は売却しても使えますか?

A3はい、使えます。小規模宅地等の特例は、相続税申告時に一定の要件(居住継続・保有継続など)を満たせば適用できます。売却は相続税申告期限(10ヶ月)後でも問題ありません。ただし、取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があるため、両方の特例を活用する場合はタイミングの調整が必要です。小規模宅地の特例で相続税を軽減し、取得費加算の特例で譲渡所得税を軽減するという併用が可能です。

Q4相続税の申告期限は?

A4相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。例えば、2024年1月15日に死亡した場合、申告期限は2024年11月15日となります。期限内に遺産分割協議が未了でも、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば申告不要です。ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合は、基礎控除内でも申告が必須です。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されるため、早めの準備が重要です。

Q5贈与税と相続税、どちらが有利ですか?

A5一般的に、土地のような高額な財産の場合は相続の方が有利なケースが多いです。贈与税の基礎控除は年110万円と少なく、税率も10%~55%と高めです。一方、相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人数と大きく、小規模宅地等の特例で評価額を最大80%減額できる場合もあります。ただし、相続時精算課税制度を活用すれば累計2,500万円まで非課税で贈与でき、将来の相続税対策になる場合もあります。個別の状況により最適な方法が異なるため、税理士に相談することをお勧めします。

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